第52話 決断の時
片付けをし終え、王宮へ連れてこられた5人はあれよあれよという間に、ナツの自室に連れてこられた。
「ナツ、いらっしゃったよー」
「うん、ありがとう」
フジが、5人をナツのいる部屋へ招き入れる。そこにはナツだけでなく、あの時共同戦線を張ったセンもいた。
「やぁ、ようこそ。そちらから出向いてもらってごめんね」
「ううん。それで用件っていうのは?」
ナツは相変わらず優越漂う笑みを浮かべて、5人に目線を向けている。しかし、しっかりと目を見据え、その瞳の奥は笑っていない。
「"Knight Killers"〈黄昏の夢〉。君達を国直属の秘密暗躍組織"Knight Killers"として迎え入れたいのさ」
「へぇっ?!」
Kは目を丸くして、頓狂な声を上げた。
「...ユキとフジはもう知ってるんだよね」
「「...まぁ」」
「ど、どういう事?」
「...古い昔、"Knight Killers"が国の暗殺とかを受け入れてた時代があるの。それが『Knight』の意味になるんだけど...。ナツくん、その頃の政策に戻すって事?」
「ううん」
ナツは首を振った。
「元々"Knight Killers"に法規制が無いことには非難を受けてたんだ。そして、署名がね、集まったから何か政策を打たなくちゃけなくなってね。だから年内には新しい法を敷くつもりだよ。..."Knight Killers"の事に関してのね。でも、それをしたとしてもきっと裏社会で続ける人間はいるだろうし、もっと危ないものに手を出す人間もいるかもしれない。だから、」
「俺らだけ国直属にして、そいつらを撲滅して欲しい。...ちゅうことか?」
「ま、平たく言うとそうかな?」
─成程、そういう事か。
法が厳しくなれば、足を洗う人間も多いだろう。しかしそうする事によって、今までのそのチームが縄張りにしていた所が新しく増えるわけだ。自意識過剰で利益を上げたい人間からすると、完全にエリアが広がる。したがって、止めない人間もいるかもしれない。
警察でも"Knight Killers"の逮捕は難しい。だからその道のプロである〈黄昏の夢〉の5人に頼むという事だろう。
「勿論、それなりの事はするよ。君らの拠点はこの王宮になる。それからご飯は宮廷料理人に振舞わせるし、1人一部屋の豪華な部屋を用意する。但し、国からの依頼だけ受けてもらうね。それ以外の依頼を受けたら、君達を僕は切り捨てないといけなくなる」
「ナツ、そう言う言い方は、」
「わかりやすくていいな。そういう裏表無い感じ、いいと思うけど」
クロはナツにニヤッと笑った。ナツもクロと同じくらいニコリと微笑む。
「...少し、考える時間をいいですか?」
「いいよ、全然大丈夫。まぁ、年内には答えだしてね」
「どうも、ありがとうございます」
「そんな、いいのに。これは僕が勝手に君らにお願いしてるんだからさ。そうお礼を言われる必要はこれっぽちも無いよ」
「では、失礼します」
「またね、3人ともっ!」
ユキがひらりと3人に手を振る。
─忘れそうになるけど、ユキがもし雪城家の研究に使われて逃げ出していなかったら...。今頃あそこに立っているんだよなぁ。
人生とは不思議だ。
「シロヒくん?行こや」
「あぁ、うん」
こうして5人は王宮を後にした。
◆◇◆◇◆◇
家に帰って、5人は特に打ち合わせをしたわけでもなく、リビングのテーブルについた。皆の顔色があまり良くない。
「...どうする」
重いシロヒの声。
「...私個人の意見を言ってもいい?」
「うん」
シロヒが発言を促すと、ユキは少し咳払いして、
「私はナツくん達の意見を飲んでいいと思うんだ。"Knight Killers"の取り締まりが厳しくなったら、私達ちゃんとした仕事に就くとして何が出来る?安い単純労働くらいだよ。家だって他の"Knight Killers"にバレててさ。仕事で全員がいない時とか、1人しかいない時に襲われたら危ないし。それなら衣食住が安定してて、今までのように仕事が貰える方がいいんじゃないかって思うの。それに、これは本当に個人的なんだけど、3人と一緒に居られるし、雪城の図書館にすぐ行けるのは有り難いからさ」
「...レオさんの事がすぐ調べられる...か」
「うん」
ユキがこくりと頷く。
「レオさんの為になるなら、俺はユキと同意見だ」
「いや別に...」
「でも、ここにも思い入れがあるからね。すぐに決断は...」
シロヒは少し苦笑いを浮かべる。
そう、ここはシロヒとKの"初仕事"で手に入れた居場所。10年弱も過ごさせてもらったのだ。おいそれとすぐに手放すのは少し気が引けてしまう。
「でもここ壊されたら元も子も無いで?」
「レオさ」
「いずれにせよ、ここは出る必要あるで。前みたいに入られたら困るのは事実や。それよか王宮内に建ててもろて、守ってもらった方がええんとちゃう?それも早い内に、またここに誰かが入ってくる前に」
「...そうかもね」
その意見はこの場所との決別。Kは少し辺りを見回した。
「...僕も、そう思う」
初めて仕事の報酬。帰るべき家。ここでKとシロヒは「よろしく」とお互いを見合った。笑いあった。
それからレオとクロが来て、一気に賑やかになった。そりゃあ、家の勝手を知らない人が4人の半分を占めてるわけで、勿論トラブルもあった。でもそのトラブルが4人を繋いだ。
それからユキが入ってきた。女の子相手に手間取ることもあったが、それでもここまでくる事が出来た。それをずっと見ていたこの家。
始まりがあるなら終わりもある。それが今なのだろう。
「ここと、別れるべきだ」
「K......」
「...大丈夫、5人でいられるんだ。全然問題無いでしょ?」
この5人でいられるならさ。どこだって構わないでしょ?
「っ!......あぁ、そうだな」
「うん!Kくんの言う通りだね、私もそう思うよ」
「んじゃあ、決まりかっ!」
「準備大変そやなー」
「高級料理は遠慮としかないとね。ナツくん絶対本気だろうから。そんなのシロヒくんがパパっと作っちゃうし」
「あー、確かに!」
5人は別れが決まったにも関わらず、顔を見合わせて笑い合う。
そう、彼らはこの家での思い出よりもこれから5人で作り上げる未来を選んだんだ。
これが、5人の選択。
正しいのか、正しくないのか。しかしこの選択には、後悔はしていない。未来なんて予知できない。なら、今後悔しない選択を。それで生じる別れならしょうがない。受け入れよう。
そうして、また笑い合えるならば。
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