第18話 元飼い主とゲーム 2


 あまりの可愛さに意識を失いかけたが、何とか持ちこたえる事に成功した。


「と、とりあえず、合流しようか。オンラインクエストを申し込めるキャラクター前で立ってるよ」


『うん、了解』


 俺はすでにログインをしていたので、オンラインクエスト専用のロビーで待っていた。

 絵理奈は本当に初心者でオンラインロビーがある事もわかっていなかったようだ。

 通話で誘導しながら、五分かけてようやく合流した。


『ごめんね、お待たせ~』


 絵理奈のキャラクターは、それなりに絵理奈に似ていた。

 このゲームの売りの一つであるキャラクターメイクは、相当リアルに近付ける事が出来る。

 でもそれなりと評価した理由は、あまりにも外国人に近いモデリングのせいだった。

 絵理奈は日本人特有の幼さがあるものの、大人に近付いている雰囲気があるんだ。だが外国人のモデリングは完全な大人な女性、完璧に絵理奈を模倣する事はできなかったようだ。ちなみにプレイヤーネームは《Eriちゃん》だ。

 それなりに似ているのだから、大股開いて男らしく手をぶんぶん振るアクションをするのは止めてほしい。

 ついつい実際の絵理奈がそれをやっている想像が出来てしまうから、何とも複雑な気分だ。


「俺は大丈夫、気にしないで」


『ありがとう! 何か玲音くんのキャラクター、玲音くんが大人になったらこんな感じなんだろうな~って感じだね』


「そうかな」


『うん、きっとそうだよ!』


 俺の容姿は両親の遺伝を濃く受け継いでいる。

 太りやすい体質は父さんから、痩せてみたら容姿の大部分は母さんから。肌色は白人である母さんからではなく、黄色人種である父さんの遺伝を貰っているから俺の肌はそこまで白くはない。

 だから痩せたままで大人になった俺を想像してキャラメイクしたが、絵理奈にも好評だったようだ。


「そういう絵理奈も、それなりに似てるキャラを作ったんだな」


『それなりって酷い! これでも二時間かけて頑張って作ったんだよ?』


「それはお疲れ様。でもやっぱり大人過ぎるから何か違和感あるんだよ」


『何かまるで私が子供みたいって言われている気がするんだけど……』


「違うって。実際の絵理奈の方が可愛いからさ――」


 って、何正直に言ってるんだ、俺!!

 そりゃ実際の絵理奈の方が数倍も可愛いし綺麗なのは間違いない。

 でも今それを言ってどうするよ!

 好意を持っている相手に言われたら嬉しいだろうけど、まだ出会って間もないのに絵理奈が俺に好意を持っている訳がないだろうに!

 何早速口説いているような事をストレートに言っちまってるんだよ!!

 ほら、黙っちゃってるじゃないか!

 沈黙が長いよ、心苦しいよ!


『――がとう』


「ん?」


 聴力がいい俺でも、掠れて聞き取れなかった。

 絵理奈が何か言ったようだ。


『……あり、がとう。何かね、嬉しい』


「っ!」


 絵理奈の照れているが甘い声でお礼を言われて、俺の心臓が跳ね上がった。

 本当に心臓に悪いよ、元飼い主さん。

 犬だった頃は「構ってくれる優しい小さいニンゲン」としか思ってなかったから、俺が人間になってこんな感情を抱くなんて思ってもみなかった。

 しかも離れていてもこんな風に会話が出来てしまう人間の知恵に、盛大な拍手を送りたい!

 

 よし、深呼吸だ!

 …………ふぅ、何とか胸の高鳴りを抑える事が出来たぞ。

 これで普通に話せる筈だ。


「…………よ、よし。クエストやろう。どれを討伐したい?」


『えっ! えっとね、ド○○ンポスっていうのからクリアしていきたいの!』


 ダメだ、普通に話せなかった。

 一瞬声が裏返ってしまったよ。

 変に思われてなければいいなぁ……。

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