200回記念 私立龍驤学院①
「くあ……」
軽い欠伸。
少し寝不足だ。
原因は解っている。
昨日深夜まで特撮を見ていたからだ。
【なーなー竜司ー、だからよー俺は思うんだよ。
何であっこでバロン号をバクハツさせたんだよって話だよ。
ぜってーおかしいだろ?】
隣で元気に話しかけて来る奴は僕の相棒。
ガレアだ。
こいつ竜の癖に特撮が好きなんだ。
昨日も夜遅くまで特撮を見て、話し込んでたから今僕が寝不足になってるって訳。
「知らないよ。
敵に追われてたからしょうがなくみたいな所もあるんじゃないの?」
何で隣に竜が居るのとかどんな特撮とか何で竜と話せるのとかそう言う細かい説明はめんどくさいから省かせてもらう。
とりあえず僕が生きてる世界はそこらに竜が居て、人間と共存してるってだけ知っていて貰えれば。
僕の名前は
そして今は登校中。
白い半袖カッター、青いズボンに身を包んで学校に向かっている。
季節は六月。
晴れてはいるが何とも蒸し暑い。
湿気を多分に含んだ大気が表皮に張り付いて汗が噴き出て来る。
その上、ジリジリと太陽の直射日光が肌に突き刺さる感じがする。
ちょうど衣替えが最近あった。
こんな暑さの中ブレザーなんか着ていたら堪らない。
「おはよーっ!
りゅ…………
う…………
じっっ!」
バンッッ!
「ゲホッ!
ゲホゲホッ!!」
背後から声がかかる。
同時に思い切り背中を叩かれた。
突然の出来事に噎せ返ってしまう。
驚いた僕は振り返った。
両眼に映ったのは両手にカバンを持った女子。
笑顔で立っている。
「蓮……
びっくりするだろ……
やめろよ」
「いつもの猫背になってたから矯正してあげようとしたのよ」
この子は
幼稚園の頃から隣に住んでいる。
いわゆる幼馴染と言う奴だ。
髪はシルバーにほんのり蒼を混ぜた様な色。
型はショートカット。
前髪サイドを肩辺りまで伸ばし、それぞれに可愛らしい小さなリボンの髪留めを付けている。
眼はパッチリと大きく、瞳の色も少し青色が混ざっている。
大きな目と対称に口と鼻は小さい。
体型はスレンダーで腰の位置も高い。
が、蓮のスタイルを言葉で表すならボッキュッボンでは無い。
言わばキュッキュッボン。
そう、胸が若干寂しいのだ。
ロシア人とのハーフらしいんだけどやはり神様と言うものは平等だなあ。
でも蓮はモテる。
やはりハーフなだけのそのルックス。
多少胸が小さくても関係無い。
加えて快活で元気な所が良いともっぱら男子の間で評判。
いつも僕は周りから蓮と幼馴染なのが羨ましいと言われている。
僕からしたら見慣れている奴なのでカワイイとか言われてもピンと来ない。
【竜司ちゃん、勘弁したげてねんっ。
この子ったら不器用だからこんな事でもしないと話しかけられないのよん】
「ちょっ!?
何言ってんのよルンルッ!」
「……別に普通に話しかけてくれれば普通に返すのに……」
蓮の隣にも竜が居る。
鱗が焦げ茶色の竜。
名前はルンル。
口調と名前でメスの竜かと思われがちだがれっきとしたオスの竜。
ルンルはオカマの竜なのだ。
前にアタシの事はDハーフと呼んで頂戴とか言ってた。
DはドラゴンのDらしいけどそれだと人間と竜とのハーフにならないかと思う。
こうして僕らは学校に向かう。
近づくにつれ登校者も増えて行く。
気が付くと周り人間と竜でごった返していた。
全員半袖カッターか半袖ブラウス。
児童からお兄さん、お姉さんまで様々。
同じ学校の生徒だ。
これが僕の日常。
毎日僕とガレアはこの人混みに紛れて登校している。
やがて校舎が見えて来る。
ここが竜河岸専門学校。
私立
僕の通ってる学校だ。
専門学校とは言っているが小中高の一般課程もカリキュラムとして盛り込まれていて卒業したら普通に高校卒業資格が貰えるそうな。
僕と蓮は14歳だから中等部二年。
いわゆる中学二年。
学校到着。
いつ見てもデカい。
馬鹿デカい校舎だ。
竜と人間がいる訳だからしょうがないかも知れないけど。
校門もまたシャレにならないぐらい幅が広い。
乗用車が五台並列してもまだ余裕があるぐらい広い。
「おう!
おはようございます!
やいやい」
校門の脇でスーツ姿の大柄な男性が声を上げている。
先生が挨拶。
いつ見ても大きい身体の先生だなあ。
背も僕の頭2、3個分高い。
肌も
語尾についているやいやいと言うのはこの
通称ゴリ先生の口癖なんだ。
「おはようございますゴリ先生」
「おう!
おはようっ!
お前ら今日も一緒に登校か?
やいやい~~、ええのう幼馴染っちゅうんは。
夏は気持ちが開放的になるからのう。
マチガイなんか起こすなよ。
学生らしい健全な交際をするように」
「ゴッッ……!
ゴリ先生ッッ!
何を言ってるんですかァッッ!」
ボッと赤面した蓮が慌てている。
先生は蓮と僕が付き合ってるって思ってるんだろう。
けど、僕からしたらやはりピンと来ない。
だって昔からずっと近くにいるからどちらかと言うと家族みたいなものだ。
蓮からしても僕みたいなベタなオタクとそんな噂をされても迷惑だろうし。
「やめて下さいよゴリ先生。
そんな訳無いじゃ無いですか。
もしそんな事になったらクラスの男子に殺されてしまいます……」
僕は平然と否定。
それを聞いた蓮が赤面顔をそのままにぷぅっと頬を膨らましてむくれだした。
「れ……
蓮?」
「知らないっっ!
竜司の馬鹿っっ!
死んじゃえーっ!」
【まぁったく、安定のニブチンっぷりねぇ竜司ちゃん。
こりゃ蓮も苦労するわ】
そう言い残し、ズカズカと怒りながらルンルを連れて歩いて行った蓮。
「な……
何だって言うんだよ……」
「ハッハッハッッ!
やいやい。
さあ、お前も早く教室行かんと遅刻するぞ」
「はい」
僕もガレアを連れて教室に向かう。
ちなみにゴリ先生は教えてくれるのは音楽。
趣味で民間オペラ団体に所属してるんだって。
見た目はどう見ても体育教師だけど。
ガヤガヤ
校舎内は生徒と竜が至る所で談笑している。
男子生徒と女子生徒が仲良さそうに話している光景も見られる。
あの二人は付き合ってるのかな?
男子も女子も物凄く幸せそう。
隣にいる竜も笑っている。
何だか近寄り難いぐらいの幸せオーラ。
僕も蓮と話している時あんな感じに見えるのかな……?
ふと過る思考。
同時に思い浮かぶ他男子の怨嗟の顔。
ブルッ!
身震いしてしまう。
いやいやいや。
何を考えているんだ僕は。
僕はただのキモいオタクじゃないか。
ラブコメは好きだけど自分がその立場になるなんてとてもとても。
蓮にはもっと相応しい相手が居る筈だ。
野球部で四番でエースで生徒会長の。
そんな感じのステキ男子が似合うはずだ。
こんなキモオタピザの……
いやピザじゃ無いけど僕なんかじゃ釣り合わない。
ブンブンッ!
