プロローグ
「追い打ちをかけなくてよかったのか、ゴードン」
黒髪の男は、目の前で赤いワインを飲んでいる友人へ声を掛けた。彼はそのワイングラスをゆっくりと回し、静かに口を付けた。
「アイラ・レインの事か?」
「生きているそうじゃないか?お前にしては珍しい。バロン・フィリップを始末した時だってそうだ。あの子を殺せたのに〈大監獄〉に入れたな」
「気まぐれだ。あと、病院の中で俺は暗殺は出来ない。彼女の身辺を調べられたら、必然的に俺に出会っていた事がバレる。そこからマスコミが嗅ぎつけ出したら、始末するのにきりがない。あの女はしばらく目覚めないそうだし、野放しにしててもいいだろう」
「ミリアムはすぐに見捨てたのにな。ヴァイオレットもそうだ。あの子に至っては失敗するのも視野に、爆弾を仕掛けていただろう。俺の商品を...、金を爆破するのも計算の上か?」
皮肉めいた言葉に、七三分けのにしている黒髪の男は息を吐き出した。
「俺達の目的は?」
「カノンへ捧げる理想郷の創造」
「そうだろう。...その為には、何でもする。俺の邪魔をする奴は殺す。仲間でもな」
熱のこもった彼の言葉に、黒髪の男は何も言い返さなかった。ただ目の前のグラスに口を付け、静かに赤い液体を喉へ通らせる。
「レッド。...警察と、残党達を集めておいてくれ。アイラを失った彼らがすぐに行動してくるかは分からないが、もしその時があれば対処できるようにな」
「......分かった、手配しておこう」
再び彼はワインを口に含む。
恐ろしい沈黙が、その部屋の中を包んでいた。
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