4.ある日のソラチュー天文部
嵐のような二日間、シンくんがエンリンだと知って、そして天文部メンバーと知り合た二日間が終わって、そのあとはそれなりに平和な日が続いた。そりゃ、あんなに衝撃的なことがずっと続いたら困るもんね。
あれからアタシは先生にいわれて部活設立の手続きをしてた。といっても用意された書類にちょっと書くだけだけどね。
その書類の中に部員名簿があったんだけど、みんなに自分の名前を書いてもらったんだ。出来上がった名簿をみて、一つ気づくことがあった。
部長
副部長
部員
部員
部員
部員
エンリンのみんなは名字に太陽系の天体が入ってるんだ。ウララは金星の金。リュウくんは水星の水。そしてシンくんは月。
まあ偶然だと思うけど、なんだか天文部にふさわしいメンバーじゃん、なんて考えてる。
だけど、困ったことがひとつ。まずこのメンバーは先生のすすめで天文部に入っただけだということ。つまり、天文が好きで天文部に入ったわけじゃないんだ。
例えば野球部は野球をやりたい人が野球をやるところだって分かって入るし、美術部だって絵を描きたい人が集まるわけでしょ。
でもわが天文部はそうじゃない、もともと天文や宇宙が好きなのは、アタシしかいないんだ。
君たち異星人だろ! なんて思うんだけど、ご存知の通りエンリンたちはみんな地球生まれの地球育ち。普通に暮らしてても地球人と違うところなんて、ほとんどない。
だからね、大元は宇宙から来た人たちだからって宇宙のことをよく知ってるなんて決めつけちゃいけないのだ。アタシにとってはすごーく残念だけど。
せっかく天文部にいるんだし、できれば宇宙のこと好きになってもらいたいな~っておもうんだけどね、いったいどうすればいいのかよくわからないでいる。
それからもうひとつ。これは、天文部に入るまで気が付かなかったんだけど、アタシ、天文部って何をする部活動なのか分かってないんだ。
野球部は野球する。美術部は絵を描く。天文部は? 天文する? 天文するってなんだ? なにすればいいの~?
天文部ができたのはうれしいけど、そこで何をするかまで考えてなかった。今までひとりで図鑑みたり、雑誌読んだりするだけだったのに、いきなり総勢6人の部員を抱える部長として何をすればいいかなんてわかんないよ~。
というわけで、アタシは職員室へとやってきたのだった。もうこうなったら先生に聞くしかない。天文部設立の立役者、伊野谷先生に。天文部の顧問でもあるし、それくらい教えてくれるだろう。
「う~ん、そうだねえ。じゃあまず文化部発表会の出し物を考えたらどうだい?」
「文化部発表会?」
「そうさ、1学期の期末テストの後、夏休み前に文化部発表会がある。体育館に各文化部がスペースをとって、自分たちの活動の成果を発表する行事さ」
「ほかの部は例えばどんなことをするんですか?」
「美術部なら自分たちの作品を飾るし、茶道部なんかは、その場でお茶会やってるねえ。あと書道部は最近はやりのほら、音楽に合わせて書くやつ、パフォーマンス書道ってやつをやったり」
「天文部はなにをすれば……」
「それを考えるのがアンタの役目だろ?」
そう言ってウインクする伊野谷先生。
「ええ~」
「なにが、えー、だい。とりあえず自分で考えてみな。期待してるよ、部長さん?」
先生はそれ以上答えてくれなかった。これじゃあ、考えることが変わっただけじゃん。何をすればいいか、から、文化部発表会で何をすればいいかに変わっただけだ。
はあ、どうしようかな。一応目標ができたことは前進かもしれないけどさ。
まあとにかく部室行くかあ。
と、いうわけで、アタシたち天文部の部室こと、天文観察室へとやってきた。こんなに広い部屋をアタシたち6人で使えることはありがたい。
ドアの前に立つと、中から声が聞こえる。誰かいるのかな。
「ふっ! ふっ! ふっ!」
中からはそんな声が聞こえる。なにか気合を入れているような声。これはたぶん、アイツだ。アタシはドアを開けた。
「ふっ! ふっ! ふっ!」
中にいたのは、そんな掛け声に合わせてダンベルを上げ下げしているリョウ君だった。
「お、部長じゃん、おつかれー。ふっ!」
アタシを見ても筋トレをやめないリョウ君。
「あのさあ、ここはリョウ君のジムじゃないんだけど」
「まあまあ、固いこと言わないでくれよ。ふっ!」
「野球部はいかなくていいの?」
「今日は雨だからさ、ふっ! 自主トレに、ふっ! なったんだ、ふっ!」
「筋トレしながら話すなー!」
「なんで怒るんだよー。ふっ! そっちから、ふっ! 話しかけてふっ! きたんだろー、ふっ!」
こいつ、わざとやってないか?
