200回記念 私立龍驤学院⑨


 僕とガレアは観覧席から降りてコートへ。

 やがてコートに辿り着くと何か緊張して来た。


 周りは先生が取り囲み、観覧席には他の生徒。

 いつも来ている体育館とは違う。


 いや、ついさっきおと先生が説明した時とも違う。

 空気が違う。


 クラブとかの試合の時ってこんなにみんな緊張してるのかな?


 おや?

 我鬼崎がきざきの竜が居ないぞ。


我鬼崎がきざき、お前の竜は?」


 おと先生も同じ疑問を感じたみたいだ。


「あぁ~……

 すいませんねぇ先生ィ~~……

 アイツは変わった奴なんで何処かうろついてるのかも知れません~~……

 ちょぉっと僕、探して来ますぅ~~」


 そう言い残し、我鬼崎がきざきは体育館を出て行った。

 普通、竜を使役したら傍に居るものじゃ無いのか?


(な……

 何だってんだ……?)


 同じテストを受ける原田も面食らっている。


「凛子先生」


 僕は待ってる間に田中の容態を確認する為、先生に話しかけた。


「あら?

 何かしら?」


「田中し……

 君の身体はどうかなって思って。

 大丈夫なんですかね?」


「あら?

 友達想いなのねすめらぎ君。

 田中君なら大丈夫よ。

 見た目ほど重症じゃないわ。

 右腕の骨折も綺麗に折れてるだけだし。

 前の篠原君に比べたら軽傷よ」


 え?

 そうなのか?


 顔はブックリ腫れて血で染まっていたぞ。

 それだけ凛子先生のスキルが凄いって事なのか?


「す……

 凄いですね……

 流透過サーチって……」


「正確には流透過サーチじゃ無くて私の魔力技術で治したんだけどね。

 あくまでも流透過サーチは体内の状態を診察する為のスキル。

 骨折を結合させたり傷を治癒したのは魔力の状態変化S.Cによるものよ」


状態変化S.C?」


「そう、StateChangeの略。

 簡単に言うと魔力を効果に合わせて変化させる技術よ…………

 ってすめらぎ君、貴方まだテスト前じゃない。

 ここから先の話はまた今度ね。

 でないとアンフェアになっちゃうわ」


「あ、すいません。

 じゃあ今度お話聞かせて下さい」


「ええ、いいわよ」


 こうして僕は凛子先生との話を終了した。


 状態変化S.Cか……

 言ったら魔力を骨を結合とか癒着する様に変化させたって事か。


 ここで僕の脳裏に浮かんだのは期末テスト女子の部の一幕。

 暮葉さんが最初に飛び出して行った時に聞いた我鬼崎がきざきの台詞。


 魔力を別の形に変化させて使用してる。


 おそらく状態変化S.Cってこの事だろうと思う。


 多分竜の暮葉さんが使ってるのが本物でそれが人間に使える技術として広まっているのが状態変化S.Cって所なのかな?


 それにしても凛子先生も迂闊だよな。

 テスト前に新しい知識教えてくれちゃって。


 名前と概要ぐらいしか教えてくれなかったけどそれだけでも充分考察に足る。

 そうこうしている内に我鬼崎がきざきが戻って来た。


 連れて来た竜の鱗は濃い紫。

 紫紺とでも言うのかな。


 それよりも何よりも特徴的なのは顔だ。

 顔と言うよりかは眼。


 眼が凄く大きい。

 他の竜よりも1.5倍程ある。


 竜の目ってどちらかも言うと鋭いって表現が似合う形をしてるんだけど、この竜は……


 何て言うかクリクリ。

 大きな瞳はキラキラしてる。


 それにしても……

 何かチグハグしたコンビだなあ。


 竜河岸本人とは大分印象が違う感じ。


 結構、竜河岸の使役する竜って類は友を呼ぶ的な感じで似た様な性格の奴が来る事が多いんだけど、時々こう言う組み合わせも居たりする。


 蓮とルンルとかもそうだ。


「先生方ァ~~

 お待たせしましたぁ~、コイツ体育館の傍に居ましたァ~~」


【もうっ!

 ショウちゃんったらっ!

 言わないでよっ!

 シィーよシィーッ!】


 何か連れて来た竜が慌ててる。

 この竜メスかな?


我鬼崎がきざき、自分の竜の管理ぐらいキチンとしときなさい」


「コイツは俺の事が好き過ぎて傍に居ると疲れるとか言い出すモンですからぁ~……

 出来るだけ好きにさせてんスよォ~~。

 ご心配なく、俺に嫌われるのが嫌だから目が届かなくったって人間を襲ったりしませんよぉ~~」


【キャーキャーッ!

 もうっ!

 そんなショウちゃんったらっ!

 相思相愛なんて当然な事をハッキリ言わなくてもいいのにぃ~~】


 ドッスンバッタン足踏みしてクネクネ身体をくねらせている。

 何だか不思議な竜だなあ。


「いや、そこまでは言ってねぇだろ」


 どうやら我鬼崎がきざき本人も竜の扱いは困っている様子。

 そう言えば名前まだ言って無いなあ。


 ん?

 何か我鬼崎がきざきが原田に話しかけている。


 作戦会議でもしてるのだろうか?


 そうだ。

 場の緊張感で忘れていた。


 僕は1人。

 相手は2人なんだ。


 戦力差がある。

 僕も作戦を考えないと。


 ……って言っても2人共あんまし知らない。


 原田は同じクラスだけど喋った事なんて無いし、我鬼崎がきざきに至っては別クラス。

 考えようにも考えようが無い。


 魔力技術の熟練度。

 スキルの詳細。


 考えたらキリが無いし、しかも想像の範疇を出ない。

 ならば近~遠距離に対応できるようにしておくぐらいしか無いなあ。


 とにかく落ち着いて。

 心を静めて。

 冷静に戦況を分析する様に心掛けないと。


「ウェホゥッ……!

 そりゃあ値するなぁッ!」


 何だ?

 突然大声を我鬼崎がきざきが上げた。


 ビックリした。

 時々言ってる値するってどう言う意味だろう?


 テンションから見て何か驚いた感じ。

 原田に何か聞いたみたいだけど一体、何を聞いたんだろう?


 警戒しておいた方が良さそうだ。


「各自、準備を始めて」


 先生から声がかかる。


「ガレア、とりあえずお前は後ろの方に居てよ」


【なあなあ竜司。

 俺、何やるかまだ良く解ってねぇんだけど】


 あ、そういえばちゃんと説明して無かった。


「ガレア、今から僕は向こうの二人とケンカするけど手を出しちゃ駄目だよ。

 とりあえず後ろで僕を見ててよ」


【何だ今からケンカすんのか。

 俺はやっちゃいけねぇのか。

 つまらねぇなあ】


「そう言わないでよ」


【わかったよ】


 どうにかガレアを説得しつつ、魔力補給。


 竜随伴の良い所はいつでも魔力補給が出来るという点。

 これを使わない手は無い。


 相手のスキルが解らない以上、こちらから打って出るのは危険。

 とりあえず粘る。


 長期戦を想定して、目一杯フル補給では無く七割ぐらい。


 小魔力。

 僕の表現で言うと20キロを両脚に3つずつ。


 右拳にも同量の魔力を2つ。

 後、他箇所にもいくつか。


 とりあえず多段発動アクティベートのタイミングは身体に覚え込ませたつもりだけど、こればっかりは本番になってみないと解らない。


 やがて完了。


「各自準備が出来たら前へっ!」


 おと先生の号令。


 いよいよか。

 一体どうなるか解らない。


 解らなくてもやるしかない。


 落ち着いて。

 落ち着いて相手の動きを観るんだ。


 僕はそう心で思いながら一歩前へ踏み出す。

 目の前には我鬼崎がきざきと原田。


 我鬼崎がきざきはやはり大きい。

 見上げてしまう。


 原田は僕よりも少し高いぐらい。


 顔は……

 何か強張っている感じ。


 これは僕をカースト最下位と侮っていない顔。

 何か緊張している様に見える。


 原田も魔力を使った争い事は初めてなのかな?


 まあそりゃそうか。

 こんな物騒な力、おいそれとケンカに使ってとんでもない事になったら大変だし。


 かたや我鬼崎がきざきの表情は笑っている。

 笑っているが全然こっちを向いてない。


 真正面を向いたまま笑っている。


 本当に何なんだこいつ。

 気持ちが悪い。


「各々、竜に手を出させない様に言っているわね。

 手を出したら即テスト中止だから注意して。

 では魔力技術実習期末テスト…………」



「開始っっ!」



 ついに始まった。

 おと先生は素早く退避。


発動アクティベートっ!」


 先手は僕。


 魔力注入インジェクト使用。

 両脚強化。


 ダンッ!


 僕は床を強く蹴り、間合いを取る。


発動アクティベートォォッ!)


 直後、原田が叫ぶ。

 魔力注入インジェクトを使用した様だ。


発条設スプリング・セットッッ!)


 続いて原田は声を重ねる。

 これはスキル。

 

原田敏郎はらだとしろうッッ!

 ハイィッッ!)


 更に原田が不可解な行動を取った。

 急に名前らしき言葉を叫んだ。


 原田敏郎?

 原田の本名か?


 何、自分の名前を叫んでるんだ?



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 急に自分の名を叫んだ原田。


 ドンッッッッッ!!!


 ほぼ同時に床を強く蹴る。

 超速で竜司に向かって行く。


 速い。


 刹那に竜司の脳裏に浮かんだ言葉。

 原田の速度は今まで竜司が見て来たどの発動アクティベートよりも速い。


 その速度は電流機敏エレクトリッパー使用時の蓮の発動アクティベートに匹敵する。


「わわっっ!?」


 シュンッッ!


