ドラゴンフライ 特別篇

マサラ

特別編 前編 ガレアの大晦日

 ゴォーン ゴォーン


 TVで除夜の鐘が鳴っている。

 僕とガレアは家のこたつに入ってTVを見ている。


(さあ、こちらは去年の除夜の鐘をお送りしました。

 いよいよ今年もあと僅か!

 今は初詣に来ているお客さんで賑わっています)


【なあなあ竜司。

 コレなんだ?】


「ああガレアそれは除夜の鐘だよ」


【ジョヤノカネ?】


 ガレアがキョトン顔をしている。


「除夜の鐘っていうのは毎年年末にお寺で鳴らすんだよ」


【何で鳴らすんだ?】


「確か人にある百八の煩悩を拭い去るためだったかな?」


 僕も除夜の鐘についてはうろ覚えだ。

 ガレアの興味は次へ移る。


【ボンノーって?】


「人間の欲望だよ」


【人間って欲深いもんなケタケタ】


「しょうがないじゃん。

 人間は魔力なんて無いんだから」


 さてそろそろ出かけよう。

 引き籠もりの僕が初詣に出かける理由は蓮に初詣に誘われたからだ。


【行くのー?

 こたつから出たくないー】


「カンナも来るよ」


【……行く】


 蓮の電話があった後、凛子さんやグース、カンナも誘った。

 多分ガレアの事だからこたつから出たくないって言うと思ったからだ。


 木場さんやダリンも誘ったが初詣で忙しくて来れないらしい。

 あとついでに氷織とヒビキ。

 駆流とマッハ、華穏も誘う事にした。


「じゃあお爺ちゃん行ってきまーす」


「おお竜司。

 車に気を付けてな」


 僕らは西宮えびすに向かうため電車に乗る。

 するとガレアが。


【何だ?

 ちらほらキラキラした服を着てるぞ】


 おそらく振袖の事を指しているんだろう。


「あぁ、あれは振袖って言って年末や年始とか行事の時に女の人が着る服だよ」


【へぇ綺麗だな】


 午後十一時


 西宮に到着。

 かなりの人で賑わっていて駅から出るのにも一苦労だ。

 ちらほら竜の長い首が見える。

 何とか車の居ない駐車場に辿り着いた。


「ふー」


【何だこの人間の群れは……。

 全員ハツモーデって言う行事に参加するのか?】


「そうだよ。

 じゃあガレア亜空間で迎えに行ってくれ。

 まずは蓮たちからだ」


【何でだ……?

 人間ってアホなのか?

 ハイわかった行って来る】


 ガレアは自分の背丈ぐらいの黒い渦を縦に出し中に消えて行った。


 五分後


【だからぁ。

 言ってるじゃないよぅ。

 せっかく振袖着てるんだからぁ。

 もっとこう胸元をはだけて……】


「キャッ、ルンル!

 止めなさい!

 アンタいい加減に……」


「ほほう、これはなかなか……

 目の保養やで」


げん……

 おもちゃ買ってね……】


 蓮とルンル、げんとベノム登場。


「あっ竜司……

 久しぶり……」


 蓮の振り袖は髪の毛に合わせて深い藍色だった。

 銀色の線と白い牡丹の刺繍が艶やかに彩っている。

 もちろん言うまでもないが可愛い。

 さっきの会話を聞いたせいか少し胸元辺りを見ると鎖骨と白い肌が見えていた。


「蓮……

 久しぶりだね……」


「振袖……

 ママに着せてもらったんだけど……

 どうかな?」


 少し頬を赤らめて蓮が聞いてくる。

 そんな可愛い蓮を見て僕も赤くなって


「うん……

 すっごく可愛いよ」


「……ありがと」


 もじもじしながら蓮が呟く。


「オイどないすんねんこのピンクな空気。

 ワイら完全にお邪魔になってへんか?」


 蓮しか見えてなかった僕。


【何言ってんのようげんちゃん。

 げんちゃんが邪魔ならアタシはもっと邪魔だわよう】


【もう何やってんだよ竜司。

 次行くぞ】


 また亜空間に消えたガレア


 五分後


「歩きにくいー」


「我慢しなさいカンナ」


 凛子さんとカンナ、グースが登場。

 三人とも振袖だ。


 凛子さんは赤い振袖で桜が満開で赤とピンクの色が良いコントラストになっている。

 カンナは黄色の振り袖で花は菊。

 赤、白、緑など色とりどりでカラフルだ。

 そして流行りのファーも付けている。


 グースは白い振袖で花は百合だ。

 シンプルな色合いで綺麗だ。


「あっ!

