特別編 後編 ガレアの書初め

 チュン チュチュン


「う……

 ううん……」


 僕は目が覚める。


「ここは……」


 僕は半身を起こす。

 フローリングの上だ。

 僕は寝てしまったらしい。

 ここはどこだ?


 凛子さんの家だ。


「すぅ……

 すぅ」


 僕のすぐ近くで蓮が寝ている。

 正直焦った。

 周りを見渡すと大晦日の連中が雑魚寝をしている。

 今何時だろう? 


 午前七時十分


 僕はまず蓮を起こす事にした。


「ホラ……

 蓮……

 起きて」


 僕は蓮の肩を揺り動かす。


「う……

 ううん……

 あれ……?

 竜司?」


 蓮も目を擦りながら半身を起こす。


「ねぇ……

 昨日ってどうなったんだっけ?」


 よく覚えていない上に頭も痛い。


「竜司おはよう。

 あぁっ……?」


 蓮が何かを思い出した様だ。

 気持ち剥れている感じもする。


「蓮、どうしたの……?」


「竜司、昨日酷かったんだから……」


「え……?

 昨日どうなったの?」


 僕が何かやらかしたみたいだ。


「えと……

 昨日は……

 新年の挨拶を済ませた後……」


 結局昨日は初詣に行かず帰ったそうな。

 理由は氷織とカンナが眠たくなったため一番近い凛子さんの家にお邪魔したんだそうだ。

 するとヒビキとげんが呑み直すって話になって皆で呑んでたんだって。


 あぁっ……

 段々思い出してきた。


 ###


 時を少し遡り午前零時十分。


「さあこれからどうしよう?

 初詣に行く?」


「賛成!」


 僕の提案にみんな賛同してくれた。

 正確には二人以外は賛同した。

 その二人と言うのはカンナと氷織だ。


「すぅ……

 すぅ」


 二人とも寝てしまっている。

 この二人を連れてこの混雑を進むのは無理そうだ。

 僕は提案を変えた。


「この二人を連れて進むのは難しそうですね……

 じゃあ、僕の家に……」


「オイ竜司。

 今から加古川まで行くんか?

 ダルッ!」


 げんがあからさまに嫌そうな顔をする。


「えと……

 じゃあどうしよう?」


「ウチに来ればいいじゃない」


 と凛子さん。

 というわけで凛子さんの家にお邪魔する事になった。

 げんがカンナをおぶり、ヒビキが氷織をオンブした。


 さあこの混雑から抜け出るぞ。

 一路凛子さんの家に向かう途中コンビニへ寄った。

 げんの提案だ。


「ええとビールを一ケース……

 あとつまみは……

 ちょっと竜司手伝ってくれや」


 僕はげんの入れたカゴをレジまで持っていく。

 かなりたくさん買ったので店員さんも焦っていたようだ。


「ホイ竜司。

 お前も持ちィ。

 ワイはカンナおぶっとるから」


「わかった。

 ガレアー」


【何だ竜司?】


「これ持って」


 僕は大半をガレアに持ってもらった。

 ようやく凛子さんの家に到着。

 相変わらず大きな家だ。


 到着するやいなやげんがビールケースの段ボールを開けてテーブルに並べだす。


「さあっ!

 ヒビキさんっ!

 呑み直そうやっ!

 今日こそ勝つでぇっ!」


 げんは何と戦っているんだ。


げん……

 相変わらずアンタはアタシの事固っ苦しい呼び方するんだねぇ。

 よしっ!

 その勝負受けたっ!