 咄嗟に床に這う竜司。


 すんでの所で原田を躱す。

 頭上で空気を切る音。


 ガンッッッ!


 背中で激しい衝撃音を聞いた竜司。

 素早く起き上がり振り返る。


 が、そこに原田の姿は無い。

 代わりに放射状にヒビ割れた体育館内壁。


 何処だ!?

 何処に行った!?


 左右を素早く見渡す。

 何処にも居ない。


 この室内。

 左右を見渡しても原田は見当たらない。


 となると……



 上。



 竜司は顔を天井に向ける。

 居た。


 かなり高い。

 高度は凡そ45メートル。


 龍驤りゅうじょう学院の体育館は魔力注入インジェクト使用が前提となっている為、天井は恐ろしく高い。


 全高100メートル弱。

 龍驤りゅうじょう学院の体育館はエレベーター実験棟の様な形をしている。


 そのおよそ半分近くの辺りで原田は滞空していたのだ。


「な……」


 その凄まじい跳躍力に言葉が出て来ない竜司。

 同時に脳が超速で考察を始める。


 これは本当に魔力注入インジェクトだけの力で跳んでいるのか?

 僕ら覚えたての中学二年の中では群を抜いている。


 ここで竜司は原田が移動する直前の行動を思い返す。


 そして判明。

 この跳躍力は魔力注入インジェクトの力にスキルを上乗せして実現しているのだと。


 やがて重力に逆らう事無く原田が落ちて来る。

 確かにスキルとしては凄いかも知れないが、当たらなければ意味が無い。


 それどころか超高度から降りて来ているが着地出来るのか?

 自由落下している原田は軌道を変える事は出来ない。


 重力に逆らう事無く落下するのみ。

 竜司はとりあえず着地を見守ろうと見上げた状態で動かず。


 この時の竜司は気が抜けたと言わざるを得ない。


 相手は超高度から落下して来るのみ。

 多少の油断は仕方ないのかも知れない。


 が、これは竜河岸同士の争い。

 言わばスキル戦。


 想像の範疇を超えて来るのは往々にしてあるのだ。


 そして……



 ここで原田は予想外の行動に打って出る。



 高度が10メートルを切った辺り。


発条設スプリング・セット


 小声で呟いたその言葉。

 スキルを発動したのだ。


 更に……


皇竜司すめらぎりゅうじィィッッ!)


 竜司のフルネームを叫んだのだ。

 かなりの大声。


「へ……?」


 突然の事に返事をしてしまう竜司。

 次の瞬間……



 バインッ!



 急に飛び上がった竜司。


「ウワワワワァァッ!!?」


 唐突の出来事に悲鳴を上げる竜司。

 空を見上げた状態での跳躍。


 ぐんぐん原田に向かって行く。

 落下速度に竜司の上昇速度が合わさり、即ランデブー。


 既に原田は落下しつつ右拳を握っている。


(クラエェェッ!)


 原田の気合いと同時に右拳を振り下ろして来た。


「ワアアアアッッッ!」


 あわや殴られる……


 グラァ


 と、思いきや振り下ろされる拳にビビった竜司のバランスが崩れた。


 スカッ


 原田の右拳は空を切る。

 空振り。


 そのまま竜司と原田はすれ違う。

 竜司の身体は急カーブを描き、床に落下。


 ズデェッ!


「いたっ」


 尻もちをついた竜司は思わず臀部に伝わった痛みを吐く。


「いたた……」


 臀部に伝わる痛みにテストと言う事を忘れてしまう。


 が、すぐに思い出す。

 これは竜河岸同士の争いだと。


 素早く起き上がり体勢を整える。


 原田は?

 原田は何処だ?


 ビヨンッ!


 ビヨーンッ!


 竜司の目に映ったのは何か跳ねてる原田。

 ここで竜司は気付く。


 原田のスキルはバネだと。

 魔力で生成したバネだと。


 そう、竜司の予想は的中。

 原田のスキルは魔力で生成したバネを設置するもの。


 ■発条設スプリング・セット


 原田のスキル。

 魔力で生成した弾性エネルギーの塊を足裏に設置する。

 このエネルギーはバネの様な働きをする。

 設置条件はスキル発動後に名前を呼んで返事をする事。

 この条件を利用すれば自身にバネを付け、魔力注入インジェクトと合わせて驚異的な跳躍力を発揮する。

 持続時間は返事の大きさで決まる。

 原田の場合は5分弱。

 竜司の場合で1~3秒。



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 ###



 バネか。

 魔力ってこんな事も出来るんだ。


 バインッ!


 バイーンッ!


 僕の前でピョンピョンあちらこちらに跳ねてる。

 原田自身もまだ制御出来ていない感じだ。


 あ、原田と眼が合った。

 僕が起き上がった事に気付いたんだ。


 だけど……


 バインッ!


 バイーンッ!


 まだ跳ねてる。

 あちらこちらと縦横無尽だ。


 ピョン


 その様子を見ていた僕は一度軽くジャンプ。

 特に跳ねる訳では無い。


 変哲の無い跳躍。

 どう言う事だろう?


 バネのスキルなのは確実だ。

 スプリング何とかとも言ってたし。


 と、なると効果が消えたのか。

 おそらくこのスキルは標的に付与できるし、自分にも装備できるもの。


 持続時間の差は何だろう?


 バイーンッ……


 バイーンッ……


 と、その間に原田に変化がある。

 段々姿勢制御でき始めている。


 徐々に滞空時間が伸び、描く弧も大きくなりつつある。


 おや?

 よく見ると跳ねてるのは片足だけの様だ。


 ここで一つ疑問が浮かぶ。


 時間的に考えて原田は魔力注入インジェクトをまだ発動している。

 さっきの速度を発動アクティベート+スキルで出したのならこの姿勢制御の段階でさっきの速度が出ているはず。


 だが、原田の動きは充分目で負える。

 となると今の動きはスキルのみとなる。


 ただそれにしては物凄い跳ねてるなぁ。

 大人2、3人縦に並べたぐらいの高さはある。


 これはバネと言うよりかは弾性エネルギーと言う方が正しいのかも知れない。


 もちろん魔力が介在しているから一般物理法則とはまた違うのかも知れないけど。


 多分、原田も見た感じから名前を付けたのかな?

 バネが出てる訳じゃ無いし。


 バイーンッッ……


 ダンッッ


 着地した原田。

 両膝を大きく曲げて衝撃を吸収している。


 次の瞬間……


 グッ


 素早く原田が両眼を僕に向けた。


発動アクティベートォォッ!)


 ガァァンッッ!


 雷鳴に似た破壊音。


 ギュンッッ!


 超速で原田が突っ込んで来た。

 さっきよりも速い。


 グルンッッ!


 跳躍直後、前に回転。

 脚を僕に向ける。


 この超速移動で間に合うのか?

 いや、これは予めこの動きをするつもりで動いている。


 動くと決めてるのと途中で切り替えるのとではモーションの速さが段違いだ。

 両脚を向けた原田が迫る。


 だけど……


 ビュンッッ!!


 目にも止まらぬ速さで僕の真横を原田が通り過ぎて行った。

 その速度につられ僕は振り向く。


 ガンッッ!


 壁が弾ける。

 原田が着地し、そして更に跳んだんだ。


 上昇する原田の身体がぼやけて微かに見えた。

 更に僕は身体を反転し、見上げた。


 ガンッッッ!!


 お次はかなり上の方の壁が弾ける。

 おおよそ8~10メートル付近。


 今度は見えない。

 高度があり、速度も上がっているからだ。


 凄い。

 これ物凄いスキルなんじゃないのか?


 こっちの壁に着地したと言う事は…………


 次は反対側の壁!

 僕が素早く振り向く。


 ガァンッッッ!


 振り向くと同時に響いた破壊音。


 それと突っ込んで来るのが一瞬見えた。

 何かは解らない。


 視認した訳じゃ無い。


 ただ網膜に映った。

 そんな感覚。


 原田。


 何かかは視認した訳じゃ無いが僕は原田が攻撃して来ていると断定。


「ウワァッ!」


 悲鳴を上げる。

 防衛本能が働き、腰が引けてバランスを崩す。


 ドォォォォンッッッッッ!!


 再び僕は尻もちをついた。

 同時にすぐ近くで大きな音。


 原田が落下したんだ。


 おや?

 さっきとは少し違う衝撃音。


 バッ!


 僕は素早く立ち上がり間合いを広げた。


 さっき衝撃音が鳴った辺り。

 おそらく原田の落下地点。


 見ると腰を深く落とし、両脚をついた原田。

 今度は跳ねてない。


 何でだろう?

 効果が切れたのかな?


 微動だにしない原田。


 あれ程の速度で落ちたのだ。

 いくら魔力注入インジェクトを発動していようとも落下の衝撃を相殺出来ないのでは?


 よく見たら小刻みに震えている。

 立っている所を見ると骨は折れてないのかな?


 ……ってこれはチャンスじゃ無いのか?


 今だったら棒立ちになっている原田を殴りたい放題では?

 いやいや、そんな何発も殴るんじゃ無くて一発殴ればそれで終わる。


 今こそ練習の成果を見せる時だ。


 まだ最初にかけた魔力注入インジェクトは有効だろう。

 僕は腰を深く落とした。


 両脚に力を溜め……



 一気に解き放つ。



 ドンッッッ!


