第9話 ダイエットで得た副産物
まさか絵理奈に手を出しているのが、転校した立浪達だったとは。
さっきの話を聞いていると、全く改心していないみたいだ。
むしろよりタチが悪くなっているような気がしてならないんだけど。
俺は力一杯握っていた立浪の手を離してやる。
「てめぇ、誰だよ。俺の名前も知っていたようだし、誰なんだよ!」
立浪は俺が握っていた手を擦りながら「殺すぞ」と言わんばかりの目で睨んできていた。
まぁ別に正直に名乗っても問題ないか。
「二ヶ月ぶりだね、立浪。あの時は俺をサンドバックにしてくれてどうもありがとう」
「ん? サンドバック?」
「もう忘れた? 二ヶ月前までお前にいじめられていた、家入 玲音だよ」
「……は?」
「だから、家入 玲音だって」
『ええええええええええええええええええ!?』
俺の背後にいる絵理奈も含めて、びっくりしていた。
うん、俺自身もダイエット成功した時は「誰だお前!?」ってなったからなぁ。
徐々に贅肉が削げていって変化していったのはわかっていたけど、それでもこんなに変わるんだってビックリした。
「ほ、本当にあの時の玲音君?」
「ああ。ここのベンチで絵理奈に会って、俺の背中を押してくれたから、俺は変わる決意が出来たんだ。ありがとう、絵理奈」
「う、うん。でも、さっきいじめって……」
「そう、俺はこいつらにサンドバックにされて、何度も気絶させられたんだよね」
「……酷い」
絵理奈が軽蔑の視線を立浪に向けている。
美人の絵理奈にそんな視線を向けられて、流石の立浪達も一瞬たじろいだ。
「本当は絵理奈に沢山お礼を言いたいところだけど、とりあえず逃げてくれ」
「で、でも玲音君。玲音君を一人置いていけないよ! 元々は私が招いたトラブルなんだし」
「大丈夫、何とかするから」
「何で? 何でそこまでしてくれるの?」
何でって、絵理奈に一目惚れしたからだよ。
なんて言える訳がなく。
とりあえず適当な理由を言った。
「言ったろ? お礼だって。生まれ変わる為に背中を押してくれたお礼」
「……あれだけの為に?」
「俺にとってはあれだけで十分なんだよ。さぁ、逃げてくれ。この場は俺に任せて」
「……うん。ありがとう」
絵理奈は終始心配そうな表情で俺を見て、そして逃げていく。
……足、遅いな。
だけどそれが可愛くてたまらない。
そして公園から出るのではなく、気の影に隠れて見守ってくれていた。
逃げて欲しかったんだけどなぁ。
まぁよしとしますか。
俺は未だ呆気にとられている立浪に声を掛ける。
「さて、立浪。俺としては平和的解決を希望するんだけど。そのまま退いてくれないかな」
「……はっ。てめぇ、ちょっとイケメンになったからって調子に乗ってるんじゃねぇよ」
「別に調子に乗ってる訳じゃないさ。立浪はナンパに失敗した訳だし、これ以上は時間を無駄にするだけだからさ」
「時間の無駄ぁ? くっ、あははははははははっ!!」
立浪含む五人が高笑いをし始める。
何だ、ナンパに失敗して気狂いしたか?
「バカじゃねぇの!? サンドバックが再び戻ってきてくれたじゃん! てめぇをボコれる時間こそ、超有意義な時間だっての!!」
うっわ、それこそ無駄な時間じゃないか。
こいつ、根っからに腐ってるな。
どういう教育をしたらこんなのが育つんだろう。立浪達の両親を見てみたい気分だ。
「それにな、ちょっとした復讐なんだよ。てめぇが親にチクったせいで俺達の親にも知れ渡った。そして強制転校と来たもんだ。おかげで俺達は肩身が狭い学校生活を送るハメになってるんだよ!!」
そうなんだ。父さんと母さん、俺が知らない間に色々動いてくれたんだ。
嬉しいな、本当に俺の為にそこまで動いてくれるなんて。
でも復讐って――――
「完全に自業自得でしょ」
「るっせぇんだよ!! もう頭に来た、早速ボコらせてもらうからなっ!!」
立浪が構える。
そして奴の取り巻きが応援するかのように煽っている。
これはもう、平和的解決は無理だなぁ。
「ほらよ、一発食らえや!!」
大振りの右ストレートを俺の顔面目掛けて繰り出してきた。
俺は目が良い。超スローに見える。
前までは体型のせいで反応が出来なかったが、今の俺は違って体が思うように動くんだ。
そんなへなちょこに当たるつもりはない。
俺は身体を軽く反らしてスウェーで回避した。
立浪は「えっ?」と驚いていた。そうだよなぁ、今まで避けずにひたすら食らってたし。
だが立浪も諦めない。
体勢を整えて、次は腹目掛けて蹴りを放ってきた。
これも予備動作丸見えで動きが遅かったので、一歩後ろに下がって余裕で回避した。
「てめぇ、避けるんじゃねぇよ!!」
「いや、避けるでしょ。痛いの嫌だし……」
「てめぇに避ける権利はねぇんだよ!!」
「何その権利……」
何度も攻撃を繰り出してくるが、全てが大振り。
当然当たってやる筋合いもないから、最低限の動作で全て避ける。
やがて立浪が疲れてしまったのか、その場で跪いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふぅ。やっと疲れてくれたかぁ」
「て、てめぇ……。何か、したな?」
「立浪には何もしてないよ。強いていうなら、過酷なダイエット方法をしたよ」
「か、こく?」
「うん。二ヶ月学校を休んで、毎日キックボクシングをやってた」
結果として手に入れたのは、中学生同士の喧嘩だったら負けない技術と肉体だった。
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