第13話 メッセージのやり取り


 やばい、やばいやばいやばい!

 ただメッセージアプリのIDを交換しただけだっていうのに、すごく嬉しい!

 俺はこんなにも単純で安い男だったのか?

 あまりの嬉しさに、絵理奈と別れた場所から俺の家まで歩いて二十五分程の距離があるにも関わらず、どうしても走りたくなって全力疾走。そうしたら十五分位で家に到着してしまった。しかもあまり疲労は感じないときた。

 俺は玄関でふとスマホを取り出すと、メッセージが一件来ていた。

 開いてみると絵理奈からだった。


『おうちの近くまで送ってくれてありがとう! すごく楽しかったよ。明日のゲームも楽しみ♪』

 

 そのメッセージの次に、可愛らしいパンダが喜びのダンスをしているアニメーションがついたスタンプも一緒に送られてきていた。

 送られてきた時間を見てみたら、別れてすぐだったようだ。

 夢中になって走っていたから、全く気が付かなかった。

 俺は急いで文章を作って送信した。


『今家に着いたよ。俺の方こそありがとう、一緒にいれて楽しかった。明日のゲームも楽しみにしているよ』


 俺はスタンプとかそういうのは送らない人間なので、文章だけで済ませる。

 何か男がスタンプを多用して送ると気持ち悪いんじゃないか? と勝手に思っているだけなんだけど。

 するとすぐに既読が付く。早いな……。


『私も♪ お姉さんが色々教えてあげるね!』


『……何だろう、お姉さんを強調されて癪に触ったから、今から予習しておく』


『予習、ダメ、絶対!』


『ええ……。せめて動きだけでも確認させて欲しい』


『なら許可します♪』


 いつの間に許可制になったのだろうか。

 そこまでお姉さんぶりたいのかねぇ。

 俺は絵理奈とは恋人関係になりたいから、お姉さんは御免こうむりたいんだけど。

 もしかして俺、一人の男としてってより弟みたいに見られている?

 うわっ、それはちょっと嫌だなぁ。

 でも多分、グイグイ押せ押せで行くと絵理奈は引いていってしまいそうだ。

 折角結んだ縁なんだ、ゆっくりと仲良くなっていこう。


 夕食を摂った後、俺は絵理奈と沢山メッセした。

 絵理奈は用事があって十時まで返事はなかったが、終わった後に速攻で返事をくれたんだ。

 それからお互いの事を色々話していく。

 まずわかった事は、絵理奈はバスで二十分かかる所にある進学校に通っていた。

 都内では結構偏差値が高い所で、授業に必死になって食らいついているらしい。

 用事というのも塾らしくて、すでに大学受験に向けて準備をしているのだとか。

 俺とメッセとかゲームをしていいのかって思ったが、息抜きになるから続けたいと言われた。


 ちなみに現在、彼氏はいないらしい!

 これは俺にとって超朗報だ。

 しかし絵理奈は昔から色んな男に言い寄られたりして、時には力ずくで自分の物にしようとした男までいたらしい。

 そういった敬意から男に苦手意識があるのだとか。

 その後慌てた様子で『玲音くんはとっても優しい男の子だから、全然苦手じゃないからね!』と送られてきた。

 ちょっと嬉しかった。

 しかし、やっぱり絵理奈はモテるか。

 そうだよなぁ、本当に美人だと思うしスタイルだって細身なのに出ているところはしっかり出ている。

 それに誰にでも優しくしていそうだから、勘違いしてしまう男が多いんじゃないだろうか。

 うん、それはそれで心配になる。


 メッセージをひたすらやり取りしていたら、気が付いたらもうすぐで〇時になるところだった。

 話に夢中になっていたから、時間の流れすら忘れていた。

 そろそろ寝ないと、明日がキツい。

 とっても心苦しいが、話を打ち切ろう。


『じゃあ絵理奈、明日も学校だからそろそろ俺は寝るよ』


 ぱっちり目が覚めているから、正直眠れる自信がない。

 だが、寝ないと明日の授業が厳しいんだ。

 俺はメッセージを送った。すぐに既読は付いたが返信が来ない。

 さっきまでは既読が付いたらすぐ返信があったのに。

 どうしたんだろうと思っていると、スマホが震えた。

 メッセージアプリからの着信で、相手は絵理奈だ。

 俺はどうしたんだろうと疑問を抱く前に、速攻で通話に出た。


「え、絵理奈? どうした?」


 動揺を上手く隠せなかったようで、少し声が裏返ってしまった。


『えと、えと。夜分遅くごめんね?』


「いや、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ」


『そっか。何か、直接言いたかったから、掛けちゃった』


「ん? 何を言いたかったんだ?」


『……今日は本当にありがとう。そして、おやすみなさい、玲音くん』


 とても、柔らかい声。

 そんな声を聞いただけで、俺の心臓は跳ね上がる。

 上手く喋れる気がしないけど、俺も返事する。


「お、おやすみ、えりな」


 カタコトになってしまった。


『あはは、カタコトになってる! 可愛いっ』


「可愛いって言うなよ」


『やっぱり男の子は、可愛いって言われるのは嫌?』


「そりゃね。男としては格好良いって言われるのが嬉しいよ」


『そうなんだ――――』


 何だ、急に黙ったぞ。


「え、絵理奈?」


『……今日の玲音くん、とっても……格好良かったよ。お、おやすみっ!!』


 絞り出すような声で俺の事を格好良いと言った後、すぐ通話を終了させた絵理奈。

 絵理奈から、格好良いって言ってくれた。

 ずっと絵理奈の最後の言葉が頭の中でリフレインしている。

 寝ようと思っても、ずっと頭の中で絵理奈の言葉が反響していて、結局ぐっすりと寝付く事が出来なかった。

 翌朝、俺は珍しく寝坊しかけたのだった。

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