 超速で前へ。

 ぐんぐん迫って来る原田。


 僕が向かって来ている事は解っている筈なのに動かない。

 やはり落下の衝撃で全身が痺れているのだろう。


 飛び出した直後、僕は右拳を振り被る。

 もう右拳は集中フォーカス済。


 後はインパクトの瞬間に発動アクティベートを使用するだけだ。

 そしてそのタイミングも解っている。


 地道な反復練習のお陰だ。

 あと1秒もしない内に目標到達。


 着火ポイント。

 今だ!


発動アクティベートォォッ!」


 ビュンッッ!


 僕の拳が原田の身体を捉えた………………


 と思ったんだ。



 トンッッ



 原田の身体が前に揺れた。

 まるで何かに押された様に。


 僕が狙ったのは肩部。

 肩なら魔力注入インジェクトの超パワーでも死ぬことは無いと考えたからだ。


 ドカァァァッッ!


 標的がズレ、僕の拳は原田の肩に当たらなかった。

 けど、発動アクティベートの勢いは止まらない。


 原田の身体に激突。

 僕も体勢を崩す。


 ズザァァァッッ!


 着地失敗した僕は床を滑って行く。

 滑りながら僕の脳裏にはある疑問が浮かんでいた。


 原田に当たらなかった悔しさよりも。

 着地を失敗した自分の未熟さへの嘆きよりも。


 まず最初に浮かんだ疑問。

 それは……



 僕は一体ぶつかったんだ?



 原田だけじゃ無い。

 反動のは中学二年男子一人以上だった。


 僕はゆっくりと起き上がる。

 その眼に映った光景は奇妙で恐ろしい。


 原田はうつ伏せで倒れている。

 倒れているのだが……



 



 何か身体が浮いているんだ。

 そしてジワリと肩が赤く滲んでいる。


 あれは負傷?


「イテテテ……

 くそっ」


 あれ?

 原田か?


 いや、声が違う。

 何処かで聞いた様な声が聞こえる。


 ドサァッ!


 浮いていた原田は一人でに移動。

 何か床に投げ落とされた様な動き。


「グウゥゥッッ……」


 原田の呻き声。

 やはりあれは負傷してるんだ。


 ユラ……


 ん?

 おかしい。


 何か風景に違和感。

 違和感の出所はさっき原田が浮いていた地点。


 何か薄く


 注意しないと解らないレベル。

 立ち止まり意識して確認しないと解らない。


「てめぇ……

 自分で制御出来ねぇならいくら値するスキルを持っていても宝の持ち腐れだぜ……

 値しねぇ……」


 そうだ!!


 こいつが居たんだ!

 何故僕は忘れていたんだ!?


 このテストは2VS1の変則マッチ。

 当然僕は不利側。


 となると相手は原田だけじゃ無い。


 ここでハッキリ認識した。

 僕が相手にしないといけないのは2人。


 スゥ……


 風景に浮かび上がる様に出て来た金髪のトサカ頭。

 そう、こいつ。


 我鬼崎がきざきだ。



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 ###



 竜司の目の前には我鬼崎がきざきが立っている。

 右拳には血が滴り落ちていた。


 これは原田の血。

 我鬼崎がきざきは自分の味方である原田を攻撃したのだ。


 この段階で相当狂っている考えの持ち主と言うのはお解り頂けるかと思うが、まずは何故テスト開始から今まで我鬼崎がきざきが居なかったのか?


 そこから語らねばならない。


 まず断っておくこととして我鬼崎がきざきはコートから退避していた訳では無い。

 ずっと居たのだ。


 ずっと原田のスキルを観察していた。


 何故竜司達が全く気にしていなかったかと言うとそれは我鬼崎がきざきのスキル、透過トランスパレンスの効果である。


 このスキルを使用すると我鬼崎がきざきの身体はほとんど可視光線を吸収しなくなる。

 そう、身体がほぼ透明化するのだ。


 ただ完璧に不吸収では無く多少の光は散乱する為、薄い煙の様に見えるのだ。

 これは我鬼崎がきざきのスキル熟練度が原因。


 もっと経験を積めば、やがては完全に透明化する。


 だが、考えても欲しい。

 先程の竜司と原田の行動を。


 まるで我鬼崎がきざきなんかかの様な振る舞いでは無かっただろうか?


 いくら身体が透明化したからと言っても先程まで居た人間の事を無視して動けるものだろうか?


 いや、逆に竜司からしたら相手が急に一人消えたのだから異変に気付いてもおかしくない。


 一体何故?

 これにも理由がある。


 透過トランスパレンスには別のモードと呼ぶべき機能がある。

 

 希薄ダイリュート

 この機能を使う事で自身の気配、存在を極めて薄くしていたのだ。


 ■透過トランスパレンス


 我鬼崎がきざきのスキル。

 使用すると身体を限りなく透明化に近い状態にする事が出来る。

 効果時間は放置で約10分。

 自分の意志で解除可能。

 希薄ダイリュートと呼ばれる別機能を有している。

 起動すると我鬼崎がきざきと言う人物の認識を阻害され、相手からしたら存在感や気配がほとんど感じられなくなる。

 使用方法は透過トランスパレンスを使用した状態で息を止める事。


 魔力を使用して文字通り透明人間となった我鬼崎がきざき

 メリットらしいメリットがあまり感じられない能力。


 どちらかと言うと不幸の方がウエイトの大きいスキル。


 まず身体が透明化すると言う事は味方も視認する事が出来ない。

 場合によっては味方にやられてしまう可能性もある。


 希薄ダイリュートも同様。

 自身の存在を感じにくくする為、自分の位置等を全く考慮せずに攻撃して来る。


 このスキルの欠点を重々承知の我鬼崎がきざきは友人を作る事をしなくなった。

 従って最初から原田を共に戦う仲間だとは微塵とも思っていない。


 だから最初に原田をけしかけ先行させ、自分は観察に注視する事に。


 発条設スプリング・セットはどれだけ面白い魔力作用をするのか?

 自分の想像をどれだけ超えて来るのか?


 そんな事を想いながらずっと観察していた。

 ここでお解りかも知れないが我鬼崎がきざきはテストの事はどうでも良かった。


 あまり見る事の出来ない他のスキルを見れる。

 我鬼崎がきざきにとってテストとはそれ以上の価値を持っていなかった。


 ここで読者の方々の中には一つ疑問を持っている人が居るかも知れない。


 じゃあ原田とぶつかるまでずっと希薄ダイリュートを使用していたのか?

 ならばずっと息を止めていた事になるのか?


 これは否である。


 我鬼崎がきざき希薄ダイリュートを使用したのは最初と原田の背後に立った時、たった二回である。


 希薄ダイリュートとは存在を忘れさせる機能。

 忘れたと言う事は認識し直さないといけない。


 竜司は目下、発条設スプリング・セットを使用する原田の対応に追われている時。

 そんな最中に我鬼崎がきざきの事など認識し直せる筈が無い。


 しかも我鬼崎がきざき希薄ダイリュートを解除しても透過トランスパレンスは解除した訳では無い。


 緊迫した状態で透明化した人間など気付きようが無いのだ。

 少々長くなってしまったがこれが我鬼崎がきざきが消えていた理由である。


 そして原田の肩の傷。

 これはもちろん我鬼崎がきざきが攻撃した。


 前述の通り原田の事を仲間だとは思っていない。

 更に原田はまだ満足に発条設スプリング・セットを扱えていない。


 有体に言うと飽きたのだ。


 だから透明化した状態で後ろから近づき、原田を攻撃した。


 傷痕は明らかに殴打してついたものでは無い。

 凶器等でつく様な刺創である。


 このテストは凶器の持ち込み禁止。

 従って原田の刺創は隠し持っていた凶器等では無い。


 周りの先生方が動いていないのが良い証拠である。


 ちなみに我鬼崎がきざきが原田を攻撃した事は特に問題は無い。

 逆にこういう局面も想定済みで変則マッチを取り入れたのだ。


 これも学院側が体験して欲しい理不尽の一つなのである。


 我鬼崎がきざきは一体何をしたのか?

 別スキルを有しているのか?


 それについては次回、語らせて貰うとしよう。



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「……お前……

 何やってんの……?」


 僕は口を開く。

 聞きたい事は何故味方である原田を攻撃したのかと言う点。


 今、場には僕と我鬼崎がきざき

 後は蹲っている原田と周りの先生だけ。


 僕はもちろん攻撃していない。

 と、なると攻撃したのは我鬼崎がきざきだ。


 多分、一連の流れで我鬼崎がきざきのスキルは自身の身体を透明化するものだろう。


「あ……?」


 同じ学友を傷つけた事を何とも思っていない様子。


 こいつ頭の何処かおかしいんじゃないか?

 しかも数の有利を捨ててまでやる事か?


「い……

 いや……

 原田は仲間だろ?」


「俺に仲間なんかいねぇよ。

 原田のヤロウは、とっとと排除しただけだ」


 もう良いって何がだ?

 同じテストを受講している生徒だろ?


 お前に何かする為にここに居た訳じゃ無いだろう。


 理解出来ない。

 全くコイツの事を理解出来ない。


 我鬼崎がきざきの言い分に言葉を詰まらせてると更に言葉を重ねて来た。


「さぁ~~……

 オメーはどれだけ値すんのか見せてくれよォ~~……

 透過トランスパレンス……」


 スウ


 また我鬼崎がきざきの姿が消えた。


 ダンッ


 バンッ

 バンッ


 見えなくなった所で床を強く蹴る音がする。

 多分我鬼崎がきざきが透明化して離脱したんだろう。


 スキルの概要は解っている。

 そして対策も僕は持っていた。


 僕はコートの真ん中で棒立ち。

 両腕を降ろし立ち尽くしている状態。


 多分相手には隙だらけに映るだろう。

 それが狙い。


 僕は我鬼崎がきざきを誘っていたのだ。


全方位オールレンジ


 小声でスキル発動。


 僕を中心に翠色のフィールドが展開。

 体育館の外壁を超えて外まで。


 僕はフィールド内を注視。

 ぼんやりと白く光っている人型があちらこちらに。


 僕の全方位オールレンジは竜河岸なら白。

 一般人なら青に見える。


 周りもほとんど白に光って見える。

 周囲を見渡してもほとんど白い。


 そりゃ先生方はほとんど竜河岸だからそりゃそうなんだけど、時々青く光っているのもある。


 一般人の先生も混じっていたのかな?

