英雄組織にも

「来たな。おい、女子軍団!イケメン来たぜ!」

 何を思ったのか、十人揃ってお出ましだった。

 何かを企んでいるのだとしても、問題ない。

 女子軍団は勿論、喜んで突撃していった。

 女子に囲まれて、即、高所に位置を変えてしまう。

 十人中、九人は完全にドン引きしている顔だ。

 そしてリーダーは、苦笑している。

「珍しく、明朗までドン引きじゃないの。」

「いやぁ、ここまでだと引くわ。」

 そんな会話まで聞こえる。

 引かれてんぞ、女子。

 リーダーは何かを観察しているようだった。

 女子軍団の動き、か?

「順位付けしてくと…頼也、伊鶴、才造、小助、冬獅郎、海斗、三好、鎌之介、明朗…だね。はい、明朗!行ってらっしゃい!」

「いやいやいや!?何が行ってらっしゃいなの!?無理無理無理!!」

 あぁ、一番好かれてる奴と一番大丈夫そうな奴を試しに来たのか。

 だから、揃いも揃って…。

 部下の方も大変だな。

「長、先に謝っとくぜ!」

「ッ!?」

 明朗、と呼ばれた男が不意にリーダーに向けて水をぶっかけた。

 リーダーは不機嫌ながら髪を掻きあげる。

「何して…は?」

 女子軍団の動きが変わった。

 何せ、オールバックのリーダーの印象が中性的から男前に変化したからだ。

 それ以前に、女子軍団には姿を見せていなかったのが、水で姿を晒すことになったから。

「長がやっぱり一番人気だよなぁ。」

「影、演じてみろ。」

「…あんたらねぇ…。ったく、俺様こういうの嫌いなんだけど?」

 そういいつつ切り替えるところ、ノリはいいっぽい。

「英雄組織に来てください!ぜひ!」

「俺様をどうしようっての?」

 溜め息をつきながら、顔を見合わせる十人は身動きが取れない。

 今立つ足場さえ、女子に侵食されそうな勢いだった。

「何をしている?」

 その声に振り向くと、誠也が腕を組んで立っていた。

 途端、向こうのリーダーの姿が消えた。

 瞬間、オールバックも失せ、濡れていた髪はどうしてか元通りなリーダーが誠也の目の前に着地。

 じっ、と目を見つめる。

「な、なんだ?」

 珍しく誠也が動揺を見せた。

「夜影!!戻ってこい!」

 怒鳴り声にも動じず、リーダーは誠也を見つめ続ける。

 それから誠也が顔ごと目をそらしたのに、それでも変わらなかった。

「才造、行ってやれ。長好みだぞ、絶対。」

「手遅れになる前に回収してこい、才造。」

 そう黒マスクに二人が苦笑しながら言う。

 好み、なのか?

「あんたの鋭い目、好き。」

 珍しい奴がいたもんだ、と思ってしまった。

 誠也の目を怖がる奴はいても、好む奴は今まで会ったことがない。

 誠也も驚いたようで、バッとリーダーの方を見た。

「その目、欲しいな。」

 笑顔で片手を伸ばしたリーダーに、硬直した誠也はただただ目を見開いていた。

 その片手が誠也の右目を覆い隠す。

 その時だった。

 さっきまで言われていた黒マスクの男がリーダーの背後に立ってその片手を掴んだ。

 そして、腕を引っ張り離れさせた。

 誠也をギロリと睨みながら。

「お前は…忍隊の、」

「先に言っておく。ワシの嫁に手を出せば、殺す。」

「お前の…嫁、だと?」

 どうやら夫婦だったらしい。

 そりゃ、怒るわな。

 誠也はどっちかっていうと被害者だけども。

「その片目は、こちとらのモノ。」

 そう静かに笑って囁いた声の後、忍隊は全員姿を消した。

「誠也…!?その片目、どうした!?」

「片目?」

「鏡を見てみろ!」

 誠也の右目は、真っ赤に染まっていた。

 血ではない。

 誠也は片手で右目を覆い隠すと、顔を伏せた。

「大丈夫か?痛みは?」

「ない…。」

 何か、思うようなことがあるみたいだ。

 もしかして、だけど…。

「誠也、忍隊のリーダーが気になるのか?」

「…人妻に手を出すわけにはいかん。だが、可能なら奪いたい。」

「うっわぁ…ドストライクだったんだ…。」

 ってことは、女子軍団と誠也で忍隊をどうにかさせるのもアリっちゃアリか?

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