パタパタパタン

けろよん

第1話

 いつからそうなったのか。気が付いた時、長いこと亀として暮らしてきた私の背中の甲羅に翼が生えていた。

 驚いた私は早速青空の下を飛んでみた。

 元が亀なのでそれほど高く飛んだり速く飛翔したりは出来なかったけど、私の飛ぶ姿を見て古くからの仲間の亀達や最近仲間になったキノコ達はうらやましそうに地面から私を見上げていた。


「凄いなー、同じ亀とは思えないよ」

「キノコの僕も飛べるようになりたい」

「フフーン、君達も頑張れば翼が生えて飛べるようになれるかもよ」


 真っ白な翼を羽ばたかせて飛べることは私の自慢であり、誇りとなった。いつか太陽よりも高く飛べるようになるだろう。そんな夢物語を胸に抱くようになった。

 だが、暗雲は突然に訪れた。我々の支配している王国に踏み入ってきたある髭の男の出現によって。

 その日も王国は青空の広がる良い天気で、遠くからは雲や山が笑って見ていた。

 私は今日こそはあの土管よりも高く飛んでみせるぞと亀なりの精一杯の助走をして羽ばたきながら向かっていたのだが……


「!?」


 その土管の上に赤い帽子を被った怪しい男が姿を現した。どこかの配管工だろうか。すぐに仲間に知らせた方がいいとは思ったが、すでに助走を付けた亀の私はすぐには止まれない。

 無視をして通り過ぎてくれれば良かったのだが、その男は何と、


「マンマミーヤーーー!」


 土管の上から翼の生えた私よりも高く跳び、驚愕して見上げる私の背を思いっきり強く踏みつけたのだ。私はそのまま地面へと叩きつけられ、私を足場にした男は再び高くジャンプした。

 私にとって男に踏まれたとか男の正体とかそんな事はどうでも良かった。それよりも重大なことがある。


「翼は!? 私の翼はどこにあるのだ!?」


 何と踏まれたショックからか私の翼が綺麗さっぱりと無くなっていたのだ。私はショックにうろたえ、ただおろおろすることしか出来なかった。

 そこに何も知らない仲間の亀や最近仲間になった裏切り者のキノコ達がぞろぞろと歩いてきた。


「あいつ今日こそあの土管を越えられるかなー」

「俺もそろそろ翼が生えて空を飛べそうな気がするぜ」


 よせ! 来てはいけない!

 呑気なことを話しながらぞろぞろと列をなして歩いてくる仲間達に私は注意を呼びかけたかったが、全ては遅すぎた。

 髭の男は良い獲物を見つけたとばかりにニンマリとした邪悪な笑みを浮かべると、私の体を再び踏んだ。

 私の体はショックで甲羅の中に引っ込んでしまい、蹴られた私は


「なんだ?」

「うわあ!」


 何も知らない仲間達を次々と撥ねていき、ちょうど八体を撥ねたところでワンナップ、『おめでとう』と祝福せんばかりのピロリロリンとした景気のいい音を奏で、私にとっては悪夢のことにそのまま土管や壁にぶつかって、広く開いた奈落の穴の底へと落ちて行ったのだった。

 その凄惨な光景を遠くから山や雲が変わらず笑って見ていた。

 この王国は表向きは平和だけど裏では戦場なのだと、翼が生えてうかれていた私は理解するのが遅すぎた。

 深い穴の底で反省するとしよう。

 そして願わくば、今度生まれ変わる時は誰にも踏まれないような、空に浮かぶ雲の上に乗れる亀になりたい。

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