第19話 元飼い主とゲーム その3
ゲームを始めてから一時間半が経過した。
俺達は未だド○ラン○スを討伐出来ずにいた。
正直に言おう、こいつ程度だったら俺はソロで倒せる。
倒せるのだが―――
『ちょ、ちょ! 何かこの恐竜私ばっか狙ってる! こ、来ないで――――あぁぁぁっ!』
絵理奈が三回死亡して、クエスト失敗。
ちなみにこれが三度目のトライだった。
うん、思った以上に下手だった。
俺は双剣という武器を使っていて、絵理奈は大剣を使っていた。
俺が優先して敵を攻撃しているのだけれど、絵理奈も攻撃しようと近付いてきては俺と一緒に敵を斬るんだ。
勿論相手はボスだから一回の攻撃で怯まないけど、俺のキャラクターは天高く舞い上がって俺自身の攻撃を中断させられた。
そして俺が起き上がるまでの間に、かなりダメージを食らっていた絵理奈は回復が間に合わず、ボスに殺されてしまった。
うん、絵理奈にはゲームの腕が絶望的にない。
「……絵理奈さんや」
『……はい』
「ゲーム、初めて?」
『……このゲームが初めて、です』
「……成る程」
よく初めてのゲームでこのタイトルをチョイスしたなぁ!
まぁかなり話題があったから興味があったんだろうけど!
確かに絵理奈とゲームが出来るのは嬉しかったよ、最初は。
だけど、流石にここまで来ると惚れた相手であろうと、少しイラッてしてしまう。
さてと、どうしたものか。
絵理奈の声がだんだん力弱くなっていく。
何というか、消えてしまいそうな位。
このままだと絵理奈は、このゲームを辞めてしまうだろう。
となると、俺と絵理奈の交流時間が減ってしまう。
それだけは阻止しなければならない!
「絵理奈」
『……はぃ』
えっ、ちょっと泣き声になっているのだが。
俺がそこまで露骨に態度に出してしまったのだろうか。
軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせて、思いをぶつけた。
「俺、絵理奈と一緒にゲーム出来るのが本当に嬉しいんだ」
『でも、私……めっちゃくちゃ玲音くんの足引っ張ってる』
「だな。でも、俺は絵理奈と一緒にゲームをしたいんだ」
『…………』
「一緒にクエストをクリアしたら喜んで、クエスト失敗したら悔しがりたい。ぶっちゃけ一人でやった方が効率よく進められるけど、それでも俺は絵理奈と一緒にプレイしたいんだ」
正直言って、適当にネットで見知らぬ誰かと組んでクエストを進めた方が効率よく先に勧めるし、絵理奈を後方に下げて置物状態にして俺が敵を倒すって方法の方が次へ進めるだろう。
だが、そんなプレイに何の意味があるんだろう。
絵理奈だって楽しめないし、俺だって楽しくない。
だから俺は――
「俺が、絵理奈を上達させるから。だから、一緒にやってほしい」
『……玲音くん』
「やっぱり年下に教わるのは、嫌かな?」
『ううん、玲音くんなら、嫌じゃないよ』
「よし、じゃあ俺の教えにしっかりついてきたまえ!」
『はいっ、玲音教官!』
さっきまで沈んでいたのに急に元気になったから、おかしくてつい笑ってしまった。
絵理奈も俺に釣られたみたいで、二人で一緒に思いっきり笑った。
うん、いいなぁ、こういうの。
絵理奈と会話をするのもすごく楽しいけど、こうやって笑い話も出来るのが本当に嬉しいんだ。
人間に生まれ変わって、心から良かったって思える。
この恋という感情を知れただけでも嬉しいのに、恋をした相手が
こんな巡り合わせ、なかなかないだろう。
(この恋は、大事にしたいな)
心からそう思った。
時間はまだある……と思う。
焦らずにゆっくりとお互いを知って、気持ちを育んでいこう。
初恋が実るかどうかなんてわかる訳がないが、立ち止まっているよりは遥かにマシだろう。
「よし、じゃあ再チャレンジするか!」
『はい、ご指導宜しくお願いします、玲音教官!』
「それまだやるんだ」
『これはこれで楽しいから』
弾んだ声で絵理奈は言った。
今はメッセージアプリの無料通話で話しているけど、どんな表情で俺と通話しているんだろうか。
気になって気になって、心が「体を動かそうぜ!」と促してくるのを感じる。
その場に留まっていられないし、そわそわしてくる。
でも今はその暴れだしそうな心を抑え込んで、俺は絵理奈に対してゲームの指導を行う。
さっきとは比べ物にならない程落ち着いて操作が出来ているようで、俺の指示に対してもしっかり対応出来ている。
たまにミスはするが致命傷にはならず、しっかりボスから離れた所で回復をしている。
「今だ、行けっ!!」
『うんっ!』
絵理奈が大剣をボスの頭上に降り下ろす。
見事弱点である頭部にクリーンヒットし、ボスが大きく吹き飛んだ。
そしてボスはか細い断末魔を上げて、そのまま二度と起き上がらなかった。
『ねぇ、玲音くん』
「うん、やったな絵理奈! 討伐出来たぞ!!」
『本当に? 本当にクリアしたの!?』
「本当に本当だ!」
『~~~~~っ! やったぁぁぁぁぁぁっ!』
「ぃよっしゃぁぁぁっ!!」
絵理奈は本当に嬉しそうに喜び、俺も釣られて一緒に喜んだ。
こんな雑魚ボスなんて大した事はないのに、今まで味わった事のない達成感だった。
そっか、好きな人と一緒にクリアするのって、こんなに嬉しくて楽しいんだな。
そして俺達はボスの死体をそのまま放置して二人で喜んでしまい、素材を剥ぎ取る事なくクエストが終了してしまった。
こんな失敗も、俺達には些細な事だったんだ。
しかし本当に通話でよかったと思う。
多分間違いなく、同じ部屋でプレイしていたら俺は抱き付いて喜んでいたかもしれないから。
『やったよ、玲音くん!
「え?」
『え?』
「ああ、そういう事……。絵理奈、残念ながらこいつはラスボスじゃない。むしろボスの中じゃ最弱だ」
『………………えっ?』
喜んだのもつかぬ間の出来事だった。
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