僕は頭を振る。
冷静になれ。
蓮は幼馴染だろ。
家族同然だろ。
幸せオーラに充てられて沸き出した妄想を冷静に分析しシャットアウト。
【ん?
竜司、どうしたんだ?
頭をブンブン振ってよ……
あ、オハヨウゴザイマス】
【オハヨウゴザイマス】
すれ違う竜にペコリと頭を下げるガレア。
こうして竜も人間文化を学べる様になっている。
ガレアは人間文化の挨拶を実践したと言う事だ。
「ガレアってさ基本自信満々なのに挨拶の時は頭を下げるんだね」
【ん?
お前らがやってる時、頭下げてんだろがよ。
何だ?
別に下げなくても良いのか?】
「いいいいやいやっ!
頭は下げた方が良いよっ!
うんっ!
ガレアが正解っ!」
ガレアは色んな意味で素直。
本当に素直な
やめろと言えば聞くし、人間社会の習わしややり方を教えれば素直に聞く。
が、強い。
竜の中でも強い方に分類されるらしい。
故郷でもブイブイ言わせてたんだって。
この前も他生徒にぶつかりそうになった時、僕が謝ったら何故謝るんだとしつこく聞いて来た。
ガレアの常識で言うとぶつかりそうになったのは相手がボーッと歩いてたから悪い訳であって且つぶつかってないのだから謝る必要は無いと言う。
けどそれはあくまでも竜の常識。
人間でもガレアの様な考え方の人はいるがどちらかと言うと少数だと思う。
大抵の人はぶつかりそうになったら謝るものだ。
それがどうにもガレアには理解できなかったらしい。
しかも声がデカいから内容が相手にも聞こえたらしくあわや一触即発の状態になりかけた。
色んな意味で危ない奴なんだ。
【な……
何だよ慌てやがって。
合ってんなら良いじゃねぇかよ】
こうして僕らは教室に入る。
2-1 教室
この
廊下も竜と並んで歩けるぐらい幅があるし、この教室も一般人の学校に比べて三倍ぐらいある。
僕の席は窓際後ろから二番目。
あまり友達が居ない僕からしたらベストポジション。
自席に向かう動線上に蓮の席がある。
振り向いた。
あ、また頬っぺた膨らんだ。
まだ怒ってるのかなあ?
こうなると蓮は手が付けられない。
一先ずそっとしておいて後でフォローでも入れておいた方が良いのかな?
こそこそと後ろを通り過ぎ自席へ。
【なあなあ竜司、お前何でこそこそ歩いてんだよ】
ガレアが回答し辛い事を聞いて来る。
「う……
だって蓮が何か怒ってるんだもん……」
【蓮が怒ってんのか?
お前何かしたのか?】
ガレアがキョトン顔。
時折見せる愛くるしい部分。
眼をまん丸にさせて僕に尋ねて来るんだ。
「…………そんなの僕にもわかんないよ」
これはウソ。
蓮が何に対して怒ってるのかは予想がついていた。
ラブコメのアニメなんかで良くあるやつだ。
ツンデレ。
蓮はベッタベタなツンデレなんだ。
さっきの会話の前後からもしかして僕に好意とか持っているのかなとかそこはかとなく期待してしまっていた。
けど、やっぱり僕なんかがって思ってしまう。
最近一段と可愛くなって来たし、本当にモテるんだ蓮は。
かたや僕は猫背でオタクの陰キャ。
やっぱり僕なんかよりサッカー部の主将でフォワードでテストは常に100点の様な男子が似合う。
そう思ってしまう。
ゴメン、さっき言った家族みたいな存在と言うのは建前。
蓮の可愛さ、眩しさに充てられた僕が用意した建前。
自分を護る為の言い訳とも言える。
って誰に謝ってるんだ僕は。
「おーおーこれは
ごきげんよう」
席に座った僕に男子が話しかけて来る。
こいつは田中一郎。
数少ない友達の一人だ。
丸刈り坊主に分厚い眼鏡。
ガリガリに痩せ細った身体。
お嬢様風の挨拶をしているが全く風体に合っていない。
「おはよう、田中氏」
僕も合わせて挨拶。
「そろそろ夏季のアニメが公開されましたでありますな。
目星はつけたでござるか?」
僕の友達なだけあって田中もオタク。
さきのお嬢様みたいな挨拶もそれが原因と言える。
【なーなートロトン。
お前の
【何かオタクのタシナミだってよ。
俺も良く解んねぇ】
田中ももちろん竜河岸。
使役している竜はいる。
鱗の色は鮮やかな黄緑。
いわゆる若草色の陸竜だ。
名前はトロトン。
ガレアと何か仲が良い。
主人同士の趣味が似通うと使役している竜もウマが合うのか。
はたまた鱗の色が同系色だから仲が良いのか。
それは解らない。
「お前らまたオタク話?
飽きねぇなあ」
「おはようシノケン。
いいじゃないか、アニメはどんどん新しいのが出るんだから」
もう一人話しかけて来る。
名前を
あだ名はシノケン。
僕がさっきから言っている野球部で四番でエースでテスト100点だ。
こいつは野球部じゃ無くてバスケ部だけど。
でも一年でレギュラーを勝ち取ったいわゆる勝ち組と言う奴だ。
成績も良く、無論イケメン。
黒髪の短髪。
引き締まった体躯。
キリッとした短い眉に四角い眼。
四角い顎。
爽やかスポーツ系イケメンとはこいつの為にある様な言葉。
正直僕はシノケンをあまり好きじゃない。
何故なら……
「し……
新崎さん……
お……
おはよう」
「何っっ!?
あ……
ゴメン、篠原クンか。
おはよう」
「どしたん?
何か朝からご機嫌ナナメっぽいけど」
「べっ……
別に怒ってなんか無いわよっっ!
ほっといてよっ!」
シノケンは蓮と関係を持ちたいから僕に話しかけている。
そんな気がしてならない。
現に田中には全く話しかけていない。
こう言う事には敏感なんだ。
オタクと言う物は。
「グヌヌ……
この資本主義に踊らされた選民思想のイヌがァァッ……」
当然田中も気付いている。
「おいおい、
新崎さん、何かあったのか?」
「僕もよくわかんないよ」
そんな田中の怨嗟をよそにシノケンは相変わらず友達の様に話しかけて来る。
でもやはり信用が置けない。
依然として田中には話しかけないから。
ガラッ
教室の扉が開く。
教室が広いから物凄く遠い。
「はぁぁあぁ~~~……
怠っ……」
鱗が乳白色の竜を連れて一人の女性が入って来た。
僕らの担任、
髪型は黒いショートボブ。
ヨレついた紺のジャージ。
インナーももちろんヨレついたTシャツ。
着飾ると言うのを忘れた女性。
そんな印象。
眼には精気が一欠片も感じられず、口も半開き。
何か呟いた様な気がしたけど教室が広いから全然聞こえない。
フラフラトボトボと、たどたどしく歩きながら教壇へ向かう。
ガヤガヤ
広大な教室では気付いていない者も多く、未だ談笑がそこかしこに湧いている。
キィーーーンッ!
