花の話

「わー!見てよ、カヴィくん!」

 任務からの帰り中、ユラとカヴィは花畑に出くわした。

 その場所一面に、美しい黄色い花が咲いていた。

「綺麗だよね!寄り道して行こうよ」

「え、でも、ってわぁぁぁあ」

 カヴィはユラに強く手を引かれ、そのまま花畑の中に文字通りに落ちた。

「.....いいねぇ。あ、向こうに池があるっ」

 ユラは興奮冷めやらぬ様子で、カヴィを置いてずんずん先へと進んでいく。

 カヴィはゆっくり立ち上がって、その花をよく観察する。

 それは向日葵だった。

 辺り一面に、それらは自らを誇示するように咲き誇っていた。


 カヴィは花をかき分けながら、ユラの後をついていく。

 ユラは澄んだ水が波紋を作る池に足を付け、近くに落ちている向日葵を眺めていた。

「もう...、はしゃぎ過ぎ」

「あはは、ごめんね」

 ユラは頬を掻きながら、手元にある向日葵へ目を向けた。

「向日葵畑...。少し怖いよね」

「へ?」

「向日葵ってさ、怖くない?私は少し怖くって。上手く言葉では言えないんだけど」

 ユラはくるくるのと向日葵を弄びながら、ふふふと微笑んだ。

「ね、知ってる?向日葵の花言葉」

「え、いや.....」

 ユラは笑みを絶やさぬまま、彼女は言葉を紡いだ。


「貴方だけを見つめる」



「へぇ...。物知りですね」

 カヴィはそれだけしか言えなかった。

「向日葵って神話もあるよー。向日葵って元々女神様で、太陽の神様にダメ元で告白したら恋が実ったんだけど、彼は浮気をした。女神はそれが許せなくて、浮気した女を殺すんだよね。そうしたらまぁ、当然彼は怒って女神を見なくなった。女神はそれが悲しくて、太陽を見るの。そうしたら向日葵になりました、って感じのね」

 ユラは水面へ、持っていた向日葵の花びらを浮かべた。

 それはゆらゆらと揺れる。

「悲しい花言葉だと、思わない?」

 ユラの表情は酷く複雑で、詳しい思いまでは分からなかった。

「.....その話を知ったら、悲しいね。でも、素敵な言葉だと思うよ。向日葵はずっとずっと、好きな人を追いかけられるんでしょ?」

 カヴィはにっとはにかんでそう言った。ユラは驚いたように大きく目を見開いて、それからくすくすと笑い始めた。

「そうだね...。うん、そうだねぇ」

 自分の解答が本当に彼女の求めるものだったのか。

 カヴィには分からなかった。

「よし!」

 パン、とユラは自らの膝を叩いて、水面から足を上げる。

 そしてポーチの中からハンカチを取り出して足を念入りに拭き、靴を履き直す。

「帰ろっか、カヴィくん!」

「うん、ユラ」

 二人は向日葵達に見送られながら、その場所を後にした。

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