オンエア
「それじゃあ、行くわよ」
ヴィヴィットは隣のエルリックへそう言い、それから箱の中に隠れているカミラに移動を知らせるべく、コンコンと軽く箱を叩いた。エルリックの押していく予定の箱の中にいるイレブンにも、同じ要領で動く事を教える。
「いい?これを運んだまま放送している部屋に突入。そこの場所の人間を全て戦闘不能にする。その間にお嬢とイレブンが放送室内のキナン、フラウ、シャルティエとアズリナ、司会者を捕縛。それからジャックを開始する...。分かった?」
「あー...........、ああ」
絶対に分かっていないであろう、そんな曖昧な返答が返って来た。ヴィヴィットは少し苦笑いを浮かべてから、ゆっくりとカミラの入った段ボール箱を乗せたカートを押していく。それを見てエルリックも同じように、イレブンの入った段ボール箱を押す。
「出来る限り、無駄に喋らないように」
ヴィヴィットはすたすたと足音を鳴らしながら、目的地である放送室へやって来た。ちらりと見ると警備員は勿論の事、キナン達の姿も見える。眼鏡の女性が口を開く事に対し、キナンとフラウ、シャルティエがそれぞれの発言を補うように話しているらしい様子が見てとれる。この仲の良さも、きっと声だけで伝わっているだろう。
ヴィヴィットがコンコンと扉をノックすると、不思議そうな顔をしたスタッフが出て来た。
「なんだ...?」
男のスタッフは眉を顰めて、しかしすぐに美しいプロポーションのヴィヴィットの胸元に視線が動いた。それを彼女は見逃さない。
「頼まれていた、物です。こちらの部屋だとお伺いしていたのですが...?私、もしかして、間違えてしまいましたぁ?」
胸の谷間を見せつけるように腕をクロスさせる。後ろで僅かにエルリックの小さな呻き声のようなものが聞こえてきたが、それは無視しておいた。
後で小指を踏ん付ける事はヴィヴィットの中では確定したが。
「あ、アズリナさんに聞いてく、来るので...!」
男は赤面を隠そうともせずに走っていってしまった。
「...........凄いな」
エルリックがぼそりと呟いた。
エルリックやキナン、フラウが異常なだけであって、通常の男はヴィヴィットのプロポーションに骨抜きにされて必然である。自他ともに認める、美しい曲線を描く肉体なのだから。ハカナやセレンは見慣れているであろうという予測の下、無効であるが。
「ま、当然ね」
ヴィヴィットは小さくウインクをして、再び前を向く。
少しして、息を切らした先程の男が扉を開けた。
「アズリナさんもよく分からないそうだが...。とりあえず中へ入れてくれ、との事だ。置き場所は案内する。ついて来てくれ」
「分かりましたー」
スタッフの男に案内されるまま、ヴィヴィットとエルリックは彼の後ろをついて行く。中では、ブースの中でキナン・フラウ・シャルティエと司会進行を務めている女性が進行をしている。四人共楽しそうである。
「あぁ、どうも...、それが私が頼んだもの?」
腕を組んでブース内を見ていた女性が、ヴィヴィットとエルリックに気付く。セレンやキナン達が言っていた特徴と照らし合わせ、彼女がアズリナである事にヴィヴィットは気付く。
「はい...。中身までは詳しく知らないのですけど...」
申し訳なさそうに、しおらしく言う。アズリナは眉を寄せて、近くにあったヴィヴィットの持って来た箱の中身を確認しようと開ける。
段ボール箱のガムテープを取り去って、箱の蓋にアズリナの指がかかった瞬間にヴィヴィットはこんと分からない程度に箱を蹴る。それと同時にカミラが箱から勢いよく出現し、それからあらかじめ手に持っていた拳銃をアズリナの眉間に突きつけた。
「―――――ッ!!!??!」
アズリナが息を呑み、その場にいるスタッフ全員がそちらへ視線が釘付けになったその一瞬の無の時間。
エルリックがイレブンを箱から引きずり出し、彼女が隠し持っておいたナイフを受け取ってその柄で近くのスタッフの顔面を殴打する。
ぽぉんとその男の身体が飛んで行って、それから地面に深く沈みこんでしまった。
その一連の流れで、ようやく彼らは襲撃されている事に気付く。
「どうも...。レミリット・ファミリーのボスを務めております、カミラ・レミリットと申します。少々運が無かったと思って、ここの機材を丁重にお貸し頂けると幸いです」