拡声器がハウリングを起こしている。
「あー……
うっせ……
アー……
テステス……
ジャリ共ーっ……
とっとと席つけなー……
朝礼っぽいの始めっからー……
はぁあぁぁあ~~……
怠っ……」
その病気のせいか大声を出さないから基本拡声器で話す。
ガタガタ
さすがに拡声器を使うと教室が広くてもみんな気付く。
一斉に席に着いた。
…………
…………
静寂。
教壇に立っている
そして両眼が死んだ魚の様になっている。
口も半開き。
下顎に涎が溜まっているのが辛うじて見える。
大丈夫かこの人。
(先生っ……!
堪らず一番前の男子生徒が声をかけた。
「あ……?
あぁあぁ……
イカンイカン……
あー……
バビったぁ~……
瞬間バアちゃんが見えた……
ドチャクソ怒ってたなぁ……
激おこぷんぷん丸だった……
モーソーに怒鳴られるってどんだけメンブレなのアタシ。
ウケる」
生徒の声でブルッと身震いした先生が何かブツブツ言ってる。
良く聞こえない。
【なあなあ竜司。
激おこぷんぷん丸って誰だ?】
ガレアには聞こえたらしい。
って言うか何を言ってるんだ先生。
「えっと……
激おこぷんぷん丸って言うのは人の名前じゃ無くて怒ってる人の事だよ」
(先生……
ち……
朝礼を……)
「あー……
あ、朝礼ね朝礼…………
何だっけ……
あ、そーそー……
今日から魔力技術の実習が始まるからそンつもりでェ~……
あと何かあったっけ…………
ま、いいか……
ほんじゃ、そんな感じでよろ~……
はい撤収ゥ~……」
朝礼と言えるかどうかも解らないささやかな連絡事項を終えた
先生が言っていた魔力技術って言うのは竜が持って来た魔力ってエネルギーを扱う技術の事。
色々種類があって選択科目制になっている。
〇
竜の魔力を使って身体能力の強化を施す技術。
一番技術的に発達している。
色々
珍しい所では
〇
竜の魔力を物体に纏わせる技術。
それにより物が持つ性質を強化、変化させる事が出来る。
刀ならより鋭く。
壁ならより堅固に。
重さを軽くして取り回しを良くする事とかも出来るんだって。
〇
魔力で物質を生成する。
これを専攻する生徒はほとんど居ない。
何故なら授業が恐ろしく地味で地道だからだ。
大体この三種。
僕は
って言うかほとんどの生徒が
ちなみに田中は
理由は虚弱な体質が引っ掛かったから。
魔力で身体強化を施すとそれなりに負担がかかる。
田中の体型では使った途端、疲労骨折の恐れがあるんだって。
それにしてもどんな事を習うんだろ?
ちょっと楽しみになってしまう。
だって
オタクとしてはそんなアニメみたいな技術。
ワクワクしない訳が無い。
僕が胸躍らせていると何か前で動きがある。
気怠そうに出て行ったと思ったのに。
おや?
後ろに誰か付いて来ている。
女の子だ。
さらりとなびく銀髪ストレート。
肌は雪の様に白い。
ファーーンッ!
また拡声器がハウリング。
「あー……
一個忘れてたァ……
ワリーワリー……
今日からァ……
テンコーセー入りやーす……
ジコショーカイ、オナシャス……」
転校生?
六月なんて変な季節に転校して来るなあ。
「えっと……
これって黒板に自分の名前を書くって奴よねっ!
漫画で読んだっっ!」
「あ~~……
うっせ……
「えっ!?
何でっっ!?
何で声出しちゃいけないのっっ!?
貴方おめめが黄色いわねッッ!」
「いや……
アタマに響くんで……
つか前後の繋がりガン無視してヒトの欠点ツッコむのやめてくんないっスか……」
「ん?
ん?
ん?」
「何、ガイジンのニホンゴワカリマセーンみたいなツラしてンすか……
あーもー……
ソレですそれそれ。
黒板に名前書くやつ。
それでセーカイっす。
も、どーでもイんでとっととやってくんないっスか……?」
「う……
うん……
何だか良く解んないけど解ったわ」
何やらわちゃわちゃと前でやってたようだがやはり遠くて解らない。
カッカッカッ
その女の子がチョークを黒板に滑らせる。
天華暮葉
深緑の黒板に白い文字でそう書いてあった。
あま……
はなさん?
「
どうぞよろしくっっ!」
広い教室隅々まで通る大きな声で挨拶。
へえ、天華って書いてあましろって読むんだ。
知らなかった。
それにしても見事な銀髪ストレート。
重さなんか感じないぐらい物凄く柔らかそう。
両眼はパッチリと大きく、瞳は深い紫。
スッと高い鼻。
口は小さい。
あの小さな口で今の大声を出したのか。
物凄く可愛い。
まるでアイドルみたいだ。
真正面を向くと良く解る。
ザワ……
何だか周りが騒ぎ出した。
(オイ……
あれってクレハじゃね……?)
(ワタシ遠いからよく見えないよ~)
(マジで?
あのドラゴンアイドルの?)
(俺サイトで見たもん。
確かプロフィールの本名が合ってる)
え?
マジで?
アイドルが転校してきたの?
まさにそれ何てエロゲ状態。
てか何だドラゴンアイドルって。
(質問ですっっ!
堪らず一番前の男子生徒が質問を投げかける。
自己紹介後、先生まだ何も言って無いのに。
「え?
うんっ!
そうよっ!
私、クレハッッ!」
YEAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
一斉に男子生徒が熱狂を上げる。
(マジでかっっ!
マジでかっっ!
俺、アイドルと同じクラスかよっっ!
マジでかーーっ!)
事実に信じられず、叫び出す男子。
(俺、CD持ってるよーっっ!)
どうやら人気のアイドルらしい。
僕はアイドルは専門外なので知らない。
(キャーーッ!
腰高ーーいっ!
スタイル良いーーッ!
カワイイーーッ!)
女子も騒ぎ出した。
確かに
蓮がキュッキュッボンなら、
(みんな落ち着きたまえっっ!)
そこで騒ぐのを窘める様に一人の男子が声を上げた。
(あぁっ!?
オッ……
お前はっっ……!?
ベッ……
ベンガリィィィーッ!
あの昼夜机に向かって猛勉強の毎日ィッ!
勉強だけが自身の存在理由ゥッ!
常に成績向上の事しか考えていないィッ!
その甲斐あって学年成績18位と言うそこはかとなく良さげな成績の男ォッ!)
何かアニメのキャラ紹介みたいだ。
クイ
かけている眼鏡を直したその男子の名は
身体は程よい肉付きのスレンダー体型。
メガネは田中以上に分厚く、眼が見えない程。
髪型は見事なマッシュルームカット。
あだ名はベンガリ。
名の通り勉強ばかりしている。
いつ見てもカリカリとシャーペンを走らせている。
けど学年18位。
正直パッとしない成績。
学年18位なら凄いんじゃ無いか?