「筋トレの方をやめればいいでしょ」
「ふっ! ああ、そういわれりゃそうだな、ふっ! でもごめんあと一回、ふっ! よーし、これでノルマ達成だ」
ガチャリ
ダンベルを床に置くリョウ君。その周りには他にも持ち込まれた筋トレグッズがある。この間より増えてるんですけど……
アタシは「はぁー」っとため息を一つついて、教室の奥へ入って椅子に座った。そして図書室で借りてきた本を開く。
まあ、こういうことだよね、別に天文部メンバーは宇宙が好きで集まったわけじゃないってのは。こっちは活動内容で悩んでるっていうのにさ。
「うーん、いい汗かいたぜ。やっぱ筋トレはいいな。筋肉は裏切らないからな」
力こぶをふくらませて笑いながらそんなことを言う。
「筋トレもいいけど、天文部の活動もしてほしいんんだけどなあ」
「ん~、それなんだけどさ、天文部って何するところんなんだ? いまいちわかってねえんだよな」
うっ、痛いところをつかれた。それ、アタシも悩んでたところだよ、とは言えないので黙って本に目を落としていると、リョウ君は汗を拭きながら近づいてきて、なんと隣の席に座る。別にこんな近くにこなくてもいいじゃんよ。
「なに読んでんのそれ」
そういってアタシの手から本を取り上げる。
「あ、ちょっと!」
「ええと、『太陽系のなぞとひみつ100』か」
「返してよ」
「ごめんごめん、返すって。ほい。それにしても、ほんと好きなんだな、宇宙」
「そりゃね、そうじゃなきゃ天文部の部長なんてならないよ」
「でもそんだけ好きなものがあるって、すごいよ」
まじめな声だった。お調子者のリョウ君とは思えないほどに。
「りょ、リョウ君だって好きなものあるんじゃないの? 野球は?」
「別にオレ、野球が好きだから野球部に入ったわけじゃないんだよな」
「えっ?」
「まあなんかスポーツしたかったから、運動部ならなんでもよかったんだけどさ、一番最初に誘ってもらったのが野球部だったんだ。それが一番大きな理由かな」
「そう、なんだ……」
ちょっと意外だった。
「まあ、今は好きだぜ、野球。みんなで力を合わせて試合に勝ったら最高だよ。まあ、今はまだ1年だからいつ試合に出れるか分かんないけどな」
そう言ってリョウ君はニカッっと笑う。日焼けした肌に真っ白な前歯がよく目立った。
「だからさ、やっぱユーミはすげえんだって、小さなころから一つのことが好きってのはさ」
「そうなのかなあ」
「そうさ、お前は、すごい!」
そう言ってリョウ君はアタシの背中をパンとたたく。
「いったいなあ!」
「ははっ、強すぎたか、まあでもだからさ、自信もてって、ユーミ部長! な?」
そう言って笑顔を見せるリョウ君の目は、まっすぐアタシを見つめていて、アタシは目をそらせなくなった。
きれいな目。坊主頭。額には汗の粒。なんかキラキラしてるなって思ってしまった。
何秒そうしてたんだろう。アタシはハッと気づいて目をそらす。うう~、ドキドキしちゃったじゃん。なんなのこいつ。
「じゃあ、オレ帰るわ」
「えっ」
じゃあ、じゃないよ急すぎるでしょ。天文部のことなんもやってないじゃん。
「ちょっと親父に呼ばれてんだよ、またな~」
「ちょ、ちょっと」
アタシの声はむなしく響き、リョウ君はあっという間に部室の外へと姿を消した。
「はあ、なんなのもう……」
つぶやいて席に座った私の胸はまだドキドキいってた。あのさあ、ヒロツグ君ほどじゃないにしたって、アタシだって男子と話すことそんなにないんだからさ、ちょっとあの距離は近すぎるでしょ、かんべんしてよ、もう。
「ユーミ、気をつけろよ?」
「わああああああ!」
急に聞こえた声にアタシは心底びっくりしてしまう。その声の主は、ヒロツグ君だった。入口近くの席に座ってる。
ちょっとまっていつの間に!
