200回記念 私立龍驤学院⑥



 本校舎 外壁周辺



 泣いている清美が泣いている暮葉に連れられて体育館に向かっている様を遥か遠くから見つめている二つの姿があった。


 新崎蓮とルンルである。


「何あれ……?

 何で二人して泣いてるのよ……」


 蓮は少量魔力をルンルから抽出し、魔力注入インジェクト発動。

 視力強化状態。


 今居る位置から二人までの距離は凡そ1キロ弱離れているが蓮の網膜には詳細がありありと映っていた。


 が、状況がわからない。


 何故二人共泣いているのか?

 さっぱり理解出来ない。


【何かあったのかしらん?】


 ルンルも状況が解っていない。

 トボトボと歩いて行く二人の姿。


 それを呆気に取られ見送った蓮とルンル。


「ま……

 まぁいいわ。

 これで作戦を立てる時間が稼げる」


【ホントにほっといていいのアレ?

 アンタって本当に切替早いわねぇ】


 状況は解らないが様子を見ていた蓮は好都合と捉えた。


 まず、二人は徒歩でゆっくりと移動。

 二人の場所から体育館まで大分離れている。


 人間の歩行速度で向かうと大分時間がかかる。

 その間、暮葉に対抗する作戦を立案できると考えたのだ。


 どうにか本校舎まで辿り着いた蓮。

 そびえる巨大な外壁にもたれながら地面に座り込み、暮葉に対抗できる作戦を考え始めた。



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 龍驤りゅうじょう学院 体育館



「うっうっ……

 ごめんなさいごめんなさい……」


「えっえっ…………

 キヨミは悪くないよキヨミは悪くないよぅ……

 アタシも何でこんなに泣いているのか良く解んないけど……

 グスッ……」


 何だこりゃ?

 一体何がどうなってこうなった。


 僕の眼には泣いている久留島くるしまさん。

 その酷く落ち込んだ肩に優しく手を回し、連れ添っている暮葉さん。


 これまた泣いている。

 二人共泣いている。


 何か自首した犯人を連れている刑事みたいな絵だ。


「や……

 やいやい……

 お前ら何泣いとんじゃ……

 何処ぞで転びでもしたか?」


「えっ……

 えっ……

 私もよくわかんないよう……

 何だかキヨミがすっごい泣きだして……

 それを見たら私も胸がキュウッってなって……

 グスッ……

 グスッ……」


「やいやい、何か火サスのラストみたいじゃのう。

 凛子先生、とりあえず久留島くるしまをケアしたってくれんかのう?」


「はい。

 さあ久留島くるしまさん、こっちに来て」


「うっ……

 うっ……

 ごめんなさいごめんなさい……」


 暮葉さんの手から離れて、凛子先生の元に久留島くるしまさんが向かう。


 あの高慢ちきでプライドが高い陽キャの久留島くるしまさんがこんなに泣き崩れるなんて一体何があったのだろう。


 これって皆も見ているよな?

 何だかクラスカーストの位置が変動しそう。


「やいやい、天華あましろ

 あと新崎一人だけじゃ。

 そろそろ40分ぐらい経つぞ。

 とっとと捕まえてきぃ」


「グスッ……

 グスッ……」


 離れた後も余韻が残っているのかまだグスグスと泣いている暮葉さん。


「…………やいやい……

 スマン……

 落ち着いてからでええわ……」


 ドスドス


 と、そこに見慣れた鱗の翼竜が暮葉さんに向かって行っている姿が僕の眼に映る。


 あれ?

 何処かで見た事ある様な……


【なーアルビノー。

 お前、何目から水出してんだ?】


 あ、ガレアだ。

 気が付くと隣からガレアが消えていた。


「あっガレアァ……

 グスッ……

 わかんない……

 キヨミが泣き出したのを見たら何だか胸がキュウッって苦しくなって……

 そしたら……

 グスッ……

 グスッ……」


【あっ!

 それ知ってるぞ!

 確か“泣く”って奴だろっ!?】


「うん……」


【前々から思ってたけどよー。

 お前ってどんどん人間っぽくなるよなー。

 オレ達じゃあ“泣く”なんてのはよくわかんねーよ】


「えっ!?

 ホントッッ!?

 私人間みたいっっ!?」


 え?


 一瞬。

 まさに一瞬で泣き止んだ。


 まるで番組の編集点の様。

 

 何だこの人暮葉

 ここまで表情が一瞬で真逆に変わる人間なんかいるものか。


【あぁ、何かそんな気がする】


「そっかぁ……

 私、人間みたいかぁ……

 嬉しいなあ……」


 いつものニコニコ顔に戻っている暮葉さん。

 さっきまでの泣き顔が嘘の様だ。


「やいやい、天華あましろ

 落ち着いたんならテスト続行してくれたら嬉しいんじゃけどのう」


「あっいっけない。

 後は……

 えーと……

 蓮だけだったっけ……

 ほんじゃー、いってきまーっ……

 ……すっ!!」


 ヒュンッッッ!


 消えた。

 暮葉さんの姿が消えた。


 急に泣きながら帰って来たと思ったら、何かワチャワチャやってて。

 それで気が付いたら消えた。


 みんな狐に摘ままれた様な顔。

 全く一体何なんだ。



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 本校舎東側 少等部校舎連絡通路付近



 龍驤りゅうじょう学院は巨大な校舎三つで構成されている。


 正面から東側が少等部校舎。

 中央が中等部。

 西側が高等部となっている。


 形も凹型なのは中央の本校舎のみで少等部と高等部は長方形型。


 体育館はその少等部校舎の更に東側に点在している。

 蓮とルンルは本校舎と少等部校舎の間にある連絡通路の付近で待ち構えていた。


 目の前には巨大な運動場。


 端から端まで見渡せるとは行かないがそこそこ見渡せる。

 先程暮葉が大ジャンプした場所も見える。


【こんなトコでボンヤリしていていいのう?】


「うん、多分だけどね」


 暮葉と清美が体育館に向かって行って凡そ20分。

 そろそろ捜索再開すると踏んでいた。


 そして多分、暮葉は三度運動場に来る。


 確信があった訳じゃ無い。

 確率から考えて6割程度。


 女の勘の様なもの。

 もしかして別ルートから捜索するかも知れない。


 だが、その場合は発見されるのは背後からとなる。

 従って後ろはルンルに見張らせ、正面は蓮が見張る。


 左右からは来ない。

 本校舎と少等部校舎があるから。

 これも暮葉が建物内を探さないと言う前提の元だが。


【それじゃあアタシはこっちを見ててアノ子を見かけたら声をかければいいのねん】


「うん、よろしくね。

 そろそろ魔力補給するわ」


 800CC×2


 まず二回ルンルから魔力抽出。

 量は中量魔力に差し掛かる一歩手前。


 体内に入って来た魔力をそれぞれ右脚、左脚に集中フォーカス


 600CC×2


 更に二回、魔力抽出。

 先程より気持ち少な目。


 今度は両腕にそれぞれ集中フォーカスをかける。


 五度目の魔力抽出。

 今度は電流機敏エレクトリッパー用。


 最後に極々少量の魔力抽出。

 両眼に集中フォーカス


 これで準備完了。

 ちなみにスキル用の魔力と技術用の魔力の区別は慣れとちょっとした意識で可能。


 ブァンッッ!


 運動場の中央で異変。

 突風が逆巻く。


 何も見えない。

 だが、蓮は予想通りと確信。


 その逆巻いた突風の正体は暮葉の筈。


 素早く連絡通路の壁に身を隠す。

 壁に這いながら隠れて運動場の様子を確認。


発動アクティベート……」


 まずは両眼の魔力を発動アクティベート

 視力強化。


 蓮の眼にはサラサラの銀髪で体操着を纏っている女子が映っていた。


 間違い無い。

 暮葉だ。


 さっきと同じ様にグルゥ~ッと見渡している。


 いけない。

 見つかってしまう。


 素早く壁に身を潜ませた蓮。


「ルンル……

 作戦実行するわよ……

 遅れないでついて来てね……」


【アンタなんかにアタシが遅れるかってぇの】


 ガァァァァァァァァァァンッッッ!


 身を潜めている蓮の背後から巨大な衝撃音。

 蓮にはこの音の正体は解っていた。


 暮葉がジャンプしたのだ。


「今ッ!」


 バッ!


 蓮は素早く身体を起こし、壁の前。

 つまり連絡通路から飛び出したのだ。


 蓮の姿は丸見え。

 遮るものは何も無い。


 驚異的な身体能力を持つ暮葉の前では自殺行為。

 だが更に蓮は……


 上へ向かって大きく両手を振ったのだ。

 まさに捕まえてくれと言わんばかりの所業。


「あっっっ!

 蓮っっ!

 みーーーっっけっっっ!!」


 上空で暮葉の大声が響く。


 わざわざ目立つ行動を取ったのだ。

 即見つかるのは必定。


 蓮はもうテストを終了させたいのだろうか?


 否。


 これは蓮の作戦。

 暮葉を誘う為の作戦。


 ギュンッッ!


 暮葉、急降下。


 落下は地球の重力による動き。

 これは充分視認出来る。


 真っすぐ降下する暮葉。


 まだ。

 まだ動かない蓮。


 着地した瞬間、再び暮葉の姿は見えなくなる。

 動くのは着地する寸前。


「ルンルッッ!

 発動アクティベートッッ!」


 着地する寸前。

 両脚に集中させた魔力を発動アクティベート


 ガァァンッッ!


 大地を強く蹴った蓮。

 身体が疾風と化す。


 ダァァァンッッ!