そう思う人も居るかも知れないけど、ここは
他の学校とは違う。
一クラス20人前後。
それが2クラス。
一学年40人ぐらいしかいない。
だから18位と言うのは辛うじてトップクラスと言った成績。
充分凄いのかも知れないけどあれだけ勉強していて18位かーとは思ってしまう。
(全くみんな……
僕らはもう中学二年……
いくら可愛い女子が転校して来たからと言ってみだりに騒ぐなどみっともないと思わないのかいお友達からお願いします)
あれ?
ベンガリの姿が消えた。
と、思ったら
手を差し出している。
まさに一瞬の出来事。
何だ。
結局お前もアイドル好きなんじゃないか。
ベンガリのあだ名が示す様に品行方正な堅物だと思ってた。
しかもやり方が少し汚い。
騒いでる皆を叱る感じの物言いから入り、ノータイムで抜け駆けしやがった。
今ベンガリの動きは目で追えなかった。
気が付いたらもう手を差し出していた。
更に汚い。
こいつ、竜の魔力を使ってやがる。
「フフッ。
良いわよ。
貴方、お名前は?」
(べッ……
ツッ……
ツトムですっ!)
ベンガリがキョドってあだ名を言いかけている。
もしかしてこいつ良いって言われるって思ってなかったんじゃ。
見切り発車かよ。
「ん?
ベッツッツトムくん?
ヘンな名前ね。
あっヒトの事、ヘンな名前って言っちゃダメだったっけ。
えーとえーと……
メズラシイ名前ね……
で良かったっけ?
よろしくね」
何だかヘンな返答をしている
けどベンガリの顔はゆるゆるに綻んでいる。
(ハイッッ!
こちらこそよろしくお願いしますっっ!)
素早く頭を下げたベンガリ。
いいのか?
お前の名前ベッツッツトムとか言う何人か解らない名前になってるぞ。
(何ィィーーッ!?
あのベンガリに先を越されただとぉぉぉぉッッッ!?)
(俺も俺もォッ!
俺はタカシですっっ!
友達になって下さいっ!)
(俺はコウイチですっっ!)
ベンガリの行動を皮切りに次々に男子が
ガヤガヤ
場は騒然となる。
こりゃ大騒ぎだ。
収集付かない。
「…………
ギュンッ!
ギュギュンッッ!
ギュンッッ!
人だかりが弾ける。
見ると
先生のスキル、
物質を同一方向に平行移動する事が出来る。
「……はい……
モチツケー……
ジャリ共ー……
盛った犬みたいにキャワワな女子に群がんなっつー……
あと狩野ー……
お前、今
校則違反だから今日居残れー……」
(フッ……
あのクレハと友達になる事が出来たんだ……
居残り補習ぐらいいくらでも受けてやるゥッッ!
わが生涯に一片の悔い無しィッッ!)
ベンガリが吠えている。
「あー……
ちな、ホシューやんのアタシじゃないからなー……
常にダリーのにホシューなんかやってらんねーっつー……
魔力使用違反の補習は
よろー……」
(わっ……
我が生涯に……)
こいつ、補習は
言い直し、且つ言い淀んでいる。
最後まで言い切れよ。
わが生涯に一片の悔い無しって。
基本無気力な
正直かなり怖い。
要するにやめときゃ良かったってベンガリは思ったんだ。
「あー……
怠……
……そーそー……
ジャリ共ー……
ちょお聞けー……
え?
(え?)
(え?)
(え?)
何ィィィィィィィィィィーーーッッッ!!!?
広い教室に響き渡る絶叫。
(何でなんスかァァーッッ!?
先生ーっ!?)
(
バンッッ!
「ちょっっ……!!
私と竜司はそんなんじゃないってばっっ!」
場外から事の顛末を眺めていた蓮。
あらぬ所から飛び火。
勢い良く席から立ち上がり、ツンデレ常套句を叫ぶ。
(不公平だァッッ!
横暴だっっ!
我々は断固抗議するゥッッ!)
ベンガリも喚き散らしている。
(何でなんスかァァッッ!?
理由をォッ!
理由を教えて下さいよ先生ィッッ!!)
「あー……
うっせ……
何……?
んで新崎はドチャクソキャワワじゃん?
ならそこに一人キャワワな女子、足してハーレム状態にしたらウケるんじゃね?
つって……」
え?
何?
僕、とばっちり?
つってじゃないでしょ先生。
BUーーーーーーッッッ!!!
広い教室が割れんばかりの大ブーイング。
何で僕がこんな目に逢わないといけないんだ。
頭が痛くなって来た。
【なーなー竜司。
みんな何騒いでんだ?
俺よくわかんねぇぞ】
「ごめんガレア……
ちょっと黙ってて……
頭痛くなって来た……」
BUーーーーーーーッッッ!!!
依然として止まないブーイング。
「あー……
うっせ……
アホ共はガン無視でイんで……
あっこの席に座って下さい……
ほんじゃ、あとよろー……」
ブーイングの中、まるで意に介さず
近づけば解るそのルックス。
かなり可愛い。
「ここで……
良いのかしら?
よろし……
え?
もしかしてガレアッッ!?」
何でガレアの事、知っているんだ?
【ん?
何だお前。
俺はお前なんか知らないぞ】
ガレアは
「私よ私ーっっ!
アルビノよーっ!」
【ん?
アルビノ?
誰だそれ?】
「何よーッッ!
忘れちゃったのーーっ!?
よくマクベスと一緒に花畑に行ったじゃないーーッッ!」
また知らない名前が出て来た。
【ん?
マクベスは知ってるけど、そん時一緒に居た奴はアルビノって奴だぞ】
知ってんじゃん。
時々ガレアが解らない。
「だから私がそのアルビノだって言ってんのーーっっ!」
【えーっっ!!?
お前アルビノかっ!?
どっからどう見ても人間じゃねぇかっっ!?】
ガレアが驚くのも無理は無い。
翠色の翼竜。
その前に居るのは銀色の綺麗な長髪をなびかせている女の子なのだから。
「これ魔力で変えてるのよ。
何てったって私は今アイドルなんだからっ!
フッフーンッッ!」
何だか得意げに胸を張っている
……って事は元は竜で姿を人間に変えてアイドルをやってるって事か。
なるほど。
だからドラゴンアイドルか。
てか魔力ってそんな事も出来るのか。
【ハイドルって何だ?
食いもんか?
肉か?】
本当に
何でわざわざ故郷から出て来て食い物になるんだ。
って言うか友達が食い物になるとか言い出したらゆっくり休めと言う所だ。
「違うわよーっ!
歌とか歌ってみんなを元気にしてあげるのよっ!
それがアイドルッッ!
ねっ!?
みんなっ!?」
クルッと後ろを振り向く
ふわりとたなびく銀髪。
ひらりと舞い上がる紺のブリーツスカート。
YEAAAAAAッッッ!!
周りの生徒が歓声をあげる。
当然ガレアと
後ろ姿しか見えないが多分キラッキラの眩しい笑顔なんだろう。
(クレハーーッッ!
いつも歌で元気貰ってるよーっ!)
(キャーーッ!
クレハ可愛いーーっっ!)
ガララッッ……
歓声に紛れて微かに扉が開く音が聞こえた。
(な……
何だ……?
この騒ぎは……)
先生が入って来た。
(あっ先生来たっ)
ドタドタ
みんなも次々に座り出す。
「あっ……
確かジュギョーって言うのが始まるのねっ……
えっと順番、貰ってたっけ……」
ゴソゴソ
何やら
順番って時間割の事かな?
