第24話:もう一度
「しかし、
「地球最後の日も近いな」
「あんたら、雪絵を何だと…あれでも乙女なのよっ!」
「
ジト目を向ける二人。
ぐっ…。
「けどどーすんだ?雪絵とくっつけるつもりが、緋乃に向いちまったんじゃ、これ以上の進展は難しいんじゃないか?」
「それなのよね~。行き詰まっちゃったの」
ため息をつきながら言う
「緋乃を狙うなんて…とりあえずボコっとくか」
パシンと拳を平手で合わせて鳴らす翔の目が座ってる…。
「やめとけおとなげねー」
衛が翔にチョップしていた。
あーでもないこーでもないと意見を出し合うけど、結局いい案は出なかった。
もしここでこの四人が雪絵に見つかったら…知ったことを知ってしまう。
特に何もできるわけでもなく放課後を迎えた。
はぁ~。
どうしよう…。
雪絵に見つかるわけにもいかないし、
カバンを持って教室を出る。
「緋乃」
「げっ!」
いきなり雪絵に見つかっちゃった!!
と、もう遅いか。
見られた瞬間にアウトだしね。
「なんで、お昼一緒に行ってくれなかったの?あたしから氷空くんを誘うのはまだちょっと…」
「へ?」
あたしたちが屋上にいた事、なんでわからないの?
そもそも、雪絵がお昼を一緒に行くことを求めるのに驚いていた。
「雪絵、もしかしてあなた…あの力が?」
「ううん、しっかりある。両手を出して」
?
あたしが両手を出すと、雪絵はピンクとブルーの付箋紙を手に置いた。
雪絵は後ろを向いて振り向かないまま口を開く。
「じゃ、その付箋を左右どっちでもいいから持ち替えて。両方を片手でもいい」
あたしはそのとおりにする。
「両手をポケットに入れて」
ポケットに手をつっこむ。
「片方、または両方の付箋をポケットに入れるか、入れないでそのまま手を握ってポケットから出して」
雪絵はここで正面を向く。
「当ててあげる。右手にピンクの付箋、左ポケットにブルーの付箋」
「…当たり」
サラッと当てたけど、これすごい確率じゃない。
右、左のどっちかや、ポケット含めて四つなら四分の一だけど、色と場所を全部当てるなんて、一回で当てるのは不可能に近い。
これじゃ手品も丸裸よね。それは興味もなくなるか。
場所を移して話をすることにした。
「さっきのとおりなんだけど、氷空くんのことになると、ノイズがひどくてわからないの。それがどうしてなのかも」
氷空くんが何を考えてるかわからないって言ってたけど、もしかして氷空くんに関して、あたしたちのこともわからないんじゃ…?
「じゃ、あたしが今考えてることは?」
頭に思い浮かべたのは今夜のドラマ。
「今夜のドラマ」
やっぱり当ててきた。確かにあたしの心を読んでいる。
「正解。じゃ今は?」
頭に思い浮かべたのは氷空くんがあたしに告白してきたこと。
「…わからない」
あ~っ、そういうものなんだ。
「今思い浮かべたのは氷空くんに関すること」
雪絵は少し俯き、
「やっぱり…そういうことなんだ」
誰に言ってるでもなく、納得したような雪絵。
「あたし…どうしたらいいのかな?」
雪絵…ごめん。あたしじゃ力になれそうもない。あたしが、逆に雪絵の恋の邪魔をしちゃった。
けど、これは伝わらない。自分の口からじゃなきゃ、雪絵には伝わらないんだ。
でも…これを伝えたら、雪絵はきっと…。
言えない。
「今日は、もう帰ろう?」
「うん」
翌日。
「えっ!?それじゃあのことを雪絵はまだ知らないのぉっ!?」
「うん…そうみたい」
あたしは詩依に昨日の雪絵とのやりとりを話した。
どうやら氷空くん絡みのことは、雪絵は口でなければダメということ。
どうしよう…氷空くんは待ってるって言ったけど、あたしは待っても無駄と伝えたけど、それでも氷空くんは動じない。
雪絵に興味を持ってほしいけど、あの動じなさを見る限りハッキリとフッても、なんて返してくるか想像ができる。
多分、こう返してくる。
「わかった。今はその言葉を受け止めておくよ。でも人の縁ってどうなるかわからないでしょ?」
と。
あの動じなさはすごいと思う。
…でもこのままじゃ平行線だ。言うだけ言ってみよう。
あたしは氷空くんを呼び出すことにした。
「わかった。今はその言葉を受け止めておくよ。でも人の縁ってどうなるかわからないでしょ?」
…やっぱり…。
あたしは思わず頭を抱えた。
「話はそれだけかな?」
「他に、気になる子っていないの?」
氷空くんは少し考えて
「うーん、今のところは緋乃ちゃん以外を考えるなんてできないかな」
はーっと大きくため息をついた。
ダメだ…。
全く見込みがない。
この時、あたしは気づかなかった。
偶然、雪絵があたしたちのいるところの近くにいて、物陰からこのやり取りを聞いていたことを。
雪絵は息することすら忘れて呆然と立ち、わずかに開いていた口をキュッと一文字に結んで、ざわつく心を押し込めてその場から立ち去った。
どうしてっ!?
