第11話 助けた後の二人


「こらーっ、君達! 何をしているんだ!!」


 取り巻きを一人ノックダウンさせた後、入り口の方から声がした。

 声がした方を見てみると、田中と警察官二人がいた。

 ナイスタイミングで和也が警察を連れてきてくれた!

 今の構図的に、絵理奈を守る為に俺が不良達に立ち向かっている、そんな状態だ。

 立浪達も警察を見た瞬間の行動が早かった。

 舌打ちして「逃げるぞっ」と叫び、反対側の公園出入り口から逃げていく。

 俺の攻撃を食らった取り巻きも、腹を押さえ前屈みの状態で立浪達の後を追いかけていった。

 

 警察官の一人は立浪達を追いかけていき、もう一人は俺達の方に向かってきた。

 俺と絵理奈はその警察官に対して事の顛末を伝えた。

 絵理奈がしつこくナンパされていた事、俺と田中が通り掛かった時に遭遇して和也に警察を呼ぶように頼んで、俺が助けが来るまで時間稼ぎをしていた事。

 当然一発殴られて身の危険を感じたので、一発やり返したとも伝えて自分の正当防衛も訴えておいた。

 絵理奈も必死に身ぶり手振りで俺の正当性を伝えてくれたから、警察官も信用してくれた。

 そして絵理奈が被害者になる訳だから、警察の人が家まで送ろうかと申し出てくれたが、親に心配させたくないからと絵理奈は断った。

 

「そうか。じゃあ私は同僚の後を追うけど、気を付けて帰るんだよ」


「はい。本当にありがとうございました」


 絵理奈が深くお辞儀をしてお礼を言うと、若干警察官の鼻の下が伸びたのを俺は見逃さなかった。

 確かに彼女は綺麗で見惚れるのは仕方ないけど、ちょっとムカッとしてしまう。

 ああ、これがきっと嫉妬なんだな。初めての感情だけど、あんまり気持ちいいものじゃないな、これ。

 警察官はもう一人の警察官を追いかけに行き、公園に残ったのは俺と絵理奈と田中だけだった。

 

「いやぁ、無事で良かったぜ、家入!」


「助かったよ田中。ありがとう」


「とか言ってる割には、全然余裕そうじゃん」


「まぁ、鍛えた結果かな」


「いいなぁ、俺もこんな綺麗なお姉さんを守れるなら、今から格闘技とかやろうかなぁ」


「止めておいた方がいい。地獄だから……」


 俺が遠い目をしながら言うと、田中は「マジか……やめておくわ」と呟いた。

 すると、田中が何かに気付いた様子を見せた。

 どうしたんだろう?


「んじゃ、俺帰るわ。ちょっと用事があるんだわ」


 田中が手を振って、この場を去ろうとしていた。

 えっ、何で!?

 俺は引き留めようとしたが、俺に有無を言わせずにそのまま逃げるように俺達から離れていった。


「な、何だ……あいつ。確か用事なかったような――」


「れ、玲音くん!」


「は、はい!」


 いきなり大声で絵理奈に呼ばれて、つい敬語で返事してしまった。

 びっくりしたし、耳が良い俺にとってはちょっと耳がキーンってなってしまった。

 