 っと、そんな事に気を取られている場合じゃない。


 我鬼崎がきざき

 アイツを探さないと。


 僕が全方位オールレンジを発動するともう一つフィールド全体を俯瞰する様な視点を持つ。


 覚えたての時は二つの視点を操るのに苦労したよ。


 けど、この二つの視点を持つお陰で僕は現在、特に体勢を変える事無く我鬼崎がきざきを探す事が出来る。


 居た。


 同じコート上に一つ別の白い人型の光がある。

 ゆっくり動いている。


 僕はその方向をチラッと見る。

 だが誰も居ない。


 けど、全方位オールレンジの中にはハッキリと動いている白い人影。


 間違い無い。

 これが我鬼崎がきざきだ。


 予想通り。


 やはり我鬼崎がきざきのスキルは全方位オールレンジだと対処できる。

 これは有益な情報だ。


 位置は僕から右斜め50メートル付近。

 かなり離れたな。ゆっくりと動いている。


 丸見えだ。


 しかも僕はもう一つの視点のお陰で僕が我鬼崎がきざきを探しているって言うのは気取られていない筈。


 しばらく僕は棒立ちの状態で待つ事に。



 5分経過。



 全方位オールレンジ内。

 ゆっくりと動いている我鬼崎がきざき


 時には進み。

 時には戻り。


 動きから僕を観察しているのは見え見え。


 来いよ。

 このままずっと待っているつもりか?


 だが、我鬼崎がきざきはなかなか寄って来ない。

 こうなったら持久戦だ。


 待ってる間、僕は我鬼崎がきざきと言う人間の事を考えていた。


 最初テストが始まる前に原田から何かを聞いて色めき出っていた。

 それに田中のテストを見ていた時も同様。


 まず田中の時に興奮していたのは鳥谷が応戦し始めた時。

 あれは腑に落ちない点がある。


 どうして応戦直前、向かって来た鳥谷に手繰ホール・インを使わなかったのだろう?


 僕は少し考えて見る。

 多分こう言う事じゃ無いだろうか?


 おそらく使使

 いや、使おうとしたが作動しなかったと言うのが正しいのかも知れない。


 何故作動しなかったのか?


 多分鳥谷のスキルによる妨害じゃ無いかな?

 そのスキルの作用に我鬼崎がきざきが色めきだったのだとしたら……


 あ、何か少し我鬼崎がきざきと言う人間が解った気がする。


 こいつは多分スキルに興味を持っているんじゃ無いだろうか?

 そしてさっき原田に聞いたのはスキルについてでは無いかな?


 だから色めきだった。


 田中の時も同様。

 おそらく好奇心が前に出て来た時、値すると言う言葉を口にするんじゃないかな?



 10分経過。



 まだ寄って来ない我鬼崎がきざき

 スキルに興味を持つと言うのなら今は同じ姿勢のまま待っているのが得策。


 多分、我鬼崎がきざき全方位オールレンジが展開されるのを見ていた筈。

 だから近づかないんだ。


 広がったフィールドがスキルの可能性は濃厚だから。

 どんな機能、特性を持っているのかと観察してるんだ。


 おそらくバレているのは範囲系のスキルって事ぐらい。



 13分経過。



 僕は真正面を向いたまま動かない。


(オラーッ!

 何じっとしてんだよジメオタ野郎っ!

 とっととブチのめされてテストを終わりやがれっ!)


(キャハハッ!

 棒立ちでダッサーイッ!

 さすがジメオタねっ!)


 周りが野次を飛ばして来る。

 うるさいなぁ。


 まあ10分以上このままだから野次を飛ばしたい気持ちも解らなくも無い。

 けど無視無視。


 どうでもいい騒音は気にしない。

 これは僕のテストだ。


 罠にかかるまで僕は動く気は無い。


 さあ我鬼崎がきざき

 お前の事は少し解った。


 僕のスキルが気になるだろ?

 拡げたフィールド内で何をするのか気になるだろ?


 なら来いよ。

 このままだと僕は絶対に動かないぞ。



 15分経過



 ユラ……


 あ、我鬼崎がきざきが動いた。

 ゆっくりとこちらに近づいて来る。


 多分15分近く動かないから飽きたんだ。

 今の僕は言葉を借りるなら値しないんだろう。


 そう決めつけて早々に決着を付けようと動き出した。


 ゆっくり。

 ゆっくりと距離を狭めて来る我鬼崎がきざき


 そうだ。

 それでいい。


 早くこっちに来い。

 早く止めを刺しに来い。


 僕に全く興味が湧かないだろ?


 当たり前だ。

 そうなる様にしてるんだから。


 おや?

 ゆっくりだけど真っ直ぐ近づいていた我鬼崎がきざきの方向が変わった。


 これは……

 僕の後ろに回ろうとしてるのか。


 透明なんだからまあそう言う動きになるわな。

 それにしても足音しないなこいつ。


 周りがギャースカ騒いでるせいもあるんだろうけど、多分自分のスキルが透明化って解った段階で練習でもしたんだろうな。


 音も立てず僕の後ろに回りこんだ。


 我鬼崎がきざきってゆくゆくは暗殺者とかになるんじゃないのかな?

 シノケンの必中シュアヒットよりよっぽど向いてそうだ。


 だんだん近づいて来る。

 距離は3メートルぐらいかな?


 もう僕の視界には我鬼崎がきざきは居ない。

 死角に入ったから。


 でもお生憎様。

 僕には第二の視点がある。


 普通に見てる様に動きが丸見え。


 全方位オールレンジの副産物みたいな形で授かった第二の視点だけど、もしかして物凄く使えるのかも知れない。


 欠点は全方位オールレンジを起動しないと使えないって所かな。


 っとそんな事を考えてる内に我鬼崎がきざきが止まった。

 思っている以上に近いぞこいつ。


 僕のすぐ後ろに立っている。

 若干右寄り。


 原田の時もこれぐらい近づいてたんだろう。

 立つ位置からして同じ肩狙い。


 どうやったか知らないが多分、我鬼崎がきざきの一撃を喰らうと僕も原田と同じ様になるんだろうな。


 頭の中に原田の刺創が浮かぶ。

 あんなの絶対に嫌だ。


 あ、我鬼崎がきざきがゆっくり拳を振り被り始めた。


 チャンスは一度きり。

 タイミングを見誤るな。


 発動アクティベート


 僕は心の中で魔力注入インジェクト発動。

 集中フォーカス場所は腰。


 こんな所に集中するのは初めて。

 ましてや発動アクティベートなんて使った事がある訳が無い。


 ぶっつけ本番だ。

 僕の予想では上手く行くはず。


 我鬼崎がきざきが後ろに回り込もうとした段階でどう攻撃するかは決めていた。

 まさか腰に魔力を使う事になるなんて。


 当たればもしかして内臓破裂とかするかも。


 けど、我鬼崎がきざき相手にはあまり罪悪感は湧かない。

 いや、罪悪感が湧いているのはこんな物騒な力を持ってしまった事に対して。


 それを我鬼崎がきざきにぶつけるのは罪悪感は無い。


 あ、我鬼崎がきざきの拳が止まった。

 力を溜めてるのかな?


 とっとと終わらせたいのならポイントについてすぐ殴ればいいのに。

 多分僕がまだ気付いていないと思ってるんだろう。


 そんな僕に突然、真後ろから思い切り殴りつけて脅かそうとか思ってるのかな?

 そろそろ来る。


 ビュンッッッ!


 来た!

 右拳。


 今だ!!



 グンッッッ!



 僕は素早く。

 そして思い切り腰を落とす。


 肩が我鬼崎がきざきの腹と並ぶぐらいにまで。


 拳は当たってない。

 僕の頭上で空を切っている。


「ナァァッ………………

 !!!!!?」


 ギュオォッッ!


 僕の腰が高性能タービンの様に超速回転。


発動アクティベートォォォッッ!」


 ドコォォォォォォォォォォンッッ!


 我鬼崎がきざきの腹に右拳を叩き込む。


 耳に伝わる衝撃音。

 成功。


 僕はしゃがむと同時に発動アクティベートをかけた腰を回転させた。

 結果、超速で回る。


 確か相手を殴る時に肝心なのは腰と言うのを聞いた事がある。


 腰の回転。

 これが重要らしい。


 だったらそこに魔力注入インジェクトをかけたら、すんげぇ威力が出るんじゃね?

 これが腰の発動アクティベートを思い付いた理由。


 ドカァァァァァァァァァァッッ!!!


 僕が振り抜いた右フックから解き放たれた我鬼崎がきざきの身体は真一文字に吹き飛び体育館の壁に炸裂。


「うわ……

 すっげ……」


 発動アクティベートをかけた腰の回転から更に発動アクティベートの右フック。

 今までの僕なら腰の超速回転にタイミングを合わせる事が出来なかっただろう。


 昨日の練習の賜物だ。


 しかし180以上ある長身の我鬼崎がきざきが体育館の壁まで吹き飛んだんだ。

 正直ひくぐらいの威力。


 願わくばこんな力、これから先で使わなくても済む様に暮らしたいものだよ。


 先生達はさすが。

 あれだけの速度で吹き飛んだ我鬼崎がきざきだったがみんな避けてる。


 見ると脇に抱えられている先生もいる。

 多分あの先生は一般人なんだろう。


 あれ?

