第2話ザウティスは次期当主



俺の名前はザウティス・ディルディース。ディルディース家の長男であり、次期当主だ。俺は名門のマクウル学園に入試をトップで通過し、教師の奴らから一目置かれている存在だ。筆記でも実技でもいつも高得点を叩き出すため、ディルディース家の誇りであり、未来では帝の、この国の重鎮になるだろうと大いに期待されていた。周りの奴らも俺が一言ぽっ、というとすぐにおだててくるし、誰の悪口を言っても批判はされなかった。だから、だから調子に乗ってしまったんだ。数ヶ月か前に編入してきたタロウ・ミヤザワっていう男が少し顔がよかったからっていつもみたいにぽっ、と悪口を言ったらカーストの下の方の奴らまでタロウ・ミヤザワに何かしら仕掛けてくるようになってしまった。正直、俺はあいつのことは何も思ってなかったが自分の言った一つの悪口でタロウ・ミヤザワは日に日にやつれていっていることに気づき、自分の愚かさに気づいてしまった。一つのことがこんなにもの連に、鎖になってしまうなんて予想もしなかったからだ。軽はずみの行動がここまでも大きく膨らみ上がって、結果一人の男が教室の中心でやつれた顔で追い詰められている。自分のやったことの重大さを改めて実感し、俺はタロウが一人にならないようにずっとかまってやっていた。


違う、そうじゃない、もっと素直に、ごめんって言えばいいじゃないか、軽はずみな行動をしてごめんって一言だけでも言えばいいじゃないか、どうして俺はいつも素直になれないんだ、こんな自分は嫌いだ、いつしか俺はタロウに謝ることもできずに取り巻きにいいようにされてそのタロウに暴力を振るっていた。たまに放課後教室にいるときに聞こえる音色がとても心地がよかった。俺の心の中でたまった悪という悪が綺麗に澄んでいくようでいつしかこの音色の虜になっていた。


何日か聞いていると誰がこの音色を奏でているか気になり、音源の庭の隅の方へと足を運ぶとそこにはタロウがいた。その時だろう。初めて悲しくて泣いたことは。とっさに木陰に隠れてしまい、嗚咽がタロウに聞こえないようにしっかりと口を押さえていた。教室での居場所もなくなり、全寮制のこの学園では帰っても軽蔑された目で見られるため、仕方なくこの庭の隅に行き、誰の目にも届かないこの場所で唯一の安らぎであろうクラリネットという楽器を丁寧に吹いていた。俺はこの音色が大好きだった。どんな美しい人が、どんな人気者が、どんな顔をした人なのだろうと勝手に妄想を広がらせて、タロウという自分が傷つけてしまった人を自分の都合のいいように消してただただこの音色を聴いていた。だが、その俺、ザウティスが心地よく、大好きになったこの音を奏でるものは自分のせいでこの学園の悪口対象になってしまったタロウだと知り、もうこれ以上にないほどに泣いていた。


その日は涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだったので一度寮に戻り、明日の放課後に謝ろうと思っていた。そして次の日の放課後、取り巻きをつけず一人で庭へと向かった。次に誰かこようともすぐに倒せるようにと質の良い木刀をプレゼントしようとして行った。そして今日も綺麗な音色を奏でており、俺は勇気を振り絞ってタロウに謝りに行こうとすると後ろから悪魔の囁きが聞こえた。



「ザウティスさぁ〜ん、もしかしてこれからタロウをぶちのめしに行くんですかぁ?」



思い切り振り返ると後ろに俺の取り巻きがたくさんいた。何が起きているんだと周りを見ると自分の手にしっかりと握られた木刀を見てこれのせいだと確信してしまった。その時、一度木刀を見てもう一度取り巻きを見てしまったせいか、okサインに見えたらしく、ぞろぞろと取り巻きたちがタロウの前に出て行った。おい、やめろ!という声はなぜか声に出ずに手だけ伸ばして止めようとしたがもう遅かった。


「タロウさーん、僕たちと一緒に剣術の自主練しませんか〜?」


その瞬間、取り巻きたちがタロウを自分たちの木刀で殴り始めた。綺麗に流れていたクラリネットの音は消え、そのクラリネットを守るかのようにタロウは体を丸くした。ザウティスはその光景を見ていられなくて、その場をすぐに去って行ってしまった。


最近からクラリネットの音が聞こえなくなった。休日もいつも聞こえていたクラリネットの音が消え、悪魔みたいな取り巻きたちがうじゃうじゃと俺についてきており、正直うざったかった。だが下手に扱うと未来の貴族たちの会議で俺の家は俺のせいで下級貴族になってしまう可能性が出てきてしまうので、突き飛ばしたりとかはできなかった。


そして今日、模擬試験が行われる。感情の何もこもっていない薄っぺらい言葉を何段も重ねながら取り巻きと話している自分に腹が立った。



「1番、ザウティス対タロウ、2番〜〜………」


そう言われた瞬間、背中に悪寒が走った。



「ラッキ〜、タロウが相手なんて秒で倒せるでしょ。」

「あ、でもタロウにはあんまり触らないでね。平民風情が貴族様たちに触れたら浄化されちゃうからwwwwww」



いつの間にか言葉が出ており、ザウティスは口を押さえる。震える足で前に進むとタロウに向けて叫び声が聞こえた。



「早く前に出なさい!」



教師も俺が一度言った口車に乗せられてタロウのことを虐げている。



「それが武器なんでしょう?早く出しなさい!」



自分で作った立場上でこんなにもひどい仕打ちをされているのかと思うと無性の腹が立ち、強く地面を叩いた。



「早くしろよ!」



思わず叫んでしまった。タロウはその叫び声に合わせて何かのケースから取り出すと、すぐにクラリネットだと気付いた。まさか、本当に武器を持っていないのか?とザウティスは冷や汗をかく。



「ははははははは!!!なんだよそれ!リコーダーじゃねえかよ!」



悪魔はこの俺だ。あの時木刀を渡していればタロウはクラリネットを出さずによかったかもしれない。なのにビビりでチキンな俺のせいでタロウがこんな目にあっていることをこの目で確認してしまい、心の中に宿る悪魔がひひひと笑い、俺の口を使って笑い出した。すると俺の大好きだった音が聞こえる。前を見るとタロウがか細い音色で吹いていた。涙が出そうになった。だが悪魔は許さない。吹き終わると同時に俺の悪魔が笑い転げながら叫んだ。



「お遊びは終わったのかな〜?じゃあ速攻で終わらせるね〜?」



体が動く。振りかざした木刀によってタロウが頭を抱えた。ごめん、タロウ。ごめん、本当にごめん!!と思い、目を閉じると大きな風が俺を襲った。何があったんだと目を開けるとそこにタロウはいない。右左後ろ前に居らず、上を向くとそこには竜に乗ったタロウがいた。驚いた。まさかタロウがこんな立派な竜に乗れるだなんて。するとタロウがクラリネットのベルを俺に向け、そのクラリネット変形しだした。そして俺をロックオンしたかのように俺の真横銃弾が飛んできた。その時、涙を浮かべながら思った。

ごめんな、タロウ。お前に殺されても、仕方がないよな。俺は二発目の銃弾が腹にめり込むと同時に意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る