 これでアタシが勝ったらヒビキって呼んでもらうよっ!】


「じゃあ僕らはカンナと氷織を寝かせてきます」


 僕はカンナを。

 蓮は氷織を。

 それぞれおぶって二階に上がり、カンナの部屋に入る。

 僕と蓮はベッドまで辿り着いて二人を寝かす。


「ムニャムニャ……

 アステ……

 クラッシュ……」


 とカンナ。


「ムニャ……

 ほらカンナ……

 走ると転びますよ……

 お姉ちゃんの言う事聞きなさい……」


 と氷織。

 二人とも特徴的な寝言だなあ。

 そんな二人を見て微笑み合う僕と蓮。

 何かこの二人が僕たちの子供のように思えた。

 そんな事を考えたら恥ずかしくなってそっぽを向いてしまった。


「さ……

 さぁ……

 二人はこれで大丈夫だ。

 下に降りようか……」


「ええ」


 僕と蓮は静かに廊下へ出る。

 ふいに蓮が。


「ねぇ竜司。

 どうしたの?」


 僕はまだ想像が抜け切れてなかった。

 むしろ色々な方向へ妄想してしまっていて物凄く焦った。


「べべべっ……

 別に何でもないよっ!」


 僕は赤面しながら力いっぱい手を左右に振る。


「ほんとにぃ~?

 竜司ってばこうゆう反応する時ってヘンな事考えてる時だもんねぇ~?」


 蓮が上目遣いで僕の目を覗き込む。

 瞳の奥の僕の思考を読み取られる様だ。

 僕は観念して話す事にした。

 というより僕の考えを蓮が聞いてどういう反応をするか知りたかったから。


「あの……

 ね?

 さっき二人でカンナと氷織の寝言聞いたじゃん……?」


「うん」


「あの時二人で笑い合ったじゃん?

 その時何かカンナと氷織が僕らの子供みたいに思えたって話だよ……」


 それを聞いた蓮は赤くなった。

 それは想定内だ。

 どう思ったのか言葉が欲しい。


「……私も同じこと考えてた……」


 凄い事言ってしまった。

 そんな考えが読み取れる表情をする連。

 変な沈黙が流れる。


「……さ、下へ降りよう蓮」


「うん……」


 僕らは下へ降りた。

 二人の距離も少しは縮んだのかな?

 下へ降りた僕らはリビングのドアを開けた。


【よっほっは】


 ガレアがお決まりの宴会芸を見せている。

 ビール、瓶で買ったっけ?


「ヒビキさんっ!

 ホレッ返杯やァッ!」


 げんが缶ビールを逆さにして呑んだ事をアピールする。


【へぇ……?

 げん、アンタ前より強くなったんじゃないかい?

 でも……

 まだまだ】


 すぐにヒビキは缶ビールを呑み干し、げんと同じように缶を逆さにする。


「何か……

 凄いね……

 蓮」


 何が凄いって二人の周りに散乱している空き缶の多さだ。

 僕らが席を外したのは二十分ほどじゃなかったか?

 その短時間でどれだけ呑んでいるんだ。


 ふと目をやると駆流とマッハ、華穏がジュースを飲みながら話している。

 そして一方はビールを呑みながら話している凛子さんとグース。


「グビッ。

 だからぁ、私もぉ四十なわけよ。

 このままシングルでいいのかなぁって思う訳よ」


「ZZZZZZZZZ」


 グースは目を見開き真っ直ぐ前を向いたまま無言だ。

 少し聞こえるのはグースのいびきか?


「ねぇ?

 聞いてるグース?」


「はいマスター

 特にカンナ様の教育には支障が無い為、特に必要性は感じないかと……」


「そうなのよねぇ……

 ぐびっ。

 世間じゃ子育ての大変さを理由に再婚したりするじゃない?

 でも私出来ちゃってるモーン!」


 急に凛子さんのテンションが上がった。


「ZZZZZZZ」


 またグースの方から小さないびきが聞こえてきた。

 眼は開いている。

 だから怖いって。


「あらん、そこにいるのは竜司君じゃなぁーい!」


 僕、凛子さんにロックオン。

 僕が身構える前に凛子さんが襲ってきた。


「もぅー!

 竜司君相変わらず可愛いっ!」


 凛子さんが抱きついてきて僕の顔を自分の豊満なバストに沈める。


「もももっ!?

 もがーーー!」


「うふふ、よしよし」


 胸に沈んでいる僕の頭を撫でる凛子さん。

 あ、何か鉄の匂いがする。


「ちょっ!