 竜司にーちゃん、あけおめことよろっ!」


 カンナが元気に手を上げる。

 が、まだ年は明けてない。


「カンナちゃんまだ明けてないよ」


「あっそっかー

 エヘヘ」


 時間も時間だしグースにも迎えを頼むことにした。


「ねえ、グース。

 亜空間で氷織とヒビキを迎えに行ってくれない?

 あとガレアは駆流たちを」


【竜司様かしこまりました】


【わかった】


 五分後


「歩きにくいです……」


【せっかくアタシが会社で教わった着付けなんだからさ。

 もっと嬉しそうにしとくれよー】


 氷織とヒビキ登場。

 氷織もカンナと同様振袖だ。

 水色を基調として白と赤の椿がアクセントになっている。


 ヒビキは……

 あれ?

 普通のダッフルコートだ。

 僕は聞いてみた。


「ヒビキ、久しぶり。

 振袖着ないの?」


【かたっ苦しくて嫌いなんだよ。

 今の季節アタシは調子いいからねえ】


 そういえばヒビキは氷を司る白の王だった。


「でも今はコート着てるよ」


【これは周りに合わせているだけだよ。

 中はタンクトップだしね】


 それを聞いて震え出す僕。


「ううっ、寒い……

 そろそろ駆流たちが来る頃だ」


 そんな話をしていると亜空間が開いた。

 中から声が聞こえる。


「なあなあガレア。

 竜兄りゅうにぃ、元気か!?」


【人間の元気ってのがどういう状態かわからんが、元気なんじゃね?】


【ガレア……

 元気って言うのは病気とかしてないかって意味だよ】


【マクベスくぅ~ん。

 しばらく見ない内に賢くなったんだねえ。

 ウリウリ】


【ガレア……

 やめてよう】


 マッハは亜空間でも苛められているのか。


「もー、あんたたち。

 もう少しお行儀よくできないの」


 駆流と華穏、マッハ登場。

 最後の組のせいか一番派手だ。

 駆流は紋付き袴。


 華穏の振袖が今まで見た中で一番驚いた。

 緑が基調なのだが足から鎖骨辺りまでにかけて色とりどりのバラが咲き誇っている。


「華穏ちゃん……

 振袖凄いね」


「これおばさんが……」


「そうだよ竜兄。

 これウチの母さんが華穏にあげたやつなんだよ」


 麗子さんか。

 納得。


「もーすめらぎさんっ。

 私も分かってますよっ。

 これが派手だっていうの!」


「まあいいんじゃねぇか?

 結構イケてるぜ」


 駆流の頬が気持ち赤い。


「えっ!?

 駆流ホント!?」


 華穏の顔がぱあっと明るくなった。


「言うじゃねぇか。

 馬子にも衣裳って」


 華穏の顔が一瞬で引きつり同時に駆流の髪の毛を掴んだ。


「なぁんですってぇ!

 もう一回言ってみなさい駆流!」


 この二人も相変わらずだなあ。

 っとそろそろ神社に行かないと年が明けてしまう。

 僕は大声で叫んだ。


「さぁ、みんなー!

 そろそろ行くよー!」


 僕らは歩きだした。


 ###


(竜司とガレアの場合)


【あっ!

 竜司!

 クルコロが売ってる!

 買ってくれ!】


「だからたこ焼きだって言ってるのに……

 また三箱?」


【うん!】


 ガレアにたこ焼き三箱購入。


【あっ!

 何だこれ!?

 何か肉っぽいのが横に回転しているぞ!】


 全く騒がしいなあ。


「これはドネルケバブって言うトルコって国の料理だよ」


【これも食いたい!】


「待て!