「い……
一時間目は……
げ……
現国だよ……」
「ん?
確かゲンコクって昔のお話をベンキョーするのよねっ!?」
「う……
うん……
まあ、そんな感じ。
教科書持ってる?」
「うんっ!
持ってるっ!
ありがとう……
えっと……」
あ、もしかして名前かな?
「
「ん?
ん?
スメレギ?
スムロゲ?」
「
ス・メ・ラ・ギ」
「何だかよくわかんない。
もういいや。
貴方の事は竜司って呼ぶねっ」
「う……
うん……」
別に合っているから良いんだけど。
だけど、早くも名前呼びか。
これが新たな火種にならなきゃ良いけど。
ピーッ!
ピーッ!
何だか前の方で警報みたいなのが鳴ってる。
また先生、拡声器のボタン押し間違えてるのか。
(あ……
間違えた……
アーアーッ!
後ろの生徒ーっ!
声、聞こえてますかーっ!?)
(大丈夫でーすっ!)
(はーいっ……!
じゃあ教科書37ページを開いてーっ!)
一時間目開始。
授業は淡々と進む。
【なあなあ竜司。
何でコレ、白黒なんだ?】
ガレアが教科書を指差している。
作者の写真だ。
「ん?
あぁ、この頃はまだ白黒写真しか無かったからね」
(あーっ!
何かありましたかっ!?
竜からの質問ですかっ!?)
先生は大声を出しているけど、別に怒っている訳では無い。
教室が広いからだ。
「はいっ!
何故写真が白黒なのかと聞いていますっ!」
竜からの質問があった場合は先生に報告する。
これも
竜が抱いた疑問に関しては学院側。
言わば先生に答えさせるのだ。
沸いた疑問に正しい知識で回答する。
これが人間が竜に対する姿勢だと示したいんだって。
(はい、君はガレア君でしたね。
日本で初めてのカラーフィルム。
よく見る色鮮やかな写真を撮る物です。
それが発売されたのは1941年と言われています。
ガレア君達がやって来て少し経ってからですね。
教科書の写真はそれ以前に撮られた物と言う事です)
【ふうん。
何で色付けたんだ?
シャシンってカタチが解りゃいいモンじゃねえのかよ】
(
「はいっ。
ガレアは何で色を付けたのかが解らないと言ってますっ!
写真は形が解ればいいんじゃないかってっ!」
(……
人間は竜と違って短命です。
短命だからこそ次の世代に残しておくものは出来るだけそのまま伝えたい。
だから写真に色を付けた。
色が付いている方がどんな色だったのかとかも解りますし、人の細かい表情とかも正確に残せますからね。
カラー写真を発明した人は次の世代へ正確に情報を残したい。
そんな想いで作ったんじゃないのかなって思います。
詳しい歴史とかについては社会の先生に聞いて下さい。
僕は現国の教師なんで)
先生は一般人。
竜の言葉は解らない。
唸り声にしか聞こえないらしい。
竜の言葉を理解できるのは僕たち竜河岸だけなんだ。
だから間に入って通訳する必要がある。
現国の先生らしい回答だ。
【確かに人間ってすぐ死ぬもんな。
ケタケタケタ】
そこ!?
このガレアの返答を聞いた時、僕の脳裏に浮かんだ言葉。
先生、結構長めに良い事、言ったのに。
周りの生徒も似たような反応。
若干ひいている。
【相変わらずガレアちゃんってばイモねえ。
今あのメンズティーチャーがナイスな事を言ったってのに。
なかなかあのセンセ、アタシの好みだわぁん。
ウフン】
ルンルはガレアと違って世知に長けている。
人間の慕情や情緒等も理解する稀有なオカマの竜。
先生に向かってバチンとウインク。
全然可愛くない。
(あ……
あの……
何か
ガレア君は何と……?)
「あ……
あの……
えっと……
人間って大変素晴らしい生き物だなって……
言ってます……」
全然違うだろ!!
声には出さないがそう言う意向が目に見えてわかる表情の周り。
けど、本当の事は言い辛くてしょうがない。
(あ……
あぁ……
そうですか……
なら授業に戻ります)
こうして一時間目終了。
休み時間
(ねぇねぇっ!
貴方、竜なんでしょっ?
どうやって人の姿になってるのっ!?)
「ん?
魔力を使ってよ」
(えーっ!?
いいなぁ~っ。
私も魔力があったらこんなにカワイクなるのかしら?
魔力実習受けたら出来るかなぁ?)
(ムリなんじゃ無い?
アンタ普通に
やっぱり体内で魔力生成できるぐらいにならないとダメでしょ?)
「フフフ、ありがとう」
休み時間になったら
主に集まって来るのは女子。
さっきあれだけ騒いでいた男子は遠巻きで見てるだけ。
それとも周りの女子達が巻き起こすピンク色オーラに気圧されているのか。
気持ちは解る。
僕だって無理。
こんな女子ばかりの所に突撃して話しかけるなんて絶対無理だ。
(それにしても
活動しながら学校通うの?)
「うん。
何かこれも仕事なんだって。
私はタンキリューガクセーってのなんだって」
(タンキリューガクセー……
あぁ、短期留学生ね……
ってええっ!?
そうなのっ!?
じゃあ
あ、そうなのか。
「違う所って言うか……
またアイドルに戻るだけ?
このお仕事を受けたのもマス枝さんが人間社会の事を学ぶいい機会だからって。
あ、マス枝さんって私のマネージャーさんね」
(はぁ~~……
ホントに雲の上の人って感じね
「ん?
私、翼竜だから飛べるけど、今は貴方達と一緒に地面を歩いてるわよ?」
いや、そう言う意味じゃないだろ。
女子達から押し寄せる圧迫感に肩身を狭くしながら隣で会話を聞いていた僕は心中でツッコむ。
(いや、そう言う意味じゃなくてね……
私たち庶民とはかけ離れた生活をしてるって言ってるの)
「ん?
ん?
離れてる?
よくわかんない。
私はこうして同じ目線で話してるし。
ホラ、こうして……」
そう言う
(えっ?
えっ?)
突然の出来事に握られた女子も戸惑う。
「握手も出来るっ!
何にも離れてないわよ私たちっ!」
一瞬静寂。
「…………プッ……
ククク……」
何処かから笑い声。
聞き覚えのある声。
「えっ!?
私、何かヘンな事言ったっ?」
「……ククク……
いや、何にもおかしな事は言ってないわ。
確かに
私達と貴方は全然離れてないね」
「でしょーっ?
エッヘンッ!」
フンと鼻息荒く得意げな
エッヘンって口で言う人初めて見た。
いや、竜か。
「フフッ。
短期って事は一学期で終わりかしら?
短い間だけどよろしく。
私は
蓮って呼んでね」
「よろしく。
私の事も暮葉で良いわよ。
「フフフ、モキュモキュって何よ」
「モキュモキュはモキュモキュよーっ!