どうして緋乃なのっ!?
なんで黙ってたのっ!!?
氷空くんはあたしのことを見ていなかった。
こないだは緊張してお話もろくにできなかった。
混雑してるからと、手をつないでもくれた。
でもそれはあたしを気にしてのことじゃないっ!
本当にはぐれないようにするためだけ、つないだだけだったんだっ!
あたし一人でドキドキして、先のことを期待して、観覧車では迫ってくれるかと思っていたけど、見ていたのは緋乃だけだったんだっ!!
もう、氷空くんとは…会わない…。
一方的に思っていても辛いだけ。
緋乃も…詩依も…知ってたんだ。
だから昨日も緋乃は相談に乗ってくれなくて、すぐに帰ろうって…。
こういうことだったんだ。だから黙ってたんだ。
もう…信じない。
寂しくなんて………ない。
また戻るだけ。
友達もいない、一人だった頃に。
「やっぱりダメだったよ~…全然動じない」
「そう、困ったねぇ」
「やっぱシメとくか、あいつ」
「だからやめろって」
いつもの四人で相談してみても、いい案が全然ない。
「いっそ、雪絵をけしかけてみる?」
「それはやめといたほうがいいじゃないかなぁ」
「そうだな、案外折れやすくて折れたら折れっぱなしタイプだろうから、下手に動かすと立ち直れなくなるかもしれない」
三年半、一緒に過ごした翔の一言はやっぱり効く。
あ~も~、どうしてこう上手くいかないのかな~っ!
「それより、今後雪絵とどう接していこうか?」
「氷空くん含めてお昼に誘うとしてもぉ、もう緋乃に夢中みたいだから雪絵には気の毒よねぇ」
確かに、あの動じなさはそう簡単に変わるとも思えない。
「でも急に誘うのやめると変に思われないかな?」
「うーん、雪絵には悪いけどぉ、いい案が思いつくまで前みたいにお昼誘ってみようかぁ?」
あまり気は進まないけど、そうするしかないかな。
お昼休み。
三組で氷空くんを誘って、四組で雪絵まで会いに行く。
「おーい、雪絵っ!一緒にお昼しよっ!」
ふいっ。
えっ?
雪絵は無言であたしたちの横を通り過ぎて行ってしまった。
慌てて追いかけるあたしたち。
「ね~雪絵、雪絵ったら」
無言で歩く足をピタリと止める。
クルッと振り向いて
「もう、あたしに構わないでくれる?」
………え?
…言ったことの意味が…わからない。
「…どう…して…?」
まだ頭が追いついてこない。
「どうして…そんなこと言うの?昨日まで普通に喋ってたじゃない…」
雪絵はそのまま背を向けて歩き出した。
「雪絵………雪絵っ!!」
振り向くことなく、そのまま背中を見送るしかなかった。
「ごめん、氷空くん。あたしから誘っておいて悪いんだけど、詩依と二人で食べたいから…」
「うんわかった。また今度ね」
気を悪くしたような素振りも気配もなく、あっさりだった。
スタスタと氷空くんの背中を見送る。
この余裕、どこから来てるんだろう?
「どうして…雪絵…?」
「緋乃ぉ…」
「何が…いけなかったの?」
「………」
いつもはすごく身近に感じた雪絵が、今は遠くに行ってしまったように見えた。
「いつもと…違ったよね…雪絵の様子」
学食でテーブルを挟むあたしたち。
「うん、なんかあたしたちを拒絶してるみたいだったよぉ」
「もしかして…気づいたのかな?氷空くんがあたしを好きって…」
気になって、あまり箸が進まない。
「隣邪魔すんぜ」
「翔…衛…あたし…」
「何~?雪絵から拒絶されたー?」
「何をやらかしたんだ?」
「…わからない。昨日までは氷空くんとお昼に行きたがってたのに…今日急に、もう話しかけないでって…何が起きたのかわからない」
「急な変化は必ず何か原因がある。昨日の帰りから今日の昼までに雪絵と誰か話したか?」
あたし含めて三人とも首を横に振る。
「俊哉は?同じクラスだろ?」
違う…原因はそこじゃない。
氷空くん絡み以外のことは雪絵にはお見通し。
それでもあたしたちを拒絶するのは、あたしたちの誰かが雪絵を拒絶したとしか考えられない。
その拒絶を感じ取って、雪絵が自ら関わりを断ったと考えるのが自然だと思う。
けど翔と衛は雪絵のことを知らない。
わからない…わからないよ~っ!
