05

「げほ......っ!けほげほっ」

 足りなくなった酸素を吸い、不必要な水を吐き出すように何度か咳き込む。そこは竜宮城では無く、最初の影流の居た場所に蒼はへたり込んでいた。

 近くを見ると、変わらず白いベンチに座って本に目を通す影流がいた。

「...起きたか」

「は、......はい」

 蒼は小さく頷く。

「とりあえず1つ目の試練は合格だな」

「あ、あの...っ、影流さんが助けてくれたんですか?」

「...まぁ、あそこで君が死んだら、試練も何も意味がないからな。助けた、と言えば聞こえはいいが、詰まるところは単なる自己満足にも近いかもな」

「...ありがとうございます」

「礼は良い」

 影流はスッと手を差し出した。蒼はそれを使って立ち上がる。

「君があの世界で試練を受けている間に、私も君の試練がすぐに受け入れられるように、色々やらせてもらった。あそこの扉に入ったら、更に3つの扉がある。そこから好きな物を選んで試練を受けるといい」

 影流の指差す先には、背景に溶け込む扉があった。

「...何から何まで...、ありがとうございます」

「仕事だからな、気にしなくていい」

 影流は蒼の手を引いて、扉の前へと導いた。

「...まぁ、もう少しここにいてもいいが...。行くだろ君は」

「......えぇ」

 蒼は影流の手からゆっくり自らの手を離し、ドアノブを握った。

「あの、影流さんの事、聞いてもいいですか?」

「.........答えられることなら」

「影流さん、お兄さんがいるって言ってましたけど。どんなお兄さんなんですか?」

 蒼の質問に影流は目を丸くした。そう言った質問をされるとは、全然考えていなかったからだ。

「......私の兄は2人いる。1人は放浪の旅人。時々帰ってきて見て来た世界の話をしてくれる。もう1人は一緒にこの仕事をしてる人。私の事をよく考えてくれるし大切にしてくれる。...そんな人達」

「仲良しですか?」

「まぁ、いいと思うよ」

「そう、ですか」

 蒼は自分が何故影流にこんな質問をしたのか、分からなかった。もしかしたら、家族に関する記憶を見てしまったからかもしれない。

 そう1人で納得し、蒼は扉を開けた。

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