 発動アクティベート直後、更に蹴る。

 場所は連絡通路。


 蓮の軌道が鋭くL字を描く。

 そのまま少等部校舎に飛び込んだ。


 蓮は前もって少等部校舎の入り口を開けていた。

 ここで勝負を仕掛ける気なのだ。


 怖ろしく長い真っ直ぐの廊下を駆け抜ける一筋の疾風。

 蓮とルンル。


 ダンッ!!


 校舎中腹辺りで更に床を蹴る蓮。

 速度倍加。


 長い廊下を駆け抜ける。


 見えた!

 突き当たり!


「ルンルッッ!

 手はず通りでッッ!」


【わかったわぁんっ!】



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 時は数秒前に遡る。


「あっっっ!

 蓮っっ!

 みーーーっっけっっっ!!」


 遥か上空。

 暮葉の眼には地表で大きく手を振っている蓮の姿が映っていた。


 目標確認。

 暮葉急速落下。


「むふふ~~、捕まえちゃうぞ~~」


 蓮を捕まえた所を想像して、ムフフと含み笑いを浮かべる暮葉。

 やがて着地。


 ドンッッッッッッッ!!


 同時に強烈な力で地面を蹴った暮葉。

 その身体は豪風と化し、真っ直ぐ蓮に向かって吹き荒ぶ。


「あや?」


 が、着地と同時に蓮が動いたのも確認。


 蓮は常人では考えられない程の超速で動いていたが、確認した者も常軌を逸した身体能力を持つ暮葉。


 蓮の動きははっきり視認。


「ガッコーの中に入っちゃった。

 でも逃がさないよっ!」


 ガンッッッッ!


 蓮に続き、連絡通路を蹴る暮葉。

 軌跡は蓮を追う様にL字を描き、追って少等部校舎内へ。


 その差、2.5秒。


 暮葉の眼に真っ先に映ったのは遥か遠くで突き当りを左折しようとしている


 標的を見定める。

 ターゲットロックオン。


 この少等部校舎は長方形。

 突き当たりまで長く真っ直ぐの廊下が続くのみ。


 特に曲がったりはしないので存分に魔力注入インジェクトの効果を発揮できる状況。

 蓮の身体はただ速度だけを求める一陣の風と化したのだ。


 が、それは暮葉も同じ事。

 蓮の速度を上回るスピードで廊下を駆け抜ける暮葉。


 バリバリバリィィィンッッ!


 廊下の窓ガラスが次々と割れて行く。

 暮葉の速度が音速の壁を突破した為、ソニックブームが発生したのだ。


 暮葉の駆け抜けた跡はそれはそれは酷い惨状となる。


 まさに一瞬で突き当たりまで到達。

 暮葉が校舎に飛び込んでから凡そ一秒弱。


 ギャリィィィィィィッッ!


 突き当たりで方向を急転換した暮葉。

 鋭く左に曲がる。


「蓮っ!

 つっかまーえたーっっ!」


 瞬間、曲がり角に居たに抱き付く暮葉。

 速度は途方も無くあるが、それは雛の羽毛の様に優しいタックル。



【ざーんねーんでしたっ。

 アタシよ】



 長く焦げ茶色の首を曲げ、背中に張り付いている暮葉に向かって舌を出すルンル。

 それを見た暮葉はキョトン顔。


「あえ?

 オカマさん?

 蓮は?」


 キョトン顔の暮葉。

 アホっぽいセリフを吐く。


【ここには居ないわよん。

 ってかアンタ、アタシの名前覚えて無いの?

 アタシはルンルよ。

 ル・ン・ル】


「うん、知ってるよ。

 ルンルンちゃんでしょ?

 オカマさん」


 キョトン顔を崩さない暮葉。

 解っているのかいないのか。


【…………まぁいいわ。

 とにかくここに蓮は居ないわぁん。

 もちろん何処に行ったかも教えてあげない。

 探すなら勝手に探しなさいな】


「教えてくれなくても良いもーんっ。

 こーゆーのは自分で見つけるから面白いって漫画で載ってたもーんっ」


 ルンルの背中から降りた暮葉。

 ヒョコッとルンルの向こう側を覗く。


 程無くしてニヤリとドヤ顔になる。


「フフフ……

 ナゾは全てもげた!

 このメータンテー暮葉には蓮が何処に行ったか解ったのデスヨ……

 ズバリ!

 蓮は上の階に行ったんデショ!?」


 ムフンと得意げな顔の暮葉。

 それを半ば呆れた顔で見つめるルンル。


【いや……

 まあそりゃそうでしょ?】


 ルンルと暮葉が居る場所は長方形の校舎の突き当たり。

 ルンルの身体の向こうは階段しかない。


 突き当たりからの逃走ルートは正面の扉を開けて体育館の連絡通路に出るか、階段を昇って上階に行くしかない。


 扉は開いていないし、そもそも蓮と暮葉との時間差では扉を開けて外に出る時間も無い。


 従って上階に逃げたのは当然の話である。

 アホでも解る。


 ちなみに暮葉は“謎は全て解けた”と言いたかったのだ。

 謎が全てもげてしまっては何か謎を力づくで解いた気がする。


「じゃー上に行こうっ。

 ……ほっと……」


 ヒュンッ


 暮葉は斜め上に向かって軽くジャンプ。

 踊り場に一足飛びに辿り着く。


 そのまま二階へ。



 少等部校舎 二階



 基本、龍驤りゅうじょう学院は二階から教室がある。

 一階は理科室や家庭科室等の多目的教室が並ぶ。


 本日は中等部二年の魔力実習テストの日。

 その為、生徒は一人も居ない。


 課外授業などで出払っているのだ。


 トッ


 踊り場から跳躍した暮葉が静かに二階へ降りる。

 まるで羽毛の様に軽やか。


 二階も一階同様真っ直ぐ。

 恐ろしく長い真っ直ぐな廊下が伸びている。


 辺りは静寂。

 しんと静まり返っている。


 少等部の生徒はおろか先生すらいる気配がしない。


「フフフ……

 謎は全てもげたのデス……

 このメータンテー暮葉には蓮が何処にいるのかお見通しナノデス!」


 ガラッ


 既に気分は金田一少年になっていた暮葉。

 ニヤリとドヤ顔のまま、一番手前の教室の扉を勢いよく開ける。


 目の前には広い。

 恐ろしく広い教室ががらんと広がっていた。


 無音。

 暮葉の扉を開ける音以外は音がしない。


 ぽつん


 広い教室。

 動く物は暮葉のみ。


 ピシャッ


 何も言わず無言で閉じる暮葉。


「……何処にいるのかお見通しナノデス!」


 ガラッ!


 次は隣の教室の扉を開ける。

 が、先と同様、誰も居ない。


 ピシャッ


 無言で扉を閉じる。


「お見通しナノデス!」


 ガラッ!


 教室は静寂。


 ピシャッ


「お見通し!」


 ガラッ!


「ナノ!」


 ガラッ!


「デス!」


 ガラッ!


 何て事は無い。

 別に暮葉は蓮が潜伏している場所を特定していた訳では無かった。


 やっている事は手あたり次第。

 雑なローラー作戦である。


 プルプルプルプル


 次々と教室を開けて行った暮葉。

 現在位置は校舎の中腹に差し掛かった辺り。


 いくら開けても出迎えるのは静寂。

 虚空。


 ついに暮葉の動きが止まり、プルプル震え出した。


「蓮ーーっっ!

 どこーーーっっ!」


 痺れを切らしたのか。

 大声で叫ぶ暮葉。


 追っている標的の名前を叫ぶ。

 その声は静寂の空間にただこだまするのみ。


 鬼ごっこで相手の名前を叫んで“はい、私はここよ”なんて言う訳が無い。


 が…………



 トントン



「暮葉」



 暮葉の肩を軽く叩く。

 と、同時に聞き慣れた声が背後から聞こえる。


「へ……?」


 唐突の事に状況を把握出来ないまま、振り向く暮葉。

 そこには蓮が立っていた。



 ###

 ###



 時は数分前に遡る。


「ルンルッッ!

 手はず通りでッッ!」


【わかったわぁんっ!】


 蓮はルンルと別れ、一人二階へ向かう。



 少等部校舎 二階



 辺りは薄く耳鳴りがする程、静まり返っている。

 すぐに蓮は行動を起こす。


 もう作戦は始まっている。

 そのまま長い廊下を進み、3つ程奥の教室の扉を開ける。


 ガラッ


「へえ……

 少等部の教室ってこうなってるのね……

 フフ……

 ヘンなの」


 蓮の眼には教室の後ろに飾られている習字の半紙。

 そこには思い思いの字が書かれていた。


 よくある小学校の風景。


 が、ここは竜河岸専門学校、龍驤りゅうじょう学院。

 変哲の無い教室の風景も変わっている。


 まず例に漏れず恐ろしく広い教室。

 後ろに飾られている半紙も小さい。


 そして字が書かれている半紙の隣に何か模様の様なが一緒に飾られている。

 その妙な絵は字の隣に必ずあった。


 蓮にはその模様が何なのかすぐに解った。

 これは竜が書いたものだと。


 書くと言う表現が正しいのかは不明だが、隣に在るベタベタと墨汁で絵が描かれたものは竜が描いたもの。


 おそらく習字の授業で使役している竜にも書かせる事になったのだろう。

 さすが龍驤りゅうじょう学院。


 大体が良く解らない模様なのだが字に見えなくも無い物もあったりする。

 そこには崩れた字で……


 おしり


 と書いてあった。

 それを見た瞬間、蓮の中でハテナが浮かぶ。


 何でおしり?