雪絵の秘密を含めて相談できる相手が詩依だけっ!
いつも気持ちを読んでアドバイスしてくれる雪絵に、どれだけ助けられてきたかを痛感していた。
放課後。
翔とあたしは委員の仕事で放課後に残っている。
ダメ元で、詩依が雪絵と話をしてくれるらしいけど、どうなるのか…。
詩依はすぐに四組へ向かった。
「雪絵ぇっ!」
すぐに向かったから、雪絵はいた。
詩依に目線を移すけど、目をそらして帰ろうとする。
「話くらいさせてよぉっ!あたしたち友達でしょ!?」
無視して歩く雪絵に食い下がる詩依。
廊下を歩き、階段を降り、一階に降りる。
昇降口が目の前に迫ってくる。
その間、詩依は必死に雪絵との会話をしようとするけど、当の雪絵が取り合わない。
「話をしてくれるまで、行かせなぃ」
詩依は雪絵の腕を掴む。
「離して」
「離さないからぁ」
雪絵が睨みつける。
少し怯んだ詩依だけど、雪絵を見つめ返した。
「どうして急に、あたしたちを無視するのぉ?」
「…もう友達とは思ってないから」
「雪絵に何があったのか、教えてよぉ」
ふぅ。
ため息をつく雪絵。
「なら、聞く相手を間違ってる。緋乃に聞けばいい」
「えっ…?」
サッと手を振りほどかれ、下駄箱に足を運ぶ雪絵を呆然と見送っていた。
「まさか…いつ…どこでぇ…?」
詩依はこれで確信した。
雪絵は、氷空くんが緋乃に気を寄せていることを知っている。
それも雪絵が入り込む余地の無いほどまでになっていることを。
「最悪…だよ…緋乃ぉ…」
がっくりと項垂れて、立ちつくす詩依だった。
雪絵は一人で帰る時、いつもの日課にしているところへ足を運ぶ。
学校から駅までの途中にある公園、奥に行った場所にそれはあった。
雪絵はその植え込みの奥へ消える。
「ん?」
(あれは確か…雪絵ちゃんだ。どこ行くんだろう?)
氷空は雪絵の後ろ姿を見てあとをついていく。
「今日も来たよ」
(雪絵ちゃんの話し声?誰に話しかけてるんだ?こんな木の陰で…)
「みゃ~」
「みゃー」
ネコの鳴き声。
氷空は木々の間から、雪絵の姿を捉える。
「ちょっと、顔舐めちゃダメだって!」
雪絵は抱きかかえる子猫がペロペロ舐めてくるのをくすぐったく思って、子猫に話しかける。
「うふふっ、嬉しいんだねっ」
尻尾を振って、耳を畳んで落ち着き無く体をくねくねしてる足元の子猫に笑顔を向けた。
ドキッ…。
声をかけようとしたが、思わず声を失った。
雪絵が子猫に向けているその無邪気な透き通った笑顔は、とても美しく輝いて見えていた。
まるで、長年世界中を旅して探し続けていた、理想の宝石を見つけた時のように。
その笑顔は、あまりに輝いて見えて、声をかけることすらためらうほど見惚れていた。
(あの笑顔…思わず鳥肌が立ってしまった)
「みゃ~」
「ん?どうしたの?」
優しく子猫に問いかける雪絵。
「も~、そんなに構ってほしいのっ?あまえんぼさんっ」
雪絵に見つかりそうになった氷空はとっさに木々の陰に隠れて、再びちらりと覗いてみる。
「あっ…」
さっき見た、眩しい限りの笑顔は、微笑みに変わっていた。
覗いていたのを気づかれないように、その場から離れる。
(うっわ~、あの笑顔…凄かった。可愛すぎるっ!)
「もう一度、見たい。あの笑顔を。動物相手じゃなくて、雪絵ちゃんを僕自身の手であの顔にしたい」
氷空はその場を離れて、駅へ向かった。
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