Episode.40 The moment he chooses their own future.

「.....ほぅ、ある意味成長したな、エノ・カンパニーの息子」

 ユラはその声に目を見張った。そしてその姿形に、言葉を失う。

 彼の姿は、あのパーティーの時に命を奪った男とよく似ていた。否、瓜二つであった。

 故に、何者であるのか、ユラにはすぐに理解出来た。

「.....頭領ドンっ!」

 ユラは急いで拳銃へ手を伸ばした。しかし、拳銃のグリップを握る事は出来なかった。

 ユラは慌てて横を見る。その横にはユラの拳銃があり、頭領ドンに向いて狙いを定めていた。

 その行動を起こしていたのは、カヴィである。

 銃口は手の震えでカタカタと小さく揺れ、どこか頼りないが、カヴィの瞳が頭領ドンから外れる事は無かった。

「カヴィ...くん」

 その時バンと勢いよく扉が開き、アシュが部屋へ入って来た。

 アシュはその場の状況に目を丸くしたものの、すぐに頭領ドンの背中に剣先を突き付けた。

「.....〈涙雨の兎〉から、手を引いてください」

 震えた声で、カヴィはそう言う。

 頭領ドンは押し殺したような笑い声を上げて、ユラの額から銃口を反らした。

「それならカヴィ、俺の名声を上げる材料になれ。王権が覆った今、お前はこんな薄暗い世界から明るい世界で、玉座に座る事が約束されている。俺もだ」

 カヴィは首を横に振った。

「嫌です。俺は皆と一緒に居たいから、貴方の望みは叶えられない。俺の中に王族の血が僅かに流れているとしても、そんなの昔の話だ、どうだっていい」

「虫の良い話だと、思わないか?自分の願いばかりが叶う世界だと、思ってるのか」

「いいえ。だから──、貴方の命を、奪う」

 カヴィの言い放った台詞に、頭領ドンはただただ微笑んでいた。

「殺してみろ、若造」

「.....っ」

「カヴィくん、私が」

 ユラがカヴィの手の拳銃を取ろうとするが、その手は強く握られていた。

 意思の硬さを感じ、ユラは諦めて手を離した。

 アシュもまた、ユラのその態度を見て切りかかろうとはしなかった。

「.....皆」

 そこへ、フェリがやって来た。三人の中で一番ボロボロで、怪我の酷い状態だった。

 フェリは状況がよく読めずふらふらとカヴィの元へ近付こうとしたが、それをアシュが袖を引いて止める。

「待て」

 フェリはアシュの真剣な声色に戸惑いながらも、こくりと小さく頷いた。

「意気地無しか」

 頭領ドンはユラの額に拳銃をゴリッと押し当てた。

 いくら半分程度は〈鬼神種〉の血が流れていても、脳を壊されてしまえば再生能力は使えない。ユラは奥歯を噛んだ。

「っ...!」

 カヴィは目を閉じて──、それから引き金を引いた。

 それと同時に、パンッと乾いた音が鳴った。




 舞う血飛沫。



 傾ぐ身体。




 血溜りの中に、沈む身体。





 意地悪く上がった口角。





 微かに動く口。




 その言葉は、誰の耳にも届かずに、消えた。






「人を殺すって、虚しい気持ちです」

 転がった目の前の死体に、カヴィはぽつりと呟いた。

 ユラはカヴィの手元に落ちている自らの拳銃を拾い、弾丸を装填し直してからしまう。

「.....カヴィ、大丈夫?」

 フェリが柔らかな声音で訊ねた。カヴィは小さく頷いて、ゆっくりと立ち上がる。

「迷惑かけて、ごめんなさい」

 そして、三人へ頭を下げた。

 ユラは目を大きく見張って、それからくすりと微笑んだ。

 アシュは剣を鞘へしまい込み、それからカヴィの額を小突く。

 フェリは小さく口角を上げて、カヴィの肩をぽんと叩いた。

「帰ろう、カヴィ」






「........はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る