 やはり竜は良く解らない。


「っと……

 呑気に見ている場合じゃ無いわ……

 何処か隠れる場所は……」


 目についたのは対角線上。

 隅に在ったカーテン。


 後ろのロッカーに垂れ下がっているカーテン。

 龍驤りゅうじょう学院の教室は天井が高い。


 それによりカーテンも大きい。

 蓮の身体ぐらいすっぽり覆い隠せる。


 すぐさま隅に向かう。


「……ごめんね」


 小さく謝罪をした蓮はロッカーに登る。

 そのまま大きなカーテンにくるまる。


 ガラッ!


「お見通し!」


 ドキン!


 くるまった瞬間、教室中に響いたのは暮葉の声。


 蓮の心臓が大きく高鳴る。

 くるまった直後だったのと、暮葉の声が大きかったからである。


 ピシャッ!


 勢い良く扉の閉まる音。

 教室はまた静寂を取り戻す。


 コソッ


 カーテンの隙間からコッソリ顔を出す蓮。

 教室は誰もいない。


「い……

 行ったのかしら……?」


「デス!」


 遠くで声が聞こえる。

 別の教室に行ったようだ。


 一先ずやり過ごせた。


 カーテンから出た連はロッカーから降りる。

 そして自分が乗っていた部分をパッパッとはらう。


 ここから。

 まだ状況は連の作戦内。

 

 蓮は考えていた。

 どうすれば暮葉に対抗出来るのかと。


 1キロ近く離れていてものの数秒で辿り着く脚力。

 遥か遠くまで見渡せるその視力。


 暮葉の身体能力は凄まじい。

 が、近距離ならどうなのかと。


 確かに物凄い身体能力。

 だが、目撃したのは全て遠距離。


 驚異の身体能力だがその制動性は見ていない。

 近距離ならばあるいはと考えたのだ。


 もしかして接近すれば、今の私でも対抗できるのでは。


 検証するためには近づかないといけない。

 かなりの近距離まで。


 それこそ普通に友達と話すぐらいまでの距離。

 そこまで近づかないといけない。


 まだ両脚の魔力注入インジェクトは有効の筈。


 このまま暮葉から隠れて時間を過ごせば?

 そう言う考えも過りはした。


 が、すぐに蓮は気づいたのだ。

 このテストは魔力技術実習テストだと。


 採点をする先生は何処を見ているのか?

 何故ハンターに暮葉を選んだのか?


 確か説明で加点対象は逃げた時間と魔力使用と言っていた。


 おそらく先生方は逃げる時間はさほど見ていない。

 それよりか生物として上位に立つ暮葉に対してどう対抗するのか?


 その部分を見ている。

 加点割合としては魔力使用の方が多い筈。


 おそらく逃げるだけだったら、そんなに点数は取れない。


 高得点を狙うのであれば魔力は使用しないといけないと。

 ならば挑むしかない。


 そう思い考えたのが前述の策である。

 

 ゆっくりと動き出す蓮。

 静かに、音を立てず教室から出る。


 居る。


 少し離れた所に暮葉が居る。


「蓮ーーっっ!

 どこーーーっっ!」


 何かプルプル震えながら叫んでいる。

 そんな暮葉を目指してゆっくりと歩み寄る蓮。


「……電流機敏エレクトリッパー


 小声で呟く。

 スキル発動。


 ■電流機敏エレクトリッパー


 蓮のスキル。

 体内電流の通電速度をコントロールする事で各所神経の伝導速度を大幅に飛躍する事が出来る。

 脳から筋肉への伝達族度は0.1秒。

 魔力注入インジェクトと併用する事で神速と呼ぶに相応しい速度を叩き出す事が可能。

 また、対象にスキルをかける事で体内電流を狂わせ全身痺れさせる事も出来る。

 かけられた対象はいわば全身に高周波治療器をかけられた状態になる。

 欠点は脳にかかる負担が大きいため、一定回数使用すると強烈な睡魔に襲われる。


 スキルを発動した蓮。

 暮葉との距離はあと10メートル。


 見えるのは暮葉の背中。

 もう少し。


 気持ちがはやる。

 歩行速度を速めたい気持ちを抑えながら、ゆっくりと近づいていく。


 暮葉に自分がどこまで通用するのだろう。

 もしかして全く敵わないかも知れない。


 何と言っても暮葉は竜。

 人間とは違う。


 見た目は可愛い女の子かも知れないが、中身は竜なのだ。

 全く違う生物と言うのはこのテストを通じて重々承知の蓮。


 ネガティブな考えが頭を過る。

 が、同時に試してみたいという気持ちも湧いてくる。


 やろう。

 やってみよう。


 自分の全力で暮葉にぶつかってみよう。

 そう蓮は決心した。


 残り1メートルまで接近した。

 もう手を伸ばせば届く距離。


 ドキンドキンドキンドキン


 心臓の鼓動が早くなる。

 緊張している蓮。


 無理もない。

 自分のやっている事は自殺行為に繋がりかねないのだから。


 まさに火中の栗を拾うに等しい。


 スッ


 蓮はゆっくりと。

 音も立てず右手を伸ばす。



 トントン



 暮葉の肩を軽く叩く。



「暮葉」


 声をかけた。


 その声は出来るだけ平常に。

 普段通りの声質で話しかける事を心掛けた蓮。


「ん?

 あっっ!?

 蓮ーーっっ!」


 振り向いた暮葉。

 蓮に気付き、両手を広げて飛び掛かって来る。


 抱きつこうとしたのだ。

 

 スカッ


 が、暮葉の両手は空を切る。


「あえ?」


 さっきまで前にいた蓮が居なくなったとアホっぽい声を出す暮葉。


「フフフ」


「ん?

 あれ?

 蓮、いつのまにそっちに?」


 振り向くとそこには蓮が微笑んで立っていた。


「蓮ーーーッッッ!!」


 ヒュンッッ!


 再び両手を広げ、蓮を捕獲しようとする暮葉。

 が、やはり連の姿は消える。


「暮葉、こっちよ」


 いける。

 蓮はそう確信した。


 電流機敏エレクトリッパーで神速にまで達した反射神経と魔力注入インジェクトによる身体強化。

 この併用ならば暮葉に充分対抗できる。


「蓮っ!

 何で逃げるのよーっ!」


 更に抱き着こうと飛び掛かる暮葉。

 が、無駄。


 やはり空を切る暮葉の両手。


 今の蓮であれば暮葉の両手がミリ単位で動いた段階に行動を起こせる。

 更に魔力注入インジェクトで強化した両脚ならば瞬時に背後へ回ることも可能。


「そりゃ逃げるでしょ?

 暮葉はハンターで私は逃げる立場なんだから」


 暮葉の背中越しから話しかける蓮。

 対抗できると確信した為の余裕の一言。



 が、これが悪手。

 極めて悪手だったのだ。



「あっ。

 そっかそっか。

 確か今はテスト中なんだっけ。

 忘れてたエヘヘ」


 照れ臭そうに緊張感のない言葉を吐く暮葉。

 暮葉は全く本気を出していなかった。


 抱きつこうとしたのは捜してた人に出会えた嬉しさから。

 特に捕まえようとも考えていない。


 暮葉が認識を改めた。

 これはテストなのだと。


 ゆっくり振り向く暮葉。

 今度はすぐに抱きつこうとはしない。


 逆に数歩後ろに下がって距離を取った。


「……今のは全然本気じゃなかったって訳ね……」


 蓮に戦慄が奔る。

 同時に先ほどの自分の発言にも少し後悔。


「蓮っ!

 いっくよーーっ!

 すぐに捕まえちゃうんだからっっ!」


 ギュンッッッ!


 暮葉が超速で飛び掛かってきた。


 速い。

 が、今の反射神経ならば辛うじて対応可能。


 ヒュンッッ!


 蓮も避ける為、左へジャンプ。


 しかし……


 ガシッッ!


 ジャンプした蓮の左足首を掴んだ暮葉。


「えいっっ!」


 ビュンッッ!


 そのまま蓮を片手で放り投げた。


「キャアッ!」


 蓮の悲鳴。

 身体は放物線を描いて飛んで行く。


 軌道はは天井スレスレに放物線。


 ビュンッッ!


 更に暮葉は真っすぐ駆け抜け、飛んでいる蓮を追い抜いてしまう。


「……この辺りかな?」


 暮葉が到達した個所は蓮の落下予想地点。

 そのままキャッチしてテストを終了させる気なのだ。


「くっ!

 発動アクティベートッッ!」


 蓮が叫ぶ。

 残る両腕の魔力を発動アクティベート


 ガンッッッッ!


 両手で天井を力いっぱい押し、強引に軌道を変える。

 垂直に急速落下する蓮の身体。


 押すと言うかぶっ叩くと言った印象。

 放物線を描いていた暮葉の身体は急転直下。


「あっ!!?」


 落下点で両手を広げ、待ち構えていた暮葉がすっとんきょうな声を上げる。

 蓮は廊下に着地。


 ドンッッッ!


 着地した瞬間、床を思い切り蹴る蓮。

 この場から急速退避。


 方向は右斜め上。

 超速で飛び上がったのだ。


「ムムム……

 蓮、やるなー。

 でも……

 私も負けないよッッッ!」


 ガンッッッ!