 こうゆう夜店にもルールがあるんだ。

 一つ物を買ったらそれを買うまで次のは……

 あれ?

 ガレア、たこ焼きは?」


【クルコロか?

 喰っちまったよ】


 何という速さか。


「……ケバブまた三つ?」


【おうっ!】


 ケバブ三つ購入。


 ###


(蓮とルンル、駆流とマッハの場合)


「なあなあ蓮姉れんねぇ……

 その後竜兄りゅうにぃとはどうなんだよ」


 俺は蓮姉れんねえに聞いてみた。


「はぁ、駆流君……

 私なりにアプローチはしてるつもりなんだけどね……

 何かあんまり進展してないなぁって……」


 蓮姉れんねえはため息ついている。

 男とか女とかまだよくわかんねぇけど、俺は竜兄りゅうにぃ蓮姉れんねえはくっついて欲しいと思っている。


「何だよ情けねぇなあ。

 俺は蓮姉れんねぇ竜兄りゅうにぃには結婚してほしいぐらいに思ってるのによう」


 よくわかんねぇけど、母さんがドラマ見て言ってた台詞を言ってみた。


【そうそう。

 どんどん言っちゃいなさい駆流ちゃん。

 二人、電話もするんだけどこっちが三回かけて一回向こうからかけてくるぐらいなのよ。

 昔から女が尻に敷くぐらいが上手くいくって言うのにねぇ】


【れ……

 蓮さんは頑張っていると僕は思うな……】


【何言ってんのよマクベスちゃん。

 こんなのまだまだよ。

 やっぱりここは新年一発目の姫初めを竜司ちゃんに捧げて……】


「姫初め?

 ルンル、何だそりゃ?」


「キャーーーーーーー!

 ルンルーーーーーーーー!

 何言ってんのよ!」


 な、何だ?

 蓮姉れんねえすげぇ顔が赤いぞ。

 ルンルの言った姫初め……

 だっけか?


 どういう意味なんだ?

 でも大人がこういう反応する時って大抵意味教えてくんねえんだよな。


 ###


(元とベノム、カンナ、氷織の場合)


「おーし、オラじゃりん子どもー。

 はぐれてへんかー?」


 ワイは肩にカンナを乗っけて氷織の手を繋いで歩いている。

 しっかしえらい人やなあ。


「手を繋いでいるんですからはぐれませんよ……」


「よーし!

 げんにーちゃんっ!

 行けー!」


 カンナが肩で騒いどる。

 氷織と対照的やなあ。

 氷織は生意気でカンナは元気いっぱい。

 まあどっちもワイにとっては可愛い妹分やけどな。


「あーっ。

 げんにーちゃん!

 前方に射的屋発見!」


「何やカンナ射的やりたいんか?」


「うん!」


 ワイらは射的屋に行く事にした。

 ベノムにおもちゃもあげれるしな。


(いらっしゃーい。

 一回五百円だよ)


 よっしゃ、ここでええトコ見せて妹分を見直させたるわ。

 ワイはカンナを降ろして銃をサルの玩具に狙いを定めて……

 行けっ


 ハズレ


 何っ?

 弾道が曲がった……

 なるほどそう言う事かい。

 それも計算して……

 二発目……


げんにーちゃん!

 頑張れー!」


 カンナも大きい声で応援しとる。

 こりゃあ負けられへんで。

 弾発射。


 カン


 何や!?

 人形が弾跳ね返したぞ。


(にーちゃん、ちゃんと倒さないと景品はあげないよ)


げんさん……

 頑張れ……」


 氷織も応援しとる。

 しかしこの射的屋やりおるわ……

 どうあっても景品はあげたくないって事かい……

 それなら……


 バン


 グラグラ……


 景品が三、四個倒れた。

 イカサマにはイカサマや。

 ベノムの魔力使って景品ゲットや!


 戦利品

 サルの玩具。

 小さなクマのぬいぐるみが二つ。

 イノシシのぬいぐるみ。


「どうやお前ら見たか!」


「わー!

 げんにーちゃんっ!