「あいつは昔からそうなんだよ。天然ジゴロ。どの女子にも分け隔てなくあの始末さ」
「いや、あの、ヒロツグ君? いつからいたの!」
「ん? ああ、そうだな『なに読んでんのそれ』のところからかな」
おいおい、今の会話ほとんど聞かれちゃってるじゃん。
「部室に入ったら二人が話していて、邪魔するつもりもないし黙って座らせてもらったよ。あいつに悪気はないんだが、誰にでも優しいから勘違いしちゃう女子が多くてさ、バレンタインデーとか結構すごいことになるんだ」
「へ、へえ~。リョウ君てもてるんだ」
「ああ、だからユーミも気をつけろよ。あいつにその気はないからさ、たぶん」
「いや、まあ大丈夫だけどね」
そうだ、そんなことヒロツグ君に言われるまでもない。
別に好きになったりはしてない。
けど、何かのタイミングで二人きりになって、またあんな感じで近くに来られたらまたドキッとしちゃうかもしれない。
「そうか、余計なお世話だったかな。すまない。またリョウのせいで悲しむやつが出たらこまるからな。」
「謝ることでもないけどさあ。でもやっぱあれだね、コーパーだけあって、リョウ君のことよく知ってるんだね」
「そりゃ昔から一緒にいるからな」
やっぱそうなんだ。アタシはこないだコーパーになったばかりで、シンくんのことなんてほとんど知らないなあ。
ヒロツグ君とリョウ君、どんな子供だったんだろ。いかにも正反対のコンビなのに仲いいの不思議だけど面白いよね。
あ、もしかしてヒロツグ君が女子苦手なのって、リョウ君がモテるのが原因だったりするのかな。うーん、気になる。けどツッコんで聞くのもちょっと気が引けるかも。
と、ここまで考えてあることに気づいた。
「あれ、ヒロツグ君、女子と話すの苦手だったよね。アタシと話せてるじゃん」
そうだ。こないだ天文部ができた時、こちらから話しかけても返事しなかったほどのヒロツグ君。今日は向こうから話しかけてきたし、口数もだいぶ多いぞ。
「……!」
ヒロツグ君はアタシの問いに驚いた顔でこちらを見る。でもすぐにまた目をそらしちゃうけど。
「いや、それは、こないだ初対面だったから……」
照れたような顔で、早口でそういう。う~ん、ちょっとかわいいかもしれないぞ。ウララさまがからかった気持ちが少し分かってしまう。
「そうさ、僕は別に女子が苦手なんじゃなくて、すこし人見知りなだけさ。そうだ、そうなんだよ。だから女子が苦手なんて勘違いだ。その印象は、修正しておいてくれ」
「そんだけ言われたら、逆に疑っちゃうな~」
「君まで僕をからかうのか? 勘弁してくれよ……」
「あ、ごめんごめん。わかったよ、部長としては部員と話せた方がいいに決まってるもんね」
ヒロツグ君が本気で嫌そうな顔をするからアタシはあわててフォローする。まあそんな反応しちゃうから、からかいたくなっちゃうんだろうなあ、ウララみたいな意地悪な人にとってはね。
とか言ってると、部室のドアがガラガラと開いた。
「あら、珍しいコンビね」
「おや~、なんか怪しいフンイキ~?」
ウワサをすればなんとやらというけれど、あらわれたのはウララとシオリンだ。これはまたややこしくなりそうな……
「やあ、ウララにシオリ。元気そうだな」
おっと、ヒロツグ君が声をかけたぞ。ちょっと棒読み気味でぎこちないけど。
その先制攻撃にウララは珍しく驚いた顔を見せる。けどすぐに、悪い笑顔に変化する。
「あら、素敵なあいさつね。この間とはずいぶん違うじゃないの」
「ああ、僕はちょっと人見知りがひどくてね。先日は失礼して悪かった」
いいぞ、がんばれヒロツグ君。なんだか応援する気持ちになっちゃう。
「へえ~、人見知り、ね。まあいいわそういうことにしておいてあげる」
「そっかあ~、ヒロツグ君別に女子が苦手なわけじゃなかったんだね。そういえば今ユーミちゃんといい感じじゃなかったぁ?」
シオリンがめんどくさい話題を放り込んでくる。
「何を言うんだ。僕たちは天文部の未来についてだな……そうだろユーミ」
