3.ソラチュー天文部、結成?

 次の日が来た。いつも通りの平日だ。だけどアタシは、昨日の出来事が夢ではなかったと知ることになる。

 登校してクラスのみんなや月ノ瀬くんとあいさつを交わす。月ノ瀬くんもいつもと変わらず「あ、おはよ~」ってゆっくりしゃべってる。あまりにもいつも通りすぎて、本当に夢だったんだと納得しかけてたところだったんだけど、異変は終礼後にやってきた。


「起立、礼」

「さようなら」

「はいさようなら、みんな気をつけてな」


 これもいつも通りの終礼のあいさつ。だったんだけど……


「あ、そうだ、月ノ瀬に天堂、ちょっと来て」


 担任の先生から呼ばれたのだ。


「ふたりとも、伊野谷先生からの呼び出しだ。『昨日の場所』に来なさい、って。そういえば分かるって言われたんだが、お前らなにしたんだ?」

「ええ~、別に何もしてないですよ」


 アタシが抗議の声を上げると、横の月ノ瀬くんも首コクコクと縦に振って同意する。


「ほんとか~? まあいいけどな。確かに伝えたからな、忘れるなよ」

「はーい、わかりましたー」

「はい~」


 そんなわけで、アタシと月ノ瀬くんは二人で呼び出しを受けた。この二人がいっしょで、しかも呼び出しの主が伊野谷先生で、さらに「昨日の場所」ってことは……


「エンリンのことかな……」

「うん、たぶんそうだよね~」


 アタシたちは小声で確認しあう。まあこれ以上考えてもしかたないし、言ってみるしかないっしょ。

 そんなわけで、アタシたちは再び、天文観察室へとやってきたのだ。

 ドアの前に立って、ひと呼吸おいてから、アタシはドアを横にガラガラと引いた。

 部屋に入ると、先客が一人いることに気づく。


「…………」


 大机を囲む椅子の一つに座っているその男子は、アタシたちが入ってきたことに気づいているのかいないのか、なんの反応もせずに、手に持った本を見ている。

 その本は参考書っぽくて、黒縁眼鏡だし、目つきは鋭いし、いかにも勉強できますって感じのオーラが出まくってる。

 アタシは思わず月ノ瀬くんと顔を見合わせたけど、月ノ瀬くんも首を傾げるだけだ。

 なんとなく話しかけにくくて、アタシたちはソロソロと部屋に入って入り口近くの椅子に座った。

 ………

 無言の時間が過ぎる。う~ん、気まずい。


「あ、あのさ、あなたも伊野谷先生に呼ばれたの?」


 思い切って話しかけてみたぞ、どうだえらいだろ。だって相手から話しかけてくる気配はないし、月ノ瀬くんもこういう時にしゃべる感じじゃないしさ。アタシがいくしかないじゃん。

 けれど


「…………」


 返事はなし。

 ああそうかい、そうですか。わかったよ、こうなりゃ我慢くらべだ。絶対にこっちから話しかけてやらないんだから。

 そう固く決意して、腕を組んで胸を張る。そしてその姿勢のまま5分ぐらいすぎた。

 ちょっと、つかれてきたぞ……

 その静寂は突然破られた。


 ガラガラガラッ! バン!


 乱暴に開かれたドアが悲鳴を上げる。

 現れたのは一人の女子だった。すらりと背が高くて、手足も細くて長い。おまけに顔も小さい。髪型はロングのストレートできれいに手入れされてるのが一目でわかる。モデルみたいな素敵なスタイルだけど、ただ一点残念なのは、目つきがすごく悪い。めっちゃ怒ってるように見える。美人なのに……


