間章 月影 -つきかげ-

00

 蒼のいなくなった暗闇の世界。影流は床に置いていた本をベンチの上へ戻し、自身もまたベンチに座り直した。そこには蒼が横になっていたのだが、残る体温もなくただ冷たい。

 影流は本のページをめくっていく。その時、突如強風が吹き、バラバラと本のページがめくられていく。それはやがてゆっくりと止んでいった。影流は乱された髪の毛を軽く直し、本を閉じて顔を上げる。

 そこには青白い炎のような形をした、何かがいた。ゆらゆらと揺れている。

「...なんだ、まだお前の順番じゃないだろ」

 ゆらゆら。炎は揺れている。

「...別に贔屓ひいきしてるわけじゃない。だから、順番は守ってもらわないと困る。安心しろ。生死に関わらない強い望みは全て叶えるんだから」

 影流はそう言うと、炎はゆっくりと姿を薄くし、暗闇へ溶けていった。影流は静かに溜息を吐いて、先程まで読んでいたページまで戻していく。その作業中、彼女はのんびりと考えていた。

 蒼の無事を。そして、その願いを叶えた後の彼女を考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る