婚約者





「初めまして。お嬢さん。」


「は、初めまして。辺境伯様。」


「ふふ。私が、三人の父親であるアール辺境伯リルストだ。よろしく。」


「はい、よろしくお願い致します。わたしは、ヴィーエ男爵の一人娘、リランと申します。」


リュエル兄様は、お父上のリルスト様に似たのですね。豪快な騎士様ですもの。


騎士は、騎士でも、物腰柔らかなお父様とは、タイプが違うようです。


でも、容姿は、リエール様に近いおじさま。


「義父と呼んで構わないよ?君は、我が息子のリエールの、奥さんになる人なのだからね!」


「は、はい、ありがとう存じます!義父様!」





「あら、リランちゃん!お久しぶりね〜〜!」


「マリーエ夫人!お久しぶりでございます!」


リゼ姉様とは、あまり似ていない、ほわほわとふわふわと穏やかに漂う辺境伯夫人。


独特な雰囲気をお持ちのお方ですが、これでも意外や意外、女騎士なんですよね〜〜。


「うふふふ。これも、何かの縁なのかしらね?息子のリエールを、よろしくね?」


「こちらこそ、よろしくお願い致しますっ!」







「って、母上!!リランを知ってたのっ!?」


「ええ、ヴィーエ男爵領には、よく視察に行かせていただいてるの。」


「なるほど。いつも招待して下さる男爵って、ヴィーエ男爵のことだったんだね。」


「ええ、本当は、あなた好みのリランちゃんを紹介したかったけど、あなたは、次男だもの。自由にして欲しかったの。」


「そっか。なら、仕方ないね。ありがとう。」


「うふふふ。どういたしまして!」


えーっと、マ、マリーエ夫人? リエール様?


あなた好みのリランちゃんって、どういうことなんでしょうか………?


「でもね?わたくしより、リルスト様のほうが、詳しいわよ!ねえ?」


「えっ?あ、ああ、うん。ヴィーエ男爵殿は、私のかつての上司でね。歴代の騎士団長の中で最強の英雄だ。お嬢さんは、強いのかな?」


「い、いえ!わたしは騎士には向いてなくて、代わりに護身術を習いました。」


「そうか。アルスト騎士団長に鍛えられたなら護身術でも強そうな気がするが………」


「残念ながら、比べたことがないので………」


周りにいるお父様の弟子達とは、手合わせしたことがありませんですし。


なにより、お父様以外と手合わせしたことないため、比べようがないですね。


「あ、リラン、今度で良いから、私と手合わせしてみないかい?」


「は、はい、畏まりました!リエール様!」


リエール様の方がお強そうなんですけれどね。


手合わせしてみたいです………!








辺境伯ご夫妻に挨拶した後。


私とリエール様は、辺境伯家の温室に。


なんて美しいのでしょう。様々な可憐な花達。

よく見ると、可愛いらしい小鳥がいます。


「ここは私専用の温室だから、リランは自由に出入りしても構わないよ。」


「わああ!綺麗ですね!わたしは、お花が好きなので、嬉しく思います!」


「うん。いつも思うよ。綺麗だよね。ここ。」


「小鳥は、辺境伯家で飼ってるルルリとポタ。人懐っこいから、呼べば来るよ?」


「まあ!なんて可愛くて、賢いの!この子達、凄い小鳥さんなのね〜〜。」







「実は、その、リラン。」


「はい。なんでしょう?リエール様。」


なんだか、緊張してらっしゃるようですが……


すると、リエール様は、わたしの手を取って、にっこりと優しく微笑みました。


「君に、リランに、婚約を申し込んだ理由を、話そうと思うんだけど、良いかな?」


「えっ?は、はい、もちろん、構いませんよ?むしろ、気になります。どうして、わたしを、お選びになったのですか?」


わたしは伯爵令嬢ではなく、男爵令嬢ですし。


身分差は気にしないで良いのなら、気にしない方が良いんでしょうけど、やはり、周りの方は気になるでしょうし。


幸い、リエール様のご家族は、お父様を知っているから、受け入れて下さりましたけど。


「………実は、その、一目惚れ、だったんだ。」


「ええっ!?リエール様!そうでしたの!?」


まあああ!一目惚れ!わたしに?驚きました。


わたしは、見た目は平凡な方です。性格は普通あたりだったら、良いなあとは思っています。


「その、リラン。改めて、結婚して欲しい。」


「………っ!リエール様!ありがとう存じます。わたしで宜しければ、改めて、よろしくお願いします。その、お慕い申し上げております。」


「ありがとうっ! リラン。愛してる。」


あわわ、恥ずかしすぎて、どうしたら……!?


あ、あれ?さっき、リエール様、わたしの手にキスをしませんでしたかっ?


あの、さすがに、恥ずかしいのですが………


「まあまあ!プロポーズ?かっこいいわね!」


「ああ、そうだね。我が息子ながら、なかなか良いプロポーズだなあ。」


「ち、父上?母上?聞いてたんですかっ!?」


うふふふ、と笑う辺境伯ご夫妻。末息子を心配しての行動でしょうか。からかい気味ですが。







「来月に、我が辺境伯家が、王宮へ招待されているんだが………」


「王宮、ですか?噂によると、とてもお綺麗な白い宮殿だと聞いています。」


「ああ、その真っ白な宮殿だ。その一角にある『月夜の間』で夜会がある。」


「ちなみに、昼間のお茶会は、『太陽の間』でやるのよう。贅沢ねえ。」


その一角に、王族や上流貴族が集まる社交界の本場と呼ばれる場所があるらしい。


男爵令嬢は、普通なら、出向かない。そもそもお呼ばれは全くない。


そんな場所だから、まるで、夢物語である。


「ぜひ、リエールの婚約者として、参加をしてくれないかい?」


「うふふふ。ミエール殿下とリゼちゃんの婚約発表があるの。ぜひ、いらして?」


と、誘われても、わたしには、こないだ初めて参加した夜会に着て行ったシンプルなドレス。


わたしは、それ以外にドレスを持っていない。


ましてや、そもそも、そんな凄まじいところへ行ける高級なドレスも、度胸もない。


「あ、あの、お誘い、ありがとうございます。し、しかし、わたしは、そのような場所に赴くドレスをあまり持っておりませんので………!」


「リラン、それは大丈夫だよ。リランに合った最高のドレスを、私が婚約者として送ろう。」


「えっ?し、しかし、宜しいのでしょうか?」


いやいや、宜しくはないでしょう?凄く高級なドレスですよ?田舎なら、一軒家買えますよ?


辺境伯家って、やっぱり、わたしのような村に住む男爵家とは金銭感覚が違うらしい。


「構わないよ。私が婿入りするとはいえ、君は我が家の一員なのだからね。緊張はすると思うけれど、皆に君を紹介したいだ。」


「リ、リエール様、ありがとう存じます。」


金銭感覚には、色々と驚きましたが、これは、婚約者として受けた方が良さそうですね。


どうしましょう?場違いな気がしていますよ。







その数日後のこと。


わたしに用意して下さった高級ドレスを見て、本当に、非常に、驚いた。


高級品過ぎて、着るのも大変そうなのだけど…


薄紫色のリエール様の瞳とよく似た色鮮やかなドレスが用意されていた。


さらに、さらに、これまたリエール様の髪色と同じ琥珀の婚約指輪が用意されていた。


なんだか、ますます恥ずかしいのですが………!

両親と叔母親子の視線が凄いのですが………!


………リエール様っ!

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