 ちょっと!

 凛子さん!

 何してるんですかっ!」


 蓮参戦。

 僕の顔ごと凛子さんから引きはがす。


「なっ……」


 僕の顔を見た蓮が絶句した。

 多分鼻から血が出ていてだらしない顔をしていたんだろう。


「ムムム……

 竜司のスケベー!」


 バッチーーン


 蓮の強烈なビンタが僕の頬を襲う。


「……すいません……」


 僕は大の字になって倒れた。

 すると駆流が寄ってきて。


「全く竜兄りゅうにぃ、何してんだよ」


 呆れ顔の駆流を見ながら反省。

 でもこれって僕悪く無くない?


蓮姉れんねぇも泣くなよ。

 こんな事ぐらいで」


 え?

 蓮が泣いてる?

 僕はすぐに立ち上がり蓮を見た。

 うっすらだが目に涙が。

 僕は焦った。


「どどどっ……

 どうしたのっ!?

 蓮っ!?」


「だってぇ……

 竜司ってばやっぱりおっぱいが大きいひとの方が良いんでしょっ!?」


 蓮が涙を軽く拭いながらそう言う。


「クスン……

 そりゃぁ私は凛子さんに比べたらおっぱい小さいかも知れないけど……

 でも竜司の事を……」


 ここまで言いかけてハッと我に返り言い留まった。

 蓮の顔がさっきより赤くなっている。


「僕の事を……

 何?」


「何でもないっ!」


 赤い蓮はプイッとそっぽを向く。


【ヤダ竜司ちゃん、にぶちんなのは相変わらずねえ。

 あなたへの気持ちは誰にも負けないって続けようとしたに決まってるじゃなぁい】


 ルンルがふいにそんな事を言う。

 蓮を見ると絶句している。

 図星だったようだ。

 僕はどう反応して良いかわからなくなった。

 そこへ華穏が。


「ふふふ……

 蓮さん、安心して下さい」


 何やらしたり顔の華穏。


「私と蓮さんには凛子さんには決して得られない重要かつ大きなアドバンテージがありますっ!」


 更に自信満々の華穏。


「それは……

 若さですっ!」


 ビシッと凛子さんを指差す華穏。

 この子、神社での仕返しでも考えているのではなかろうか。


「私は十四歳。

 蓮さんは十五歳。

 年の差二十五歳!

 これは大きいアドバンテージですよ!」


 それを聞いた蓮が少し明るさを取り戻す。


「華穏ちゃん……

 そうかな?」


 蓮が明るさを取り戻した後予想外の事が起きた。


「うっ……

 グスッ……

 うわぁぁぁあん!

 そうよっ!

 どうせ私はアラフォーよっ!

 貴方たち二人には適わないわよ!

 お肌だって毎日手入れをしないとすぐにシミが出来るし……

 うわぁぁぁん!」


 凛子さん大号泣。

 この展開は予想してなかった。

 どちらに付いたらいいのか?

 困っているとまた意外な人が参戦した。


【り……

 凛子さん……

 泣き止んで下さい……

 ぼ……

 僕は凛子さん綺麗だと思いますよ……】


 まさかのマッハ参戦。

 すかさずルンルが茶々を入れる。


【マクベスちゃん何言ってんのよ。

 アタシたち竜に人間の綺麗ブサイクが判別できるわけないじゃないのよう】


 それを聞いた凛子さんが


「うわぁぁぁぁん」


 と大号泣。

 しかしマッハも諦めない。


【ち……

 違います!

 ぼ……

 僕は華が好きです。

 知り合った人はみんな華でイメージするんですっ。

 凛子さんは赤いガーベラ。

 花言葉は“神秘的な美”です!】


 ジャンルが華のせいか物凄く饒舌に話すマッハ。

 次はルンルも助け舟を出す。


【要するに僕は人間界で美しいとされる花にたくさん触れてきたので

 美的感覚は人間のソレと近いって言いたいわけぇ?】


【そう!

 その通り!】


 凛子さんがようやく泣き止んだ。


「神秘的な美……?