「なんか辛気臭いわねぇ」


 開口一番、これである。いきなり文句かい。


「呼ばれたから来たんだけど、何の集まりかしらこれは。あなた知ってる?」


 と問いかけた視線が刺さっているのはこのアタシ。


「いや、アタシたちも呼ばれただけで、なんでかはわか……」

「あらそう、じゃあ待つしかないのね。はぁ、めんどうね」


 アタシの言葉が終わる前にかぶせるようにそういうと、ツカツカと教室に入り、椅子をに座って長い脚を組んだ。


「ウララさまぁ、わたしはウララさまとなら、いつまでだって待ちますよぉ」


 キツイ性格の子の後ろからもう一人女子が入ってくる。先の子とは対照的にボサボサの髪に分厚い眼鏡。なんだか月ノ瀬くんを女子にしたみたいにも見える。

 この子の言葉によると、先に入ってきた子はウララというらしい。でもそれにしても、さま付けとはね、イメージ的にはまさに女王様ってかんじだけどさ。

 なんだか、とんでもないメンバーになってきたぞ。なんなんだこの会合は……伊野谷先生~早く来て~。

 アタシが天に祈る気持ちでいると、新たなポケモンが飛び出してきたぞ! じゃなくて新しい生徒がやってきた。


「ヘイ諸君! 待たせたな!」


 そんなセリフとともにポーズを決めて現れたのは、野球部のユニフォームを着た、坊主頭の男子だ。


「どうした、どうしたぁ、みんな暗いぜ楽しくいこうぜ」


 声がでかい! おまけに手をたたきながら入ってきて。アタシたちの肩をポンとたたいていく。

 あ、ウララさまにはめっちゃ嫌そうに手で払われてるぞ。


「俺は1年3組の小水瀬こみなせ りゅうだ、リュウって呼んでくれ、よろしくな!」


 ビシッと親指を立てて宣言するもんだから思わず吹き出しそうになった。


「うるさいぞリュウ。それに遅刻だ。いいからさっさと座れ」


 リュウ君にそう言ったのはなんとあの無言メガネくん。どうやら二人は友達らしい。


「ちぇ、せっかく盛り上げてやろうと思ったのによ」

「頼んでない」


 あまりにもメガネくんがつれないもんだから、ちょっと気の毒になる。


「あ、あはは、リュウくん、だっけ。明るいねえ。アタシは1年1組の天堂由宇見だよ。よろしくね」

「おう、ユーミか。同学年だな。よろしく!」


 気持ちいい返事が返ってくる。声はでかいし、ちょっと、いやかなりウザいけど悪い人ではなさそうだ。


「しかし、この集まりなんなんだ? 誰か知ってるか?」

「これまでの会話を総合すると、誰も目的は知らないようだ。伊野谷先生を待つしかないな。だからおとなしくしてろ」


 リュウ君が疑問を出して、メガネくんがすぐに答える。この二人、いいコンビだな。メガネくんの口はちょっと悪いけど。


「あら、あなた。聞いてたのね。だんまりだから、わたしの声が聞こえてないのかと思ってたわ」


 ウララさまがメガネくんにつっかかる。もう、勘弁してよぉ。


「ちょっと、聞こえてるんでしょう、何とか言いなさいよ」


 ウララさまの声はどんどん怒りが強くなっていく。激おこだ。いやむしろ最初から激おこだったからもはや激おこぷんぷん丸だ。


 それにしても、メガネくんほんとに答えないな。さすがにちょっとおかしくない?


「まあまあまあ、落ち着いてお嬢さん」


 そう言って場を収めようとするのはリュウくん。


「ウララさまいいぞー、やっちゃえー」


 なんと逆に煽ろうとするのは、ウララさまについてきたメガネちゃん。この子もやばいのでは……

 リュウ君の制止もあってかウララ様はそれ以上は言わなかった。んだけど……


「そういえば、もう一人だんまりがいるみたいね」


 その視線の先は、月ノ瀬くん。こっちに矛先がきたー!

 けれど月ノ瀬くんはなにも動じてないように見える。こういうの苦手かと思ってたけど。


「あのさ……」


 月ノ瀬くんが口を開いた。私はここでしゃべるとは思ってなくて少し驚いた。他のメンバーの顔を見回すと、だいたいみんな驚いているように見える。


「あのさ、僕たちってもしかして……」

「お、みんな集まってるね、ご苦労さん!」


 月ノ瀬くんの言葉をさえぎって、伊野谷先生がようやく登場した。


「先生、まってましたよ~」


 ようやく現れた助け舟に、アタシは心底安心した。


「先生、オレより遅いなんてやばいぜ」

「リュウ、お前が言える立場じゃないだろ」

「うっせ、お前はいつもはやすぎんだよ」

「これでようやく目的が聞けるわね」

「ですね、ウララさま~」


 他のみんなも安心したらしく口数が増える。一気に空気が変わった感じ。


「はいはいはい、みなさん静かに。とりあえず落ち着こうか」


 先生の声に従い、みんな一度座りなおす。少し間をおいて、先生は再び話し始めた。


「どうやら待たせちまったみたいだね、ごめんよ。じゃあみんなが気になってることを先に言おうか。ここに集まったメンバーは……みんなエンリンとそのコーパーなんだよ」


 えっ、それってつまり……


「私だけじゃなかったの!?」


 驚きの声を上げたのはウララ様だ。ということは、ウララさまも、エンリン?


