終焉 03
この戦いは、数年に及んだ。
当初ミカエラが立てていた計画よりも、遥かに時間がかかる事になっていた。どちらの力も均衡していたのだ。
長引く消耗戦になるか、と思われていたが、事態は一気に動く事になる。
痺れを切らしたミカエラが奥の手であった『
ニケはこれ以上犠牲者を出すまいと、ミカエラが拠点とする神宮へ、単身で突破しに向かった。
◆◇◆◇◆◇
「ミカエラぁぁあああああああああ!!」
地を這うような低い声で、ニケは神宮中に自らの存在を響き渡らせる。
持ち前の怪力で次々と護衛部隊を打ち砕き、ミカエラの居るであろう最上階の司令室へと駆け上がる。
扉を文字通りに蹴っ飛ばし、ニケは中へ入る。
案の定、ミカエラはそこで悠然と微笑んで立っていた。
「ミカエラ......っ!!」
「まさに鬼の形相...ですわね、ニケ」
ニケは殺意の篭った瞳でミカエラを睨みつけ、一気に彼女の元へ駆ける。そして下から突き上げるように、腹部を殴った。
それは壁を突き破り、2人は空中に飛ぶ。そのまま、真下へ落ちていく。
普通の人間ならば即死だが、彼女らは戦争兵器。並大抵の衝撃には耐えられてしまう。
ミカエラとニケは地面に着地すると同時に、拳を交える。
これはお互いの
長引くかと思われた一騎打ちだが、ニケが徐々に不利になっていった。
ミカエラには手数があった。が、ニケには腕が1本しかなく、手数が劣っていた。
拳を交え始め3日目の夜明け。息の上がったニケへ、ミカエラがニケの
バチバチと火花を噴き、ニケの身体は地面に沈む。
「が、ふ...ぁ、がぁ...」
「はっ......はぁっ、はっ、あは、あはは、ははははははははははははははははははははっ!!!」
ミカエラは高らかに笑い、倒れたニケの背中をグリグリと押し潰すように踏みつける。
「み、かえらぁ...っ、うぁぁあああああああああああっ!!」
ニケは最期の力を振り絞り、勢いよく立ち上がった。足をニケの背の上に乗っけていた為、ミカエラはバランスを崩して地面に倒れる。その上に馬乗りになるよう、ニケが乗る。
ぽっかりと空いた
ニケはカタカタと震える手を、ミカエラの片目へ押し付ける。
「アンタ...には、呪いをかけて、......。一生、それは、......解け、ないから......」
ニケの手の甲にぼんやりと濃い青紫色の模様が浮かび上がり始めた。それは徐々にハッキリと浮かび上がる。
それは片翼の羽の模様であった。
ニケとフェイディアスの戦争中期に作られた者のみが得ている力であった。自らの命の灯火を代償に、相手を殺す方法である。
その模様を焼き付けられるような熱く痛む感覚に、ミカエラは声に出さずに悶える。
「.........じゃーな」
ニケはこの言葉を最期に、死んだ。
ミカエラはのしかかるニケの遺骸を蹴り飛ばし、手が押し当てられていた瞼に触れる。ジュッと焦げる音が鳴り、指先が焦げ付いていた。
ニケの言っていた通り、簡単には解けそうにも無かった。
「......ミカエラ」
そこへ戦いが終わったと察し、中立の一団を連れて、フェイディアスが神宮へやって来た。ミカエラは彼女を一瞥し、顔を背けた。
「...皆、死ぬのか」
歯に衣着せぬフェイディアスの物言いに、ミカエラは何も答えない。
「......フェイ、私は死ぬ気は無い......。この呪いを解く。どんな呪いかは、知らないけど」
ミカエラはゆっくりと自らの身体が動きにくくなっているのを感じた。
「......私をどこかに匿いなさい。これは命令よ」
「......そう」
フェイディアスは文句も言わずに、ミカエラの身体を抱き抱えた。その時、横に転がっていたニケへ目を向ける。が、何も言わずにミカエラをある場所へ連れて行く。
そこは、フェイディアスが中立の一団と共に暮らしていた洞穴であった。人の手の入っていない奥地へと、フェイディアスはミカエラを連れて行く。
そして、目的の場所に辿り着いた。
「......これは、」
「水晶の塊だと判明してる。......ここの人間は...、沢山あるから価値がない、と思ってるけど」
フェイディアスはそう言って、彼女を水晶の近くに下ろした。ミカエラは水晶へそうっと触れる。
ミカエラ達のような
故にミカエラは感動し、涙を流す。この水晶はミカエラの命の灯火を保たせるには、十分過ぎる量があったのだ。
「......フェイ」
「は」
「この場所を守って。私が回復し、再びこの国の王となるその日まで」
「......それは命令?」
「勿論」
「ならば受けよう」
フェイディアスは、ミカエラへ静かに一礼した。ミカエラは彼女の反応に満足気に頷き、静かにその目を閉じ、主要な回路以外を切断し、呪いを解く事に集中したのだ。
◆◇◆◇◆◇
1人、フェイディアスはその様子を見下ろし、その場から立ち去った。
「...誰も、昔のままでありたいと、思えなかった...か」
フェイディアスは帰り道、瞳を閉じた。
『フェイ、早く来いってば』
『何......?』
『じゃーんっ!!』
『.........お肉?』
『今日、偶然ヘルとラフィーが鹿を狩ってね。で、フェイを驚かせたいって、ニケが』
『へへー、驚いたか?!』
『私ならば、そんなに驚きませんけど。まぁ、早く食べましょうよ。お姉様に冷やした肉を食べさせたくはありませんわ』
『まぁまぁ、落ち着いてください。肉は下処理が重要ですから』
『ヘル姉は流石だなあ!』
『............ふふふ』
『あ、フェイが笑った!』
『珍しい事もあるものですね』
『皆さん、きちんと裏も表も焼けましたよー!頂きましょう』
『美味しいなあ』『美味しいですわね』
「フェイディアス様っ!」
気付けばきちんと出口に出ていたらしく、フェイディアスの目の前には不安の面持ちをした人々が待っていた。
「......皆、これからは、......君達がユーピテルを...引っ張っていく番だ」
フェイディアスの言葉に一同はザワつくが、すぐに収まった。
「君らに、手を貸そう。けれど、...もう、私は、国を引っ張ってはいかない。君達が引っ張るんだ」
フェイディアスはスッと息を吸い、声を発した。
「ユーピテルは、君達の国だ」
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