執事達


「「お嬢様、おはようございます。」」


「ええ。おはよう。ヴィーン。マルーサ。」


この男爵家の執事長をしていて、普段はお父様付きの執事であるヴィーン。


そのひとり娘で、わたし付きの侍女をしているマルーサです。


ヴィーンさんの妻であるエリーサは、侍女長として、お母様付きの侍女をしています。


マルーサの息子ユゼロくんは庭師見習いです。


「いつも通りの朝食をお願いしますね。」


「はい、お嬢様、かしこまりました。ただいま用意して参ります。」


「ええ。ヴィーン。いつもありがとう。」


お料理を作るのは、昔からいる料理人の人達やサエール義叔父様です。


それを、部屋に支給して下さるのが、執事長のヴィーンです。いつもありがとう。






「マルーサ。来週に社交に出席する予定なの。よろしく頼むわね。」


「はい、かしこまりました。お嬢様。どちらのお方主催の、なのでしょうか?」


「リゼ姉様の婚約者………つまり、ミラール殿下ですね。皇太子殿下が来られるそうです。」


「お、王族の、ですか?では、お嬢様、いつも以上に上品なドレスをご用意いたしますね。」


「ええ。お願いね。ありがとう。マルーサ。」


マルーサが用意して下さったのは、淡い桃色のとても可憐なドレスです。


濃い緑色の葉っぱのような髪飾りが付いていてまるで桜の花のような美しさ。


「まあ!とっても綺麗!マルーサのセンスは、素晴らしいわ!ありがとう!」


「お嬢様!緊張しましたが、喜んでいただき、ありがとう存じます!」


「ふふ。わたしも、王族の方相手というのは、さすがに、緊張するのよねー。」


緊張どころではなく固まりそう。リエール様がフォローして下さる………とは思いますが。


義姉の旦那様が、第二王子で次期公爵様だからこれから先、何度もお会いしそうね。


「まさか、2回目の社交界が、王族相手って、下流貴族には、そうそういないわよね………?」


「いえ。アルスト様は、英雄として、1回目の社交界にて、授爵をされて、先代の国王陛下と現在の国王陛下にお会いしました。」


「あらまあ!お父様の方が凄かったわ………!」


男爵になられた時、まだ、平民の騎士であったお父様は、どう思ったんでしょう?


お父様、緊張しない方法を教えて下さいませ。






「お嬢様、サトでございます。失礼致します。注文していた本をお持ちしました。」


「まあ!ありがとう!この本、わたし、ずっと探していましたの。見つけて下さったのね。」


この本は、簡単に説明すると神話物語である。


創造主の神様と大地の女神が結婚して、太陽の女神、月の女神が、子どもとして、補佐として誕生した、という内容のもの。


「どういたしまして。また何かあれば、頼りにしてください。いつもありがとう存じます。」


「サト、こちらこそ、いつもありがとう。」


サトは義叔父様付きの執事になる予定の執事。執事長ヴィーンの弟にあたります。


奥さんのレラは叔母様付きで、娘のマリッカはハルファちゃん付きになる予定の侍女見習い。


息子さんのアローウくんもいて、賑やかです。





「失礼いたします。朝食をお持ちしました。」


「ありがとう。今日も、美味しそうね。」


普通の食パンにバターをぬって、焼いただけの質素なものと、蜂蜜入りの紅茶です。


だけど、これが、わたしに、ちょうど良いの。


「ヴィーン、料理人のふたりに、あなたから、お礼を伝えて下さりませんか?」


「はい、お嬢様。かしこまりました。」


料理人達は、料理長のチェッレと料理長補佐のプラーニの親子です。


どちらも、親子共に、強面な方々なんですが、料理人としての腕は素晴らしいものよね。


「本日の朝食は、プラーニが作りました。」


「珍しい、プラーニが作ったのね。料理長は、義叔父様を指導してらっしゃるのかしら?」


「そのようですね。チェッレとサエール様は、夕食を作る予定でございます。」


「まあ!サエール義叔父様の料理は、久々ね!5年ぶりかしら?楽しみにしていますね。」


「はい、そうお伝えしておきます。」








「ねえ、マルーサ。」


「はい、なんでございますか?お嬢様。」


朝食を食べ終わったら、そばに控えている侍女マルーサを呼ぶ。


ちょっとした疑問と相談について、マルーサに確認してみたかったから。


「もうそろそろ、我が家の敷地に別邸を作った方が良さそうよね?」


「別邸を、お作りになられるのですか?なぜ、でしょうか………??」


まず、理由としては家族が増えるからですね。


さらに、リエール様が婿入りして来ましたら、辺境伯家から連れてくる使用人も来ますよね。


幸い、田舎ですもの。我が家の土地は、とても広々としていますのよ。


「これから、家族や使用人がだんだんと増えて行きそうでしょう?」


「た、確かに、このままだと部屋数が…………」


「でしょう?むしろ、今までギリギリ過ぎたんですもの。リエール様が婿入りしてくる前に、色々と足りないところは、増やしましょう。」


リエール様が婿に来られると、執事や侍女達も増えますね。


叔母様夫妻に第二子が出来るかもしれないわ。

わたしが結婚したら、いずれ、子どもが出来るかもしれません。


そうなりますと、部屋数は、足りるのかしら?


「はい、かしこまりました。父であるヴィーンから、アルスト様にお伝えしてみましょう。」


「マルーサ、ぜひ、お父様に確認してみて。」


「はい!かしこまりました!」







「お嬢様。庭の掃除終わりましたぞ。」


「ルックおじいさん、ありがとう。いつもお庭綺麗ね。これからも、よろしくね。」


ルックおじいさんは、現在77歳のお爺ちゃん庭師。我が家の最年長です。


元は伯爵家の庭師さんだったんですが、引退をして、我が家に来て、庭の掃除担当しながら、若手の青年を見習いとして育てています。


「任してくださいませ。ユゼロくんの教育も、しっかりとこなしてみせますぞ!」


「ユゼロ君は、まだ12歳。成人してる頃には立派な庭師さんね!」


「うむ。儂は、ユゼロくんは、良い才能持っている努力家であるからして、立派な青年になると思っとるんじゃよ。」


「ふふふ。ユゼロくんの成長が楽しみだわ!」


ユゼロくんは、執事一家の息子ですが、庭師になりたいんだそうです。


ユゼロくんの祖父のヴィーンにお願いされて、ルックおじいさんは張り切っていますね。


「このヴィーエ男爵家は、引退した儂のような者を雇って下さるんじゃ。ユゼロくんを育てることは、恩返しになるかのう?」


「ぜったい、なりますよ。むしろ、庭師さんがいなくて、困っていましたもの。ありがとう。ルックおじいさん。」


「そうかね。それは有り難いお言葉を。どうもありがとうございます。」


「ふふふ。お祖父様って、いつも謙虚ねー。」


「それは、内緒じゃよ。我が孫娘リランよ。」


「もちろん、内緒よね?ルックおじいさん。」


そう、実は、ルックおじいさんは、ほんもののわたしの父方の祖父である。


庭師だから、よく使用人と間違えられている。


お祖父様自身、間違えられるのを楽しんでいるので、楽しそうなら良いだろうと黙っている。

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