第12話 メッセージアプリ交換


 とりあえず、俺はただがむしゃらに色んな話題を出した。

 昨日観たドラマの話とか、あんまり興味ないけどニュースでよく出ているアーティストの事だとか。

 そしたら、絵理奈の方から――


「無理しなくていいよ。私、玲音くんの事を知りたいから、玲音くんの好きなものを教えて?」


 と、綺麗な笑みで言われてしまい、心臓が破裂しそうだった。

 いい子に育った、いい子に育ったなぁ、絵理奈!

 多分受け入れてくれるだろうと、俺は包み隠さず読書とゲームが趣味だという事を伝えた。


「えっ、玲音くんゲーム好きなの?」


「ああ、本当夢中になって色々手を出すから、部屋がとんでもない事になってるんだよ。もしかして、絵理奈もやってる?」


「うん、メジャーなゲームだけどね」


「そうなんだ。友達と一緒にやってたり?」


「……えっとね、友達、いないんだ」


 ……Oh、地雷を踏んでしまった気がする。

 こんなにいい子なのに、何で友達がいないんだろう。それほど人間関係って、歳を取れば取るほど面倒になっていくんだろうな。ああ嫌だ嫌だ、子供のままでいたい気分だ。

 さて、友達がいない理由を聞いてみたいけど、何かこれ以上深入りしちゃいけない気がする。

 とりあえず、話題を変えた方が無難だな。


「絵理奈、なんてゲームやってるの?」


「モ○ハンだよ。家庭用で出たやつ!」


 ああ、ちょうど持ってるな。

 買ったけどその後トレーニングに夢中になってて、結局二ヶ月放置していたから初心者だけど。

 でもそのおかげで、絵理奈と仲を深められる可能性が出てきた。

 ありがとう、モン○ン!


「なら俺もやってるよ。一緒にやらない?」


「えっ、いいの!?」


「いいよ。でも俺全然やってないから初心者だけど」


「私も最近始めたばっかりだよ。なら、お姉さんがある程度教えられるね!」


 年上としての威厳を見せたかったのだろうか、一気に上機嫌になった。

 これだよ、俺が前世の時から見ていた、俺が好きだった笑顔。

 確かに絵理奈は綺麗だ。でも、遠慮なく笑う顔が好きだったんだよ。

 顔立ちは大人っぽいのに、その笑顔になる時だけは幼く見えて可愛いんだ。

 ああ、愛しいな。


「じゃあ絵理奈、メッセージアプリのIDを交換しようよ」


「いいの!? ありがとう!!」


「どういたしまして」


 ありがとう、○ンハン。

 君のおかげで絵理奈のIDをゲットできた!

 今日からたくさんプレイして可愛がるからな!

 では早速、一緒にプレイする約束を取り付けよう。俺は即行動に移す男なのだ。それは犬の時から変わらない。

 交尾をしたかったら「やらないか」とストレートに伝えていたものだ。

 ……今世でそれやったら、間違いなく警察に御用になっちゃうけど。


「それで、いつプレイする? 俺は夜八時以降なら大丈夫だけど」


「私は、九時なら空いてるんだけど、今日はちょっと用事があるの……。明日でも、いい?」


「勿論。楽しみにしてる」


「私も! えへへ」


 ああクソ、はにかんだ笑顔も可愛いとか、とんでもないな。俺の元飼い主。

 本当に死にそう、心臓に負荷が掛かりすぎて。

 爆発しかけている心臓を何とか抑えながら、俺はスマホを取り出してQRコードで友達登録を済ませた。


《えりな》


 メッセージアプリ上の絵理奈の名前だ。

 うん、まんまだった。

 でも両親や親族を除けば、初めて女性と友達登録したんだ。

 しかも元飼い主だけど、初恋の人。

 嬉しくない訳がない。


「登録完了したよ。ありがとう、絵理奈」


 嬉しくて、顔がにやけてしまった。











 ――絵理奈視点――


「登録完了したよ。ありがとう、絵理奈」


 そう言って玲音くんは微笑んだ。

 あまりにも綺麗な顔立ちで微笑むから、呼吸も忘れちゃった。

 そして急に恥ずかしくなって、私は自分のスマホの画面に視線をくれる。


《REO》


 メッセージアプリでの彼の名前。

 親戚とかお父さん以外では、初めての男の子の友達。

 私、男の子苦手で今までID交換は全部避けてきたのに、玲音くんの場合はすんなり交換しちゃった。

 しかも交換を申し込まれた瞬間嬉しくて、自分でもビックリする位自然に交換しちゃったし。

 ああ、何か玲音くんの沼にはまっていっている気がする。

 悪い気はしないけどぉ。

 

 でも驚いたなぁ。

 まさか玲音くんも同じゲームをしているなんて。

 私の場合、容姿のせいで男の子からはしつこく言い寄られて、女子からはひがまれて。そしたら友達なんていないまま二年に進級しちゃった。

 モンハ○は、オンラインで容姿を見せなくても仲良くなれるから、少しでも仲が良い人を作りたくて始めたの。

 でも私のゲームの腕はド下手で、最初の大型モンスターで三回の死亡。あまりの下手さにいつの間にかフレンドを解除されていたりする……。

 さっきちょっとお姉さんぶっていたけど、多分玲音くんの方が上手いんだろうな。

 ってか、あまりにも下手すぎて、私との縁を切られたりしないかな?

 玲音くん、そこまでガチ勢っていう人種じゃないよね?

 違ってて欲しいなぁ。ガチ勢は怖くて、もう二度と一緒にしたくない……。


 あっ、もうすぐでお家に着いちゃう。

 何かあっという間だったなぁ。

 正直もっと一緒にいたいけど、日も沈みかけている。

 中学生を夜になるまで連れ回すのは、流石に問題だと思う。

 残念、だなぁ。


「……玲音くん、そろそろお家だから、ここでお別れだね」


「えっ……。そっか、あっという間だったな」


「うん、本当だねっ」


 何か悲しいなぁ。

 もっと玲音くんと話したかったなぁ。


「じゃあ俺も帰るよ。後でゲームのIDをメッセで送るよ」


「うん……」


「じゃあ、また明日」


 そう言って、玲音くんは私に背を向ける。

 寂しいなって思った瞬間、私の口が勝手に言葉を発した。


「玲音くんっ! ゲームをしない時でも、メッセ送っていい?」


 本当に、反射的に発した言葉。

 玲音くんは私の方に振り返って、驚いた表情をしていた。

 でもその後に満面の笑みになって、こう言ってくれた。


「喜んで。絵理奈とのメッセなら大歓迎!」


 私も釣られて笑顔になったと思う。

 だって、本当に嬉しかったから。

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