第41話 逃げたのは君からではなく僕の罪から
朝の家の倉庫。クロはガサガサとある物を探していた。
「んー...あった!」
そして見つける。白い長い包帯。やった見つけ、
「...あれ?クロくん、何してんの?」
「あ、やべ」
「こらこら、逃げない逃げない」
倉庫にタイミングよくやって来たKは、素早くクロの服の襟を掴んで離さない。チラッと顔を見ると、オモチャを見つけた子どものように目を輝かせている。
「何してたの?」
「...手当て」
「なんだ、怪我してたんならシロヒに言えばいいのに。それか僕にでも」
「違ぇ。手当ての練習しようと思ったんだよ」
やや苛立った声でそう吐き捨てる。
「何で?」
「...もっと手当てとか出来る人間、いた方がいいと思ったんだよ」
ふいっと顔を反らして、口を尖らせてしまう。
そう、前回のレオの1件やシロヒの事を踏まえて、クロは少しでも手当てが出来た方がいいんじゃないか、と思って練習用にと包帯を探していたのだ。
クロは計画がバレて恥ずかしくてたまらない。絶対何か言ってくるんだろうな。
「そかそか、いいことじゃん。頑張りなよ」
「...あ?」
「え、何?何か僕変な事言ったかな?」
「うん。皮肉を言わねぇ、馬鹿にしてこねぇ」
「いつも言ってるみたいに言わないでよ。ただ、純粋に凄いと思ったから。僕はいくらシロヒの為でも手当てっていう方法じゃなくて、腕を磨いて狙撃の腕を上げるしかないって思うから...。本当にレオさんが好きだね」
「っ!」
「あれれ?バレてないとか思ってたの?バレバレだよ?クロくんさ、馬鹿だから分かりやすいんだよ」
「うるせぇっ!うぜぇっ!」
Kはケラケラと楽しげに笑う。
「...?Kくんとクロくんの声か。また何かしたのかな?ま、興味はあんま無いけど」
ユキはパソコンの画面と、先日シロヒから渡された手紙を見比べながら、ぼんやりしていた。
これを送ってきた人間がどこの人間かは分かった。この地区の隣の、俗に周りから朝倉家と呼ばれているマフィアからだ。それはまぁ、良しとして、だ。
問題は、何でそこからシロヒ宛に手紙が来たのか。
しかも、恐らくこの手紙の『白陽』はシロヒくんの呪の一部のはずだ。何でそれを知ってるのだろうか。
「...まさかシロヒくんが、昔このマフィアの仲間だった...とか?」
─いやいや、本当にまさかだよ!優しい温厚な彼がマフィアみたいな職業をするかな?...でも、人は見かけによらないとも言うしなあ。
とすると、と考えていてはたと思う。勝手に彼の過去なんかを探っていいんだろうかと。自分自分の事さえちゃんと教えてもいないのに。あの〈蒼月の弓矢〉の事件も、皆は詳しく聞いてこなかったのに。
─他人の事にズケズケと踏み入る?そんな、
ユキに課せられた任務は、手紙を詳しく調べる事。シロヒの過去を探る事ではない。
「...なら、任務完了だね」
ユキはパソコンの電源を落とし、ペンを握って紙に今までの事を書き留めていく。この作業が済み次第シロヒに渡しに行こう。
夕飯を食べ終わり片付けている時、シロヒはユキに『2人きりで話そ?』と言われて、皆が寝静まった時間帯に、リビングでぼうっとしていた。そこへ、背後からユキが声をかけてきた。
「良い月夜だね」
「そうだな」
「私、お酒はからきし飲めないからあれだけど、お酒を飲むにはいい肴...、ってやつだよね」
ふふ、とユキは窓の外の月を見て、それから視線をシロヒに戻して楽しげに笑う。
「それじゃあシロヒくん。例のやつね」
ユキはそう言ってシロヒの目の前に前に渡した封筒と、文字の打たれた2枚のレポートみたいなものを受け取った。
「これ」