 そうかしら?」


【はい!

 だから泣き止んで下さい】


 手を差し伸べるマッハそれを掴む凛子さん。

 何か変な絵だなあ。

 その後僕らは仲良く談笑した。


 一時間後


「アカン……

 もう飲めへん……

 ヒビキさん……

 強……

 すぎ……

 る」


 バッターン

 ガラガラガッシャーン


 ついにげんがギブアップ。

 散乱している空き缶の中へ前のめりに倒れた。


げん……

 アンタ酒強くなったけど、アタシに勝つにはまだ修業が足らなかったようだねぇ」


 そんな事を言ってるヒビキの顔も結構赤い。


「さて……

 竜~司ィ~?」


 ヒビキが鋭い眼光をこっちに向ける。

 僕はドキリとした。


「な……

 何?

 ヒビキ……」


「アンタも十五だ。

 成人した時の事を考えて……」


 カシュ


 ヒビキが缶ビールを開けて僕に差し出す。


「ホレっ

 呑みなっ」


 僕は全力で拒否した。


「なななァ……ッ!?

 何言ってるんだよっヒビキ!

 僕にはまだまだ早いよ!」


「何言ってんだいっ。

 未成年でも少し酒が飲めるっ。

 それが正月の無礼講ってやつじゃないかっ」


 ヒビキは缶を持った手を引っ込めない。

 すると駆流が。


「なあ竜兄りゅうにぃ

 ブレーコーって何だ?」


「多少ハメを外しても良いって事だよ駆流」


「へぇ……

 じゃあ竜兄りゅうにぃがいらねぇんなら俺が呑むっ」


 ヒビキの持っていた缶を引ったくり飲み口に口を付ける駆流。


 グビッ


 駆流の喉が動いたのを確認した。


「にっげぇぇぇぇぇ!

 不味っ!

 大人ってこんなの飲んでんの!?」


 どうやら駆流は正気の様だ。

 僕は胸を撫で下ろした。

 と思ったら。


 バターン


 駆流が大の字に倒れた。


「ちょっと!?

 駆流!?

 ねえっ!?

 駆流!?」


 華穏が必死に揺り動かすが駆流は目覚めない。

 駆流、お前の尊い犠牲は忘れない。

 心の中でそう思いうやむやにしようと思ったが甘かった。

 ヒビキは倒れた缶ビールを拾い、また僕に向けて差し出してくる。


「まさかこれで終わりって訳じゃないよねぇ?

 竜司?」


「ぐっ……」


 僕は言葉を詰まらせた。


「まさか弟分の駆流が堂々と大人の階段を上ったってのに、兄貴分のアンタが尻込みするってのはねぇ……」


 流石高位の竜ハイドラゴン、「白の王」ヒビキ。

 この人を前に出し抜こうというのが間違いだった。

 僕はいよいよ腹を括った。


「……わかりました……」


「おおっ!?

 流石竜兄りゅうにぃっ!」


 ヒビキが茶化す。


「でも一口だけですよっ!?」


 僕は缶を受け取り飲み口に口を付ける。


 グビッ


 皇竜司すめらぎりゅうじ、十五歳。

 初めての飲酒。


 ###


 時は現在時刻に戻る。


 ここまでは思い出したが酒を飲んだ後が思い出せない。

 思い出せないのが逆に怖い。

 僕は恐る恐る蓮に聞いてみた。


「僕……

 何かした?」


 これを聞いた蓮の顔が瞬間で引きつる。


「お……

 覚えてないの!?」


 どうやら相当な事をやってしまったらしい。


「竜司、あの時酒を飲んだじゃん……?

 急にうぉぉって叫び出して私の振袖の帯を持って……」


 気がつかなかった。

 ふと下に目をやるときちんと着ていた振袖が何か無残にほどけている。


 蓮の言う所によると

 酔った僕は蓮の振袖の帯を持って思い切り引っ張ったそうだ。

 いわゆるお殿様と女中の「よいではないか よいではないか」状態だったそうな。

 僕はさーっと青ざめた。


「ごごごっ!

