皇太孫
「貴女、お名前、なんとおっしゃるの?」
「ヴィーエ男爵家の長女、リランと申します。お初にお目にかかります。」
黒のカールした長髪に赤茶色の瞳をした女性が声をかけて来た。
リゼ姉様に雰囲気は似ていますね。でも、リゼ姉様以上に、気品のあるお方のようです。
「男爵令嬢………わたくしは、ヘッパー侯爵家の三女、カーラですわ!貴女のような男爵令嬢がリエール殿とだなんて驚きましたわ!」
「は、はい。わたしも、リエール様に婚約話を持ちかけられた時は、非常に、驚きました。」
「ふふ。貴女にリエール殿は勿体無いわね。」
もしかして、リエール様を好いている女性なのでしょうか………?
婚約者候補は、わたし以外いないと、リゼ姉様達は、おっしゃっていましたが………
「カラーエラ様。すみませんが、リランをからかわないでいただきたいのです。最近、婚約をしたばかりなので。」
「あらまあ、冗談よ!冗談!ごめんなさいね!わたくし、ヘッパー侯爵家の令嬢ではなくて、公爵令嬢の皇太孫妃、カラーエラよ!」
「まあ! 皇太孫妃殿下様………!?」
ああああ、ヘッパー侯爵家と言えば、曽祖父がアリエントティ公爵にあたる王族の名前………!
カラーエラ様は、アリエントティ公爵の長女にあたる、皇太孫殿下の再従妹で、お妃様です。
ヒントが、ちょっとだけ、隠されていました。
「わたくし、幼く見えるかもしれないけれど、これでも、32歳なの!子ども、いるのよ!」
「す、すみません!お気付きになれず………!」
わたしと同世代に見えるのに………そういえば、10歳になる息子と7歳の娘がいますね!!
か、かなり意外性の高い、二児の母親ですね。
「良いのよ〜!わたくし、可愛いらしい貴女を見つけたから、からかいたかっただけよ〜。」
「そ、そうなんですか………?」
な、なんだか、不思議なお方です。ぷくーっと頬を膨らませて、拗ねてらっしゃいます。
とっても可愛いらしいんですけれど、13歳も年上のお妃様ですね。
「カラーエラ様の母上は、リジェーラッテリエ王国の、第三王女にあたる方なんだよ。」
「ええ、そうよ。だから、わたくしが皇太孫の妃として選ばれたのよ。」
「王孫同士で、ご結婚をなされたんですね!」
リージェラッテリエ王国。この近辺にある国の中でも、一番大きな国。商業都市として栄えていると聞いたことがある。
同盟国ではないから、つまり、これは、かなり強固な政略結婚なのではないかしら。
「強固な政略結婚と思われがちですの。でも、わたくし、夫を、子どもを、愛してますわ!」
「皇太孫妃様………素晴らしく美しいですね。」
「ふふふ。ありがとう。リランちゃん。」
「ふむ。我が妻、カラーエラよ。面白い者達と話しているようだな。」
「あら!マイル様っ!ええ、ええ、この子達、とっても素敵な子達なのよ〜。」
わ、我が妻……?まさか、この美青年は………!
黒の長い髪に青紫色の瞳。綺麗な殿方ですね。
無表情なので、何考えてるか、さっぱり分かりませんが、威厳が凄まじいです。
「我は、このレディレーイッシュ王国の皇太孫マイルディオである。」
「うふふ。わたくしの愛する夫ですわ!」
わあああ、やっぱり!皇太子殿下の第一子で、継承位第二位のお方です。
威厳がどこの殿方よりも凄まじく、リエール様ですら、戸惑っているようですもの!
「僕は、この王国の第二王孫、ミラールだよ。よろしくね。」
「こちらは愛する夫の弟さん。あ、そうだわ!リゼッタさんの婚約者さんでもあるわね!」
あら、従者のように後ろに控えていましたが、まさかの、第二王孫、ミラール殿下!