「へえ、そうなんだ。驚きだなあそいつは」


 言葉とは逆にそんなに驚いてなさそうなのは、リュウ君。


「えっと、えっと、ウララさまとリュウ君がエンリンってことはぁ、あと一人はぁ」


 メガネちゃんがそういうと、みんなの視線がアタシと月ノ瀬くんに注がれる。


「僕だよ。僕がエンリン」


 ためらいなくそういう月ノ瀬くんの顔は笑顔だった。


「なあ、君さっきなにか言いかけてただろう。それってもしかして」


 月ノ瀬くんにそう尋ねたのはメガネくん。あれ、メガネくんがリュウ君以外に話しかけるのってこれが初めてかな。


「うん、みんなが話してるの見て、なんかそう思ったんだ。みんな仲間だって」


 その言葉を聞いたアタシたちは、思わず顔を見合わせる。なんでわかったんだろう。エンリンは見かけだけじゃわからないのに。

 一方伊野谷先生は月ノ瀬くんの言葉を聞いてなんだかうれしそうだ。


「さて、みんな仲間だと分かったところで、自己紹介といこうか。じゃあ、彼女から」


 先生が指したのはウララ様のコーパーらしいメガネちゃん。ちなみに伊野谷先生は生徒を刺すとき男子は「彼氏」、女子は「彼女」と呼ぶ。

「えっとぉ、わたしはぁ、1年2組の岳田たけだ 史織里しおりですっ。しおりんって呼んでね、きゃはっ。わたしはウララさまのコーパーでぇ、一生ついていきますぅ、って感じです。よろしくねっ」


 お、おおう、なんかきゃぴきゃぴしてる……そうきたかーって感じ。


「あなた、よそ行きモードなのはいいけど、どっかズレてるのよね」


 そうつぶやくのはウララ様。言葉はきつめだけど、声はわりと穏やかに聞こえる。


「はい岳田さんありがとう。みんな拍手―」


 伊野谷先生がそういって手をたたくのでみんなも拍手した。


「じゃあ次、彼女」


 指されたウララ様が立ち上がる。


黄金沢こがねざわ うらら、1年2組。エンリンとコーパーがこんなにいるなんてね。少し驚いたけど私は私に変わりないわ。まあ、よろしく、なにをよろしくするのか分からないけど」

「ウララさまシビれるぅー!」


 いかにもウララ様な自己紹介からしおりんの合いの手が入る。不思議なコンビだよね。そうとしか言えない。


「黄金沢さんは芯があるね、ハイ拍手ー」


 先生のコメント力の高さがすごい。真似したいかも。


「先生、次は俺でいい? よし、じゃあいくぜ、俺は1年3組の小水瀬竜だ、リュウって呼んでくれ、よろしくな! ってこれはさっき言ったっけ、わっはっはー! まあとにかくよろしく頼むぜ、はい拍手―!」


 すごい、テンションだけで持っていった。思わず拍手しちゃう。


「期待してるよムードメーカー。はいじゃあ次はお隣の彼氏」


 促されて立ち上がるメガネくん。少しうつむいてメガネをクイっと直してからしゃべりだす。


「同じく1年3組、海田かいだ 比呂継ひろつぐ。同じコーパーがいるのは素直に心強い。あと、僕と違ってリュウはいいやつだから仲良くしてくれ。以上」

「なにいってんだ。お前もいいやつだぜぇ、ヒロツグぅ。」


 じゃれあう二人をみて拍手する。ほんと、正反対なのに仲いいね。


「名前を聞いて気づいた人もいるかもだけど、海田さんはこないだの定期テストで学年1位の秀才だよ」

「やめてください先生、大したことじゃない」


 そうだ、聞きおぼえがあると思ったんだ。海田比呂継くん、確かに定期テストの順位表の一番上にいた。


「大したことじゃなくない。大したことじゃなくないよ、海田くん。テストで1位なんて大したことだよ」


 あたしは素直な気持ちでそういった。


「そうね、一番だもの。あまり謙遜しすぎないほうがいいわよ」


 同意の声を挙げたのは、なんとウララ様だった。意外なところから来たな。

 アタシとウララ様の言葉が聞こえてるはずの海田くんは、目線を下げたままだ。でもなにかしゃべってる。


「……ぁりがとぅ……」


 ん? なんて言った? 声ちっさいな、こんなとこもリュウ君と反対だね。この返事を聞いたウララ様の表情をうかがうと、うわ、なにかすごい悪いことを思いついたような顔してるよ。なにを考えてるんだろう、聞きたいような聞きたくないような。


