第8話 王子様風の男子 side絵理奈


 私、川原 絵理奈はとてつもないピンチに陥っていた。

 普段私は嫌な事があるとこの公園に来て、気持ちが落ち着くまでベンチに座って考え事をしていた。

 今日も学校でとある男子がしつこく迫ってきて怖くて、ダッシュで逃げてきたの。すっごく怖かったから、ベンチに座ってちょっと泣いちゃった。

 そうやって怖い気持ちを落ち着かせようとしている最中に、五人組の不良っぽい男子達が私の方に視線を向けた。

 見た目からして私より歳下だけど、見るからにイライラしているのがわかってとても怖かった。


「おっ、いい女いるじゃん。むしゃくしゃしてたからちょうどいい、あの女に慰めて貰おうぜ」


「いい考えだね、立浪君!」


「やべぇ、こんないい女いたんだ! 俺らより歳上っぽそうじゃん?」


「ってかさぁ、スタイルも最高じゃね?」


「ちょっと前屈みになっちゃうわ」


 いやらしい笑みを浮かべながら、五人組が近づいてくる。

 ああ、今日は厄日なのかな……。

 私は両親の良い所を受け継いで、平均以上の容姿を授かった。

 でも、私はこの容姿のせいで男子とのトラブルが絶えなかった。

 正直男子は私にとって恐怖の存在でしかないし、出来れば関わりたくない。それでも容姿のせいで引き寄せてしまっている。

 今日は特に最悪だった。

 学校では壁に追いやられて「もう我慢できそうにないんだ!」ってキスされそうだったし、今は不良グループに距離を縮められている。

 最近で言えば男子に対して唯一警戒しなかったのは、一ヶ月前に会ったあの恰幅が良い家入 玲音君だったかな。

 彼は優しい目をしていて、そこまで警戒しなかった珍しい男子だった。

 男子皆、彼みたいになればいいのに。


 でも、どうしよう。

 今から逃げればいいのだけど、私は運動は得意じゃない。

 走って逃げたとしてもきっと追い付かれちゃう。

 それに膝が笑っていて、今立てそうにない。


「ねぇ、そこの綺麗なお姉さん! 俺達と遊ぼうよっ」


 下衆な笑い声を上げながら着実に私との距離を縮めてくる。

 私は震えを止める為に太ももを叩くけど、一歩一歩彼等が近付いて来る程に震えが酷くなっていく。

 このっ、このっ、震えよ止まってっ。

 しかし私の身体は聞き入れて貰えず、手を伸ばせば触れられてしまう程の距離まで接近を許してしまった。


「わおっ、涙目になってるのが堪らねぇ! 最高じゃん」


「ひっ……!」


「ああ怖がらなくていいぜ。今から俺達が、とってもキモチイイ事してあげるから」


 五人から舐めるように私の身体を見てくる。

 気持ち悪い視線に、春で暖かいにも関わらず鳥肌が立ってしまった。

 立浪と呼ばれる男子が、わきわきと指を動かして手を伸ばしてくる。その手が目指しているのは、私の胸だ。


「……お、大声出しますよっ」


 震えながらようやく声を出せた。

 だが、彼等は止まらなかった。


「呼んでいいよっ! そしたらお姉さんを抱えて、さっさと別の場所に移動するしぃ」


「は、は、犯罪ですよ?」


「かもねぇ。でもさぁ、俺達未成年だからさ、どうせ重い罪にはならないし! そんなこれっぽっちも怖くない罪より――」


 もう少しで彼の手が、私の胸に触れる。

 やだ、止めてっ。


「目の前の極上のご馳走を頂いた方が、最高じゃん?」


 この人達、後の事を考えないで目先の事しか考えてないっ!

 未成年で警察にお世話になったら就職の事とか後々響いちゃうのに、刹那的にしか生きていないっ!

 わかんない、どうすればいいのっ。

 多分この人達に何を言っても通じない。

 本当に怖いっ!


「やだ、やだっ。止めて!」


「いやぁ、お姉さん美人過ぎるから、もう待ったは出来ないなぁ♪」


 もう、本当嫌。

 何でこんな容姿に生まれてきたんだろうっ!

 今すぐ自分の顔を切り刻んでしまいたい位、私は自分の容姿が嫌い。

 こんな目にあうんだったら、こんな顔要らないっ。


 誰か、誰か――――


「誰か助けてぇぇぇぇぇぇっ!」


「やべっ、叫ばれちゃった。ならお前ら、お姉さんを抱えてあそこのトイレに移動するぞ!」


 彼の手が、伸ばす先を私の胸から腕に変更した。

 掴んで公園のトイレへ連れていこうとしているみたい。

 もう、ダメなのかな。


 涙を流して諦めようとした時、私の目の前に人影が現れた。

 伸びてきている不良の手首を握って抑え、私と彼等の間に立ち塞がったの。

 金髪に宝石のような碧眼。整った顔をしていて王子様ってこういう人を言うんだなって思った。

 彼は不良の腕をそのまま捻り、痛みを与えているみたい。大きな声で「いたたたたっ!」と悲鳴を上げている。

 王子様のような彼が、私の方に視線を移した。


「間に合った。大丈夫、絵理奈?」


 えっ、何で私の名前を知ってるの!?

 ってか、呼び捨て!?

 こんな王子様、私知らない筈なのに。

 男性不信な私は、彼に対して警戒レベルを上げた。


「あれ? 何か警戒されてる? ……ああ、まぁ前会った時より大分変わったからな」


 私、この人と会った事あるの?

 知らない、こんな容姿が整った人なんて初めて会ったんだけど……。

 でも私、この優しい目をどっかで見た気がする……。


「さて……。立浪、お前――何してるんだよ」


「なっ!? 何で俺の名前を知っている!? 俺はてめぇを知らねぇぞ!!」


 この王子様は彼等を知ってるっぽいけど、逆に彼等は知らないみたい。

 どういう事なんだろう?


「まあいいよ。とにかく、絵理奈にいかがわしい事をしようとしたな? 絶対に、許さない」


「あっ、あだだだだだだだだっ!! 手首が折れる!!」


「止めないからな。絵理奈を怖がらせたんだ、それなりの報い、受けてもらう」


 私と同じ位の身長なのに、とても大きな背中だなって思う。

 そして、さっきまでの恐怖はいつの間にかなくなっていた。

 多分この人は、信用していい人なんだって思った。

 ところで、この王子様風の男子は、結局誰なの?

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