「え、ええ? あ、うん、そうだよ! 天文部のあり方について深い議論をね」
何を言ってるんだアタシは。ヒロツグ君ちょっとテキトーすぎるでしょ。
「ふーん、まあいいけどね」
ウララはそう言って、椅子に腰かける。シオリンもそれを見てウララの隣の席を確保する。うーん、このシオリンのウララ好き好きオーラがすごい。
ウララは相変わらずスタイルが良くて、ただ椅子に座ってるだけなのにキマってる。背筋もピンと伸びてて姿勢がいい。この辺はアタシも見習わなきゃいけないかも。
そしてそのいい姿勢でカバンから雑誌を取り出してパラパラとめくっている。
それを見てか、ヒロツグ君も参考書との対話に戻ったようだ。
部室内に静けさが戻る。
アタシもようやく読書を再開した。
しかしなんだろこの状況。部員が部室に集まるのはいいけど、みんな好き勝手に本読んでるだけだぞ。天文部、これでいいのかな。
といってもなにか思いつくわけじゃないんだけどさ。
アタシはふと、雑誌に目を落とすウララを見る。本当にきれいな顔だ。ちょっと不公平を感じちゃう。でも目元だけはやっぱり鋭いけど。
「ウララって、なんかモデルみたいだよね」
思わずそんな一言が口をついて出た。初対面からの印象だ。
「あら、そう?」
ウララは一瞬だけこちらをみて、興味なさそうにそういった。
「ユーミちゃん、そうだよね! やっぱそう思うよね!」
そんな反応をしたのはシオリンだ。すっごい嬉しそうにしてる。
「ねえ、いいもの見せてあげよっか」
シオリンはカバンからなにか取り出してアタシに持ってきた。
「なにこれ?」
「まあまあ、いいから見てみて」
渡されたのは、どうやら子供服ブランドのカタログだった。
表紙には5歳ぐらいの男の子と女の子が、かわいい洋服を着てポーズを決めている。
「かわいいね、特に女の子の方が素敵。こんなに笑顔がかわいい子見たことないよ」
「でしょ~?! ユーミちゃん見る目あるよ」
ページをめくるたびにかわいい洋服をきた女の子と、洋服に負けないくらいのまぶしい笑顔が現れる。カジュアル系じゃなくて、七五三とかパーティで着るようなタイプのブランド、こういうのはあんまり見たことないけど、それでも一目見て引き込まれる写真ばっかりだ。
「ねえねえユーミちゃん。この子、誰だと思う?」
アタシがたっぷりと見たのを見計らって、シオリンが聞いてきた。誰だと思うって、そんなのわかんないよね。知らない子だもん。
なんでそんなことを聞くのかと思ってシオリンを見ると、シオリンはニコニコしながらある方向を指さしている。その指の先にいたのは、ウララだった。
「え? まさか……」
「そのまさかだよ、ユーミちゃん」
「ええ! この子がウララなの!」
「何よ、その子がわたしだったらいけないっていうの?」
ウララの鋭い視線がアタシを射抜く。
「いやいやいや、その目だよ。めっちゃ怖いし、こっちの子はすごく優しい目なのにさ。いったいどう育ったらこんな怖い子に……」
「悪かったわね怖くて。仕方ないじゃない、その子は本当にわたしなんだから。それは変えられないわ」
そう言って肩をすくめて見せるウララ。ちょっとだけしおらしいかもしれない。
「ね、ユーミちゃん、ウララさまはほんとにモデルなの」
「シオリもまだそんなもの持ち歩いてるのね」
「だって、いつでもウララさまの美しさを広めたいんだもん」
「まったく、困った子だわ」
「あーん、ウララさま怒っちゃいやです~」
そう言ってシオリンはウララにすり寄った。ウララもそれを嫌がるでもなく、微笑んで応える。
うーん、このコンビやはりただならぬ雰囲気だわ。間には入れない感じ。
ウララは引き続き雑誌を読んでる。アタシの手元にはカタログが残ったままだ。それにしてもこのかわいい女の子が、ウララねえ。そう思ってみればたしかに面影はある。目や鼻や口の形も確かに似てる。長くてききれいな髪はそのまんまだ。でも、表情なんだよなあ。
ってことは今のウララもこうやって自然に笑えれば、こんなにかわいいんだろうか。
「これは……信じがたい」