「さて、自己紹介に戻ろうか。残ってるのはふたり、どっちからいく?」


 先生はアタシと月ノ瀬くんの顔を交互に見る。

 この流れで最後はちょっと荷が重い気がする。ごめん月ノ瀬くんアタシ行かせてもらうよ。


「じゃあ、アタシいきます。1年1組、天堂由宇見。月ノ瀬くんのコーパーです。といっても、なったのは昨日なんだけど。だからなんにも分からないので、良かったらいろいろ教えてね。えーと、あと、あ、宇宙が好きです。天文の図鑑とか見てるといくらでも時間がつぶせます、一番好きな銀河はアンドロメダ銀河です。アンドロメダ銀河は地球から250万光年離れたところにあって、すごい遠いんだけど、その姿が肉眼でも見えて、でも世界中で写真が撮られてて、その姿がすっごくきれいなの。きれいな渦巻き状で、まさに『銀河!』って感じで、やっぱ銀河といえばアンドロメダだよねーっておもいま……」


 そこまで言ったところで、みんなが無言でこっちを向いてることに気づく。あ~やっっちゃった。また宇宙トークを爆発させちゃった。なんでアタシいきなりアンドロメダ銀河のことなんかしゃべっちゃったんだろう。みんなの視線が痛いよ。


「えーと、あの、よろしくおねがいしま……」


 アタシは無理やり終わらせて座った。


「はい天堂さんありがとう。好きなものについてきちんと話せるのは素晴らしいね。拍手~」


 パチパチパチ……

 ああ、はずかしい~。先生のフォローはありがたいけど、このはずかしさが弱くなることはない。拍手もなんとなくまばらに聞こえるよ……


「もっと話してもよかったのに」


 そんなセリフが聞こえて、アタシはハッと顔を上げる。鋭い目でアタシをまっすぐにみているのは、ウララさまだ。


「え、それってどういう……」

「はい、じゃあ月ノ瀬さん、最後たのむよ」


 ウララさまの言葉の意味を聞く前に、先生の声が飛ぶ。月ノ瀬くんは立ち上がって話し始めた。


「月ノ瀬深です~。クラスは1年1組。僕は昨日コーパーを見つけたばかりで~、なってくれたのが隣の天堂さんです。天堂さんはいま聞いた通り、宇宙のことををよく知っているすごい人です。天堂さんがコーパーでよかったと思います。そして次の日にエンリンの仲間とコーパーに会えるなんて思ってませんでした。すっごくうれしいです。どうか、よろしくお願いしま~す」

「うーん、素直で良いあいさつだったね。拍手!」


 す、ストレートすぎるって! こんなに褒められるのは恥ずかしさが倍増だよ~。うー、顔が熱い。顔から火が出るってのはこういうことをいうんだ、今実感してる。

 みんなの拍手に混ざって、はやし立てるようにヒュウって口笛を鳴らすのはリョウ君だ、いじわる!