マイルディオ様の弟で、リゼ姉様の婚約者さんなんだそうです。
「お、お初にお目にかかります………!」
「お久しぶりでございます。」
な、なぜ、男爵令嬢のわたしに、皇太孫夫妻と第二王孫殿下が声を掛けているのでしょうか?
リエール様に、ではないようなので、不思議に思えるのですが………
ちなみに、周りの皆様方からの視線が、かなりありまして、なんだか、恥ずかしいです。
「お主が、リエールの妻となる英雄の娘か?」
「は、はい!ヴィーエ男爵家の一人娘リランと申します。よろしくお願い申し上げます。」
ああ、なるほど!お父様の名が広まってるからなんですね!それを聞いて、安心しましたよ!
周りの皆様方も、びっくりして、こちらを見ています。
お父様、娘のわたしにはよく分かりませんが、ありがとうございます……! 尊敬します……!
「リランを好いております。兄のように可愛いがって下さるマイル様とミラール義兄上に紹介したくて、連れて参りました。」
「リエールよ、お主は、真面目ゆえ政略結婚をすると思っていたのだが………」
「はい。私自身も、驚いております。」
リエール様は、ずっと、政略結婚をして、同じような地位の伯爵家か、良くて同じ辺境伯家に婿入りするものだと、そう思っていたらしい。
わたしを見つけて、リエール様自身も、非常に驚きを隠せないんだとか。
わたしも、同じ男爵家から、婿養子を迎えるとばかり、思っていましたよ………!
「どうやら、違ったようですね。リエールは、リゼッタに似たようですよ。マイル兄上様。」
「うむ。リゼッタは、伯爵家の上位たる辺境伯家の令嬢であるが、王族ではないからな。」
「ええ。リゼッタの夫となる予定の僕としては嬉しいんですけどね。辺境伯家の者が男爵家に婿入り、ですか。珍しいですよ。」
辺境伯家は、伯爵家が、国境付近の国防警備を任されて辺境伯家になる地位である。
伯爵の中でも上位ゆえ、リゼ姉様が王家の一族である公爵家に嫁ぐのは、まだあり得る。
男爵家からは、嫁はもらわない上に、男爵家に婿入りするのも、珍しい。
「お主、リランは、リエールを、どう思う?」
「わ、わ、わたしも、リエール様をお慕い申し上げておりますっ!男爵令嬢ですが、未熟ではありますが、少しずつ、頑張って、参ります。よ、よろしく、お願い申し上げます………!」
「ふむ。身分差ゆえの恋か。面白い。我も妻も運良く相手がちょうど良い身分にいたからこそ婚姻することが出来たが、お主らは、違うのであろう。リエールとリランの婚約を認める。」
「「ありがとう存じますっ!皇太孫殿下。」」
皇太孫殿下に認められるということ、これは、かなりの異例である。
リエール様を、弟のように思う、皇太孫殿下&第二王孫殿下の祝福、なんだそうです。
有り難いですね。ありがとう存じます………!
「リエールよ。」
「はい、なんでしょうか?皇太孫殿下。」
社交界からの帰り際に、リエール様を、皇太孫殿下が呼び止められました。
……あら?皇太孫殿下が、何か嬉しそうですね!なぜかは、わたしには、わかりませんが。
「お主らが婚姻して、ヴィーエ男爵家に婿入りしたら、子爵家になることが決まった。」
「し、子爵………?私が、辺境伯家の次男だからですか?それとも、第二王孫殿下の義弟になるから、ですか?」
「子爵家……ヴィーエ男爵家が、ですか……?」
男爵家というのは、下流貴族で、地位が低い。
男爵家の上が子爵家で、子爵家の上が伯爵家、その上に辺境伯家だ。
さらに、その上は、王族の血を引いている侯爵家や公爵家、というようになっている。
「それもあるが、お主のような素晴らしい者を男爵家で留まらせておくわけにもいかない。」
「殿下……… ありがとう存じます!」
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