04
「え...、わ、私ですか!?」
橙色のヒレの魚は慌てふためく。
「アカノサカナさんは私にこう言いました。現場には誰も立ち入れてない、と。でも貴方は死体の損傷を知っていた。犯魚だから『包丁で何度も』という具体的な言葉が言えるんですよね。違いますか?」
「っ!」
「他の皆さんはキイロノサカナさんとの関係や噂の事を教えてくれました。つまり、それは過去の事。貴方だけが今起こった事を、丁寧に私に教えてくれたんです」
「あ、......あぁ」
橙色のヒレの魚は小さく呻き、その場にくずおれた。その体を他の護衛兵らしき魚達が持ち上げ、扉の向こうへと消えていってしまった。
「流石ボクを助けてくれた人だっ!」
「ありがとう、お客様」
小亀と乙姫様が蒼へ礼を言う。蒼は謙遜するように首を振った。
「いえ、ちゃんと解決して良かったです」
「...これを礼に貰ってくれますか?」
乙姫様はそう言って、近くの魚に黒塗りの四角い箱を持ってこさせた。螺鈿装飾の施された黒の箱に、赤い紐が括られている。
「これ、は」
「中には最近海で拾った小瓶が入っています。貴方の欲しい物なのでしょう?」
「っ!あ、ありがとうございます」
蒼は礼を言って魚からその箱を受け取り、中身を見ようと箱の紐を解いて蓋を開ける。そこには小瓶が収められていた。蒼はそれに手を伸ばして小瓶に触れた。
その時、箱から白い煙が吹き出した。
「わっ!」
蒼は驚いて手を滑らせて、箱を落としてしまった。小瓶も一緒に音を立てて落としてしまい、
再び目の前が白く染め上げられていた。
蒼の目の前には家の中のような光景が目に入ってきた。
台所にはフリフリのエプロンをし鼻歌交じりに家事をこなしている女性がいる。恐らく蒼と藍の母親だろう。服装も前回見た2人の服と似ている。双子で似た趣味だと思っていたが、母親の趣味のようだ。
「おかーさーんっ!」
「お母さんっ!」
そこへ幼い蒼と藍が来た。
「あらあら、嬉しそうにどうしたの?」
「お父さんがくれたの!藍と色違いの!鍵もついてるっ」
幼い蒼の手には水色の日記が握られていた。藍の手には桃色の日記が握られている。
「良かったじゃない。蒼は三日坊主になのが多いから、日記は出来るだけ続けなさいね。鍵は自分の覚えておける番号にしておきなさいね」
「誕生日......4月27日、0427とか?」
「あ、それにしよ、藍」
「2人同じにするの?仲良しねぇ」
母親は口元を押さえ、目を細めて笑う。幼い蒼と藍も同じように笑う。とても温かい場面だった。
意識がこちら側へと戻ってくる。
「優しいお母さんと、仕事が忙しいけど誕生日プレゼントや学校行事には欠かさず来てくれるお父さん。あの日は4月27日で、私と藍の誕生日だった。お父さんは仕事場から帰れなくて、3人でお祝いする事になっちゃったんだっけ。それでもお父さんは私達に日記を送ってくれた。2人とも同じパスワードにしちゃって......。とっても楽しかった気がする」
目の前の景色が竜宮城に戻って来た途端、急に息苦しくなった。先程と同じように息をしようとするが、入ってくるのは酸素ではなく水だ。喉を押さえて、苦しみを辺りに訴える。しかし、先程まで仲良く話していた魚達は蒼を無視して、宴の準備に忙しく動いている。誰も、蒼を見ていない。
もう無理だ、と思った時。身体が引っ張られるような感覚がした。
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