そういうのは、いつの間にか私の後ろにきてカタログをのぞき込むヒロツグ君だった。相変わらず気配を消すのがうまい。っていうかびっくりするからやめてほしいぞ。
まあ気になる気持ちはすごく分かるけどね。
一方のウララはというと、雑誌を机に置いて、それを見ながら自分の髪をいじっていた。どうやらファッション誌のようで、それに載ってるヘアアレンジを試してるみたい。
最初は両手を頭の後ろに回して触ってたんだけど、ふと何かに気づいたように部室内を見回して、手を机の上に下したんだ。
そして、目を閉じてなにか精神を集中させているような様子。すると……
フワアッ
ウララの長いストレートヘアが、浮き上がって広がった。
触ってないのにひとりでに動いたんだ。そして髪の毛はいくつかの毛束に分かれて、複雑に編み上げられていく。
1分もたたないうちに、おしゃれな編み込みのアップヘアが完成した。
「ふう、こんな感じかしらね」
目を開けたウララは一息ついてそんなことをいう。
「ちょ、ちょっと待って、今なにしたの!?」
アタシは思わず聞いた。
「なにって、ヘアアレンジを試してみたのよ、文句ある?」
「いやそうじゃなくて、髪の毛がいまふわーって」
「ああ、驚かせたかしら。でもエンリンが髪の毛を動かせることぐらい知ってると思ってたわ」
「それは、シン君の見たことあるけど……」
シン君のは、なんかモジャモジャ動いてるだけで、今のウララの髪みたいにあれだけ自由に動かしてる感じじゃなかった。
「そんなに自由自在に動かせるなんてしらなかった」
「そうねえ、もちろん人前ではやらないけどね。まあやってもコーパー以外の人には気づかれないんだろうけど、ここまで思いっきり動かすのはやっぱり嫌よね。でもここならいいかと思って。わたしがエンリンだって知ってる人しかいないし」
「ウララさま~、ワタシもすごい久しぶりみ見れてうれしいです~」
「ふふ、ありがと。わたしも気持ちよかったわ。ねえ、ユーミ、こんな場ができたのもあなたのおかげよ。それは素直に感謝するわ」
「なんか、素直にお礼言われると、ムズムズするね、特にウララ・さ・ま、にはね」
「あら、言うようになったじゃない。まあ部長としてがんばりなさいな」
ううん、やっぱり偉そうだ。同じ学年なのにね。こんなに偉そうにできるのも一つの才能かもしれない。あ、でも先生にはきちんと敬語使ってたな。
ドタドタドタッ!
廊下からそんな音が。これは足音か?
「このガサツな足音は、アイツかしら」
ウララがそんなことを言ってると、部室のドアがガラガラと開かれる。
「いやあ、忘れ物忘れ物。お、ウララにシオリじゃん、おつかれ~」
「やっぱりね」
ウララの予想は当たったようで、入ってきたのはリョウ君だった。あれ、さっき帰るって出て行ったのに。
リョウ君は部室においた筋トレ道具のいくつかをカバンに入れている。
「これ親父に借りてたんだよ、そろそろ返さないと怒られちまうぜ」
ってことは、リョウ君パパも筋トレマニアってことか。ムキムキなんだろうな……
想像してちょっと面白くなってしまう。
そしてアタシは、リョウ君の坊主頭をみてひとつ気になった。
「ねえ、リョウ君も髪の毛動かせるの?」
「ん? なんだ急に」
「いまウララが髪の毛動かしてヘアアレンジしてたんだよ、ほら見て決まってるでしょ」
「へえ、そうなんだ」
リョウ君は改めてウララの髪を見る。
「すごいな、大したもんだぜ。ここまでできるもんなんだな」
相変わらずストレートにほめるやつだ。
「でしょ? だからリョウ君もできるのか気になって」
「でもリョウは坊主だから動かすって言ってもな」
そうツッコむのはヒロツグ君。
「と、思うじゃん? でもさ、見たら驚くぜヒロツグ。よーし仕方ねえ。じゃあ見せてやろうか」
なにがしかたないのか分かんないけど、まあとにかく見せてくれるらしい。
リョウ君はなんかニンジャみたいに胸の前で手を組んで、上側の手の人差し指を伸ばす。
「忍法、髪伸ばしの術! むむむむ、フン!」
そうやって気合の声を出した瞬間!
