第40話 ただ祈りを捧げるだけ
「買い出しに行ったにしては、2人とも遅いなぁ」
「クロくんがいるからユキ大丈夫でしょ?...心配し過ぎ」
「そうかもしれないけどさ」
「たっだいまーっ!!」
「ただいまー」
元気よくクロとユキが家の扉を開けて帰ってきた。クロの手の内には今日の夕飯の材料らしきものが抱えられている。
「遅かったね」
「人で賑わっててね。買うのに手間取っちゃったんだよね」
確かにこの時間帯は商店街に夕飯の買い出しに行く人が増える時間だ。シロヒは納得する。クロはシロヒの所へ行って、袋を渡した。
「......?トマト、鶏肉?これで何を作れと?トマトスープ?ポトフ?」
「オムライス!」
「...オムライス...。よし、分かった。K、ユキ手伝って。クロくんは先にテーブルを拭いて、それからレオさんを呼んできて」
「「「了解!」」」
シロヒの的確な指示のもと、2人は夕食の準備に取りかかる。
「うわ、ええ匂いするなぁ」
レオがクロに呼ばれて、ひょこっと部屋から顔を出した。
まだ足先までは完全に治りきっておらず、クロに支えられてひょこっひょこっと足を引きずりながら、ダイニングに来てソファに座った。
「レオさん具合は?」
「自分の気持ちに反して身体が動かんって不便やな、って思う。中身は元気やからなっ!」
レオはにっと笑って答える。
ユキの思っていた通り、あともう少しで回復といった具合だろうか。
「クロくんっ!テーブル拭いてってばっ!」
「はいはい、今するっての!」
「K、卵割って混ぜて」
「はーいっ!」
わちゃわちゃと、4人で何とかオムライスを作りきった。
「流石シロヒくんっ!」
「まぁ当然だよねっ!」
「うわぁ...、急に威張るんだぁ...」
「まぁ事実だからねぇ。シロヒくん号令かけてっ!」
「はいはい」
シロヒがパンッと手を合わせて、
「いただきます!」
「「「「いただきまーす!」」」」
パクッとシロヒの作ったオムライスをKは口に運ぶ。とろっとした卵が、Kの舌を包んでくれる。
「相変わらず上手だよね、美味しい」
「お、そうか!」
「マジマジっ!めっちゃ美味いっ!」
「シロヒくん...、シェフとか向いてそうじゃない?」
「確かに」
口々にシロヒの料理を褒めていく。
シロヒは嬉しそうに口元をほころばせて、それから思い出したように、
「卵までは作れないけど、チキンライスだけでいいなら、余ってるから」
「マジかっ!」
「食いすぎんなよ?」
「クロくんは底無し胃袋だよねー。ブラックホールみたいにバンバン入ってくイメージがあるもん。私が二食分で済む量でも足りないでしょ絶対」
「そこまで酷くねぇよっ!」
「そんなに食べるのに、よくもまぁ太らないね」
すっとした体型にあんな量が入るのが驚きだ。
Kも割りと食べる方だが、それ以上にクロは食べる。その分仕事で消費しているのだろうが。
「動くし、それに美味いもんは食べられる時に食べないと、だろ?」
「...そうだな。というわけで、レオさんとユキは残さず食べなよ?」
「っ...まさかとばっちりがくるとは...。美味しいからいいけどさ」
「俺に至っては身体動かしてへんのやけど」
そう考えると、この2人は少食だ。
ユキは女性として、やっぱり食べすぎたくないって思うのかもしれないけれど、レオは身体を動かしたり、〈鬼神種〉の力を発動させたりしない限り、本当に少食だ。
シロヒもKからするとあんまり食べてない気がするけど、でも2人に比べれば食べる方か。
─まぁ、クロくんが異常なんだよね。
「でさ、これからどうするの?レオさんの身体もそろそろ治るから、軽めのものから受けていく?」
「そうだなぁ。レオさん、今んとこどのくらい動くの?」
「足の関節ぐらいしか動かんとこないから、他全部は動くよ。....前みたいに素早くかとかは分からんけど。そこら辺はユキの方が詳しいやろ」
「文献的には無かったけどね。レオさん自体が少し特殊だからさ。こればっかりは依頼受けてみて、その中で自分がどうなってるのかを体得した方が早いと思う」
「ここら辺はKじゃんっ!」
「僕っ!?」
話がK自身に振られると思ってなかったばっかりに、ビクッと驚いてしまう。
「依頼、よろしくっ!」
「...あーはいはい」
Kはそう言ってオムライスを口に運んだ。
◆◇◆◇◆◇
深夜。ふと、目を覚ました。
レオは身体を起こして、二段ベッドの上の方を見上げる。
少し思うところがあって、梯子に手をかける。足があまり動かないから、手を使って梯子を上る。
「...クロ」
スースーと、クロは気持ち良さそうに寝息を立てている。起きてくる気配は一切無い。
「......クロ。...黒乃」
─大丈夫、そうやな。
「あんな...クロ。俺はさ、死んでも良かったんやで。お前が、皆が生きてるならそれで」
生かされて嬉しくない人間はいない。レオもそうだ。生きてる事を知って、生きてて良かったと思った。
しかし、この仕返しみたいなものは必ず来る。それがレオだけに降りかかるならええけど、仲間にまで及んだら...、と思うと、少し怖い。
─俺が生きるにはお前が要る。血は勿論、お前が俺に注いでくれる、甘くて優しいドロドロした"毒"が無いと、上手く生きられない。お前は俺の為なら死ねると言うが、俺も同じ。クロが生きる事が出来るなら、死ねる。
「......レオさん?」
「! ...すまん、起こしたか」
「いや、いいよ。どうしたの?寝れない?」
目の下を擦りながら、クロはレオを見ていた。
「...少し考え事。それだけ」
「考え事...?血、欲しいの?」
「いや、要らん。...なぁ、流し聞いてくれたんでええからさ、聞いて」
「ん」
寝起きのせいか、茶化す事なく素直に聞いてくれている。
「...本当に俺らって、救えんよな。どこまでもずっと関わり合って生きていかな、生きられんてさ。...黒乃が俺のことを大切に思うてくれてるのを知ってるくせに。それに俺は礼も何も言わない。気付かん振りして、それを受け入れて。それに取り憑かれた気分になって。そしてお前も俺に囚われて。つくづくやと、思わん?」
「...全然」
クロがむくりと起き上がって、レオの頭の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱してきた。
「それが俺と、玲央さんでしょ?」
「...そやな。ありがと、満足したわ」
「それなら良かった。...お休み」
「すまんかったな。お休み」
ポンポンとクロの頭を撫でて、レオはクロのベットから降り、自身のベットに戻って、倒れるように寝っ転がった。そして、目を閉じる。
─どうか明日も。俺達全員が無事である事を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます