Episode.34 Because there is the friend who wants to regain it.
「っくそ、くそっ!!」
ユラは地面を蹴りつける。しかし、すぐに冷静に頭を回していく。
耳は良い。ならば、聞き取れないか。彼らの足音を。
ユラは全神経を両耳へ集中させる。どんな小さな音も聞き逃さないようにする為に。だが、聞こえてくるのはメィがリツの後頭部を冷やす為に用意している氷の音であったり、周りの人間が生み出している生活音だけで、彼らの足音は全く聞こえてこない。
「.....何で、なんでこういう時に、何も聞こえないの...」
ユラの口からか細い声だけが溢れた。
無性に泣きたくなってくる。少女から娘へも成長して誰でも守れると思っていた自分へ驕りを感じ、そして無力さを噛み締めていた。
後悔ばかりが、ユラの頭を渦巻いた。
「.....ユラ?」
「っ.....、フェリさん、アシュさん」
ユラが顔を上げると、買い物袋を携えたフェリとアシュが居た。二人共、不安そうな面持ちをしている。
「.....カヴィ、くんを、私は、守れませんでした」
ユラは震えた声で所々を区切りながら、フェリとアシュへそう言って頭を下げた。
フェリとアシュは驚いて、フェリはアシュの顔を見た。彼の顔は苦々しい顔つきをしていた。
「こんな予想、当たって欲しくねぇ」
そう呟いた。そして、アシュは中へ入る。フェリとユラも後を追った。
「よぉ、アシュー」
目を覚ましたリツはメィに介抱されていた。アシュはしゃがんで、リツに視線を合わせる。
「大丈夫か?」
「平気だ。すぐに受け身を取れなくてえへへ」
「笑い事じゃねぇ」
アシュはリツの身体の隅々に触れる。
「.....折れてはないか」
そして、安心したように息を吐いた。それからメィの方を向く。
「メィは?」
「大丈夫です。ユラさんのお陰で怪我は負ってません」
「.....で、誰にやられたかは分かるか」
「名前はさっぱり。金色の髪の毛を尖らせた男の方です」
「情報少ないな...。シーに任せてみるか」
「...アシュさん、カヴィくんは自分の足で行ったんですよ」
ユラは俯いたまま、ぼそりとか細い声で呟く。
「探して見つけたとしても、私達の元に戻って来てくれるかなんてっだぁ?!」
アシュはユラの頭を思い切り叩いた。ユラは頭頂部を押さえて、アシュを涙目で見上げる。
「やってみなきゃ、分からないだろうが」
アシュの吐き捨てるような言葉に、ユラは目を丸くして──、それからにっこりと笑った。
「.....っアシュさん!だから私はアシュさんを応援したくなるんですよー!」
ユラはぴょんとアシュへ飛び付いて、「うおっ」アシュはバランスを崩して床に尻餅を付いた。
「.....仲良しなのは、いい事」
フェリは小さく微笑んで、リツへ目を向けた。
「俺達は弁償しないから」
「いいよ。その代わりボコボコに頼むな」
「了解」
フェリは落ちているナイフを手にし、ぐるりと全体に目を通した。そして、その柄を握り締める。
「.....カヴィ」
その声は熱気を帯びていた。
次の日。
フェリとユラで、"Knight Killers"の依頼受理施設であるボロ酒場へやって来た。
そこには、いつもの席で彼がちびちびと酒を飲んでいた。
「シー」
「.....お?隊長にユラじゃーん。や、ユラは二日ぶりだな」
シーはヘラヘラと笑って、また酒に口を付けた。フェリは近付いて、カランとナイフを机の上へ置いた。
「何?」
「カヴィが連れて行かれた。それだけが、あいつの居場所を知る手掛かりになる」
シーはフェリの言葉に目を見開き、ナイフを手に取った。それをジロジロと観察して、それからまた二人へ目を向ける。
「助けるつもりなのか?」
「仲間だからね」
「.....俺が忠告するのも変だけど、関わらない方が得だ。死ぬぞ、お前達」
「死に場所はいつだって求めてる。気にしない」
フェリの澱みのない碧玉の瞳に、シーはじいっと目を向けて、彼は小さく溜息を吐いた。
「.....出来る限りの事はする。が、お代は要らん」
「へ?いいの?」
ユラが頓狂な声を上げる。
いつもなら、ユラの身体の一部をお礼金として指定するシーが、何も見返りを求めなかったのだ。
「あぁ。こんな状況で見返りは求めないさ」
シーはグラスに残っていた酒を全部飲み干し、それからニヤリと笑った。
「分かり次第連絡する。それじゃ」
シーはふらふらとした足取りで、店を出て行った。
「.....おや」
その時、新聞を広げていた店の店員が小さく声を漏らした。ユラはそれも聞き逃さない。
「何か書いてあるの?」
少しでも彼らの尻尾を掴めるような情報が載っていれば、とユラは店員へ訊ねた。
「あぁ、ナツ王の政権がゴタゴタになり始めまして。どうやら前王の妃を担ぎ出して、.....一時的に政権が代わりそうですね。まぁ、こんな国のごみ溜めみたいな場所には関係ありませんが」
「.....そっ、か。ごめん、読んでるの邪魔して」
「いいですよ。暴れられるよりは全然」
店員はそう言ってまた新聞へ目を向けた。
「行こっか、ユラ」
「はい」
フェリとユラは店を後にした。
二人はのんびりとした足取りで〈堕天使〉まで歩いていた。
「それにしても、何でカヴィくんを攫うんでしょうか...。謎です」
「俺も分からない。カヴィに特別な力を感じた事はないんだけど。黒髪に青い目は珍しい?」
「いえ、そんなに珍しいものではないと思います」
「.....エノ・カンパニー...だっけ?まだ何か裏があるのかな...」
「.....ありそうですね」
ユラはふっと息を吐き出して、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
「どうしたの?」
「考えても分からないので、イライラしてるだけですよ。.....はー、自分の馬鹿野郎」
ユラはそれを呟くように言ってから、パッと顔を上げた。
「頑張りますけど!」
「うん、頑張ろ」
フェリとユラはパンと手を合わせた。
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