 すごーい!」


 カンナも大喜びやわ。


「悪いけどこのサルの玩具はベノムにあげてくれや。

 後の三つはお前らでわけえ」


「三つ……

 どうしよう……」


 あれ?

 カンナが困っとる。

 あ、そうか三つやからか。


「……私はクマのぬいぐるみだけで良いです……」


「ホント!?

 ありがとー!」


 後でこっそり氷織に聞いてみたんや。

 そしたら。


「私はお姉ちゃんですから……」


 やって。

 泣かせるやないか。


 ###


(華穏と凛子とヒビキとグースの場合)


 ザワザワ


「えーと、おでんと焼き鳥と熱燗三合とオレンジジュース下さい」


(へいっ

 まいどありっ)


 私たちは西宮神社まで入っていて中の座敷のある屋台でお酒を飲むことにしました。

 私は未成年なのでジュースですが。


「そういえばヒビキさん、会社の方はどうです?」


「もう慣れたよ。

 清掃のおばさんから今やもう経理のおばちゃんだよっ! 

 ってかセンセ。

 ヒビキで良いよ。

 かたっ苦しいのは抜きにしようやっ」


 凛子さんは医者だったっけ?

 ヒビキは相変わらずの威勢の良さでサムズアップしていました。


「じゃあ私も。

 センセ禁止で。

 凛子で良いわよ」


 二人ともそう言って笑ってました。

 何か二人とも大人だなあ。

 私は何か場違いな気がしてきました。


(へいっ

 おでんと焼き鳥、熱燗三合とオレンジジュースお待ちっ)


 注文がやってきました。

 良かったー。

 これで少しは場を繋げれる。

 焼き鳥を一本ぱくり。

 んー、別に特別良い材料使ってるとかじゃないはずなのにこう言う所で食べるものって何でこんなに美味しいんだろ。


「さあさ、凛子。

 つまみと酒も来たしやろうぜ。

 ほらグースも」


「いただくわ」


「いただきます。

 さあ乾杯ですよ。

 華穏様もご一緒に」


 私はコップを持って三人のお猪口と乾杯した。


 二十分後


「だからねっ

 アタシャ思う訳よっ!

 子育てってホント難しいなって。

 人がせっかく作った晩御飯をね……

 やれピーマンが嫌いだの……

 シイタケが嫌いだのって……

 うんたらかんたら」


「わかるっ!

 わかるわぁヒビキ!

 今でこそカンナも好き嫌いは少なくなったけど酷いときなんかほとんど食べないときなんかもあったもんよ……

 うんたらかんたら」


 な……

 何かママの愚痴大会になっている……


 どどど、どうしよう!?

 完全にどうしていいかわからなくなってしまいました。

 前に氷織ちゃんに聞いたらヒビキさんってすっごい呑むって聞いてたけど……

 あ、そっか。

 呑む量と酔うのとは別って事ね。


 ふと横を見るとグースさんが!

 もうこの人に頼るしかないっ!


「ねえ、グースさん……?」


「……ZZZZZZ」


 この人目を開けて寝ている。

 何か怖い。


「だからぁ!

 結局の所ォッ!

 学校の先生なんかに任せておけねぇっての!

 うんたら!」


「そうなのよ!

 学校の先生なんて社会経験全く積んでないんだから!

 かんたら!」


「ZZZZZZ」


 駆流ー!

 助けてー!


 ###


 僕はスマホで時間確認。


 午後十一時四十五分


 ヤバい。

 年が明ける。

 というのもみんなとはぐれてしまったのだ。

 僕の場合は大概ガレアがアレ喰うコレ喰う言ってるのが原因だが。


「しょうがない。

 ガレア、全方位オールレンジ使うよ。

 ほら、通行の邪魔なんだからもう少し端によって……」


 僕を中心に西宮神社ををすっぽり覆う緑のワイヤーフレーム展開。

 皆の位置を確認。

 蓮と駆流、ルンルとマッハは着実に進み境内近くまで来ているようだ。

 げんと氷織とカンナ、ベノムは夜店の前かな?