「さて、これで全員終わったね」


 みんなを見回しながら先生が話し出す。


「今日ここに、この天文観察室に集まってもらったのは、顔合わせの意味ももちろんあるんだけどさ、もう一つ提案があってね」


 そこまで言って間を置く先生。


「この6人のメンバーで天文部を設立したいと思うんだ」

「ええっ!」


 思わず声を出してしまった。だって天文部だよ、アタシが入りたかった、でもなくなってた天文部ができるの? そのことはうれしいけど……


「どうだい、みんな」

「先生、オレ野球部だぜ、掛け持ちしていいの?」

「うちの中学は運動部と文化部は掛け持ちできることになってるよ、もちろん文化部を二つ掛け持ちもできる」

「へえ、じゃあ野球部の練習を優先していいなら、別に構わねえよ、オレは」


 あっさりそういうリョウ君。天文部とか一番入らなさそうな人が一番最初に決めちゃったよ。


「僕は未加入だから、問題なく入れるな」


 メガネをクイっと直しながら海田くんがいう。


「担任からも部活しないのかといわれずに済むようになるならありがたい、あ、塾があるときはそちらを優先させてもらうが」

「よし、3組コンビはきまりだね」

「アタシは、いいわよ。エンリンとコーパーが集まれる場所は確かにあった方がいいもの」

「ウララさまが入るなら、アタシはついていきまーすぅ」

「2組の二人も決まりと」


 とんとん拍子に話が進んでいくぞ。アタシはひとつ疑問が浮かんだので聞いてみる。


「ええと、ウララさま、じゃない黄金沢さんと岳田さんは部活入ってないの?」

「そんなことが気になるの? わたしもシオリも美術部よ。でもいいのよ、絵なんて別にどこだって描けるんだし」

「右におなじ~」


 ふたりはあっさりとそういった。ウララさまの言い方はすごくとげとげしいけど、言ってる内容はいつもすっきりしてると思った。


「それともなに? 掛け持ちが不満なのかしら、そうなら今すぐ辞めてきてもいいわよ」

「そんなこと言ってないってば。わかった、わかったよ」


 うん、やっぱりとげとげしい……


「ところで、あなたはどうなの、ユーミ。なにか部活やってるの?」


 うっ、痛いところを突かれたぞ。


「え、えーと、帰宅部……です」

「アハハハッそうなのね、じゃあもう決まったようなもんじゃない。まさか人に掛け持ちで入らせといて、自分は入らないなんてないわよね?」


 圧が、圧がすごい!


「僕も入るよ、天堂さん、一緒に頑張ろう。」


 うう、月ノ瀬くんまで参加表明しちゃった。

 でも確かにその通りなんだ。入らない理由がない。エンリンとコーパーの仲間がいるのは心強いし、それに! なんていったって! 天文部! だもん!

