Episode.14 It's not as the pleasant relations.
「それじゃあ!アシュさんのドレス選びを始めましょー!」
カヴィの狙撃銃の練習を早々に切り上げて、二階の〈涙雨の兎〉の家のリビングへメィとユラ、アシュは集まった。
アシュとメィはソファに座り、二人掛けのソファなので、ユラは床にぺたりと座る。
「アシュさんは顔立ち整ってますから、基本的に何でもお似合いかと思いますけど.....」
メィの言葉に、ユラは首を振るった。
「そうかもしれないけど!アシュさんにとっては、フェリさんに自分の思いを身の丈程表せるチャンスなんだよ!めいいっぱいのお洒落が必要なんん?!」
ユラは唐突に口元を押さえられ、じたばたと藻掻く。それをしているアシュの耳は赤くなっていた。
「.....と、とりあえず...。色合いとか形を決めましょうよ!私が持ってなかったら買わなくちゃいけませんし」
「決まってるよ。私の中ではアシュさんに着て欲しいドレス姿は決まってる」
ユラはそう言い切ると、ニヤリと口角を上げた。それを見てメィは不安げな顔をして、アシュはげんなりと疲れきった顔をした。
「まずは、身体の線が出ない物を選ぶ。アシュさんと言えども、やっぱ男と女じゃあ身体付きは違うからね。そこでブッファンスリーブの袖」
聞き慣れない単語にアシュが首を捻っていると、メィが横へちょこちょこと移動し、「肩口から大きく広がった、ゆったりとした袖の事です」と解説を加えた。
「その袖を使ったイノセントドレスにしよ!シンプルなデザインだから、アシュさんでも着やすいだろうし!」
「おいこら待っ」
「色合いはアシュさんの好きな赤を基調にしてもいいですし、薄紫色とかアシュさん似合いそうですよね!ファーで肩を少しでも隠せば、もっと女性らしくなるだろーなぁ!で、胸元には赤い薔薇のブローチを付けて、靴はそこまで高くないヒールを履きましょっ」
ユラは大層盛り上がっていた。一人で。
それはもう、他二人が言葉を挟む事を止め、ただただ唖然とした表情でユラを見つめなければならないくらいには。
勿論、ユラ側にもそれなりの理由がある。
それは煮え切らないフェリとアシュの関係に、少しでも揺れ動く何かがあればという純粋なお節介である。
男同士。どうしても世間では色眼鏡で見られるだろう。斯く言うユラも、アシュのフェリに対する特別な感情に気付いた時は、衝撃で言葉を失った上に内心動揺を隠せなかった。
だが、アシュが彼へ向ける感情は真だ。嘘偽りなどない、真っ直ぐな乙女心なのだ。彼の性格上素直ではないから、それを上手く口に出来ないだけで。
アシュのその感情に気付いてから更に数日間考え抜いて、ユラはある結論を出した。
実は素晴らしい事じゃないのか、と。
数多くいる人間から、『運命の人』をアシュは見つける事が出来たのだから。
そう思うからこそ──、
「私が用意してあげるから、任せてくださいね!」
ユラはアシュを陰ながら応援するのだ。
それを知ってか知らずか、アシュはいつものようにこう言う。
「.....うるせぇよ」
「ふふ、それが私ですからねー」
メィはそんな通じ合っているように会話をしていく二人を微笑ましく思いながら見て、時折ユラから受ける様々な質問へ、的確なアドバイスを加えていく。
不意に、ユラは思い出すように手を打った。
「あ、そうそう!一応というか、見える所の毛は剃りますからね」
「はあ?!?」
一方その頃、他三人は一階の〈堕天使〉のカウンター席に腰を下ろしていた。
「いやー、三人でどんな話をしてんのかねー」
リツは二人分のカクテルを作る準備をしながら、天井を睨んだ。
カヴィの目の前には、既にオレンジジュースの入れられたコップが置かれている。
後数ヶ月後には酒を飲める年齢になる上に、法律の目の届いていないような歓楽街で、少しばかり法を犯して酒を嗜んでも構わないだろうが、カヴィは規則に雁字搦めに生きてきた真面目な人間だ。
リツのしつこい酒の誘いも何とか断った。
唯一〈堕天使〉にあったオレンジジュースに口を付け、口の中を湿らせる。
「アシュ、怒ってないかな」
「だーいじょうぶっ。フェリの為ならアシュは火の輪くぐりだってするぜ」
ゲラゲラとリツは笑いながら、どんなカクテルを飲みたいかフェリへ訊ねた。フェリはリツに任せる、と告げてぼーっと天井を見上げる。
「はい、どうぞ」
少しして、リツが透き通る琥珀色の液体の入ったガラスコップを渡した。
「何、これ?」
酒に詳しいリツやアシュならすぐ分かるかもしれないが、フェリはあまり飲まない上に、飲んだとしても銘柄を気にしないので詳しくない。
「ウィスキーフロートって酒」
「.....強い?」
「二十五だ。強めだなー。ま、そこはチビチビ気を付けて飲めよ」
フェリは少し顔を顰めて、リツはそんな彼にただただニヤニヤと笑うだけだった。
恐る恐る口を付けて、言われた通りにチビチビと口に少量含みながら飲んでいく。
フェリのウィスキーフロートが三分の一減り、カヴィのオレンジジュースも半分を少し過ぎた頃。
「...あの、フェリさんに少し聞いてもいいですか?」
「んー?」
フェリは眉を寄せて、かくんと首を傾けた。それがあまりにも唐突だったからか、カランと氷が鳴った。
フェリはほんのりと朱色に染まった顔を冷やすように、生温くなりつつあるウィスキーフロートのコップに熱のある頬を付けた。
「フェリさんとアシュさんって、どういったご関係なんですか?」
「んー.....」
フェリは少しだけ悩むように、首をガクガクと左右に揺らす。
「...軍時代からの、相棒、かな?」
「軍っ!?」
カヴィは目を丸くして驚いた。ちらり、とカヴィはリツを見ると、特に驚いた風もなく、フェリの酔った姿を心配しているようだった。
「そ。北地区は、野蛮な人間を殺す為に軍が置かれてる。俺とアシュはそこで出会った」
酒の勢いというものがあるのだろうか。いつもよりも幾分か雄弁に、フェリは語り始めた。
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