03
赤いヒレの魚がそう言うと、その場にいた魚たちがザワザワとざわめく。
「落ち着きなさい、犯人は分かるの?」
「いえ、ですがキイロノサカナと関わっていた5匹を押さえました。ここへ連れてきます」
赤いヒレの魚はそう言って、5匹の色の違う魚たちを連れて来た。皆、不安そうな顔でおどおどしている。
「キイロノサカナを殺したのは、誰?」
乙姫様が訊ねるが、皆口を閉ざしたままだ。乙姫様は困ったように口をつぐんでしまう。それを見て子亀は蒼の元に泳いでくる。
「ねぇ、助けてよ」
「え、私がっ!?」
「ボクを助けてくれたじゃない?」
「それは助けられるようなものだったからよ」
「頼むよ。そうしたら、君の欲しいもの返すよ。絶対に」
「っ!どうして貴方、私の探してるもの」
「さっき渡した時凄く驚いてたし、すぐにそれを取ってたじゃない。...頼むよ」
子亀の言い分に、蒼はただ黙って頷くしか出来なかった。どうしても記憶を取り戻したいからだ。蒼は席を立ち、まず赤いヒレの魚に話しかける。
「ねぇ、キイロノサカナさんは、その...、どういう殺され方だったの?」
「ああ...、思い出すだけでもおぞましい。エラに包丁が突き刺さっておりました。一箇所だけではなく、何度も何度も突き刺したような傷。確かにあの子は噂好きで、いい噂も悪い噂も流していたけれど...。恨まれるような子では無いわ」
赤いヒレの魚はそれだけ言うと、その場にうずくまって泣き出してしまう。これ以上聞くのは酷だと感じ、連れてこられた魚たちに声をかけることにした。手始めに近くにいた朱色のヒレの魚に、
「あの、初めまして」
「どうも...。折角のお客様にこのような事を見せてしまい、申し訳ありません」
「貴方のせいじゃないわ」
「......キイロノサカナは私の妹のような子でした。あんなに良い子がどうして...」
「...ごめんなさい、酷い事聞いてしまって」
「いいのよ」
蒼は朱色のヒレの魚に軽く礼を言い、その隣の紫のヒレの魚に話しかける。
「初めまして」
「ねぇ貴方。シュノサカナに騙されてるわよ」
「えっ」
「あの子とキイロノサカナ、最近仲良く無かったのよ。喧嘩中だったかどうかは知らないけど、口もきかないくらいにね!」
シュノサカナ、というのは朱色のヒレの魚の事らしい。蒼は「そう」とだけ言い、次に橙色のヒレの魚に声をかける。
「どうもこんにちは」
「こんにちは、人間さん。...本当、キイロノサカナは可哀想よね。...包丁でエラを何度も刺されるなんて。...そう言えば貴方はどこで呼吸をしているの?」
「...肺、です」
「ハイ?不思議な響きねぇ」
「あ、あの...。キイロノサカナの子の事...、何か詳しく知りませんか?」
「特に...。とっても仲の良かった子でも無いから...」
蒼は橙色のヒレの魚に礼を言い、その隣の黒いヒレの魚に声をかける。
「こんにちは」
「え...っと、犯人は誰だと思いますか?」
「さぁ?私で無いことは確かですけれど」
「そ、そうですか。えと...、キイロノサカナさんについて何か知ってる事、ありますか?」
「...最近、ムラサキノサカナさんについての噂が流れているらしいですわ」
「それはキイロノサカナさんが流したもの...。どういう内容です?」
「分からないわ。私は噂好きでも無いですから」
蒼は黒いヒレの魚に丁寧に礼を言い、1番後ろの水色の魚に話しかけた。
「こんにちは」
「こんにちは。...ねぇ、犯人......、犯魚は誰なのかしら」
「さぁ、でも私が今探してます」
「お客様はとても聡明な方なのですね」
「いや...、それは分からないですけれど...。あ、そもそも貴方達はどうして犯魚だと疑われているんですか?」
「アカノサカナさんが厨房に入っていってすぐ、『キイロノサカナさんが死んでるっ!包丁で刺されているっ!』と大声で叫ばれて。その時、私達は丁度厨房の近くに居たんです」
「そうなんですか」
「えぇ...。まったく、お飲み物を取りに厨房横の通路を通ってしまって、この有様です」
蒼は水色のヒレの魚に礼を言い、もう一度詳しく話を聞く為に赤色のヒレの魚の元へ行った。
「あの、詳しく聞いてもいいですか?」
「はい、何なりと」
「事件現場には誰が入られたんです?」
「あたくしだけですわ。あたくし、よくサスペンスを見るのですけど、探偵はあまり現場に人を入れないでしょう?ですから、誰も入っておりません」
「...キイロノサカナさんの、その、...死体を見られたんですよね」
「えぇ!もう凄まじいとしか言えません。エラが近くに寄らずともグチャグチャで、目も当てられない状況だったんですから。包丁も下に捨て置かれておりました」
「そう、ですか」
「も、もしかしてもうお分かりになられたのですか!?」
「えと、多分」
蒼はそう言って、橙色のヒレの魚を指差した。
「犯人......、いや犯魚は貴方ですよね?」
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