 他にも動きがある。


 倒れている原田の身体が動いているのが目端に映る。

 誰かが引っ張ってる訳でも無いのに。


 そのまま動いた原田の身体は凛子先生と裏辻うらつじ先生の元まで。


 あれは並進トランスレーション

 裏辻うらつじ先生のスキル。


 なるほど。

 あれを使えばテストを中断する事無く、負傷者を回収出来るって訳か。


 けど、血を流しているのは明白だったのに何故今まで回収しなかったのだろうか?

 良く解らない。



「イッテェ……」



 え?



 僕の耳に嫌でも聞こえる声。

 あまり聞きたくない声。


 ゆっくりと立ち上がって来たのは……



 我鬼崎がきざき



 ダメージが無いのか!?


 ニィ……


 我鬼崎がきざきの口角が嫌らしく持ち上がる。


 その笑い顔が物凄く怖い。

 怖くて気持ち悪い。


 いや……


 駄目だ駄目だ。

 相手にブルってしまったらそれで僕のテストは終わってしまう。


 今、解る範囲でも分析しないといけない。


 カタ……


 少し震えてる。


 そりゃそうだ。

 僕はケンカなんかした事が無いんだから。


 駄目だ。

 駄目だ駄目だ。


 震えるな僕の身体。

 落ち着け落ち着け。


 スゥーーッ……


 ハァーーッ……


 僕は大きく深呼吸。

 やっと震えが止まり落ち着いた。


 そしてようやく我鬼崎がきざきを観察。

 見ると体操着の腹部分がビリビリに破れ、素肌が見えている。


 が、多少赤いぐらい。

 少なくとも重傷では無い。


 口角から血が垂れていた。

 と言う事はダメージはあったんだ。


 ならばどうやってダメージを軽減させたんだ?

 これは即答。


 決まっている。

 発動アクティベートで防いだんだ。


 けど僕や田中がやっていた様にかなりタイミングがシビア。


 さっきの一撃は完全に不意を付いたはず。

 一体どうやってタイミングを合わせたんだ?


「値すんなぁオメー……

 今の一撃……

 ありゃあ何処に魔力を集中フォーカスしてやがったんだ……?」


 我鬼崎がきざきが尋ねて来ている。

 馬鹿正直に答える訳無いじゃ無いか。


 僕は無言で返答。


「……オイオイ……

 お前口、ついてねぇのか?

 聞いてんだろがよ。

 答えろよ」


「……嫌だよ。

 何で争っている相手にわざわざ手の内を教えないといけないんだ」


 僕は拒否の意思を示す。


「何だよテメー。

 教えてくれたっていいだろがよ?

 せっかく俺が値するって言ってんのによぉ」


 何だコイツ?

 要はゴネているって事か?


 だから何でわざわざ敵にこっちの情報を教えないといけないんだよ。


「だから嫌だって言ってるだろ?

 そんなに僕の使い方が知りたいなら観察して考えろよ」


「……あークソッ!

 そう言うのが、しち面倒くせぇから本人に聞いてるんじゃねぇかっ」


 ガシガシガシッッ!


 苛立った我鬼崎がきざきは頭を掻き毟る。

 三方向に伸びた金髪ヘアーが乱れに乱れて今は左方向にしか伸びてない。


 左側のみにツンと伸びた金髪。

 その他部分は無造作ヘアーと言った言葉では収まらない程乱雑。


 何か凄く変な髪型になった。

 パンクロッカーの様な雰囲気は見る影もない。


 例えるなら劇で流星役になった人みたいな。

 解りにくいかも知れないけど左だけに伸びた金髪が流星の尾の様に見えるんだ。


「だから嫌だって言ってるだろ」


「……強情な奴だなお前。

 解った、じゃあこうしよう。

 お前、何か俺について聞きたい事は無いか?」



 ??



 僕の頭にハテナが浮かぶ。

 急に何言ってるんだ?


「どう言う事だよ」


「そうツンツンすんなって。

 簡単なゲームだ。

 こっからは一発当てる毎に相手の聞きたい事を一つ教える。

 で、オメーが俺に今、一発当てたから答えてやろうって言ってんだよ」


「じゃあ一つ聞きたい。

 今の一撃喰らって何で平然としているんだ?」


 僕は自然な会話の様に即返答。


 こう言う時、ゲームに乗るか乗らないか考えるって思うかも知れないけど僕は敢えて即応、即返答に勤めたんだ。


 だって相手が教えてくれる分にはこちらはノーリスクだから。


「ウェホゥッ…………

 即行で返して来やがったか。

 お前おもしれー奴だな。

 あれは前もって魔力を仕込んどいたんだよ。

 平然って訳でもねぇぞ。

 腹千切れるかっつーぐらい痛かったからヨォ」


 魔力を仕込む?

 どう言う事だろうか?


 僕らが練習していた防御の発動アクティベートとは違う気がする。


「仕込むってどう言う事だよ?」


 僕は思わず疑問を口にしてしまった。


 我鬼崎がきざきからの返答は解っている。

 そして次の行動も。


「答えんのは一個だけっつっただろうが…………

 ヨォッッッ!!!」


 ドンッッッッ!!


 超速で僕に向かって来た我鬼崎がきざき

 この動きは発動アクティベートをかけている。


 多分念じて発動したな。

 けど、これは予想の範疇。


発動アクティベートォッ!」


 発言の途中で教えるのは一つだけという単純なルールを思い出してた。

 だから返答はせず攻撃して来ると踏んでいたんだ。


 身構えてた僕は魔力注入インジェクトを使用して退避。


 バンッッ!


 強く床を蹴り、バックステップ。



 !!?



 追い付いて来た!?


 僕と我鬼崎がきざきには距離があった筈。

 確かにスタートは我鬼崎がきざきの方が速かったかも知れない。


 けど、僕も魔力注入インジェクトを使っているんだ。

 こんなにすぐ距離のラグが埋まるものなのか?


「クッッッ!」


 ガンッッッッ!


 僕は更に床を蹴り、方向転換。


 後ろから左。

 直角に軌道が曲がる。


 だけど……



 振り切れない!



「俺の方が魔力注入インジェクトの熟練度は上の様だな」


 高速移動の最中。

 ハッキリと僕の耳に入る我鬼崎がきざきの声。


 超高速で流れて行く景色の中で目に映るヘンな被り物をしてる様な顔。

 我鬼崎がきざきの顔。


 気が緩むから髪型を何とかして欲しい。


「クソォォッッ!

 発動アクティベートォッ!」


 ブンッッッ!


 焦った僕は真横に飛びながら右パンチを繰り出す。


 ヒョイッ


 が、当たらない。


 焦りから基本であるインパクトの瞬間に発動アクティベートを使用すると言うのを怠った。

 今打ったパンチは言わば予備動作が丸見えのテレフォンパンチ。


 避けられて当然。

 いくら大砲だろうと当たらなければ意味が無い。


「よっと……」


 バキィィッッ!


 ズダンッッッ!


 僕の右パンチを避けた我鬼崎がきざきから打ち降ろしの左ショートフックが顔面に炸裂。


 僕は真横に飛んでいた所を強制的に変更。

 床に叩きつけられた。


 ズザァァァッッ!


 倒れている僕の頭上で強く滑る音。

 我鬼崎がきざきが着地したんだろう。


 ズキンズキンズキンズキン


 だけど、そんな事はどうでもいい。


 そんな事より痛み。

 激痛。


 苦辛な痛みが顔から全身に伝播している。


 痛い。

 痛い痛い痛い。


 顔だけじゃ無い。

 全身からも鈍い痛みが伝わって来る。


 初めて。

 生まれて初めて殴られた。


 親にもぶたれた事無いのに。


 あれ?

 こんな台詞何かのアニメで見た様な。


 駄目だ。

 思考が混濁してる。


 ズッキュンズッキュン


 痛みは依然として消える事無く、強く鼓動の様に伝わって来る。


「おいおい~~……

 いつまで寝てんだよ。

 せっかくオメーから色々聞こうと思って素で殴ったのにヨォ……

 魔力使ってねぇんだからそんなに効いてねぇだろ?」


 そんなに効いてない!?


 何を言ってるんだこの男は。


 ズッキュンズッキュン


 まだ大きい痛みが顔から伝わって来ている。

 この筆舌にし難い痛みが解らないのか!?


 もうこのまま倒れたままでいようか。

 このまま動かなければテストは終了する筈だ。


 僕なりによくやった方じゃないのかな?

 まさかケンカがこんなに痛くて辛くて苦しい物だとは思わなかった。


 バトルものの漫画は好きだけど、主人公とかキャラはこんなに苦しい事をずっとやってたのか?


 いや、僕はただ一発普通に殴られただけだ。

 漫画とかだともっと強い一撃や何だったら刺されたり斬られたりもする。


 多分痛みや苦しみは僕の何倍、何十倍だろう。

 身体の芯からゾッとする。


 もういい。

 決めた。


 ここで僕のテストは終了だ。


 そうだ。

 それでいい。


(ハハッ!

 何やってんだよジメオタ!

 一発喰らって終わりかよダセーなっ!)