 ごめんっ蓮!

 ホラッ!

 お酒で酔っちゃったからさっ!」


「下見ないでよっ!

 竜司のスケベッ!」


「ごめんっ!」


 僕は慌てて後ろを向く。


「……もう竜司酒禁止」


 言われなくてもそうするつもりだ。

 ここで妙案が閃いた。


「あっ!

 僕の服で良かったら取ってくるけどどう?」


「……うん、取って来て……」


 よしきた。

 さっそくガレアを起こそう。


「ガレアー!

 早く起きて!」


【おー竜司おす】


 こういう時寝覚めの良い竜は便利だ。


「すぐに家の僕の部屋まで亜空間繋げて!」


【何だ何だ急ぎか!?

 ホイ】


 黒い渦の亜空間が空中に出現。


「ガレアも来てっ」


【何だよもー】


 亜空間をダッシュで駆ける僕。

 自宅の僕の部屋に到着。


「ええと……

 GパンとTシャツとトレーナーと寒いから上着っと……」


 そう言えば振袖だから履くものも必要だ。

 下だ。

 僕はドタドタ下へ降りる。


「何じゃ竜司。

 帰るなり騒々しい」


「あっお爺ちゃんっ。

 早急に靴と……

 靴下が必要なんだっ」


「靴下なら昨日ヘルパーさんが洗濯しておったぞ。

 もう乾いているじゃろて」


 僕は外に向かい適当に靴下を取る。


「竜司、また出かけるのか?」


「そうだよお爺ちゃん」


「今日の午後、町内の書初め大会忘れておらんじゃろうな?」


 そういえばそうだ。

 先日元旦の書初め大会の話をしてガレアが興味を持ったから参加するって言ってたんだ。


「わかってるよお爺ちゃん。

 午後には帰る」


「ならばよし」


「じゃあ行って来る!

 ガレアまた亜空間お願い」


【はいよう】


 亜空間をまたダッシュで駆ける僕。

 凛子さんの家に到着。


「おまたせっ蓮っ!

 あれ?

 蓮どこ?」


「あれ?

 竜兄りゅうにぃ、どこ行ってたんだよ。

 おはよ」


 駆流が起きていた。


「竜司~……

 こっちよ~」


 ソファーの後ろから手だけ伸びる。


「蓮、どうしたの?

 そんな所に隠れて」


「キャア!

 こっち見ないでっ!」


 僕は合点がいった。

 おそらく僕が出て行った後、駆流が起き出して恥ずかしくて隠れたんだろう。


「はい、服持って来たよ」


 見ないように持ってきた服を渡す。


「覗かないでよ。

 竜司」


「覗かないよっ」


 ゴソゴソ布が擦れる音が聞こえる。

 何かエロい。


「ん……

 もう朝か……

 おっ竜司、早起きやないけ」


 げんが起きる。


「おはようげん


【アンタたちっ!

 おはよう!】


 ヒビキも目覚める。


「おはようさん、ヒビキさ……」


【ん~?

 何だってェ~?

 げん、聞こえないねぇ】


 ヒビキがニヤリと笑う


「ヒ……

 ヒビキ……」


 どうやらげんは昨日の勝敗を覚えていたようだ。


【よしっ】


 ヒビキは満足気だ。


「おはようございますぅ……

 皆さん。

 はっ!?」


 続いて華穏が起きて僕を驚いた顔で見る。


「す……

 すめらぎさんっ!

 変態だったんですねっ!」


 そうか僕が酔った時の一部始終を見ていたんだ。


「オイ華穏!

 竜兄りゅうにぃに何て事言うんだっ!」


 そうか駆流は先に寝てしまったから知らないんだ。


「華穏ちゃんちょっと……」


 僕は華穏を呼び部屋の隅へ行く。


「まさかすめらぎさんが変態だったなんて……」


「それに関しては僕は謝る事しか出来ない。

 酒のせいとはいえとんでもない事を……

 虫の良い話かもしれないけど駆流にはこの事は……」


 駆流に対する変な兄貴プライド発動。


「んー……

 じゃあケーキセット五回で手を打ちましょう」


「わかった交渉成立だ」


 僕らは交渉を終えて駆流の所まで戻って来た。


「何なんだよ二人して」


「いやー……

 別に。

 ねぇ?