 状況を瞬時に理解した暮葉。

 すぐさま蓮を追う。


 時間差は凡そ2秒半。

 単純な速度で言うと魔力注入インジェクトを施した蓮より暮葉の方が数段上。


 数秒の時間差など無いに等しい。

 瞬く間に蓮の背中を捉えた。


 手を伸ばすともう届く距離。


 が……


 ドンッッッッ!


 思い切り両手で天井と壁の隅をぶっ叩く蓮。

 超高速で退避していた蓮だが電流機敏エレクトリッパーを発動した反射神経ならば対応可能。


 斜め上に向かって突き進んでいた蓮の身体は急速に方向を変え、今度は左斜め後方。


 軌道はまるで鋭く太い棘の様な形を描く。


「あっっ!?」


 向かって来ている暮葉の下を潜る様に通り過ぎた蓮。

 振り向きながら叫ぶ暮葉。


 トッ


 天井に軽く手を突き、暮葉も方向を変える。


 ズザザザァァッ!


 しかし、勢いを完全に殺せたわけでは無く廊下を滑って行く暮葉。


 バッッ!


 すぐに立ち上がる暮葉。


「暮葉、どう?

 私もなかなかやるでしょ?」


 少し離れた場所で微笑む蓮。

 いや、微笑むと言うよりかは所謂ドヤ顔。


 それを聞いた暮葉はぽかんと口を開け、呆けている。

 更に蓮は言葉を重ねる。


「フフン、このままだと私が逃げ切っちゃうかもねぇ~~?」


 勝ち誇った様な蓮の言葉。


 これは挑発。

 暮葉を挑発したのだ。


 先の一言で失敗したのは重々承知。


 暮葉に一番してはいけない事は不用意な一言。

 それにより認識を改められるのが何よりも怖い。


 それも蓮は分かっている。

 

 だが敢えて挑発した。

 こうでもしないと暮葉は近づいて来ないと考えたからだ。


 来て!

 暮葉!


 蓮は切に願う。



 だが……



「スゴイっっ!」


 暮葉は満面の笑み。

 ワクワクが止まらないと言った表情。


 全く挑発は効果を為さなかった。


「蓮っ!

 スゴイスゴイッ!

 ギュンッて行ったらガンッてなって居なくなっちゃうんだもんっっ!

 ねぇねぇどうやったのっ!?

 教えて教えてっっ!」


 目を爛々と輝かせている暮葉。


「え……?

 ま……

 まぁテスト終わってからでいいなら……」


 少しはムッとして飛び掛かって来ると思っていた蓮。

 こう言う反応が来るとは考えていなかった。


 しかし、暮葉の性格を思い直すと有り得る反応。


「あっそっか。

 今テスト中なんだっけ。

 じゃーすぐにテスト終わらせて教えてもらおっと」


 ヒュンッッ


 暮葉が消えた。


 電流機敏エレクトリッパーを発動させ、全神経の伝導速度を上げている蓮が見失った。

 暮葉はギアを一つ上げたのだ。


 暮葉は全然本気じゃ無かった。


 挑発。

 蓮はこの後、挑発がやはり失敗だったと後悔する事になる。


 ガンッッッ!


 蓮の左斜め上で破壊音。

 かなりの近距離。


 バッ!


 蓮はすぐさま音の鳴った方角へ振り向く。

 が、見えるのは強い衝撃でひび割れた校舎外壁と割れた窓ガラスのみ。


 ガンッッッッ!


 更に背後から強烈な音。

 振り向く蓮。


 だが先と同様。

 ひび割れた廊下が見えるだけ。


 ガンッッッ!


 ガンッッッ!


 段々間隔が短くなって行く。

 依然として暮葉の姿は捉えられない。


 どんどん周囲が酷い有様に。

 床や天井はひび割れ、窓ガラスはバリバリに割れて行く。


 ガガガガガガガガンッッッ!


 周囲が次々と見えない衝撃にひび割れていく。

 蓮はもううずくまって身を屈めるぐらいしか出来ない。


 絶えず響き続ける衝撃音。

 まるで機関銃を乱射されてる様。



 トッッ



 そんな中、突然、蓮の身体が弓なりに曲がる。

 何かが背中からぶつかって来たのだ。


 物凄いスピード。

 だが全く痛くない。


 身体にかかる衝撃など微塵も感じない。

 初めて襲い来る感覚に状況が把握出来ない。


 ズザザザザザザザザザーーーッッッ!


 床を滑る音。

 やがて止む。


 気が付いたら眼前に薄く笑ってる暮葉の顔があった。

 左側に物凄く柔らかい物が当たっている。


「蓮っっ!

 つっかまーえたっ!」


 暮葉が胸元に居る蓮を見つめ、白い歯を見せながらにっこりと笑う。

 ここでようやく状況を把握。


 蓮は暮葉に抱きかかえられていた。

 しかもお姫様抱っこ。


「く……

 暮葉……」


「やー終わった終わったー」


「うん……

 捕まっちゃった……

 やっぱり暮葉は凄いわ……」


「デショー?

 エヘヘ」


 暮葉のドヤ顔。

 時々見せる暮葉のドヤ顔。


 これが暮葉の性格からか全く嫌味では無いのだ。

 まるで子供が褒めてと言わんばかりに見せる自慢げで無垢な顔の様。


「暮葉……

 最後の動き何よアレ……

 私の見せた動きより全然凄いじゃない……」


 最後に見せた暮葉の動きはまるで野生のサルの

 複数のサルが密林地帯で一斉に飛び掛かって来たかのようだった。


 いや、その動き自体は野生のサルをも凌ぐ。

 電流機敏エレクトリッパーで神経の伝導速度を上げた蓮ですらその動きは捉えられなかった。


 且つ、狙ってやったのかは解らないが、暮葉は瞬時に蓮の後ろ。

 つまり死角へ回りこんでいた。


 姿を捉えられなくても仕方が無い。


 ちなみに暮葉のやった動きは蓮の模倣。

 ジャンプし、天井や壁にぶつかりそうになった瞬間両手で跳ね返す。


 それを繰り返す動き。


 だがその動きは超高スピード。

 人間であれば、タイミングが合わず壁に激突する。


 且つ、その壁の跳ね返り。

 回数を重ねるごとに速度は増して行く。


 先程破壊音の間隔が短くなって行ったのはこれが理由。

 もちろん移動速度が飛躍すればそれに応じてタイミングも恐ろしくシビアになる。


 まさに針の穴に糸を通すかの様。

 それを難なくこなす暮葉の恐ろしさ。


「そかな?

 でも蓮のマネっこだよ?

 バンって飛んだらガンって手でやって」


 キョトン顔を胸元で見上げている蓮に向ける。


 確かにやり方は同じ。

 だが効果は桁違い。


 暮葉と自分。

 ベースが違うとこうまで差が出るのかと竜との差を痛感した蓮なのであった。


 ぷにん


 依然として左側に大きく柔らかい物が当たっている。

 暮葉の胸だ。


 この大きさ。

 柔らかさ。


 本当にお前、私と同学年か?

 蓮は自身の胸と比べてみる。


 良い風に言えば可愛い慎ましやかな胸。

 悪く言えば貧乳、残念胸、ガッカリ胸。


 ふ……

 ふん!


 私は貧乳じゃ無いモン!

 年相応って言うの!


 私だってもっとお姉さんになったら大きくなるモン!


 蓮の思惑。

 負け惜しみに似た思惑。


 が、蓮は知らない。


 竜が人間の姿に変わる時。

 ある程度、任意の体型にする事が可能なのだ。


 そして暮葉はアイドル。

 今のプロポーションはマネージャー監修の上で定められたもの。


 良くて当然なのだ。


「あ……

 あの……

 暮葉……

 そろそろ降ろしてくれない……?

 何か恥ずかしいし……」


 ようやくここでまだお姫様抱っこされている事に気付く。

 急激に恥ずかしくなってくる。


 更にぷにんぷにんと当たる暮葉の豊かな双胸が腹立たしくもなって来た。


「フフフ、だーめっっ!

 蓮はワタシに捕まったのデス……

 捕まったからこのまま運ぶのデス!」


 グアッ


「キャッ」


 蓮をお姫様抱っこしたまま軽々と立ち上がる暮葉。


 ぐんにょぉん


 立ち上がった事により、深く暮葉の胸に身体を預ける事になった蓮。


 あ、すっごい。

 ここまで大きいとこんなに柔らかくなるのねおっぱいって。


 女の私でもこう思うんだもん。

 男子は堪らないわこりゃ。


 初めて身体で体感した“巨乳”と呼ばれる物体の存在に思わず卑猥な考えが頭を過ってしまう。


 よもや女子中学生とは思えない……

 いや、女子中学生だからこそ初めて体験した数段上の女らしさから出た純粋な感想と言えるかも知れない。


 ぐにょん

 ぷにょん


 暮葉が歩く度、巨乳が柔らかさを蓮の左側に主張して来る。

 しつこいぐらいに。


 驚きと腹立たしさが蓮の心中で混じり、何とも言い難いマーブル色を放っている。



 少等部校舎 一階



「あっオカマさんっ!

 終わったよーっ!」


 階段を降りて来た暮葉と蓮。

 ルンルはさっきと同じ所で待っていた。


【…………アンタ、それで固定するつもりなのね……

 まあ、別にいいけどサ。

 ってか蓮ー?

 アンタどーなってんのよう?

 反対側から降りて来るから魔力補給させてって言ってたじゃないのよう。

 ナニこんな早く捕まってんのよ】


「しょ……

 しょうがないじゃない……

 暮葉が凄かったんだもん……」


【って……

 アンタお姫様抱っこされてるじゃなぁいん。

 ナニ?