 野次が耳に入る。


 この声は知ってる。

 同じクラスでオタクの僕らを蔑んでいる平尾だ。


 こいつはもうテスト終了している。


 一発だけと言うがお前は髪の引っ張り合い顔の引っ張り合いって言う魔力が全く関係無い何ともしょっぱい試合を見せてたじゃ無いか。


(キャハハハハッッ!

 やっぱりジメオタだから簡単に音を上げるのねーっ!

 ダッサーイッ)


 この甲高い声で笑う奴も知ってる。

 名前は知らないけど同じクラスの女子。


 お前もテストが始まって即行で暮葉さんに捕まってたじゃ無いか。

 周りは所詮他人事だから好き勝手な事を言っている。


 ならお前らがやってみろ。


 野次とは基本こう言う物。

 けど、頭では理解しててもやはり悔しい。


 悔しさが湧いて来る。


「オラーーッッ!

 すめらぎーッ!

 何、お前一発喰らっただけで寝転がってるんだよッッ!

 田中もあんだけ頑張ったじゃねぇかッッッ!

 お前はスゲェ奴だってみんなに見せてやれよォォッッ!」


 ほとんど心が折れかけた所に悔しさと言う感情が心を癒着し始める。

 そこにシノケンの応援。


 そうだ。

 まだだ。


 まだ僕は全部出し切っていない。

 ここで終わるのは早すぎる。


 シノケンの応援が僕の心に強度をプラス。


「竜司ーーッッ!

 負けるなーーっっ!

 頑張れーーーっっ!」


 更に蓮の声援。

 その声は僕の心を奮い立たせる。



 ググゥッ……



 僕は痛みを堪え、歯を食いしばって立ち上がる。

 まだ顔の痛みが消えた訳じゃ無い。


 依然として強く脈打っている感覚。

 身体前面も鈍い痛みが伝わっている。


 モロに床に叩き付けられたからだ。


 痛い。

 正直もう止めたい。


 尻尾を巻いて逃げ出したい。


 けど、そう言う訳にはいかない。

 僕の事を信じてくれる友達が居る。


 ここでもし僕が逃げたら僕を応援してくれている2人にどんな顔をして会えば良いか解らない。


 少なくとも笑顔では会えない。

 ここが踏ん張り所だ。


 やる。

 やってやるぞ!


 痛みが何だ!

 痛くない痛くない!


 僕は両手を上げて構えた。


「おいおい~~……

 テメー、闘る気なのは良いんだけどよォ~……

 何か忘れてねェか?」


「何を忘れてるって言うんだヨォッ!」


 僕は顔の痛みを忘れる為、大声で怒鳴りつける様に叫ぶ。


「うっせぇなぁ~~……

 そんな顔、腫らしてイキんなよ……

 さっき約束しただろォ~~……?

 一発当てたら一つ質問に答えるっつってなぁ~~……

 だからさっきはわざわざ素の拳で殴ったんだぜェ~~……

 発動アクティベートなんかかけたらそれで終わっちまうからなぁ~~……

 そんな値しねぇ結末はゴメンだァ~~……」


 多分、コイツの興味はスキル。


 この一発で終わってしまったら欲求不満が溜まると言う事なんだろう。

 要は手加減されたって事だ。


 僕がジメオタと馬鹿にされているからだろうか?

 それとも自分の方が魔力注入インジェクトの熟練が上だと判断したからだろうか?


 どちらにせよあまりいい気分はしない。

 むしろカチンと来るぐらいだ。


「……何だよ?

 聞きたい事って……」


 無視して再開しても良かったんだけど、力量の差は歴然。

 このまま考え無しに挑んでも返り討ちに遭うだけだ。


 ならば今は我鬼崎がきざきの提案に乗っておいた方が良い。


「オメー……

 さっき一撃くれた時、俺が後ろに居るって気付いてたなぁ……

 俺のスキルが透明化だって解ってただろ……?

 でもよ、俺の透過トランスパレンスはかなり完璧なステルスなんだよ……

 透明になってるって知ってても目で捉えられるモンじゃねぇ……

 そ!

 こ!

 でだ!

 オメーが展開させた緑のフィールドがくせぇと思ってな……

 アレ、おめーのスキルだろ?

 一体どう言うのなんだよ?」


 そこまで分析してるなら、もう自分で仮説なりあたりを付ければいいのに。


「…………僕のスキルは全方位オールレンジ

 フィールド内の竜河岸や一般人、竜を認識する索敵スキルだよ……」


「……ウェッホゥ!

 なら棒立ちだったのは俺を誘ってたって事かぁっ!!

 オメーはやっぱり値するなぁっ!

 …………けど、俺は背後に居たんだぞ……?

 にも関わらずオメーはタイミングドンピシャで合わせて来やがった……

 視えてねぇと出来ねぇ動きだ…………

 いや、多分俺達の様な眼で見るって感じとは違うんだろうな……

 もし視えてるならなんて表現は使わねぇ……

 ブツブツ……」


 一人でブツブツ言い出した我鬼崎がきざき


発動アクティベート


 バンッッッッ!


 そんな我鬼崎がきざきを無視して、僕は魔力注入インジェクト発動。

 これで足の魔力は弾切れ。


 強く床を蹴り、飛び出した先には…………



 ガレア。



「あっっ!

 テメーッッ!

 俺がまだ考えてんだろーがっ!

 …………って魔力補給か……

 また値する事、見せてくれそうだなァ~~~…………

 ウェッホゥ!

 好きにしなァ……」


 ギャリィッ!


 床に足を入れ、急ブレーキ。

 僕は一瞬でガレアの元まで辿り着く。


【お?

 何だ竜司。

 お前さっき一発やられてたなぁ。

 ケタケタケタ】


 良く聞くガレアの人を小馬鹿にした様な笑い方だ。


「ガレア、うるさい。

 どうでも良いから早く魔力補給をさせてよ」


【何かあのヘンな顔したヤツ。

 お前より強そうじゃねぇか。

 まだやんのかよ?】


「当たり前だ。

 僕はまだやり切っていない。

 こんな所で降参したら蓮達に申し訳が立たないよ」


【モウシワ……

 何だか良く解んねぇけど良いぞ】


 僕はガレアの鱗に手を合わせる。

 今回の魔力補給には少し考えがある。



 ###

 ###



 やがて竜司の魔力補給が完了。


「おぉ~~……?

 ようやく魔力補給を終えやがったかァ~~?

 さぁ~~……

 どうすんだァ~~……?」


 我鬼崎がきざきは竜司の準備が完了するまで待っていた。


 これはテストの結果では無く。

 竜司の見せてくれる魔力の使い方に期待をしているからである。


 我鬼崎がきざきからしてみればこの竜司との戦闘は長引かせたいと考えている。

 だからさっき魔力を込めてない素の拳で殴った。


 自身が現段階で一定の評価を下している竜司がまた何か仕掛ける為にエネルギーを補給しに竜の元へ行ったのだ。


 放置して当然。


 かたや竜司の方はと言うと何の考えも無しに魔力補給を行った訳では無い。

 熟練度の差は我鬼崎がきざきの言う通り竜司の方が劣っている。


 が、それはあくまでも魔力注入インジェクト単体の出力の話。

 魔力技術と言う物は単純な出力差だけで優劣をつけれるものでは無い。


 それは竜司自身も気付いている。

 だから、魔力補給に向かった。


 竜随伴ルールでの魔力補給は無制限。

 争いが続く限りエネルギーを再充填出来る。


 これを使わない手は無い。


 ようやく魔力補給を終えた竜司は考えていた。


 多分自分の立てた策で対抗は出来るとは思うが一体どうやって仕掛けようかと。

 我鬼崎がきざきの性格からして竜司側が劣っていると解っているから、何の考え無しに向かって来るだろう。


 我鬼崎がきざきからしたらもっと竜司に聞きたい事があるのだから。

 ならば好都合。


 向こうから来てもらう方がやりやすい。

 竜司は腰を落として我鬼崎がきざきを待ち構える。


「そっちから来ねぇのかァ~~……?

 さっきの戦い方を見るとオメーは罠を張るタイプなんだよナァ~~……

 じゃあその罠に飛び込んでやろうかァ~~…………

 ナッッ!!」


 ドンッッッ!


 我鬼崎がきざきは床を強く蹴り、竜司に向かって突っ込んで来た。

 魔力注入インジェクトはまだ健在。


 目にも止まらぬ速さ。

 我鬼崎がきざき魔力注入インジェクト熟練度は中2レベルを遥かに超えている。

 一般的な竜河岸で考えると高校1~2年の域である。


 それには理由がある。


 我鬼崎がきざきと言う人間は交友関係を持たない。

 魔力の事にしか興味を持たないから。


 従って一日の活動時間の大半を魔力技術のトレーニングに充てている為である。


 魔力と言う物は使えば使う程、精度や出力が高くなる。

(もちろんきちんと考えを持って使用している事が前提だが)


 我鬼崎がきざきは魔力実習授業が始まる前から独学で魔力の修練を始めていたと言う事である。


 それにしては未だ高校1~2年レベルと言うのは低く無いかと思われた読者もおられるかも知れない。


 それは独学と言う部分が原因。


 龍驤りゅうじょう学院の魔力技術実習は現時点で人間が把握している魔力の特性を踏まえた上で指針を持って授業を行っている。


 知識の無い我鬼崎がきざき単体で練習するのとは雲梯の差がある。


 何も無い荒野に農耕知識の無い物が作物を育てるのと、きちんと知識を持って育てるのはどちらが早く収穫出来るのかと言う事。


 竜司との距離から考えて到達時間はおよそ1秒弱。

 一言発するか発しないかの一瞬で竜司の所に辿り着く。


発動アクティベートォッ!」


 我鬼崎がきざきが向かって来ると同時に竜司も魔力注入インジェクト使用。


 ドンッッッッ!