 華穏ちゃん」


「ええすめらぎさん」


「お待たせ……

 竜司」


 ようやくソファーの後ろから蓮が出てきた。

 おもむろに服の袖を匂う蓮。


「……竜司の匂いがする……」


 僕は赤くなった。


「や……

 止めなよ蓮……」


「ううん……

 みんな、おはよう……」


 最後に凛子さんが起きた。

 隣のグースは昨日と全く変わらないポーズで目を開いて前を見ている。


【おはようございますマスター


 ポーズを変えずそのまま話し出すグース。

 この人がよく解らなくなってきた。

 いや竜か。


 十分後


 凛子さんが完全に目覚めいつもの凛々しさを取り戻していた。

 そしていつものように音頭を取る。


「んー……

 まずはリビングの片づけね。

 さあみんなお掃除しましょ」


 確かに。

 散乱した空き缶。

 つまみの袋。

 何かよくわからないタレのシミ。

 まあこの広いリビングはしっちゃかめっちゃかになっていた。


「はあい」


 みんなで掃除開始。


【あぁ、だめだめマクベスちゃん。

 違うわよう、ペットボトルは本体はリサイクルゴミ。

 周りのカバーは燃えないゴミよう】


【あぁっ……

 ゴメン、ルンル……

 えと、本体はリサイクル……】


 きちんと分けて袋に入れるマッハ。

 意外にゴミ処理に詳しいルンル。

 僕は聞いてみた。


「意外にそういうの詳しいんだねルンル」


【あらん、意外とはまた言ってくれちゃうわねぇ竜司ちゃん。

 デキる女ってのはエコにもうるさいものよう】


「だからルンルはオスだってば……」


 程なくして掃除完了。

 また凛子さんが柏手を打って音頭を取る。


「さぁみんなご苦労様。

 それじゃあおせちをみんなで食べましょう。

 竜司君、蓮ちゃん。

 上に行ってカンナたちを起こしてくれない?」


「わかりました。

 行こう蓮」


「うん」


 上へ向かう僕ら。

 カンナの寝室に入る僕ら。

 まだ寝てる二人。

 僕はカンナを。

 蓮は氷織を揺り動かす。


「ホラ二人とも起きて」


「ううん……

 パパ、おはよう……」


 とカンナ。


「……ママ、おはよう……」


 と氷織。

 僕ら二人とも少し赤くなった。


「違うよカンナちゃん、僕だよ竜司だよ」


「ち、違うわよ氷織ちゃん。

 私よ蓮よ」


「あ、ホントだ。

 エヘヘー」


 カンナはポリポリ頭を掻いている。

 氷織は赤くなって俯いている。

 油断していたのが恥ずかしかったのかな?


「じゃあ、二人とも普段着に着替えて下に降りて来てね」


「はぁーい」


 僕らは部屋を後にした。

 下に降りる途中。


「蓮……

 何かヘンな感じだね……」


「うん……」


 僕らは何か恥ずかしくなって目を逸らしながら下へ降りた。

 そして全員そろった所でおせちを頂く事になった。

 ひとしきり食べ終えた僕らはそろそろ帰る事にした。

 それぞれ身支度を整え準備完了。


「みんな準備出来た?」


「おう!