「あ、あの。助けてくれてありがとう。本当、嬉しかった」


「そ、そそ、それはよかった」


 絵理奈の満面の笑みに、俺の胸が弾けそうになった。

 眩しく見えるその笑顔は、容赦なく俺の心拍数をぶち上げていく。今にも心臓が張り裂けそうな位だ。

 何か声帯がおかしくなったんじゃないかと思うくらいに声が震えるし、どうしても気持ちが落ち着かない。


「お、俺こそ、助けられてよかった……よ」


「ふふ、格好良くてお姉さん、ドキッとしちゃった」


 絵理奈がドキッとしてくれたのか。

 ちょっと嬉しいけど、俺がドキドキしっぱなしで正直しんどい。

 可愛すぎて辛い。


「そうだ、玲音くん。玲音くんは私より年下だよね?」


「……多分? 俺は十二歳で中学一年だよ」


「やっぱり! 私、十六歳の高校二年生。年上です!」


 四歳差だったか。

 じゃあ前世の最期に見た絵理奈は、三、四歳だったって事なんだな。


「うん、そうだね。えっと、それで?」


「私の事、呼び捨てだったでしょう? 会って間もないし、年上なんだから呼び捨てはないんじゃない?」


 むーっと頬を膨らませてちょっと怒った仕草を見せた。

 ああ、取り巻きをノックダウンさせた時に確かに呼び捨てで名前を叫んだっけ。

 確かに人間としては年上なんだけど、俺は小さい頃の彼女を知っているからなぁ。

 間違いなく元飼い主である彼女に今の俺は惚れている。でも、前世の記憶での俺はどちらかと言ったら保護者みたいな感情があった。

 上手く言えないけど、前世の感情と今世の感情が変に混ざり合っているせいか、絵理奈をあんまり年上と見れないんだよな。


「ん~。やっぱり絵理奈で」


「えぇっ……。じゃあせめてお姉ちゃんで!」


「却下。俺は絵理奈と血が繋がってないから無理」


「そんなぁ。ちょっとお姉ちゃんの気分を味わいたかったのに」


「無理なものは無理だよ。だって」


「だって?」


「俺、弟扱いとかされるより……その、対等な立場で、絵理奈と仲良く……なりたいし」


 絵理奈が息を飲んだのがわかる。

 そして結構呆気に取られた表情をしていた。

 恥ずかしかったけど、俺の紛れもない本心だ。いきなり彼女になってほしいなんて絶対に無理だろうから、少しずつでいいから仲を深めていきたい。

 勿論年上だからグズグズしていたら他の男に取られてしまう可能性だってある。

 結局絵理奈が選ぶんだから仕方無いけど、出来るなら俺は絵理奈と付き合いたい。

 それと、今の絵理奈をもっと深く知りたい。

 告白はそれからでも遅くはない筈だ。


「……とりあえず、家まで送るよ。またあいつらが来る可能性があるし」


「う、うん。お願い、します」


「……ん」


 俺と絵理奈は横に並んで歩き始めた。

 ずっと緊張してるし心拍数は跳ね上がっていて苦しい。

 でも、俺はそれを心地良いと思い始めていた。

 だってさ、絵理奈の事が好きなんだって、ちゃんと実感出来るから。












 ――絵理奈視点――


 どうしよう、すごくドキドキしてる。

 玲音君は四歳も年下の男の子なのに、とても格好良く思えちゃった。

 だって、あの台詞――


「俺、弟扱いとかされるより……その、対等な立場で、絵理奈と仲良く……なりたいし」


 恥ずかしそうにしていたけど、青い瞳で私を見つめて真剣な表情で言ってくれたの。

 それに何より、二ヶ月前とは全然違っていて、真剣な表情がとても様になっていて格好良かった。

 まんまるとしていた頃の玲音くんは可愛らしかったけど、本当に別人のような変わり様だった。

 本当に、心臓がドキドキしっぱなしな位、カッコいい男の子になっていた。

 私を助けてくれた時も、私とそこまで身長が変わらないにも関わらず、彼の背中はとっても頼りがいがある大きな背中に見えた。

 実際自分から進んで相手を傷付けるような事をせず、相手の暴力を上手くいなしていたし。

 とっても強い男の子に生まれ変わったんだなって思えた。

 そう認識した瞬間、胸の高鳴りが抑えられなくなっちゃった。


 私って、こんな単純だったっけ?

 だって、まだ会って二回目なのに、玲音くんの事を凄く素敵だなって思っちゃってる。

 この容姿のせいで男性絡みのトラブルが耐えなくて、正直男子の事は苦手だったの。

 そのトラブルのせいで、同性の友達も出来ずにいたし。

 でも初めて会った時から、玲音くんには不思議と警戒心がなかった。

 むしろ何処か、懐かしいような感じがしていたの。

 こんな金髪で目立った男の子なんて、会った記憶すらないのに。


 とにかく、男子が苦手な私が、多分玲音くんを好きになりかけている。

 まだ中身も知らない年下の男の子に。

 一目惚れとはちょっと違うと思うけど、それでも玲音くんの事はいいなって思えている。

 もっと彼を知りたい。

 もっと彼と仲良くなりたい。

 内心そう思いながら、私は家に向かって彼と横に並んで歩いている。

 チラッと玲音くんを見る。

 本当に整った顔立ちをしていて、まるで芸能人のようだった。

 金髪もとっても綺麗だし、まるで糸のように思える。

 

「……ん? どうした?」


 私の視線に気付いたのか、私の方に視線を向けてくる。

 優しく微笑んでいる玲音くんに、胸が爆発しそうな程動揺してしまう。

 だって、年下なのに柔らかい笑みが様になりすぎてて、とっても格好良かった。

 

「な、何でもないよ!」


「そう? 次はどこ曲がればいい?」


「えとえと……そこの十字路を左で……」


「ん、了解」


 ああもう!

 その微笑み、本当に反則!

 私、隣にいたら死んじゃう。

 死因は、玲音くん微笑みによるショック死。

 それ位に破壊力があって、本当に胸が辛いの!

 でもね、隣に玲音くんがいるだけで、胸が弾けそうで辛いけど同時に幸せだなあって思える。

 今まで味わった事のない感覚。

 戸惑うけど、楽しくもある。

 こんな感情や感覚を教えてくれた玲音くんとは、これからももっと仲良くしたいなって心の底から思った。

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