蓮、解んない?」
「何となくしかわからないわよ。
ウフフ」
「アハハ」
先程
それはあくまでも物量により積み上げられたもの。
だが、今は違う。
物量は少ない。
たった二人。
しかしその二人の持つ圧倒的なポテンシャルに先程よりも強いピンクフィールドが形成された。
何かさっきよりも暖色が強まり、且つキラキラ輝いている。
その二人とはもちろん蓮と
キャッキャウフフとアイドル並みのルックスの二人が話しているのだ。
あまりの眩しさに直視できない。
(な……
何かすげぇなあの二人……
まるでドラマのワンシーンみてぇ……)
うん、その気持ちは凄く解る。
(お……
俺……
この
上はバケモンの竜河岸ばかりって聞いてたから……
どうなんのかなって思ってたけど……
この学院に来て……
良かった……)
泣いてる!?
そこまでか!?
こうして一時間目後の休み時間は幕を閉じる。
二時間目、三時間目、四時間目と授業は進んで行った。
昼休み。
中学って給食があるって聞くけど、僕は小学校でしか給食を体験した事が無い。
この
私立だから給食制度は無い。
給食かぁ。
二年しか経ってないけど何か懐かしい。
何かマズい物はとことんマズいけど、美味しいのはシャレにならないぐらい美味しかった。
カレーなんてその典型だ。
給食のカレーは本当にシャレにならないぐらい美味しかった。
しかも給食のカレーは給食でしか食べれない。
店などでもお目にかかれないんだ。
一度何でか母さんに尋ねた事があった。
僕の母さんは医者だけど、料理が物凄く美味いんだ。
作る料理がどれも途方もなく美味しい。
その母さんに何で給食のカレーが美味しいか聞いてみた。
すると……
「ンなモン、ぎょうさんいっぺんに炊いとるからに決まっとるやろ。
煮込み料理言うんは炊く量が多い方が美味しなるんやで」
だって。
確かに給食って全生徒の食べる訳だからいっぱい作るわなと納得したものだ。
そして今現在、僕は毎日母さんの作ってくれた弁当を食べている。
これがまた美味しいんだ。
おにぎりはお米が立っているし、フライ系は冷めても衣がサクサクしている。
一体どうやって揚げてるんだろう?
卵焼きなんて噛むと口の中で溶ける。
もうここまで来ると訳が解らない。
訳が解らないぐらい美味しい。
これを毎日食べれる僕は幸せ者だ。
【おい、竜司。
行こうぜ。
また買ってくれよ】
「わかってるよ」
ガタッ
そんな僕が席を立つ。
割と充実していてお菓子なんかも売ってたりする。
勉学に勤しむ筈の学生にお菓子なんて販売してるのかって思うかも知れないけど、これには理由がある。
それはお昼を用意している筈なのに僕が席を立って購買部に向かう理由でもある。
ギャーギャーッッ!
(おばちゃーーんっっ!
俺、カレーパンッッ!)
【オラァッ!
ケンタァッ!
クリームパンは買えたのかよッッ!】
(あぁっ!
ゲットしたぞっっ!)
(私っっ!
ハニートーストッッ!)
【ケイコったらそればかりネェ】
(コロッコうるさいっ!
美味しいんだもんっ!
しょうがないでしょっ!)
竜と人間の声が入り混じるまさに異種混合のるつぼ。
まるで死肉に群がるハゲタカの様だ。
どこの学校でも昼の購買部と言うのは似た様なのかも知れないけど、これだけ色んな色彩でごった返してる景色なんてなかなか見れないだろうな。
赤、青、緑、紫と目が痛い程。
全部竜の鱗の色だ。
僕の目的地はその戦場では無い。
売り場は別だ。
ガヤガヤ
だが、別の売り場も賑わっている。
【なあなあうまい棒買ってくれよ】
(はいぃっ!
わっ……
わかりましたぁっ!
どっ……
どれだけ買いましょうかっっ!?)
【百本】
何だかあの人は自分の竜にビビっている様だ。
まるで人間がパシリの様になっている。
そして竜も平然と業者レベルの本数を要求してる。
竜って輩は人間が創り出した色々な物が好きなんだ。
さっきのクリームパンを要望していた竜はそれが好きなんだろう。
竜が地球に留まっている理由は人間が創り出した色々な物が好きだからだって。
それで割と多いのがお菓子が好きな竜。
うまい棒を大量に要求している竜もそうだ。
これが
(ひゃっ……
百本ンッッッ!?
そっ……
そんなにも流石に置いてませんヨォッ!)
【何だよ。
またねぇのかよ。
何本ぐらいあんだよ】
(えっと……
せいぜい十本ぐらいかと……
あっっ!!?
でも、エビマヨネーズ味と納豆味がありますよっっ!?)
へぇ、うまい棒は僕も時々食べるけど聞いた事無い味だ。
【おっっ!?
それ食った事ねぇぞっ!?
しょうがねぇなあ。
じゃあ今日はその十本で我慢してやるぜ】
(あ……
ありがとうございます……
タハハ)
ここは主に飲み物やお菓子類。
ノート等の文房具が販売されているブース。
いつも昼時はお菓子売り場が賑わう。
僕の目的地もそこだ。
別に昼にお菓子を食べる訳じゃ無い。
大抵は使役している竜の要望で出向いている人がほとんど。
僕もガレアの要望で昼は購買部に出向く。
【んっふっふっ~~♪
ばっかうっけばっかうっけ~♪】
ガレアが鼻歌混じりに嬉しそうだ。
ガレアが好きな物はばかうけ。
■ばかうけ
栗山米菓が製造している米菓。
1990年から発売され、15年以上のロングランヒット商品。
細長いバナナの様な形。
定番味として青のり醤油味、ゴマ揚げ味、チーズ味、青のりソース味がある。
関西では最初全く売れなかった。
名前に“ばか”が入っているからでは無いかと考え、商品名を一時ええやんかに変えたが、これが完全にダダスベりし元通りに戻したと言うエピソードがある。
ガレアの好きな味はチーズ味とゴマ揚げ味。
「どうすんの?
また三袋ずつ?」
【おうっ!】
ガレアは元気に返事。
こいつ身体がデカいからいっぱい食べるんだ。
「あ……
両方共、一袋ずつしか無いや。
これで我慢してよ」
大体、ばかうけが常時各味三袋も販売されている店なんてスーパーぐらいしか無い。
【何だよしょうがねぇなあ。
んじゃ竜司、帰りに買ってくれよ】
「わかったよ」
こうして僕らはばかうけを一袋ずつ買って教室へ戻る。
2-1 教室
教室に戻って来る。
ガヤガヤ
既にみんな昼食を食べていた。
ガタガタ
僕は自席に戻り、弁当と椅子を持って移動。
「おーこれは
先に始めておりますよ」
「うん、毎日毎日大変だよホント」
「ハッハ。
そんな事を申されるな。
ガレア氏はまだマシでござるよ。
拙者の方は脂身でござるから終始脂臭くてしょうがないでござる」
【何言ってんだよイチ。
こんな美味ぇモン他にねぇだろ。
モニュモニュ……
なぁガレア?】
黄緑色の竜が脂身をパクリと食べて口を動かしている。
イチと言うのは田中の事。
【んなムニャムニャな肉の何が美味いんだ。
ばかうけの方がぜってー美味い……
ポリポリ】
かたやガレアは買いたてのばかうけをさっそく食べている。
【解ってねぇなガレアは。
あっ、お前アレだろ?
アジ……
アジ……
アジメンチって奴だろ?】
トロトンが妙な事を言い出した。
アジメンチって何だ?