 大丈夫やで」


「じゃあ、まず駆流たちから。

 ガレアお願い」


「じゃあな、竜兄りゅうにぃ

 また三重にも遊びに来てくれよっ。

 蓮姉れんねぇ竜兄りゅうにぃと上手くやれよっ。

 じゃあな」


すめらぎさん、約束忘れないように」


【じゃ、じゃあ……】


 亜空間に消えていく三人


「じゃあ、次。

 グースお願い」


【かしこまりました竜司様】


【じゃあねっ

 みんな。

 げん

 アンタ、アタシに負けたんだから約束守りなよっ】


「カンナちゃん……

 またね」


 亜空間に消えた二人。

 それと同時にガレアが帰って来た。


「じゃあ、次は蓮達だ。

 続けて悪いけどガレアお願い」


【竜使いが悪いなあ】


 ガレアがぼやきながら亜空間を出す。


「じゃあな竜司。

 またケンカあったらワイを呼べや」


【これ……

 いい】


 ベノムは昨日の景品で遊んでいる。


【じゃあねん竜司ちゃん、ガレアちゃん。

 また大阪にも遊びに来なさいよう。

 でないと蓮が他の男に取られちゃうわよん】


「コラ!

 ルンル何言ってるのよっ!

 竜司……

 またね……

 借りた服また返しに行くね」


「いや、その服取りに僕が大阪に行くよ」


 蓮の顔が明るくなった。


「うん!」


 亜空間に消えていった四人。


「ふう、僕らも行こうかガレア」


【おう】


「じゃあね竜司君」


「竜司にーちゃんっ!

 またねーっ!」


【それでは竜司様】


「あぁ、三人とも元気でね」


 亜空間に入る僕ら。

 自宅に到着。

 そう言えばお爺ちゃんと約束があったんだ。

 下に降りる僕とガレア。


「お爺ちゃん?

 お待たせ。

 もう書初め大会行けるよ」


「おお、いいタイミングじゃ。

 おい!

 カイザ!」


 一階の居間の隣の部屋から長身で黒髪のロングヘヤ―の男がのそりと現れる。

 背中にリュックを背負っている。

 この男はお爺ちゃんの使役している竜。

 高位の竜ハイドラゴン「黒の王」だ。

 愛称しか知らないがお爺ちゃんからカイザと呼ばれている。


「書初め大会に行くぞ!

 準備は出来ておるな?」


【ハイマスター


「じゃあ行くぞ」


 僕はお爺ちゃんとカイザ、ガレアと一緒に近くの公園に着いた。

 結構人が集まっている。


「あ?

 源蔵さん。

 明けましておめでとう」


 近くにいたお婆ちゃんを皮切りにみんなお爺ちゃんに挨拶する。

 結構人望あるんだお爺ちゃん。

 大会が始まりお爺ちゃんが壇上に上がり挨拶をする。


「それでは皆の衆。

 各々今年の抱負を半紙にしたためなされいっ!」


【なあなあ竜司。

 これが前に言ってたカキゾメってやつか?】


「そうだよガレア。

 ガレアも書く?」


【うん!】


 ガレアの前に習字セット一式を置いてあげる。

 大きいガレアの前では余計に小さく見える。


「ガレア……

 多分もう二回りほど小さくなった方が書きやすいと思うよ」


【そうか?】


 白い光に包まれたガレアが小さくなる。


【そんで竜司。

 何書いたらいいんだ?】


「今年の抱負だよ」


【ホーフ?】


 ガレアキョトン顔


「あ、ゴメン。

 今年自分がどうなりたいかってのを書くんだよ」


【ふうん。

 ま、いいか。

 よし書くぞ】


 さ、ガレアにばかり気を取られていられない。

 僕も書かないと。


 十分後


 書けた。


 祖父の書初め。


「清」


 さすがお爺ちゃん。

 達筆だ。


 カイザの書初め。


「初段取得」


 まだ級なのか。


 僕の書初め。


「積極的」


 今年だけじゃないけどね。


 ガレアの書初め。


 何か楕円形のものがたくさん書いてある。


「ガレア……

 何これ?」


【何って……

 ばかうけ】


 今わかった。

 これ全部ばかうけか。

 そしてもう一つ気付いた。

 ガレアって日本語書けたっけ?

 いや、その答えがこれか。


「……要するにばかうけいっぱい欲しいって事……?」


【おう!

 その通り!

 さすが竜司!】


 今年もガレアには振り回されそうだ。


 終了

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