 あと……

 凛子さんとヒビキ、グースと華穏ちゃんも一緒か。

 夜店のテーブルに居るようだ。


 これはどこから合流していったら良いか。

 まずは動いている蓮たちからだ。


「じゃあガレア、亜空間出して。

 僕は全方位オールレンジ出しながら追跡トレース使うから」


【わかった】


追跡起動トレースオン


 ■追跡トレース


 竜司の亜空間連動スキル。

 全方位オールレンジで把握した人物や物体の付近に亜空間の出口を作る。

(亜空間を作成できるわけではなくあくまで目印)


 僕は追跡トレースで蓮の少し前方の灯篭付近に出るようにした。


「よし行こう」


 この亜空間。

 何回か入ったけど色々浮いてるんだよな。

 僕の貸してあげたアステバンDVDとか阪神帽とか。

 亜空間って竜それぞれで中身も変わるんだろうか。


 目的地到着。

 さあ、蓮達は……

 人だかりの中に焦げ茶色の首と派手な顔がある。


「おーい!

 ルンルー!」


 目的地付近の灯篭はちょうど道がL字になっていたため列からもはみ出しやすかった。

 蓮達と合流。


【あらん竜司ちゃん。

 チャオ】


竜兄りゅうにぃ、どこに行ってたんだよ」


「ちょっとガレアがね……

 さあ、他のみんなとも合流するよ。

 ガレアお願い」


「わかったぜ」


全方位オールレンジ……

 追跡起動トレースオン


「ホラ……

 蓮姉れんねえ


「わかってるわよっ……

 もう」


 そんなやり取りをした後左手にぬくもりを感じた。

 蓮が手を繋いできたのだ。


「蓮……?」


 僕は少し顔が赤くなった。

 蓮の顔はもっと赤くそっぽ向いている。


 そういえば僕は蓮を少しないがしろにしていたのかも知れない。

 僕からあまり電話もしないし。

 でも僕はもともと引き籠もりだったし友達もあんまりいない。

 リアルが充実しているリア充らがどんな人付き合いをしているかなんてわからないのだ。


 でも僕は蓮の事は多分……

 好きなんだと思う……

 だから僕は手の事は触れずそのまま少し強めに握り返した。

 次の目的地は夜店付近。

 すぐに到着。


「おっ竜司やないけ。

 お前ら何しとったんや」


 氷織とカンナが輪投げをやっている。

 しかしうまく入らないようだ。


「ぬぬぬぬ」


「カンナちゃん……

 頑張って」


「えいっ!」


 カンナの手から輪が放たれる。

 惜しい。

 的には当たったが輪は的はくぐらず下へ。


「ぬぬぬー」


 カンナは悔しそうだ。


(残念。

 でもお嬢ちゃん可愛いからおまけあげるよ)


 夜店の店主が小さなウサギの置物をカンナに手渡す。

 カンナの顔がぱぁっと笑顔になる。


「おじちゃんありがとーっ!」


 すると氷織が店主を睨んでいる。


「……ロリコン」


 この子は何かロリコンを勘違いしてないだろうか。


「カンナちゃんお土産いっぱいだね」


 カンナは小さい手いっぱいにクマやらイノシシやらのぬいぐるみを抱えている。


「えへへー、いーでしょー?

 あっ!?」


 カンナが僕と蓮の手を凝視する。


「竜司にーちゃんと蓮ねーちゃん!

 手繋いでるー!

 キシシ」


「えっ……

 これは……」


「そうだよ」


 僕は当然のように答えた。

 僕の返答を聞いて蓮の顔が赤くなった。

 少しは男らしい所を見せれたかな。


「さあ、みんなもうすぐ年が明けるよ。

 次に行こう。

 ガレア、またお願い」


【わかった】


全方位オールレンジ……

 追跡起動トレースオン


 次は夜店の中だな。

 さあ行くか。

 凛子さん達が座っているテーブル付近に到着。


「だから!

 結局の所!

 日本国首相がだらしねぇんだよ!」


 グビグビ


「そうよ!

 もっとシングルマザーに住みよい国にしてほしいわっ!」


 グビグビ


「ZZZZZ」


 な……

 何だこの有様は……。


「駆流~……

 助けて……」


 華穏が半べそをかいて駆流に助けを求めている。


「華穏、何やってんだ?