 生まれて初めてのお姫様抱っこが同性ってどーなのよう?

 百合まっしぐらってワケ?】


「えっっ!?

 蓮、オヒメサマ抱っこされたの私が初めてなのっっっ!?」


「え……

 えぇ……

 て言うかお姫様抱っこなんてされた事ある中二女子の方が少ないでしょ普通……」


「そーなの?

 けど私が初めてなんて嬉しいなぁ~~」


 ニコニコ満面の笑みの暮葉。


 ぷにょん

 ぐにょん


 蓮を抱えて歩くものだから依然としてガンガン当たって来る極上の柔らかさを持つ暮葉の巨乳。


「あ、オカマさん。

 この扉開けてー」


 目線の先には少等部校舎と体育館の連絡通路へと通ずる扉。


【…………ハイハイ……】


 ルンルはもはや名前の点は諦めていた。


 扉を開け、連絡通路を進む。

 距離は200メートル強。


 その道を闊歩する暮葉。

 蓮をお姫様抱っこしながら。


 まさに凱旋。


 体育館に近付くにつれ段々恥ずかしさが増して来る蓮。

 じわりじわりと顔が熱くなっているのを感じていた。


「あ……

 あの……

 暮葉……?

 わかったから……

 もう降ろしてくれないかしら……?」


「ダメだよぉ~~

 蓮は捕まったのデス。

 捕まったハンニンはセンセーに渡さないとダメなんだよぉ~~」


 ニコニコしながらズンズン体育館に突き進んで行く。


「そ……

 それはそうなんだけど……

 それは犯人が逃げる場合に捕まえるんであって……

 私はもう逃げないから……

 さ……

 ね?」


「ん?」


 キョトン顔の暮葉。

 こんなやり取りをしている間も体育館の距離は縮まって行く。


 あ、通じてない。

 そう瞬時に判断した蓮。


 あ、これ衆目に晒すまで私は解放されない奴だ。


 ようやく気付く危機的状況。

 紅かった顔が青ざめて行く。


「いやーーっっ!

 降ろしてーーーっっ!」


 ジタバタジタバタ


 必死の抵抗をする蓮。

 このままだと2年全員にお姫様抱っこをされている姿を見られる事になる。


 キツい。

 恥ずかしい。

 洒落にならないぐらい恥ずかしい。


 ジタバタジタバタ


 暮葉の腕の中で必死の抵抗を見せる蓮。

 が、暮葉の両手はガッチリホールド。


 全くお姫様抱っこを解く気配は無い。


「コラッ!

 大人しくしてなサイッ!

 メッ!」


 残り10メートル。


「キャーーッッ!

 やめてーっっ!」


 恥ずかしさのあまり叫び出す蓮。

 もはや悲鳴。


 このままでは学年全員に恥を晒してしまう事になる。

 大体体育館には竜司もいるのだ。


 嫌だ。

 嫌だ嫌だ。


 お願い勘弁して。


「グムムム……

 コラッ蓮ッ!

 ムダなペーコーはおよしなサイ!

 あっ、これ漫画で読んだ事あるっ!

 …………グムムム」


 とうとう蓮は下から暮葉の顔を押し出し始めた。

 距離的に考えて最後の抵抗。


 もはや形振り構っていられない。


 が、解けない。

 解かない。


 且つ顔を下から押し出されながらも以前読んだ漫画の事を思い出す余裕まである。

 さすが竜。


 ちなみに暮葉が言ったムダなペーコーとは無駄な抵抗の事である。


「グニュニュニュ……

 モガモガ……

 蓮ってば……

 お……

 となしく……

 あ、着いた。

 あれ?

 扉閉まってる。

 グムム……

 あ、オカマさん。

 扉、開けて」


【ハイハーイッ。

 ウフフ、何だか楽しくなって来たじゃあなぁいん】


 ルンルも現在の状況を面白がり始めた。


「あっ!

 ルンルゥッ!

 この裏切り者ーーっ!」


【何言ってんのヨォ。

 アンタは大体オクテ過ぎんのよ。

 これぐらい恥かかないと治んないでしょ?

 だからひいてはアンタの為なのよ。

 だから観念してそのお姫様抱っこされてる姿を晒して来なさいな。

 はいドーーーンッッ!】


 ガラッッ!


 焦げ茶色の手が体育館の扉を開ける。



 ###

 ###



「お……?」


 あ、扉が開いた。

 最初に声を上げたのはゴリ先生。


 振り向いた僕の眼に飛び込んで来たのは……


 何か蓮が暮葉さんに抱きかかえられてる姿。

 いわゆるお姫様抱っこ。


 だけど、お姫様。

 蓮は顔を紅潮させて下から暮葉さんの顔をグイと押している。


 その様はまるでスキンシップを拒否している犬。


「ようやく終わったか。

 やいやい。

 ハハッ……

 何じゃ新崎、お姫様みたいじゃのう」


 カァーーーッ


 ゴリ先生の言葉で更に顔が熟れたトマトの様になる。

 目も何かうるうる潤み出してるぞ。


「……もうっ!

 暮葉っ!

 早く降ろしてよっ!」


「あっいっけない。

 もうちょっと待ってネ……」


 スタスタと体育館の中を進んで行く暮葉さん。

 そんな暮葉さんの腕に抱かれている顔がまっかっかの蓮。


 多分、死ぬほど恥ずかしいんだろうなあ。


 そんな事を考えながら見つめていた。

 あ、何かプルプル震え出した。


 あぁご愁傷様。


「ハイッ!

 先生ッッ!

 捕まえましたーっ!」


 ズズイとゴリ先生に蓮を突き出す暮葉さん。

 その顔はこれでもかと言わんばかりの笑顔。


 まるで太陽の様な笑顔だ。


「お……

 おう……

 そりゃ見たらわかるぞ……

 やいやい……

 もう新崎を降ろしたったらどうじゃ?

 何か新崎の顔、見とったら居た堪れんぞ……」


「ん?

 はい、蓮ありがとねっ!

 すっごく楽しかったっ!」


 そっと蓮は降ろされた。

 ようやく解放された蓮。


 お疲れ様。

 あ、しゃがみこんで膝を抱えちゃった。


 そんなに恥ずかしかったのか?


「やいやい……

 新崎よ……

 まだ詳しい採点はしとらんから解らんけど……

 多分テストはお前のぶっちぎりじゃぞ……?

 まあ最後は恥ずかしかったかも知れんが……

 そう気を落とすな」


 ゴリ先生がしゃがんで蓮にボソボソ小声で言ってる。

 周りの女子達もどう声をかけて良いか解らない様子。


「やいやい。

 これで魔力技術実習期末テストを終了する。

 各自持参した昼食を食べて帰宅する様にっ!

 休日明けは男子の部のテストじゃ。

 今日は残って自主練してもええぞ。

 ワシらもまだ学院におるしな。

 どんどん質問に来い!

 ただ贔屓になるから自主練は見てやれんがのう。

 じゃあ解散!」


 ガヤガヤ

 ザワザワ


(ね……

 ねぇ蓮……

 あの……

 その……

 ドンマイ)


(れ……

 蓮?

 お……

 お姫様抱っこなんて私された事無いなぁ……

 う……

 羨ましい……

 な……

 なんちゃってアハハ……)


 テスト終了と同時に女子が蓮の元に集まる。

 フォローを入れている様だ。


 が、膝を抱えたままの蓮。

 それどころか更に深く膝を抱えている。


「ん?

 キョーコ、オヒメサマ抱っこして欲しいの?

 それならそーと私に言えばすぐにやってあげるのにー。

 ホイ」


 何処から聞きつけたのか女子の後ろからヒョコッと顔を出した暮葉さん。

 瞬く間に軽々と女子を持ち上げた。


 さっきの暮葉と同じ状態。

 途端に顔が赤くなる女子。


(こ……

 これは……

 結構キツいわね……

 蓮の気持ちわかるわ……

 何かごめん……

 ねえクレハ……

 もう良いから降ろして……)


「えーもう?

 もっとやってあげるのにー。

 ハイ」


 もっとやりたかったと言いつつも素直に降ろす暮葉さん。

 バツが悪そうにそそくさと体育館を去って行った女子達。


 その間、ずっと膝を抱えて顔をあげない蓮。

 おい、そんなにもか。


「おい、すめらぎ

 新崎さんに何か声かけなくて良いのか?」


 そんな蓮の様子を見ていたシノケンから声がかかる。


「うん……

 まあそりゃ声かけたいのは山々だけど……

 ホラ……

 まだ人居るし……」


 まだ体育館には女子が数人。

 あと男子も何人か残って自主練を始めてる様子。


「何訳分かんねぇ事言ってんだよ。

 俺は……

 まだ友達になれてるか良く解んねぇけど、お前は幼馴染だろ?

 ホラ、グダグダ言ってねぇでさっさと行こうぜ」


「篠原氏の言う通りでありますよすめらぎ氏。

 近しい人が思い悩んでいる時こそ手を差し伸べてあげるのが友と言う者ではござらんか?」


 田中もシノケンに賛成。


 正直僕も行ってあげたかった。

 けど陰キャの僕はやはり目立つ行動は避けたくなってしまう。


 こう言う時、陽キャのシノケン。

 クラスカースト男子の部、上位のシノケンが居てよかったと思う。


「う……

 うん、じゃあ……」


 僕ら三人は蓮の元へと向かう。


 辿り着いた先で見たものは小さく。

 本当に小さく膝を抱えている蓮。


 両耳が赤い所を見るとまだ恥ずかしいのだろう。


「ね……

 ねぇ……

 蓮……?」


 ピクッ


 声を掛けたら蓮の身体がピクリと動いた。

 僕だと気付いたのかな?