「ちゃんと調べたから」
「ありがとう...」
パラパラとそれを捲っていく。そこで一つの単語に目を止める。
「朝倉家...マフィア」
「あ、それやっぱり気になる?そうなんだよね。わりと有名どころからなのさ。シロヒくん知り合いなの?」
「いや、まぁ、でも、本当にありがとう」
ユキの頭をポンポンと撫でると、ユキはえへへ...、と頬を掻いた。
─朝倉家。そうか、そういう事か。つまり、
「...成程な」
ユキに聞こえないくらいの小さな声で、シロヒはそう呟いた。
◆◇◆◇◆◇
何となく、の話だが、シロヒの様子が何処かおかしいと、レオは感じていた。
確かに、いつも通りに振舞っていると思う。料理も美味しいし、話してみても相談にすぐに乗ってくれようとしてくれる。
しかし、何処かに違和感を感じてしまう。
「シロヒくん?別に変わらないと思うけど」
「あぁ、お前に聞いた俺が阿呆やったな。済まんな」
ある日の夜。寝る前にクロに訊ねてみた。だが、人選ミスだったようだ。
─ユキやK辺りに聞くべきやったな。俺としたことが。
「何かそう言われると悲しくなるんだけど。で、...何か、変なところあるの、シロヒくんが」
「いや、俺の勘違いならそれで。お休み」
「? ?? お、お休み」
クロは少し不思議そうに顔を歪めたが、特に言及する気は無いようで、そのまま布団に顔を埋めた。レオは梯子を降りて自分のベットに倒れ込む。
単なる気の所為ならそれで構わない。だが、もしこの胸騒ぎのようなものが本当に本当ならば...。何かが起こる前に行動するべきではないだろうか。
─そうやって、先延ばしにしようとするから、傷付く人間がいるんじゃないか。
─もう、誰にも迷惑なんてかけたくない。それなら、取るべき行動は決まってる。
「......シロヒくん...」
シロヒはそっとベットから抜け出して、コートを羽織る。立てかけていた大鎌を持ち上げ、背中に背負った。そこでふとKの方を見た。
スースーと寝息が耳に入ってくる。
「...ごめんK」
─あんなに1人で行ったことを責めたのに、俺は酷い奴だなぁ。
シロヒは部屋の扉を開けた。月明かりだけが差し込むリビングに、
「行くんか?」
レオが椅子に座っていた。
「な、何で...」
「阿呆。様子がちょっとおかしかったからな。Kの1件もあったし、もしかしたら思うて起きてみとったら物音してな。...ここにおって正解やったな」
予想が当たったことが嬉しく、レオは少し口角を上げて彼は言う。
「シロヒくんがどういう事情持ちかは知らん。聞く気も無いで。でもな、頼っては欲しいし、1人で危険に晒すのは嫌や」
レオがシロヒに1歩近づく。寂しそうに微笑む顔が胸に痛かった。
「俺も行くわ」
「っ!?関係ないレオさんを巻き込めないよ」
「何言うてん。仲間やろ」
何か問題あるか、と言いたげにレオは首を傾げる。
「囮役でも何でもなったるわ。連れてけ」
「...もう」
─聞く耳持たないな、説得する時間が勿体ない、ってやつだ。
シロヒはふうっと息を吐く。
しかし困っているというよりは、気分が和らぐという方が近かった。落ち着ける、気分が楽になっていく。レオのお陰だ。
「危ない目には合わせないからね」
「ん。ま、俺ん場合はなっても消えるけどな」
「それはいい事じゃないからね?」
シロヒは苦笑混じりにそう言うと、レオも「そうか?」と言いつつ笑ってくれる。
「したら、行こか?」
「うん」
月光の下、レオとシロヒは3人を残して家を出た。向かうはシロヒの家の所有する倉庫だ。
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