 強烈な力でバックステップ。

 先と似た形。


 これだ。

 これで良い。


 この形に持って行きたかった竜司。

 同じ形の方が対抗出来るかどうか解り易い。


 且つ何だ前と同じかと相手が慢心でもしてくれたら儲けもの。


 竜司は我鬼崎がきざきの縦の動きに対して左。

 若干角度を入れ、緩い左斜め方向に後退。


 ガンッッッッ!


 床を蹴って、直角に曲がり更に追撃する我鬼崎がきざき

 もう半秒で追いつかれる。


 ニヤリ


 薄く笑いを浮かべる我鬼崎がきざき

 頭の中は次に聞きたい事の選定を行っていた。


 油断。

 慢心。


 我鬼崎がきざきは明らかに竜司を侮っていた。



 ここだ。



発動アクティベートォォォッッ!」


 ガァァァンッッッッッ!!


 ギュンッッッッッ!!


 竜司の叫び。


 ガガァァンッッッッ!!


 バキボキィィィィィィィッッ!


 ズドォォォォォォンッッッ!


 ズザザザァァァァァッッ!


 一瞬でありとあらゆる音が体育館中に響き渡る。


 静寂。

 誰も何が起こったか判断出来ず言葉を失っている。


 状況は……



 二人共倒れている。



「いてて……

 着地失敗した……」


 先に起き上がったのは竜司。

 着地に失敗しただけの為ダメージは軽微。


 が、我鬼崎がきざきは起き上がっては来ない。

 途中響いたのはアバラの折れる音。


 竜司の蹴りが見事、我鬼崎がきざきの脇腹に命中したのだ。


 我鬼崎がきざきは動かない。

 竜司の蹴りの威力に吹き飛び、体育館壁に激突したのだ。


 竜司はゆっくりと立ち上がり、我鬼崎がきざきの位置を確認。

 場所は体育館の後方左隅辺り。


 ここで竜司が辿った軌道について語っておこう。


 竜司はバックステップし、我鬼崎がきざきを誘った。

 目的地は体育館の左後方角を目指していた。


 続いて動き。


 竜司が行ったのは多段発動アクティベート

 重ねる事で速度を上げたのだ。


 かたや我鬼崎がきざきは単発での発動アクティベートしか使用していない。

 慢心もあったので当然である。


 あくまでも我鬼崎がきざきが優れているのは魔力注入インジェクト単体の出力。

 竜司が仕掛けた多段発動アクティベートの方が速度は勝る。


 使用タイミングは追い付くか追い付かないかの際。

 我鬼崎がきざきからしたら追い付くと思っていた所、突然速度が大幅に上がったのだ。


 まるで車のターボ。


 これには我鬼崎がきざきも予想はしていなかった。

 いや、竜司を標的として認識し警戒していれば予想出来たかも知れない。


 が、我鬼崎がきざきの頭の中は竜司から聞き出す情報の選定しか無かった。


 我鬼崎がきざきにとっては敵も味方もどうでもいい。

 先生方の印象やテストの結果なんかもどうでもいい。


 自身の知的好奇心を満たす事しか頭に無いのである。

 偏向的思考のお陰で結局、竜司の一撃を喰らい手傷を負う事になる。


 竜司の一撃が何故、我鬼崎がきざきの右脇腹に命中したのか?

 これは竜司の目指していた隅と言う位置が関係している。


 竜司の軌道は少し角度を入れた斜め方向。

 動線は角の少し手前あたりに到達する。


 竜司は体育館の横の壁と縦の壁。

 二箇所で急反射を行い、我鬼崎がきざきの右脇腹に蹴りを炸裂させたのだ。


 まさにビリヤードの球の様に。


 ちなみに狙ってやった訳では無い。

 どちらかと言うと脇腹に当たったの幸運と言わざるを得ない。


 この攻撃を狙って行うとなると、多段発動アクティベートで速度が上がった状態で狭所の連続反射。


 かなりタイミングはシビアになる。


 更に追撃して来る相手の速度と自身の速度を把握し、間合い等も考慮した上で計算しないと狭所で高速移動している相手の脇腹を狙って当てると言うのは出来ない。


 竜司が隅を目指そうとした動機は我鬼崎がきざきに一泡吹かせたいと思ったから。

 予想外の方向から強烈な一撃をお見舞いしたかったのだ。


 もちろん前述の様な計算は行っていない。


 考えていたのは角での反射タイミングを如何様に取るか。

 タイミングとしてはかなり難しくなる。


 これを竜司は両脚を上手く使う事で対処した。


 まずは最初の発動アクティベートは左足。

 高速移動中、二回目の発動アクティベートは右足。


 動線方向である横の壁を左足で蹴り飛ばし、超高速で反射。

 続いて右足で縦の壁を蹴り、更に反射。


 そして左足で我鬼崎がきざきの右脇腹に蹴りを叩き込んだのだ。


 竜司本人もここまでまともに当たるとは思っていなかった。

 もしかしたら空振るかもと考えていた。


 だが、我鬼崎がきざきは長身。

 多分、身体の何処かには当たるだろうと結論付けて実践したのだ。


 結果、思った以上の成果となり、今に至る。


 まだ動かない我鬼崎がきざき

 これはもう決着したのでは?


 そう思えるぐらい我鬼崎がきざきはピクリとも動かない。


「しゅ……」


 おともさすがに勝負ありと思ったのか、終了宣言をしようとした時……



「……おとセンセェ~~……

 ちょっとそれは早いんじゃ無いんですかネェ~~~……?」


 破損した壁にもたれ、項垂れている我鬼崎がきざきから声が聞こえる。

 ゆっくりと起き上がって来る。


「イテテ……

 アバラ2本程イッたかなぁ~~……?

 なるほどナァ~~……

 テメー……

 多段発動アクティベート使えんのかァ~~……

 まぁそれなら熟練度の低さはカバー出来るワナァ~~……」


 肋骨が折れている。

 にも関わらず平然としている我鬼崎がきざき


 痛覚が麻痺しているのか?


 いや、我鬼崎がきざきにそんな体質を有してはいない。

 依然として脇腹からは鈍痛が警告を告げる様に体内を駆け巡っていた。


 が、それを我鬼崎がきざきは無視している。

 痛みに俺の興味は邪魔させねぇ。


 要するに痩せ我慢である。

 それも極度の。


 その異様な様子に言葉も出ない竜司。

 我鬼崎がきざきが怪物か化物に見え始めていた。


「ホレ……

 何か聞きたい事ねぇのか?」


 そんな竜司を尻目に我鬼崎がきざきが語りかける。

 我鬼崎がきざき自身が提案したルールを遵守しているのだ。


「あ……

 え……

 えっと……」


 一瞬何を言ってるのか良く解らずに呆けてしまう。

 慌てて思考の中を覗いてみる。


 今までの我鬼崎がきざきとのやり取りで疑問に思った事は無いかと。


「お前のスキル……

 多分透明化だと思うんだけど、それだけじゃ説明つかない事がある……

 僕は原田が負傷するまでお前の存在を忘れていたんだ……

 それが不思議なんだ。

 テストが始まる直前は確かにお前と原田の二人と言うのは解っていた。

 それなのにまるでお前が居る事を忘れてたみたいに……

 これは一体何でか解るか?」


 まるで我鬼崎がきざきの見解を伺う様に尋ねる竜司。

 竜司自身も我鬼崎がきざきの作為的な動きでそうなったか解らなかったからだ。


「ウェッホゥ…………

 そんなん俺が知る訳ねぇだろボケ…………

 って言いてぇ所だが約束だからナァ~~……

 教えてやろう……

 俺の透過トランスパレンスには別機能が付いていてなぁ……

 希薄ダイリュートっつってな……

 これが起動したら俺って言う存在が無くなんだよ」


「存在が無くなる?

 認識出来なくなるって事か?」


「サァ~~てねぇ~~……

 教えんのは1個だけの約束だからなぁ~~……

 こっから先は自分で考えなァ~~……」


 竜司の質問に嫌らしい返答をする我鬼崎がきざき


「質問タイム終了ォ~~……

 じゃあ次はこっちから行くぜェ~~……

 発動アクティベートォッ!」


 ガンッッッッッ!


 我鬼崎がきざき魔力注入インジェクト発動。

 床を強烈な力で蹴り、その力を推進力に変え竜司に突撃。



 ###

 ###



 速い!!?


 僕より速い。

 すぐに解る程の差がある。


「クッ……」


 ダンッッッ!


 ダァァァンッッッ!


 僕は右足を強く踏み込み、加速。

 すかさず左足を踏み込む。


 多段発動アクティベート


 まだ両足の魔力注入インジェクトは有効。

 すぐに我鬼崎がきざきと離れ始める。


 だけど……


発動アクティベート


 ガァァァンッッ!


 我鬼崎がきざきが床を再び蹴った。

 速度が倍加。


 開いていた差が一瞬で埋まる。


「クソォッ!」


 僕は思い違いをしていた。


 多段発動アクティベートは何も僕だけの技術じゃ無い。

 等しく竜河岸みんなが使えるものなんだ。


 我鬼崎がきざきが扱えても不思議じゃない。

 何でこんな単純な事をすぐ思いつかなかったんだ。


 僕は悔し紛れに短い言葉を吐く。


 駄目だ。

 振り切れない。


 どうする?

 どうする?


 習った魔力技術じゃ多分我鬼崎がきざきにを出し抜く事なんて出来ない。

 そうこう考えている内に体育館の壁が超速で近づいて来る。


 グルンッッ!