「蓮……

 僕らは見て無いから良く解んないけど多分凄かったんじゃないかなって思うんだ。

 少なくとも久留島くるしまさんよりかはずっと……」


「…………どうしてそんな事が解んのよ……

 見てないって言ったじゃない」


 蓮は膝を抱えたまま。

 こちらに振り向きもせずそう言ってのける。


 こりゃダメだ。

 完全にいじけちゃってる。


「確かに僕らは見て無いけど、凛子先生がすっごいいっぱい書いてたからさ。

 最後、蓮一人になった後は凛子先生ずっとカリカリやってたよ。

 笑いながら。

 それまではそんなに書き込んでなかったのに。

 あれって多分女子の成績に繋がる部分だと思うんだよね。

 多分、凄く魔力使ったんじゃないの?」


「……そりゃそうでしょ……

 これは魔力技術のテストなんだから……」


 まだいじけてる感じ。


「う……

 うん……

 まあそりゃそうなんだけど……

 でも本当に全然違う様子だったから……

 やっぱり蓮は凄いなぁってシノケンと田中とも話してたんだよ。

 ねっ二人共!?」


 僕は素早くアイコンタクト。

 それを見た二人。


 まず動いたのは田中。

 何故か顔はニヤリとしたり顔。


「左様。

 すめらぎ氏の言う通りでありますよ新崎氏。

 蘭堂先生の書きっぷりと言ったらまるで締め切り直前の漫画家の如しでありましたぞ」


 田中は僕に乗ってくれた。


 それにしても漫画家て。

 もっと他に表現がありそうなものだ。


「おっ……

 おうっそうだぜっ!

 キヨミが捕まった辺りなんて全然ペン動いてなかったのに、新崎さんが残った後からすっげえ書いてたもんな。

 やっぱり新崎さんはスゲェよっ!

 なっお前らっ!?」


「御意」


「うん、さすが蓮だよ。

 ねえ良かったら僕達にどんな感じで使ったか教えてくれないかな?

 休み明けは僕らの番だし。

 協力してくれると有難いんだけど……」


 ピクッ


 プルプルプルプル……


 ピクリと動いた蓮。

 ブルブル震え出した。


 そしてようやく顔を上げる。


「し……

 しょうがないわね……

 いいわよ。

 竜司達には練習付き合ってもらったし……

 じゃあ何処でやる?

 山頂公園に行く?」


「うん、ここは人の目につくしね。

 その方が良いと思う」


 まだ詳細は解らないが、テストは生徒同士の何らかの対決になる。

 ならばわざわざ手の内を見せる必要も無いだろう。


「山頂公園に行くのか?

 俺は良いぜ。

 田中はどうだ?」


それがしは少々相談したき事もあります故、お付き合い致しますぞ」


 シノケンが普通に田中を誘っている。

 こう言う様を見ると本当に友達になったんだなって思う。


「じゃあ行こうか。

 暮葉さん、じゃあまたね。

 ガレア、行くよ」


「うんっ!

 竜司ばいばーいっ!」


【ん?

 どっか行くのか?】


「ジグウ、行くぞーっ!」


【あ~~ウッゼ……】


「シノケンの竜っていつもウザいウザい言ってる割には言う事聞くよね」


「あぁ、基本超絶めんどくさがりな奴なんだけどな。

 コイツ、父さんの竜にビビッてんだ。

 何かすんげぇつええ竜なんだってよ」


 なるほど。


 だからウザいウザいと言いつつも動けないシノケンを家まで載せて帰ってたりしてたのか。

 何となく納得した。


「トロトン、我々も行くでありますよ」


【おう、いいぞ】


「ルンル……

 行くわよ」


 ようやく立ち上がった蓮だが、未だ耳と頬が赤い。

 まだ恥ずかしさが抜けないのかな?


【はぁいん、あー面白かったわん】


 あ、赤みが増えた。


「ねぇねぇ田中……

 シノケン……

 ゴショゴショ」


 僕は少し前に行き、二人に耳打ち。


「ゴニョゴニョ……

 くれぐれも、あのお姫様抱っこについては触れちゃ駄目だよ……

 あと出来るだけ褒める様にした方が良いと思う……

 ゴショゴショ」


「わかってるでありますよ……

 ゴニョ」


「ゴニョ……

 しかしそこまで気を使う様な事なのかよ……

 ゴショ」


「ゴショゴショ……

 多分、今は必死に忘れようとしてる最中なんだよ……

 けど、思い出す様な一言を聞いちゃったらまた膝を抱えちゃうと思う……

 だからね、触れない様に気を付けて欲しいんだ……

 あと、蓮って割とチョロい所あるから僕ら三人で褒め殺してたらその内忘れるだろうからさ……

 ゴショゴショ」


すめらぎ氏がそう言うのであればそうでありましょうな……

 委細承知……

 ゴニョ」


「ゴニョ……

 わかった」


 こうして僕らは本牧山頂公園を目指す。


 竜を含めると8人と言う大所帯。

 昼食は公園に着いてからにした。



 午前11時55分 本牧山頂公園



 僕らは目的地の山頂公園に到着。


 さっそく各自弁当を開ける。

 ちょっとしたピクニック気分。


 僕の弁当はおにぎり二つ。

 だし巻き卵。


 つけもの。

 何か魚を味噌に漬けた奴。

 料理名は知らないけど僕が大好きな奴。


 カボチャの煮物。

 豚肉の生姜焼き。

 あと生野菜。


 蓮はサンドイッチ。


 中身は良く解らないけどフルーツを挟んだ物もある。

 多分蓮が作った物だろう。


 蓮の家はお父さんが指揮者。

 お母さんは考古学者。

 だから忙しくて家を空ける事が多いんだ。


 だから蓮はそこそこ料理が出来る。


 田中は寿司。

 何か折り詰めの寿司だ。


 サラリーマンのお土産みたい。


 確か田中の家は寿司屋だっけ。

 割と大きい竜河岸の寿司屋。


 家に遊びに行った事あるけど、何か仕込みをドタバタとやっていた。

 見て無いけど竜が寿司を握るのかな?


 それはそれで見てみたい。


 シノケンは何だか茶色い。

 何だか肉が目立つ弁当。


 色んな肉の色んな料理が所狭しと詰め込まれている。

 大きさはやはりシノケンが一番大きい。


 さすが陽キャの部活男子。


「相変わらず美味そうだなすめらぎん家の弁当。

 そんで田中は寿司か。

 ハハッ何でだよ。

 新崎さんは…………

 女の子らしくて可愛い弁当だね……」


 口火を切ったのはシノケン。

 これはもしや友達同士のランチトークと言う物では無いのか?


 僕と田中は基本昼食中はオタトークしかしないからなあ。

 こんな普通のランチトークなんてやった事無い。


 これもシノケンと言う陽キャと友達になったお陰だ。


それがしの生家は寿司を生業としているから致し方ありますまいて」


「へえ、お前んち寿司屋か。

 知らなかったよ」


「そうなのよ。

 雲竜鮨うんりゅうすしって言って結構美味しいのよ」


「蓮、食べた事あるの?」


「うん、パパが帰って来た時とか出前とったりとかね。

 あ、そうそう。

 それでね。

 珍しいのよ、出前を持って来た竜が日本語話すのよ。

 あれってお父さんの竜?」


 え?

 日本語?


 日本語って人間が使う奴か?


 竜の話す言葉って言うのは僕達竜河岸にしか理解できない筈。

 日本語を話すと言う事は一般人にも理解できるって事か?


「左様。

 それは父上の竜でありますよ。

 出前を運ぶ立場上、一般人とコミュニケーションを取れないと駄目だと言う事でありましてな」


「え?

 竜が日本語話すのか?

 珍しいなそれ」


「最初はお客様も面食らっていた様でござるが今ではもう慣れたものでご近所様からも人気でありますよ」


 竜が日本語を話す。

 何か想像しただけで物凄く違和感がありそう。


 でも田中の家のお寿司か。

 食べてみたい気もする。


 ウチは基本母さんがいるしなあ。

 そこら辺の店より母さんの作るご飯の方が何倍も美味いから外食ってあんまりしないんだよなあ。


「ねえ田中氏。

 その竜って寿司握るの?」


「いやいや、寿司職人を志すには長い年月が必要。

 まだまだ見習いだと父上は言っておったでござる。

 最近、ようやく最近魚の目利きを教わった所だと言っていたでござるよ」


 寿司職人はシャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生と言われるぐらい長い修業期間を有する。


 それにしても父親の竜はいつから田中家に来たんだろう?

 少なくとも田中が生まれる前からだろう。


 って事は14年以上修業してるのか?

 それだけ修業してもまだ目利きぐらいしかやらせて貰えないのか?


 やはり竜って言う異生物が修業するとなると人間よりも時間がかかるんだろうか?


 ちなみに田中は家を継ぐ気は無いらしい。

 家はお兄ちゃんが継ぐんだって。


 こうして昼食開始。

 場はおかず交換へと発展して行く。


「あっ!

 竜司っ!

 おばさんの西京焼き頂戴っ!

 私大好きなのよ」


 ヒョイ


 蓮が僕の弁当から魚を味噌で漬けた奴を一つ摘まみ上げた。

 へぇこれって西京焼きって言うのか。


 ってこれ僕も好きなのに。


「ちょっ……

 蓮っ!