カミラはぐっとアズリナに更に押し付け、それからその場の全員に聞こえるように脅しにも近い言動で――、美しく微笑む。
ヴィヴィットはすっかり全員が固まっているブース内に入り、それから司会であるルーディシアの口を抑え込み、耳元でぼそりと呟く。
「黙ってて...。今、
ルーディシアはヴィヴィットをぎっと睨んだが、抵抗する気はないようでゆっくりと両手を上げた。それを見て、ヴィヴィットはキナン達に目を向ける。
「君達も、そこまで子どもじゃないから......分かるわよね?」
シャルティエはこくこくと頷いて、キナンの側に近寄る。フラウはオロオロと視線を彷徨わせて、キナンは完全に固まっている。演技なのか、それとも急に現れた事で本気で驚いているのか。いずれにしても三人共、かなりの演技派である。
ヴィヴィットはルーディシアをゆっくりとブースの外へ出し、それからイレブンに視線だけで合図を送る。今度はイレブンがブースの中へ入って、キナン達三人を外に出す。
スタッフ全員は、その間にエルリックが気絶させた。
「...よし、制圧完了。...エル、こっちに」
「...あぁ。ヴィヴィット」
「外は任せて。イレブン、ハカナへ」
「分かったわ」
イレブンはヴィヴィットに渡された通信機に繋ぎ、それからイヤフォンを耳に入れる。
「ハカナ、制圧完了よ」
『了解。...セレン』
遠いところでセレンの声が聞こえてきた。
カミラはトントンとマイクを触り、それから何言かエルリックの言葉を交わす。それから、息を吐き出して言葉を紡ぐ。
「どうも、市民の皆様初めまして。私、レミリット・ファミリーのボス、カミラ・レミリットと申します」
放送が開始される。
その言葉と同時に部屋の外がややうるさくなり始めたのを、ヴィヴィットとイレブンは気付く。
「私が出ましょうか、ヴィヴィット。弾丸は戦闘型や護衛型よりはダメージが通るけど」
「私が出るわ。ハカナにも、セレンを守れる範囲で外で暴れるように伝えて」
「了解」
イレブンにそう言って、ヴィヴィットは部屋の外へ出る。それを見送ってから、イレブンはハカナへヴィヴィットの言葉を伝えて、二人の居るブース内を見る。キナンもフラウもシャルティエも、全員がカミラとエルリックを見ていた。
「この度、こちらのお部屋を借りてお伝えしたい事が御座います...。まず一つ目、...エルリックさん」
カミラがエルリックにマイクを渡し、エルリックはあーあーと声を出してからマイク確認をする。
「俺は、エルリック――〈
「何で聞くのよ、昨日リハーサルしたでしょ!?」
電波ジャックをしているにも関わらず、相変わらずのマイペースっぷりである。「あー...、それに、ゴードンの奴が派遣したすないぱぁに、...無実の罪で押し込められた、アイラ・レインが――殺されかけた。今も、病院で寝てる。俺は、アイラ助けられて、...ここまで逃げて来られて、生きる意味が見つかった」
エルリックはすっと息を吸い込み、それからぎっとマイクごしに何者かを睨みつける。側にいるカミラが震えてしまいそうになるほど、キナン・フラウ・シャルティエがぞくりとするほど、アズリナとルーディシアが竦んでしまうほど、その殺気は人の喉を締め付けるようだった。
「ゴードン――――、お前を、殺す」
エルリックはきっぱりとそう言い切り、それからマイクをカミラへ手渡す。カミラは殺気に震えかけた身体を元に戻すべく一度咳払いをし、それから息を吸い込んだ。
「私は、ここにレミリット・ファミリーの旗上げを宣言します。権力の裏でこそこそやって人を殺しているローレンス・ファミリーを――、私は壊す。父の敵とかじゃない、私は私として、貴方達に宣戦布告します。――数年前のあの時のように、たっくさんの殺し合いを...、致しましょう?」
カミラは口元に軽く手を当てて、小さく微笑む。それもまた、エルリックが先程見せた冷たい視線と同等にの力を持っていた。
カミラはそこでマイクの電源を切り、急いでブースからエルリックの手を引いて出る。
「イレブン、急ぐわよ。...あ、それじゃあ、お貸し頂いてありがとうございました」
カミラはひらひらとアズリナとルーディシア、それとキナン達三人に手を振って、部屋の外へと出て行った。
時間にして五分も経っていない。
短く、偉大な宣戦布告は、あっさりと終わった。
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