 僕は身体を反転。

 壁に着地。


 ダァァァァンッッ!


 僕は壁を蹴って跳躍。


 ガァァァァンッッ!


 ほぼ同時に衝撃音。

 かなり間隔が短い。


「はぁ~い……

 追い付いたァァ~~……

 すげぇよナァ~~……

 魔力ってェ~……

 俺達、空を飛んでんだぜェ~~……」


 ゾクゥゥゥッ!


 悪寒が奔る。

 背筋が凍る思いとはこの事。


 背後を見るとピッタリくっついている我鬼崎がきざきが居た。


 笑っている。

 本当に気持ち悪い奴。


 どうする?

 どうやったら我鬼崎がきざきに勝てるんだ。


 気持ちがどんどん焦りの色に変わって行く。

 空を飛んでいる事に感動する暇なんて無い。


 再び壁が近づいて来た。

 ジャンプする時、少し斜めになっていたからだ。


 くそっ!


 狭いんだよ!

 この体育館!


 グルンッ!


 身体を反転。


 ガァァァァンッッッ!


 僕は壁を蹴った。

 次は身体を床に向けて。


 高さにしたら10メートルぐらいかな?

 そこから急落下して行く身体。


 僕は一旦着地するつもりだった。

 魔力注入インジェクトの効果限界がかなり際どいから。


 結構高い箇所からの落下。

 着地には充分注意しないと。


 こんな高い位置からの着地なんて数える程しか無い。

 失敗して足を痛めたらもう負け確定。


「何だァ~~……?

 もう空のお散歩は終わりかヨォ~~……」


 以前として背中には気持ち悪い声が張り付いている。


 ズダァァァァンッッ!


 僕は着地。

 両膝を充分に曲げて落下の衝撃を殺す。


 よかった。

 まだ魔力注入インジェクトは有効だ。


発動アクティベートォッ!」


 ダァァンッッ!


 僕は魔力注入インジェクトをかけ直し、更に逃げる。


 今はとにかく時間。

 作戦を練る時間が欲しい。


「まだ逃げんのかよォ~~……

 いい加減飽きてくんぜェ~~……」


 纏わりつく声は止まない。


「ア……

 発動アクティベートォォッ!」


 ダァァァァンッッ!


 僕は更に魔力注入インジェクトをかけて、更に床を蹴る。

 速度は上がる。


 上がったんだけど……


「それさんざん見てんぞ……

 何だオメー……

 もうネタ切れかよ……

 ハァ~~……」


 全く声が止まない。

 今はピッタリ横に。


 さっき見せたばかりなのにもう対応して来ている。


「オメー、もう良いわ……

 値しねぇ……」


 ズンッ



 へ……?



 唐突に。

 突然身体に奔る大きな違和感。


 状況が呑み込めない。

 まず僕が気付いたのは身体に発生した大きな違和感。


 続いて状況。

 我鬼崎がきざきの右拳が右肩に


 ただあったんだ。

 何か打撃を受けたとかじゃない。


 おそらくゆっくりと流れる様な動きで僕の右肩に拳で触れたんでは無いだろうか。

 一体何の為に?



 その理由が次の瞬間、ハッキリする。



 !!!!!!!???



 僕の右肩から激痛。

 筆舌し難い痛みが身体中に伝播。


 ズザァァァァーーッッ!


 僕は着地失敗。

 床を滑って行く。


 何だ!?

 何だこれは!?


 打撃じゃ無い。

 何をされた?


 もう負けるのか?

 もの凄く自然な動きだった。


 痛い痛い。

 灼ける様に痛い。


 拳が肩にあった。

 殴られたのか?


 やはり熟練度が竜河岸の差となるのか?


 痛い痛い痛い。

 焼きゴテを肩に突っ込まれている様だ。


 殴られた衝撃は無かった。

 一体何なんだコレは?


 あまりの激痛に考えがまとまらない。


 さっき殴られた時より数段……

 いや、もっと異質の痛み。


 僕は痛みの元。

 つまり右肩を確認。


「ヒェアァッッ!!」


 僕は思わず悲鳴を上げる。

 右肩が…………



 赤い。



 赤く滲んでいる。

 血だ。


 これは誰の血だ?

 僕の血だ。


 初めて見る光景に混乱する。


「おいおい~~……

 何だァ~~?

 情けねぇ声あげやがってェ~~……

 オメー、自分の血を見るの初めてなのかァ~~……?

 あの発想からもっと修羅場潜ってると思ってたぜェ~~……

 まあ俺もここで通打とおうちを使うつもりは無かったんだがなぁ~~……

 オメーの動き見てて飽きちまったァ~~……

 値しねぇわお前……

 ウェッッッホゥゥゥ!」


 我鬼崎がきざきの声が聞こえる。

 何かベラベラ話している。


 痛い。

 我鬼崎がきざきの言葉を精査する余裕も無い。


 うるさい程に響くこの痛みをどうにかしてくれ。

 せっかく顔の痛みが止んで来た所に新たな激痛が僕の身体を縛る。


「グゥゥゥゥゥッッ……」


 僕は堪らず大きな呻き声を上げる。


「ウェッホゥ……

 痛そうだなぁ……

 まあそうなる様に通打とおうちは調節して…………

 ん?」


 我鬼崎がきざきの声が止んだ。


【オイ、竜司。

 お前どうしたんだよ。

 何、寝てんだ?】


 別の声。

 聞き慣れた声。


 ぼやける視界の中、うっすらと見える翠色の鱗。



 ガレアだ。



 ガレアが傍に寄って来たんだ。

 何で動いたんだ。


 動いたら反則…………


 いや、違う。

 動く事自体は禁止されてないから良いのか。


 予想外のガレアの声に少し落ち着いたのか、ほんの少し頭が働く様になって来た。


 けど、激痛はまだ消えていない。

 依然として身体全体を縛る。


 指一本動かすのも怖いぐらいだ。


 言葉に無反応の僕を見て、更にガレアが行動を起こした。


【何だ竜司。

 お前動けねぇのか?

 魔力が足りねぇんじゃねぇのか?

 ホラよ】


 ペト


 僕の身体に何かが触れた。

 そこから流れ込んで来る……


 これは魔力だ。


 じゃあ僕に触れてるのはガレアの手か?

 どんどん力が体内に入って来るのが解る。


 竜って自発的に魔力を与える事も出来たのか。


【こんなモンかな?

 お前、まだまだ弱っちぃからほんのちょびっとしか持って行かねぇもんな】


 ガレアから魔力の流出が止まった。

 けど、今魔力を補給してもこの激痛があると何も出来ないじゃ無いか。


 肩から体中を巡る激痛。

 これを何とかしないとどうしようもない。


 何か。

 何か方法は無いのか。 


 魔力が足りねぇんじゃねぇのか?


 ここで何故かガレアの言葉が頭に浮かぶ。

 だから、魔力があってもしょうがないんだよ。


 続いて……


 私の魔力技術で治したんだけどね。


 続いて浮かぶ凛子先生の言葉。

 魔力技術。


 凛子先生は確かに言った。

 傷を治したのはスキルじゃなく魔力技術だと。


 と言う事は魔力技術を使えば身体を治癒する事が出来るんじゃ?


 でもどうやって?

 全く見当も付かない。


 状態変化S.C


 次に頭に浮かんだ言葉はこれ。

 凛子先生が教えてくれた言葉。


 状態を変化させる。


 つまり魔力は形を変える事が出来る。

 凛子先生はそれを使って患者の治療をしているんだ。


 じゃあ一体どうやって形を変える?


 多分イメージ。

 おと先生が言っていた。


 感情で魔力を変化させて、想像力で形を整える。


 これは一番最初の授業で言ってた事。

 魔力を扱う上での全ての基本。


 僕の場合は肩の傷を治したいと言う意志(感情)で魔力を変化。

 どう整えようか?


 一先ずは傷を負っていない肩に戻すイメージ。

 よし、道は出来た。


 魔力は充分にある……

 と思う。


 もし成功したとしてもどれだけ魔力を消費するかは解らない。

 ガレアから入って来た魔力で肩の傷を治癒するのに足りるのだろうか?


 ズキンッッッ!


「グゥゥゥゥッッ……!」


 痛い。

 肩が酷く痛む。


 もう嫌だ、この激痛。


 泣きたくなってくる。

 出したくも無い呻き声も出てしまう。


 もはや一刻の猶予も許されない。

 いや、許したくない。


 少しでも治る可能性があるならやってみよう。



 ###

 ###



「ウェッホゥ……

 やっぱし魔力は面白れぇなぁ~~……

 コイツのスキルで俺の希薄ダイリュートが視えるのかどうか試してみたかったけどナァ~~

 もうこりゃダメだな……

 先生方ァッ!?

 もう終了じゃないんスかぁっ!?

 こいつ原田と同じ感じッスよぉっ!?」


 我鬼崎がきざきが大声を上げて終了を促す。


 だが、先生は1人として声を上げない。

 竜河岸の先生連は竜司側の動きを見逃していなかった。


 正確にはガレアの動き。


 話している内容は遠くて聞き取れなかったが明らかに魔力を流し込んでいた。

 と、言う事はまだ竜司が何かやる可能性が高い。


 よしんば竜司にその意思が無くともガレアが魔力を送り込んだと言う事は少なくとも二人の間には絆があり、信じているからこそ送り込んだのだと。


 周りで見ている竜河岸先生連は右から全員思っていた。

 まだテスト終了するのは早計だと。



 そして、その判断は見事的中する。



 ゆっくり。

 ゆっくりと静かに。


 声も上げず、ただ自然に。

 竜司が立ち上がって来たのだ。


 続く。

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