【何だそりゃ?
何か美味そうだな。
竜司よオイ。
確か一昨日食ったのってメンチカツだったっけ】
竜ってのは本当に妙な言い間違いや勘違い、思い込みが多い。
そう言う時は前後の会話とかで何を言いたいか導き出すんだ。
ちょっとしたナゾナゾ感覚。
素直なガレアは先日の晩御飯だったメンチカツを思い出している。
「う……
うん。
…………
あ、これだ……」
僕の頭の中で解が浮かぶ。
多分トロトンが言いたいのはこれだ。
「ねえトロトン。
多分それって味音痴じゃないかな?」
【おうっ!
それだそれそれ。
リュージ、お前はイチより賢いな】
「ハッハ。
トロトン、
田中と言う人間。
性格は大らかで友達想い。
趣味は差別を受けそうなオタク趣味だけど、基本人間が出来ている。
僕と蓮の距離感も知っていて特にやっかむ訳でも無く見守ってくれている。
本当にいい奴なんだ。
【なあなあ竜司。
アジオンチって何だ?】
「えっと……
味の解らない奴だって言ってるんだよ」
【何だそりゃ。
美味いもんは美味いだろがよ。
……ポリポリ
……美味い】
ガレアには揶揄された事が解って無いみたい。
【……モニュモニュ……
何で人間って三回しかメシ食わねぇんだろうな。
こんな美味いモンならずっと食ってりゃいいのに】
【それは解る。
何でずっと食ってたらダメなんだろうな】
「それは食事と言う行為が人間が生きる上でのリズムを作る為って言う部分もあるからだよ」
「
我々人間は一日三回食事をする事によって生きるリズムを養っているでござるよ」
【ふうん、そんなもんか】
おっと、話し込んじゃった。
僕も早くご飯を食べよう。
お腹もペコペコだ。
カパッ
パクッ
弁当箱を空けて、おにぎりをパクリ。
相変わらず母さんのおにぎりは最高だ。
噛むと解ける様に米粒が口の中でバラける。
絶妙な塩加減。
本当に美味い。
「竜司っ。
蓮根の煮物ちょーだいっ」
後ろから急に声がかかる。
同時に肩口から伸びて来る白くて細い手。
弁当箱から蓮根を摘まみ、引っ込んで行く。
僕は特に驚かない。
その手の持ち主が誰か解ってるから。
「もう蓮。
行儀悪いよ」
僕は振り向かずつまみ食いをした蓮を窘める。
「いーじゃないっ!
私、おばさんの煮物好きだもんっ。
モグモグ……
本当に美味しいなあ。
どうやったらこんなに上手に煮含めれるんだろ……」
朝はむくれ面で怒っていた蓮。
今はどこ吹く風だ。
特にフォローは入れていない。
このすぐに感情が切り替わる解り易さ。
(これはこれは新崎氏。
宜しければご一緒に昼食でも
「あー……
ゴメン田中君ッ。
私、もうお昼食べちゃった……
タハハ」
普通、蓮ほどのルックスがあれば話すのに気後れするものだ。
けど田中は普通に接する。
それは蓮が人を選別して態度を変える様な奴じゃ無いと言う点。
そして僕と蓮との繋がり。
この二点のお陰で田中も普通に接する。
が、蓮が他女子やシノケン等と話している時は話しかけない。
蓮と話すのは僕が居る時だけだ。
「もう、そんなにたくさん食べると太るよ」
「なぁんですってェェッ!?」
ギリリリィッ!
「イタタタタタッッ!」
蓮が思い切り僕の耳を引っ張って来た。
凄い力。
やめてやめて。
耳が千切れる。
もげる。
「ハッハッハ。
これは
可憐な乙女にその言葉は少々行き過ぎでありますよ。
新崎氏が怒るのも無理はありますまい」
「そっ……
そんな事言って無いで助けてよぉっ!
イタタタタタッッ!
もげるもげるぅぅぅっっ!」
依然として強烈な力で耳を引っ張り続ける蓮。
「しょうがないでござるなぁ。
新崎氏、そのぐらいでどうかご勘弁を。
意中の相手にはいつも綺麗に見られたいと言う乙女心は察しますがそれ以上やれば本当に耳が取れてしまうでござるよ」
バッ
田中の言葉にパッと手を離す蓮。
「なななっっ……
何言ってんのよ田中君っっっ!
わたっ……!
私は別に竜司の事なんか何とも思って無いんだからぁぁっっ!!」
本当にベタな。
ベッタベタなツンデレ。
多分。
いや十中八九、蓮は僕の事を好きなんだろう。
おそらく僕が告白したらOKしてくれると思う。
でも僕は行かない。
いや、行けない。
何となく相手の気持ちを察した上で行くと言うのが打算的な気がするし、気付いていると言うのは多分顔に出る。
それでもし。
万が一勘違いだった時のダメージは計り知れない。
それに僕は僕を知っている。
僕がどれだけ気持ち悪い雰囲気なのかを知っている。
周りに理解されない趣味を持って。
猫背で。
陰気で。
初対面の人と話すと緊張で顔が強張って上手く話せない僕が。
こんな立っているだけでキラキラ輝いている蓮と釣り合う訳が無い。
(おう何だ
まだメシ食ってんのか?)
シノケン。
こう言うバスケ部でレギュラーで色んな意味で100点満点の男が似合うに決まっている。
けど……
(新崎さん、どうしたんだよ。
顔、真っ赤だぜ?」
シノケン。
こいつに蓮をやるのは嫌だ。
僕は何も返答して無いのにもう蓮に話しかけている。
そして例に漏れず田中には話しかけない。
こいつのこう言う所が堪らなく嫌だ。
確かにシノケンは100点の男かも知れない。
けど僕は100点は付けない。
絶対に。
僕にとっての100点は田中一郎。
こう言う男だ。
「しかして
今度のマジキョアオールスターズの映画はいつ見に行くでござるか?」
いや、100点は言い過ぎかな?
60~70点ぐらいかな?
ちなみにマジキョアとは日曜にやっている女児向けの魔女っ子アニメ。
いや、僕も嫌いじゃ無いから見てるんだけど。
「えぇっ!?
そっ……
そうかなっ!?
しっ……
篠原君っ……!
何言ってるのっ!
私は普通よっ!」
まだ赤面している蓮は自分の顔をペタペタやっている。
僕が蓮に告白しない理由はその先が解らないからと言うのもある。
今まで家族同然の関係だった蓮と僕。
それがいざ付き合うとかなったら、どうなるんだろう。
想像がつかない。
それに僕自身も本当に蓮が好きなのかもハッキリしない。
だって僕は中学二年。
まだまだ人生経験が未熟。
自分の中の感情でどれが好きなのか確信が持てない。
だから告白しないんだ。
いや……
違う。
要するに勇気が無いだけだ。
未知に対する恐怖。
断られる恐怖。
それに打ち勝つための気持ちも自分の中で解らない。
そんな状態で告白なんて大事を成し遂げられる自信が無い。
ほとほと自分のこういう部分は好きになれない。
(そうかい?
なら良いけどな)
(おーいっ!
シノケンーっ!
先輩が呼んでるぞーっ!)
教室の入り口で他生徒が声を上げている。
(おうっ!
今行くっ!