 このおかず僕も好きなの知ってるだろっ?」


「いいじゃないケチケチしなくても。

 ホラ、代わりにサンドイッチあげるから」


 パク


 そう言って僕の口へ強引にサンドイッチを突っ込んで来た。

 思わず食べてしまう。


 あ、美味しい。


「蓮……

 これってわさび?」


「そう。

 蒸し鶏とアボカドのサンドイッチ。

 ソースはわさびマヨよ」


 このサンドイッチ。


 トーストになってる。

 噛むと最初に舌へ乗るのは焼いたパンの香ばしさ。


 そこからサッパリとした蒸鶏がアボカドと一体になり、コッテリとした味わいに。

 更にそこへマヨの味わいが混ざり、舌で踊る。


 コッテリが重なってしつこくなりそうな所を鼻にツンと来るわさびが打ち消す。

 これは美味しい。


「うん……

 美味しいよ蓮」


「ありがと」


すめらぎ、いいなぁ……」


「まあまあ篠原氏。

 ここは一つ、我が家自慢の太巻きでも食べるでありますよ」


「おっ、田中くれんのか?

 サンキュー……

 パク……

 モグモグ……

 おっ何だこれ……

 唐揚げか?」


「左様。

 雲竜鮨うんりゅうずし特製唐揚げ太巻きでありますよ。

 これが子供に大人気でございましてなあ」


「モグモグ……

 合わねえって思うけど結構イケるもんだな。

 ほれ、田中。

 じゃあお返しだ。

 これやるよ」


「ほほう……

 これは牛肉とニラの炒め物でありますかな……?

 パクッ……

 モグモグ……

 カァーッ!

 これは一発でスタミナが付きそうな味わいでありますな」


「すまねぇな。

 俺ん家は大体父さんの弁当と同じなんだよ」


「前に言っていた消防官の父君でありますな。

 なるほど。

 消防官の激務であればこのおかずも納得でありますよ」


 田中はシノケンと弁当の交換をしている。


 あれ?

 何だろう。


 少し楽しい。


「シノケン。

 僕もその牛肉炒め頂戴。

 僕の西京焼き……

 だっけ?

 半分あげるからさ」


「おっ?

 お前んちの弁当すんげぇ美味いんだよな。

 いいぜいいぜ、持ってきな」


 シノケンともおかず交換。


「田中君、私もその唐揚げ太巻き頂戴。

 サンドイッチと交換しましょ」


「どうぞどうぞ。

 いくらでも持って行って下され」


「ありがとっ。

 ……パクッ……

 モグモグ……

 あら?

 ホントだ。

 割と美味しいわねぇ唐揚げ太巻き」


「し……

 新崎さん……

 お……

 俺もサンドイッチ貰ってもいいかな……?」


「良いわよハイ」


「いっ……

 いいのかっっ!?

 あっっ……

 ありがとうっっ!」


 何かシノケンが感激してる。


「じゃあ私はこの揚げ物頂戴」


「良いぜっ!

 どんどん持ってってくれっ!」


 何だろう。

 凄く楽しい。


 普通の人からしたら何て事ないのかも知れないけど、こんなたくさんの同級生と昼食を食べた事無かったし、自分が陰キャのオタクだって事は重々承知している。


 僕がそんな友達と一緒に弁当をシェアして昼食を食べる風景なんか想像した事も無かった。


 僕はずっと隅で気の合う友達と趣味の話をしながら過ごすと思っていた。

 真ん中で楽しそうに弁当をわけっこしている陽キャの連中を外から眺めているだけだった。


 別に羨ましいとも妬ましいとも思わない。

 何処か別の世界を見ている。


 そんな感じだった。


 そんな僕がこうして今真ん中の陽キャ達と同じ事をしている。

 これがやってみると楽しい。

 物凄く。


 今まで別世界の出来事だと思ってた事がいざ体験すると物凄く楽しかったんだ。


 この時、僕は人を陽キャだの自分を陰キャだの分け過ぎていたのかなとちょっと自分の認識を改めたんだ。


 キャラはそれぞれあっていいものだけど、僕の場合は陽キャと陰キャで世界を分けてしまっていた。


 そしてその世界同士は交わらないものと決めつけてしまっていた。

 けどそうじゃ無かったんだ。


 ちょっとしたキッカケで隅に居る日陰者も真ん中に立つ事が出来るのかもなと。

 そう思ったんだ。


 やがて昼食完了。

 僕らは魔力技術の練習に入る。



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「蓮、まずどうやって暮葉から逃げたのか教えて」


「まず私はフィールドワークスペースに向かったのよ。

 頂上の一本杉に登って暮葉を観察したわ」


「何でそんな事を?」


 興味があるのかシノケンも積極的に聞いている。

 いつもみたいなたどたどしい感じじゃない。


「暮葉がどんな風に捕まえるのか見たかったのよ。

 もう滅茶苦茶だったわ。

 あの子って基本が私達の魔力注入インジェクト発動した状態なのよ。

 それも効果は数段上の」


 ゴクリ


 僕ら三人は生唾を呑み込む。


「し……

 新崎氏……

 序盤で女子達は軒並み捕まってたみたいでしたが……

 何か特殊なやり方でもあったのでござろうか……?」


 お次は田中。

 確かに序盤でかなりの人数が捕まっていた。


 何か特殊な探知方法があってもおかしくはない。

 例えば魔力を探知出来るとか。


「私もそこを疑ったのよ。

 だからまず外側から解る範囲で観察しようと思ったの。

 結論としては魔力を探知できる訳じゃ無いみたい」


「ほう……

 しかしてその根拠は……?」


「あの子、運動場に立って見渡してたから。

 次々と移動してね。

 魔力を探知出来るならこんな探し方はしないでしょ?

 決定的だったのはジャンプして探してた時ね。

 アレは完全に両眼で探しているわ。

 視力も途方も無いから出来る芸当よね」


「なるほど……

 視認していると言うのであれば隠れる事もやり過ごす事も出来ましょうて……

 それなのに何故、斯様かように次々と捕まったのでありましょうか……?」


「私の勝手な予想だけど、多分ほとんどの人が油断してたんだと思う。

 課目が鬼ごっこだし、捕まえるのが暮葉一人だったからね。

 まさかあんなに速いなんて誰も思わないわよ。

 あの見た目だし」


「さ……

 左様でありますか……」


 語られる内容に言葉を詰まらせている田中。


 龍驤りゅうじょう学院のシャレにならない広さは生徒であれば誰しもが知っている。

 その恐ろしく広大な土地に点在する20人足らずを自身の両脚と両眼だけで捕まえたのだ。


 多分僕らの想像の遥か上を行く身体能力なのだろう。

 何となく場の空気が重たくなる。


「けど、その暮葉さん相手に蓮はあれだけ逃げる事が出来たんでしょ?

 なら僕らでもやれるって事じゃ無いの?

 それに二人共、何しょげてんの。

 何も僕らが暮葉さんとやり合う訳じゃ無いのに」


 まあ二人の気持ちも解る。


 魔力の底知れ無さを垣間見たからだ。

 どこまで底があるか解らないと人間はそれに対して考察停止してしまうもの。


 それはまるで井戸の中を覗き見る様な感覚。


 けど、別に僕らが暮葉さんとやり合う訳じゃ無いんだ。

 相手は同じ学生。


 別に僕らまで魔力の底を覗かなくても良い筈だ。


「そ……

 そうでありましたな。

 失礼をば」


「そ……

 そうだな……

 しかしこんな魔力なんて代物、俺らみたいな何処にでもいる中学生が扱っていいのかよ……」


「シノケンの気持ちも解るけどさ。

 でもその訳解んない魔力を扱える様になってウチのお爺ちゃんとか田中氏のお父さんとかシノケンのお父さんとかが活躍してるんでしょ?

 なら僕らも出来る筈さ。

 それで蓮。

 どうやって魔力を使ったのか具体的に教えてくれない?」


 僕は話を進めた。


「まず私は……

 ルンルから複数回魔力を抽出したわ。

 知ってる?

 複数魔力を取り込んだ時って発動アクティベートのタイミングをズラす事出来るのよ」


 へえ、例えば両腕と両脚に魔力を集中フォーカスさせて脚に発動アクティベートをかけた後に腕の発動アクティベートをかけるって感じかな?


「へえ。

 それって両脚にかけた後、腕にかけるって事?」


「そう。

 それで校舎内で暮葉の動きを何とか躱したの。

 でもその後、信じられない動きをされて捕まっ……」


 あれ?

 蓮の言葉が止まった。


 みるみるうちに何か赤くなって……


 あ、そうか。

 捕まった事を思い出してそこからお姫様抱っこへ連想したのか。


 ええい、めんどくさい奴だな。


「あっっ!

 そうそうっっ!

 蓮っっ!

 そんな何回も魔力取り込んで身体大丈夫なのっっ?」


「えっっ!?

 あっ……

 あぁ……

 身体は特に何とも無かったわ」


 僕は若干声を張り気味に話題転換。

 どうやら上手く行って良かった。


「でもよく僕らみたいな駆け出しの学生レベルで暮葉の動き躱せたね」


「多分それは私のスキルと併用したからだと思う。

 多分魔力注入インジェクトだけだったら無理だったわ」


電流機敏エレクトリッパーと併用したの?

 それは速そうだね」


「その電流機敏エレクトリッパーって何だ?」


「あぁ……

 えっと……

 篠原君なら良いかな?

