アンドロイド計画
改めて、アンドロイドについて説明する。
アンドロイドとは現在、護衛型アンドロイドであるエメラルドモデルと、奉仕型アンドロイドであるルビーモデルの二種類が存在する。
それぞれ未だ高額であり、相当の金持ちでないと手にする事が出来ない代物である。
そのアンドロイドは、政治家ゴードン・エルイートの旧知の仲であり技術者でありエメラルドモデル、ルビーモデルの製造工場の総取締役でもある、レッド・ディオールが設計したものである。
ロボットよりも人らしく、
確かに、その二つが発表されてから、ロボットの数は減り、家族を助ける為にと
どれだけ熱意があったとしても、最新型かつ見た目の美しい彼らには、敵わなかったのだ。
『G・アリステラ』の出版社であるドートル社は、二人に繋がりがあり、ゴードンが持つ政府の資金源や違法金を、レッドに流しているのではないか、と推察した。
それが正しいかを探るべく、アイラは動いていたのだ。
様々な取材を行なった結果、二人には確かに資金での繋がりがあった。更に、アンドロイド計画には恐ろしい裏があったのだ。
アンドロイドの個体には、自我データが内蔵されている
ゴードン、レッドが「救世主プログラム」を作動させれば、彼らは頭の中に埋め込まれているチップから電波を発信する。
それは人間の精神を狂わせ、上書きし、意思をかき消す。すなわち、ただそこに存在しているだけの人形にしてしまう。
ゴードン、レッドが指示を出せば、その通りに動くだけの操り人形。
今はまだ普及している個体数が少ない為、金持ちがそのような状態になってしまうだけだ。しかし、これが市民にまで手を伸ばせるほど安価になってしまえば、市民全員が、ゴードン、レッドの思惑通りに動く人形になってしまう。
これが、アリステラ市だけにとどまるだろうか。
「救世主プログラム」はともかく、性能としてはロボットを遥かに凌ぐ。どの町でもアンドロイド達は普及するだろう。
そうすれば、彼らは世界全てを手にする事が可能なのだ。
何を目的としてそのようなものを作っているのかまでは分からなかったが、その情報をアイラは手に入れた。
それを本社へ持って帰ろうとした矢先、ゴードンに見つかってしまった為、アイラは〈大監獄〉へ収容されてしまう事になった。
「こんな感じ、かな。分かりにくいところはあったかな?」
一通りの説明を終えて、アイラはソファの上に座っている二人へそう訊ねた。
胡坐をかいて座っているエルリックは、分かったとも分からないともとれる顔をしている。イレブンは自身の頭に触れたり、心臓部分へ触れたりしている。
「...あたしの身体にそんなものが...」
「君達には直接聞かされないんだね」
「まぁ、そうね。電源が付けられるまでは記憶はないわ。...壊れてるといいけど」
イレブンは不安そうに自身の茶髪の髪の毛に指を通す。それは引っかかる事なくさらりと通った。
エルリックはあまり理解していないようだが、深く考えはしていないらしい。
「んで、これからのご予定は?」
ただ、アイラにそう訊ねた。
「...そう、だね。このまま本社に戻ってもいいけど...。物的証拠は没収されたし、本社もあの人達が私の事を何て伝えてるか分からないから、...行くの怖いなぁ」
「殺せばいいんじゃねぇの?その、二人」
「馬鹿なの?エル」
それに異を唱えたのはイレブンだった。エルリックは不機嫌そうに眉を寄せる。
「相手は政治家なのよ。ボディーカードがいるに決まってるでしょ。三人で倒しに行けるような相手なら。彼はとっくにあの座から降りてるわ」
「じゃあどうすんだよ」
苛立った声で、エルリックはイレブンを睨む。
「回りよ。本人が動きにくくなったところを狙う。戦いの定石よ。貴方、本当に頭の中身は空っぽなのね」
「ってめ、黙ってりゃあ」
「ふ、二人共!喧嘩しないで!」
バチバチと火花を散らす二人の間に、アイラは慌てて割って入る。
三人では狭くなるソファだが、家族のような雰囲気がそこに存在していた。
「とりあえず、目先の事としては、相手の弱点を探る事とあたしのオイルね」
「あ?お前の事情なんて心底どうでもいい」
「必要に決まってるでしょ。あたしが動かないと、二人について行きたいっていうあたしの目的が叶わないでしょ」
はぁ、と大げさに溜息を吐くイレブンに対し、エルリックが獣のように噛み付こうとするのを、二人の間に割って座ったアイラが宥める。
「え、エル、落ち着いてね...?」
イレブンはエルリックが殺人鬼である事を知らない。その為にここまで大きな態度が取れているのだろう。アイラはイレブンに、彼を殺人鬼だと改まって説明する気はない。
誰だって、共に行動している人間が殺人鬼だと知っていい気分にはならないだろう。人間に近しい存在として作られているアンドロイドだって、例外ではないはずだ。
アイラとエルリックの関係性が、世間一般ではおかしいという事を、アイラは冷静に分析していた。
「と、とにかくイレブンのオイルは必要だね。どこか手に入れられる場所はないかな...。服だって、可愛いのにしたいよね」
「近くに商店街があるわ。そこに行きましょうよ。あの人達も流石に人混みで襲ってくる事はしないでしょ」
「俺は待ってていいか?眠ぃんだよ」
ふわ、と欠伸をしたエルリックを見て、そう言えばとアイラは思う。
周りに警戒していて、ろくにぐっすりと眠れた記憶はない。仕事柄、そういう浅い眠りだけでも十分なようになった身体ではあるが、エルリックにはきついものかもしれない。
「ついて来るに決まってるでしょ?あたし達みたな女二人で、男が襲ってくるに決まってるじゃない。ほら」
イレブンはソファから降りて、ぐいっとエルリックの服の袖を引っ張った。彼は嫌そうに顔を顰め、その手を払おうとする。
「い、イレブン、大丈夫だよ。私、スタンガン持ってるから。エルがいなくても私が何とかしてあげる。ね、だから休ませてあげよ?」
アイラは眉を下げて、イレブンへそう提案する。
イレブンは不服そうに頬を膨らませる。
エルリックもアイラが自分を気遣っている事は理解できた。はぁ、と溜息を吐いてイレブンの手を振り払った。
「ついてってやる。だから袖の手、放せ」
「ふふ、絶対よ。男に二言はない、という言葉をあたしの知識は知ってるわ」
「なんだそれ。面倒臭ぇ言葉だな」
エルリックはイレブンの言葉にそう返し、アイラの方を見る。彼女は申し訳なさそうな顔をして、エルリックの足元を見ているようだった。
何となく、心がざわついた。
「疲れてねぇからな」
「へ?」
エルリックはアイラへそう言葉をかけた。唐突に声を掛けられて、アイラは不思議そうに首を傾げている。
「迷惑とか、思ってねぇし。おら、このクソガキの言う通り、女だけだと危ねぇからな。お前の手助けが今の俺の役割だから、これくらいはする」
エルリックはそう言って、とんとアイラの頭を小突いた。
アイラは小突かれた頭を擦りながら、エルリックの方を見た。そして、「ありがと」と言って微笑んだ。
エルリックが息を呑んだのと、イレブンがその後ろでにんまりと笑ったのは、本人たちだけしか知らない。
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