 俺たちの方に来たらよかったのに」


 駆流が華穏に近づいて話しかける。

 それを見た蓮が。


「あら?

 駆流君。

 私の心配も良いけど、駆流君も華穏ちゃんをおざなりにしてない?」


 蓮がしたり顔だ。


「ばっ……

 馬鹿な事言うんじゃねぇよ蓮姉れんねえ

 なんで俺がこんな奴……」


 これはまた始まるかなと思ったら


「駆流~……」


 華穏の半べそ状態が治らない。

 それ程この場所がキツかったのだろう。


「ったくしょうがねぇなぁ。

 ホラ立てよ」


 駆流が華穏に手を差し出す。

 華穏の顔が明るく戻る。


「うん!」


 華穏は涙をぬぐい、駆流と手を繋ぎ立ち上がる。

 それを見て微笑む蓮。


「蓮、良かったね。

 ところで“私の心配”って一体駆流と何の話してたの?」


 これを聞いた途端ボッと蓮の顔が赤くなり、力いっぱい手を横に振る。


「べべっ!

 別に何の話もしてないわよっ!」


【竜司ちゃん聞いてよぅ。

 この子ったら十四歳の駆流ちゃんに心配されてんのよう】


 ルンルが割って入ってくる。


「だから何の心配?」


【決まってんじゃない。

 蓮と竜……】


電流機敏エレクトリッパー!」


 バリッ


【りゅりりりりりりりり……】


 ルンルが小刻みに震え出した。


「フー、危ない危ない」


 蓮がやり切った顔をしている。

 この二人も相変わらずだなあ。

 っとそろそろか。

 僕は時計を見た。


 午後十一時五十八分。


「ホラ!

 みんな!

 そろそろ年が明けるよ!

 ホラ凛子さんもヒビキも酒飲むのストップ!」


「あれ?

 竜司君……」


 凛子さんは酔ってアンニュイモードになっている。


「おや、竜司。

 悪いね」


 ヒビキはケロッとしている。

 流石竜。

 酔いが覚めるのも速い。


「ZZZZZZZ」


 これは……

 グースは寝ているのだろうか……

 目、空いているけど……

 何か怖い。


「もしもし……?

 グースさん?」


「竜司様何ですか?」


 グースは即答だ。

 寝ていたのかわからん。


(そろそろ今年が終わります!

 十秒前からカウントダウンいたしまーす!)


 店員が大声で呼びかける。


「みんな聞いてた!?

 僕らも一緒にカウントダウンしよう!」


【竜司、カウントダウンして何になるんだ?】


「みんなで新年のお祝いをしようって事だよ」


【カウントダウンなんかせずに勝手にやりゃあいいじゃん】


「人間は魔力とかテレパシーとか使えないからね。

 カウントダウンして足並みを揃えないといけないんだよ」


【やっぱ人間って不完全だなケタケタ】


(十!)


 店員の掛け声がかかる。


(九!)


 僕らも続きカウントダウンを始める。


【八!】


 ガレア達も理解しカウントダウンを始める。


(七!)


 蓮が話しかけて来た。


「竜司、来年はどんな年になると思う?」


「もちろん今年よりいい年になるさ蓮!」


「五!」


 今度は華穏がもじもじしながら駆流に話しかけている。


「ねえ……

 駆流……

 さっきはありがとね……」


「あぁ?

 何の事だ?」


「さっき……

 立てよって……」


「あぁその事か。

 別に大した事じゃねぇよ。

 お前が泣きそうだったしな。

 まだ泣きそうなら手繋いでてやっから」


「うん!

 ……駆流、来年はどんな年にしたい?」


「もちろん決まってんじゃねぇか。

 今年よりもいい成績で終える事だぜっ!」


 駆流が真っ直ぐ前を向いてそう言う。


「うん!

 駆流なら出来るよ!

 私も応援する!」


 華穏もさっきの半べそはどこへやら満面の笑顔だ。


「フフ、良かったね竜司」


「そうだね蓮」


(二!)


「一!」


【ゼロ!】


「新年あけましておめでとう!!」


 僕らは新年を迎えた。


             後編へ続く。

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