第17話 後悔はいつだってしていた

「げほ、!けほけほっ!」

「...何だ。所詮こんなものか」

 ...くる!

 何とかクロは身体を反転させ、その攻撃を避けきり、下から上へと腕を切り落としにいく。が、それは虚空を滑った。相手の方が使い慣れてる分、動きが早い。

「はー、はー」

 彼の身体のあちこちが悲鳴を上げかけていて、息苦しい。汗がダラダラと滴る。

 休んでる暇など一切ない。次々にくる攻撃を避け続ける。

「ふむ...、動くのだけは早いな」

 トンッと男がクロとの間合いを取った。

 攻撃を...、やめ、た?

「なにー、おっさん?俺には勝てないと思ったから止めてくれたの?」

 にっと笑みを浮かべてみせる。本当はこちらからこの不利な戦いを願い下げたいのだが。

「いや...。これから君が地獄を見る時間だ」

 男はそう言って剣を構えて、振るった。

 クロにはその行動が理解出来なかった。間合いの外で剣を振るったって、斬れるのは空気ぐらいなものだろう。

 その時、クロの頭の中に直感が走る。



 左腕が取れる。



 背筋がぞくりとし、すぐクロは身体をそこからずらした時だった。それと同時に彼の横を白い風が通り抜け、クロの頬と後ろの壁を半壊にした。

「ほぅ...これも避けたか。身体能力はかなり高いみたいだな」

 構えを解かないまま、男は口元に笑みを浮かべた。クロは男へ余裕綽々という笑みを見せた。

「...褒めてくれてどーも!でもさ、ド素人に厳しくね?」

 そう、偶然直感が当たったから良いものの、あの攻撃は人の目ではよく見えないし、次もまた避けきれるとは限らない。

「そうかもなぁ!」

 またくるっ!

 相手の観察をしつつ、その手とは逆方向へ躱すが、それは関係ないみたいで。腕や頬、足に切り傷が増えていく。

 絶対にあれを繰り出す何か、特別なことがあるはずだ。さっきまでそれが出来ていなかったのが急に出来たんだ。それを見破って真似れば...っ!クロは睨むように男を観察する。

「はぁっ!」

「っ!?」

 男からの攻撃を躱し切れず、クロはモロに喰らう。衝撃が痛みと共に襲いかかってくる。口ん中が鉄の味だ。口が切れて血が出てるのだろう。思わず倒れ込んでしまう。身体もあちこちが...、折れてはないようだが。

「...終わり、だな」

 カツカツと、男の歩く音が地面に伝わって耳に入ってくる。

 ...いや、殺されるなら死へのカウントダウンってとこか?...はは、笑えねぇ冗談。




『クロ』





 ...ここで死ぬ?




『さっさと起きや』





 自分のせいで?馬鹿だ俺。






『俺がお前を守ったる』






 俺の命は俺のために使うものじゃない。俺のカミサマ、...レオさんの為に使うもんだ。






『黒乃』






 大切な命の恩人である、彼の為に。






「...ん?」

 相手が先程の動きと何が違うのか、分からないなら全て真似ればいい。同じように構えを取って、呼吸を整えて。そして力を込めて一気に振り下ろして、




 空気を裂いてしまえばいい。




 その思考と男が倒れるのと、耳を劈くような轟音で建物が壊れるのは、ほぼ同時だった。

「はー.......」

 身体が重くて座り込みそうになるが、とりあえず瓦礫を躱しながらクロは男の方を見る。真っ二つに裂けて絶命した男の半身だけが、そこに転がっている。しかし、クロの剣には血がついていない。

 彼の技を真似しきれたのだろうか。

「...まぁ、いいか」

 重要なのは生きてることだ。とにかく他の皆の所に行こう。


 Kとユキはパラパラと様々な資料を見ながら、目的のものを片っ端から出して探していた。

「Kくん、そっちは?」

「まぁまぁの守備だよ。一旦下に戻ろう。シロヒやレオさん、クロくんが気になるし。ここには何も無かったから、下の階にあるんだと思う」

「了解、リーダー」

 ケラケラとユキは笑って、グッと背伸びした。相変わらず緊張感があまりない奴だ、とKは思う。

 その時だった。

 爆音と共に2人の間を裂くように、白い風が下から上へ通り抜けた。すると建物が地震のようにグラグラと揺れ、K身体が重力のままに沈み込む感覚が彼を襲った。

「っ!Kくんっ!!」

 パッとユキの手がKの腕を掴む。ガクンと身体が揺れる。

 足元に、地につく感覚が全然無い。

「K.........くん......、だ大丈夫...っ?」

「何......とか」

 落ちてくる鉄くずや瓦礫が幸いにも小さなものしか当たらず、外傷はそこまで酷くない。痛みもあまりなかった。Kが上へ目を向けると、ユキの眉の寄った辛そうな顔が見える。そうだ。ただでさえ細いユキの両腕でKの体重を支えてるのだ。

「ごめん、もう少し我慢してっ!!」

「分かってるっ!」

 近くに突き出ていた鉄骨に片手を乗せてそれから片足をかけ、身体をグッと浮かす。そしてユキのいる床の方へ上半身を乗せた。それから下半身を上げる。

「......ふぅ、怖かったぁ...」

「私もだよっ!」

「ユキ、ありがとね」

「ん、それはいいけど。あれさ、下からだったよね?3人がヤバいんじゃあ...」

「うん。急いで降りよう」

「うん!」

 2人は急いで階段を駆け下りた。

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