来週、練習試合があるんだよ。
よっ……
良かったら新崎さんも……
応……
援……
に……
来てくれると嬉しい……
かな?
……なんて)
別にお前の予定は聞いてないだろ。
陽キャに似つかわしくないキョどった誘い方をしている所は可愛げがあるかも知れない。
けどやはり何故田中には話しかけないのか。
少なくともそこの真意が解らないと絶対に信用できない。
もともと陽キャのシノケンと陰キャの僕じゃ蓮と言う媒介が無い限り接点は無いが。
「あぁゴメン篠原君。
日曜は部活があるから行けないわ」
(あ……
あぁそうだよね……
じゃあ俺行くわ……
また良かったら試合見に来てくれな……
じゃあ)
そう言ってシノケンは去って行った。
蓮は陸上部で短距離選手なんだ。
僕は特に部活に入っていない。
帰宅部。
学院ではそんなに力は入れていないけど一通りの部活はあり、みんな入っている。
もちろん一般の学校に混じって練習試合や大会にも出場している。
竜河岸なんて超能力を持っている連中が一般人に混じって大丈夫かと思うかも知れないけど、対外活動で魔力を使用したら罰則が設けられているんだ。
しかも結構重めの。
もちろんそれは練習試合も含まれている。
だから部活に関してはそこらの一般学校と変わらない。
みんな自分の身体一つでやっている。
それは多分シノケンもそうなんだろう。
まあどうでもいいけど。
じ~~~~~
ん?
何か視線を感じる。
背後から。
じ~~~~~
何だろう?
僕は振り向いた。
「…………
あ……
あの……
何か?」
僕をじっと見ていたのは
白い両手をちょこんと机に置き、その上に小さな顔を載せて僕を凝視している。
何かポーズが可愛い。
「ねえねえ蓮」
「えっ……
あっ……
どっ……
どうしたの暮葉?」
まだ赤面が取れ切れてない蓮。
「貴方、もしかして竜司の事がスキなの?」
ブッッッ!!
何か出た。
どストレート。
ど直球。
机に載せた小さな顔が真っ直ぐ蓮に問う。
ボッ
治まりかけていた蓮の赤い顔が更に赤くなる。
「ななななァァッ…………!
何言ってんのよ暮葉っっ!
私がこんな猫背で暗いオタクを好きになる訳無いじゃないぃぃっっ!」
カチン
確かに間違っていない。
僕は猫背で陰キャのオタクだ。
けど……
だけど。
こう明け透けに言われるとカチンと来る。
「何だよ……
僕だって蓮みたいに乱暴でガサツな女の子はゴメンだよ」
「なぁんですってェッッ!!?」
「何だよッッ!」
ガタッッ!
僕は席から勢いよく立ち上がる。
立ち上がりながら少し後悔。
別に蓮は乱暴でもガサツでも無い。
朝の挨拶はどう声かけようか迷っていたからだと言う事も解っている。
快活でカワイイ素敵な女子だと言う事も解っている。
蓮も本気で僕を蔑んで言って無い事も解っている。
これは売り言葉に買い言葉。
幼馴染の距離感からか本意で無いと解っていてもカチンと来てしまう。
立ち上がった僕は蓮と睨み合う。
距離にして5センチ強。
すぐ目の前に蓮の蒼い瞳がある。
キッと眉を谷型にして僕を睨んでいる。
「あわわ……
あわわ……」
田中が狼狽えている。
学校で僕と蓮がケンカする所なんて見せた事が無いからだ。
【アラアラ。
ここで認めときゃ楽だったのにネェ】
「ん?
貴方、蓮の竜ね。
私の言ってる事おかしいかしら?」
【いんえぇ。
貴方の言ってる事は合ってるわん。
どうにも人間ってメンド臭い生き物なのよぉん。
要するに好きだってバレるのが恥ずかしいのよ】
「ん?
ん?
スキって恥ずかしい事なの?
漫画で読んだけど物凄く嬉しそうだったわよ?
貴方、オスなのに何でそんなに人間のお化粧してるの?」
【ア……
アンタ、結構自由な竜ね……
アタシの化粧は好きだからやってんのよ】
何か話題が妙な方向に転換された。
「ん?
ん?
確か人間のお化粧って女の人がやるものでしょ?
何でメスじゃ無い貴方がしてるの?」
【……アンタ、自由な上に結構メンド臭いわね……
アタシが好きなのは人間社会で力強く生きてるオカマちゃん達よ。
芸能界に居るんだったらアンタも知ってるでしょ?】
「あぁ!」
何やら思い出した様な閃いた様な顔をしている
「あの男の人なのに女の人みたいな格好しているヘンな人達の事ねっ!」
【な……
何か若干引っかかる言い方してるけどそんな感じよ】
「へー、本当に色々な竜がいるわね。
この二人はキスするの?」
ビシッ
ルンルと話していた
唐突に僕らを指差した。
僕と蓮は依然として顔を近づけたまま。
【竜司ッ!
お前キスすんのかっ!?
あの不思議な奴ッッ!】
何でガレアがここで入って来る。
【なーイチー。
キスってアレだろ?
口同士くっつける奴だろ?】
「た……
確かに合っているでござるが……」
【アハハッ!
良いわねソレ。
蓮ーっ?
もうメンド臭いからそのまま竜司ちゃんのファーストキス奪っちゃいなさいよ。
既成事実って奴ねん】
「ねえねえ、キスするの?
キスするの?」
顔を近づけた僕らを凝視している
わくわく
そんな感情が表情から溢れている。
あ、顔が。
顔が熱い。
「するかーーーっっ!!」
僕と蓮がシンクロ。
広い教室に二人の絶叫が響き渡る。
さっきまで談笑していた他生徒声が一斉に止まり、こちらに注目。
(ね……
ねえ蓮……?
どうしたの?
そんな大声出して……)
堪らず女生徒が一人、蓮に声をかけた。
「べっっっ……
別に何でも無いわよっっ!
あーそうだ。
午後は魔力技術実習だったっけーっ。
楽しみねーっ。
さあ、早く行きましょ?」
(う……
うん……)
蓮はバツが悪いのか僕の方を見ずにそそくさと教室を出て行った。
「なぁんだ。
キスしないのかぁ。
つまんない。
ってみんな何処へ行くの?」
蓮達だけでは無く、他生徒も教室を出て行く。
「あぁっ!
そうでござったっ!
午後は移動教室でありますよぉっ!
早く昼食を終えなければぁっ!」
あっそうだった。
早く弁当を食べてしまわないと。
ガツガツ
僕は弁当をがっつき始める。
田中も同じ。
「ねえねえ。
みんな何処に行ったんだってば」
あ、そうか。
校内の事も良く知らない。
「モグモグ……
午後はね……
モグモグ……
ここじゃなくて……
モグモグ……
別の所で……
ゴクン……
フー……
授業をやるんだよ」
どうにか食事を終えた。
「ん?
何言ってるかよくわかんない」
「午後からは別の所で授業をするんだよ。
案内するからついてきて」
「うんっ!」
「では参りましょうか。
こうして僕らは教室を出て行く。
その時、他の男子生徒が溢れる怨嗟の眼をこちらに向けていた。
ならお前らが案内しろよ。
気持ちを切り替えていこう。
午後からはいよいよ魔力技術実習だ。
続く
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