ニョキニョキ!
なんと、リョウ君の坊主頭から髪の毛が伸びた!
「あはははははは!」
アタシはその姿があまりにも面白くて、盛大にウケてしまう。だって、毛が、ニョキって……
「はははは! なにそれ!」
「おうおう、いい反応だなユーミ。そんなに笑ってくれるとやった甲斐があるぜ」
リョウ君はニカッと笑ってそういう。でも頭の髪はまっすぐに伸びてツンツンしてるから、それがまた面白い。
「ひー、ひー、おなか痛い。ははは!」
「まるでウニみたいだな」
ヒロツグ君がまさにそのものズバリのたとえをするもんだから、またアタシのツボにはいる。
「ウニぃあははは! ウニ! ウニ!」
「笑ってくれるのはいいけど、さすがに笑いすぎだろ。なあ、ウララにシオリ」
「ククク……え、わたし? そうね、いいんじゃない?」
「ふっふふふっふ……か、かっこいいよリョウ君」
「笑いこらえながら言うんじゃねー! まったく、ここまでウケるとはな」
「リョウ、いい持ちネタができたな」
ヒロツグ君がまじめな顔をしてそういうもんだからアタシはまた笑う。
「ここでしか見せれねーよ、こんなネタ!」
「はあ、はあ、あー笑った。ごめんごめんリョウ君、見せてくれてありがと。やっぱエンリンてすごい、くふふふふっ」
リョウ君の顔を見るとどうしても笑っちゃう。だって坊主頭のイメージが強すぎるんだもん。
「はあ、もういいさ、好きなだけ笑ってくれよな」
力なくそういうリョウ君。さすがに気の毒になってきたかも。
ガラガラッ
その時ドアを開けてまた一人入ってきた。
「ユーミちゃんごめ~ん。遅くなっちゃった~。え、あれ、リョウ君? どしたのその頭」
「わはははは!」
「アハハハハ!」
「くっふふふふ!」
シン君のその一言でまた部室は爆笑に包まれる。なんてタイミングで来るんだよシン君。
「はあ、笑わなかったのはお前だけだよ、シン。ありがとうな」
リョウ君はシン君の肩をガシッとつかんで言った。
「う、うん、よくわかんないけど」
戸惑ってるシン君。まあそりゃそうだ。
「シン君、何持ってるの?」
アタシがそう聞いたのは、シン君が両手で何冊も本を抱えていたからだ。
「えっとね~、僕も宇宙のこともっと知らなきゃと思って、図書館で本探してたんだ!」
その答えを聞いて、ちょっと感動してしまう。
「ほんとに! うれしいよ、ありがとうシン君」
やっぱり、癒し系だよシン君。この癖の強いメンバーのなかで、ほんとに癒されるわ~。
「おう、まじめな部員が来たところで、不まじめな部員は今度こそ帰るぜ、またな」
リョウ君がそう言って出ていこうとするので、アタシはあわてて止めた。
「ちょっと待って! ねえ髪の毛伸びたままだよ」
「おっと、そうだった。すぅー、せい!」
その声とともに、伸びていた髪はヒョコっと縮んで元の坊主頭に戻った。
「フッ……!」
さすがにもう笑っちゃまずいと思って必死でこらえたんだけど……
「いやもうここまで来たら、笑ってくれよお前ら……」
リョウ君はちょっと悲しそうな顔でそう言ったのだった。
となりの席の異星人《エイリアン》 荒霧能混 @comnnocom
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