 このアタシを差し置いて天文部とかあり得ないでしょ、天文部ができることには大賛成だよもちろん。


「でも、だって」

「でも? だって? ああウジウジめんどくさいわねえ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」


 ああ、もううるさいな、分かったよ言えばいいんでしょ言ってやろうじゃない


「だってメンバーのアクがつよすぎる!」


 アタシの一言に教室が一瞬静まり返る。

 そして


「アッハッハッハ! こりゃ傑作だ。」


 笑い出したのは伊野谷先生。それにつられるように。


「だっはっはっはー、違いねえ。ユーミの言うとおりだぜ」

「フフフフ、そうだな、ここに集まってるのは変わり者ばかりだ」

「ニヒヒヒ、そだねー、みんな個性的だね、ワタシは好きだけど」

「うるさい野球少年にガリ勉秀才メガネくん、不思議少女に天パのおちびさん、それから天文オタクってところかしら、確かに一筋縄ではいかないメンバーかもね」

「おい、高飛車女王様を忘れてるんじゃないか?」

「うるさいわね、わたしは普通よ普通」

「いや、それはないから」


 最後にアタシがツッコむと、また笑いが起こる。

 確かに変わり者の集まりだけど、意外とバランスはとれてるのかもしれない。


「はー、おもしろいねアンタたちは。さて、天堂さん、そろそろ決めるところじゃないかい? ぜひとも部長をお願いしたいと思ってるんだけどね」


 先生がそういう、ええい、もうどうにでもなれ。


「やります、っていうか、天文部の部長なんてアタシしかいないでしょ!」


 アタシは胸を張って宣言した。


 パチパチパチパチパチ……


 失敗した自己紹介の時ときよりずっと大きい拍手。


「いいぞ! ユーミ部長」

「フッ、適任だな」

「ユーミちゃんかっこい~」

「フン、本気になるのが遅いのよ」


 それぞれそんなことを言っている。ウララさまも言葉は厳しいけど、ちょっとは笑ってるように見える。うん、たぶんね。


「天堂さん、僕も協力するからさ、なんでも言ってね」


 隣に座ってる月ノ瀬くんがそう言ってくれる。やばい、今めっちゃ癒されたかもアタシ。このアクの強すぎるメンバーの中だと月ノ瀬くんの存在が癒しすぎる。


「ありがと、月ノ瀬くん」


 アタシは心から言った。

 それを聞いてかリョウ君がとんでもないことを言い出した。


「なあ、シンにユーミさあ。お前らって名字で呼び合ってんのか? エンリンとコーパーだろ、親友みたいなもんなんだから、名前で呼ぼうぜ。シンとユーミってさ」

「ええっ」

「ふふ、ワタシも賛成するわ。ていうか、同じ部活なんだし、みんな名前で呼び合いましょうよ」


 ちょっとわるい笑顔で同意するウララさま。ぜったい面白がってるでしょこの人。


「わたしもさんせーい。なかよくなりたいもん」

「まあ、天堂とか月ノ瀬よりも、シン、ユーミの方が呼びやすいのは確かだな」


 岳田さんと海田くんもそれぞれに同意する。

 みんな性格はバラバラっぽいのに、ここで一致しちゃうんかい。


「ど、どうする?」


 アタシは戸惑いながら月ノ瀬くんを見る。


「ぼ、僕も賛成したい、天堂さんが良ければだけど……」


 その声は、強くはなかったけど、はっきりと聞こえた。もうこうなったら、やるしかないか。


「じゃ、じゃあ、シ…シン、くん」

「ユーミちゃん、ありがとう!」


 その言葉を聞いたアタシは、耳たぶがカーっと熱くなるのを感じた。

 やばい、はっずううう!

 アタシの顔赤くなってないだろうか。こんなに恥ずかしいとは思わなかった。


「じゃ、じゃあほかのみんなも。ウララにシオリン、リョウ君にヒロツグ君、改めてよろしくね」


 アタシはあわててみんなの名前をよんで、ごまかした。


「おう、よろしくな!」

「フ、こちらこそ」

「がんばりなさいな、部長さん」

「ユーミちゃーん、よろしくね」


 それぞれに返事が返ってくる。


「いい雰囲気になったね、このメンバーを集めたときはいったいどうなるかなってちょっと心配だったんだが、そんなのいらなかったねぇ。さて、これで空寄中学天文部は設立決定ということで、みんな頼んだよ。」


 先生はそう言って、わっはっはと豪快に笑った。


「先生、今日の用件はこれで終わりですか?」


 そう質問したのはウララだった。


「ん、ああそうだね、もう解散してもいいよ」

「分かりました、でも帰る前に、ひとつ確認したいことがあるのよね」


 そういうウララの表情は、何度か見せたわるい笑顔。なにか意地悪なことを思いついたような顔だ。

 ウララは立ち上がって、大机の周りを歩いて、そしてヒロツグ君の斜め後ろで立ち止まる。


「ねーぇ、ヒロツグ。ちょっと聞きたいんだけど」


 そう言いながら机に手をついてヒロツグ君の耳元に顔を近づけるウララ。おいおい、ちょっと近すぎるんじゃないの?

 一方のヒロツグ君は、全く動かず正面を向いたままだ。


「あなたさぁ、もしかして、女の子としゃべれないんじゃない?」


 ウララはそう言って、なんとヒロツグ君の腕に自分の腕を絡ませる。ほとんど抱き着いてる感じだ。

 ヒロツグ君が女の子としゃべれない?

 そういえば確かにヒロツグ君に話しかけても返事をしてくれなかったし、目を合わせてくれたこともない。


「ややややや、やめ、やめろぉ!」


 ヒロツグ君はガタっと立ち上がってウララを振りほどく。

 うわ、すごい反応だ。どうやらウララの見立ては当たっていたみたい。


「なによ、そこまでおどろかなくてもいいじゃないの」


 ウララの顔はさすがに面食らった感じ。

 ヒロツグ君はなぜかメガネを外してレンズを拭きだした。その手元は忙しく動いている。落ち着きを取り戻そうとしてるっぽいね。


「きゃはは、ヒロツグくーん、顔真っ赤だよぉ?」


 そうやってさらに追い打ちをかけるのはシオリン。さすがウララさまと息が合ってるって感心してしまう。


「お前らさあ、あんまウチのコーパーをいじめてくれるなよ。大丈夫かヒロツグ」

「……あ、ああ、こんなの、たた、大したことじゃないさ」


 言葉とは逆にまだ落ち着けてないヒロツグくん。


「悪かったわよ。ごめんね」


 さすがにあやまるウララ。

 あーあ、さっきまで仲良くなれたと思ってたんだけどなあ。やっぱりこのメンバーって……


「クセが強すぎる!」

「が、がんばろうね、ユーミちゃん」


 そう言ってくれるのは、シンくんだけだった。

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