 電流機敏エレクトリッパーって言うのは私のスキル。

 効果は体内電流の通電速度を変化させる事が出来るの。

 それを使って神経の伝導速度を上げて速く移動する事が出来るのよ」


 蓮が一瞬戸惑ったのは自身のスキル詳細については秘匿するものと言うのが竜河岸内の暗黙のルールとしてあるからだ。


 スキルの詳細が知られるとそこから弱みに繋がる可能性がある。

 従って基本的に竜河岸は誰もスキルの内容は話さないし探りもしない。


 探ると言う事は対象への宣戦布告に近い。

 それだけスキルと言う物は竜河岸にとって大切なもの。


「へえ……

 新崎さんのスキルってそんなんなんだ……

 って俺なんか教えて良いのか?」


 そんなスキルだからこそ、詳細を話す事は友愛の証とする事があるんだ。


「ん?

 良いわよ。

 だって竜司の友達になってくれたんでしょ?」


 蓮、あっけらかん。

 その行為の重さは各竜河岸によってそれぞれである。


 蓮の様に友達になったら簡単に話す竜河岸もいる。


それがしも聞いてしまったが宜しいのでありますか?」


「勿論よ。

 田中君も竜司の友達なんだから」


 グスッ


 ん?

 ヘンな音が……


 うわっ!

 シノケン泣いてるっ!


「シ……

 シノケン……

 どうしたの……?」


「いやよぉ……

 新崎さんが俺の事、友達って思ってくれてたのが嬉しくてよぉ~~……

 グスッ」


「あぁっ!?

 篠原君っ!

 そんな泣く程の事じゃ無いでしょっ!?」


 突然の男泣きに蓮も焦っている。


「すっ……

 すまねぇ……

 グスッ……

 グスッ……

 あぁ、せっかく新崎さんが教えてくれたんだ。

 俺も言わねぇとフェアじゃねえよな。

 俺のはこれだ……」


 カラ……


 そう言うと地面に落ちている小さく短い木の枝を拾った。


必中シュアヒット


 ポイ


 何かシノケンが呟いた後、無造作に枝を放り投げた。

 その瞬間……


 ギュンッッッ!


 ベキィッ!


 投げた木の枝が急激に方向を変え、真っ直ぐベンチの足に激突。

 衝撃で木の枝が折れた。


「これが俺のスキル、必中シュアヒットだよ。

 物を持ってスキル発動した後、それを投げると必ず標的に命中するんだよ」


 へえ、面白いスキル。


 ここで僕の脳内で色々な妄想が掻き立てられる。

 例えばナイフとか持ってスキル発動したら相手に必中する。


 標的を心臓とかに指定したら必殺のスキルになるのでは?

 何か暗殺者向きのスキル。


「へえ、面白いスキルだね。

 何か暗殺者みたいだ」


 思わず心の言葉が出てしまった。


「フフフ、左様でありますなすめらぎ氏。

 根城は九龍城。

 香港裏社会で暗躍する影の殺し屋。

 名は天中殺のケンと言った所でありましょうか?」


「あっ、それカッコイイ」


 田中も同じ様な妄想をしていたみたい。

 いや、田中の方がもう少し深い所まで妄想していた様だ。


 それを聞いていた蓮とシノケンが絶句している。


「……竜司、何アンタ物騒な事言ってるのよ……」


「おい、二人共……

 何か勘違いしてねぇか?

 さっき折れた木の枝、見ただろ?

 このスキルは別に物体の強度とかは上がらねぇし、軌道も変えられねぇんだよ。

 一度妨害すれば解除されるしな。

 それに何だよ暗殺者って。

 ンなマンガみてえな奴居るわきゃねえだろ。

 ナイフ持ってこのスキル発動したらその段階で俺は少年院行き決定じゃねぇか。

 んでそんな物騒な事考えた事ねぇよ」


「フフフ……

 甘い……

 甘いでありますぞ篠原氏。

 世界は広いのでありますぞ……

 絶対、何処かに居る筈でありますよ……

 暗殺者」


「雑な悪魔の証明みたいな事言ってんじゃねぇよ。

 それにそのクソダセェ名前何なんだ」


「ほうほう、篠原氏は天中殺のケンはお気に召さないと……

 しからばグングニルとかでしたら如何でしょう?」


「あ……

 それはカッコイイかも……」


 グングニルって言うのは北欧神話で登場する神槍の事。

 雷神トールが投げたら百発百中なんだって。


 何故シノケンが気に入ったかと言うと好きなバンドが歌う曲で同名があったから。

 まあそんな事はどうでもいい。


「まあ冗談は置いといて。

 シノケン、そのスキルなら魔力注入インジェクトじゃなくてウェアを専攻した方が良いかも知れないね」


「ん?

 何でだ?」


「だって必中シュアヒットって投げる本人の筋力とかには左右されないんでしょ?

 それにスキルをかける対象に魔力を纏わせて投げたら効果は倍増すると思うよ」


「まあ……

 そりゃ確かに。

 んでもよすめらぎ

 俺は別にケンカでスキルを使うつもりはねぇぞ?

 効果を倍増させたら余計、物騒になるだけじゃねぇのか?」


「それこそ使いようだよ。

 例えばお父さんと同じ消防官になったとして救助対象は分厚い壁の向こうとかだとするじゃない?

 削岩機を持って来る時間も無い時とか必中シュアヒットウェアを併用すれば助けられるかも知れないでしょ?」


「な……

 なるほどな……

 そう考えたらアリかも知れん……

 お前、やっぱりスゲェな。

 そんな事まで考えていたんだな」


「い……

 いやいや……

 そんな大した事無いよ。

 でも……

 いや、何でもない」


「???

 何だよそりゃ。

 でもウェアか……

 まだ専攻科目変更、効くかな?」


 僕は言葉を止めた。


 壁を粉砕できるスキルを有しているというのはもの凄く危険な事で使い方を誤れば簡単に犯罪者になるから気を付けてね。


 こう言おうとしたんだ。

 でも止めた。


 何となくお節介な気もしたし、こんな偉そうな事が言える程、僕は人間として出来ているのかと言われても自信が無いからだ。


 僕は浮かんだ言葉を心の奥に押し込めた。


「しからば続いて自分でありますな。

 では……

 手繰ホール・イン


 グググググッッ


 ヒュンッッッ!


 パシッ


 少し離れた所にあった石がひとりでにピクピク動き出し、物凄い勢いでこちらに向かって飛んで来る。

 田中の手に収まった。


「これが自分のスキル、手繰ホール・インでありますよ。

 一定範囲内にある物体を引き寄せる事が出来るのであります」


 田中のスキル。

 初めて知った。


「へぇ。

 田中氏、そんなスキルだったんだ。

 面白いね」


「何か俺のと似てるな。

 物体操作系って言うのかな?」


「御意。

 今まで慣れ合う事はありませんでしたが、自分と篠原氏は案外似た者同士なのかも知れませんな」


「ハハッ。

 バーカ、全然ちげぇよ」


「おやおや、何も照れなくても宜しいでありますのに」


 何だか田中とシノケンの距離感が近い気が。

 これはこれで喜ばしい事なんだけど、うっすらジェラシーも湧く。


「ねぇ田中氏。

 手繰ホール・インってどれぐらいの大きさまで引き寄せれるの?」


「大きさと言うよりかは重量でありますな。

 トロトンの魔力を目いっぱい取り込んで全てスキルに使ったとして50キロが限界であります」


「結構重たくてもイケるんだね。

 それって凄くない?」


「いやいや。

 もちろん今の様に受け止める事は出来ませんですぞ。

 一度試してみて危うく死にかけましたからな。

 ハッハッハッ」


 いやいや。

 笑う所じゃないだろ田中。


 一つ間違えたら自爆する危険性があるスキルか。


「いや、田中。

 笑う所じゃねぇだろ?

 ……ん?

 って事は結構スピードついてたって事か?」


「左様。

 手繰ホール・インで引き寄せる物体のスピードは一定であります。

 今の石と一緒。

 重さは関係無く、このスピードで飛んで来るでありますよ。

 全くもって不思議なスキルでありますなあ」


 本当に不思議なスキルだ。

 確か先生がスキルって地球の物理法則を無視してるって言ってたっけ。


 確かに今のスピードで50キロの物体が飛んで来たら受け止める所か激突して全身骨折するだろうな。


「……多分、田中氏は発動アクティベートを防御に使用する練習した方が良いかも」


「ん?

 すめらぎ氏。

 それは一体どう言う事でありますかな?」


「いや、発動アクティベートを防御に使えたら万が一自分のスキルで自爆してもダメージ軽減できるじゃない。

 あ、発動アクティベートが防御に使える事は確認済みだよ」


「あぁなるほど。

 そう言う事でありましたか。

 それは好都合。

 いや、それがしが相談したかった事でありますが、期末テストをどう乗り切るか知恵を拝借したかったのでありますよ。

 御覧の体格でありますからなぁ。

 しかし、防御の魔力注入インジェクトを習得すれば何とかなるかも知れませんな。

 委細承知」


 確かに田中の虚弱な体格だと模擬戦とかは圧倒的に不利だ。

 防御の魔力注入インジェクトは習得しておいた方が良いと思う。


 こうして練習方針が決まった。


 まずは僕と田中で防御の発動アクティベートの練習。

 蓮とシノケンが複数集中フォーカスによる多段発動アクティベートの練習。


 後半は僕とシノケンで多段発動アクティベートの練習。

 田中は防御の発動アクティベートの練習。

 蓮は田中のフォロー。


「それでいいわよ」


「おう、俺も構わないぜ」


「自分も異論はござらん」


 こうして魔力技術の練習スタート。


 続く

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