AOにて

 再び忍隊の拠点に訪れてみれば、ヨカゲとサイゾウ以外の姿がなかった。

 出払っているのかもしれない。

「何か、情報が掴めたか?」

「依頼人は金を払うつもりもなく、偽名を使ったらしい。其奴が何処と繋がってるのかは、まだ部下が追ってる。」

 拠点内にある物も、減っている。

 もしかしたら…。

「拠点を変えるのか?」

「そう思う故は?」

「他の忍者も見当たらない。物の数も減った。」

「安心しな。何処にも行きやしないさ。あんたは変わらず此処に来りゃいいし、こちとらは此処で待ってる。」

 フフッ、と笑ってそう答えた。

 整理でもした、ということだろうか。

 サイゾウはよく見れば立ったまま腕を組んで眠っていた。

 疲れているのか、ただ単に休んでいるだけか。

 それを見兼ねたヨカゲが人差し指を立てた。

「寝かせてやってよ。ちょいと、疲れてんだ。最近、部下もお疲れ気味でね。」

「何かあったのか?」

「さぁて、何があったんだっけ。で、何か必要な物はあるかい?取ってくるけど。」

 回答は得られなかった。

 忍の事情、というものがあるのかもしれない。

 薬の補給と、銃、弾薬の補充、それから傷の治療を頼んだ。

 てっきり、サイゾウを起こすのかと思ったが、ヨカゲが全て行った。

 ヨカゲの手も、慣れて迷いもない、やはり医者より優秀に見えてしまう。

「治療は誰でもできるのか?」

「まぁ、基本的な治療はね。ほら、戦忍だから、色々と傷負っちゃうもんなのよ。だから、自分で縫ったりすんの。」

 忍装束を捲り、見せた傷は縫い跡や切り傷など様々な怪我跡が残っていた。

 これ全て自分で手当をしたのだと考えると、なんでもできるのだと思えてしまう。

 基本的には、自給自足な生活を送っているらしい。

 植物を育てるにも、料理をするにも、何かを作るにも長けている。

 全て、幼い頃から教わって、大概の者は慣れていて可能だということ。

 動物を使役するにも、かなり修行がいるとも言っていたが、例外者もちらほら忍隊にもいるらしい。

「こちとらはさ、長として育てられたから、得られるものは一通り手を出してるし、ちょいと違うのさ。」

 だから、長を基準に忍隊を見てはいけない、らしい。

 こっちの依頼に手を出せない状況の今は、通常通り別の暗殺依頼をこなしている。

 そして、必要な物は此処で調達といった感じだ。

「それよか、お腹空いてない?物調達のついでに何か食べてくかい?」

「あぁ。そうさせてもらう。」

「才造は……まだ起きそうにないね…。よし、才造の分は後で作ろう。」

 そう呟いて奥へと立ち去った。

 それにしても、この忍隊の拠点は不思議な場所にある。

 入口も、入り組んだ迷路のような路地裏を通って、マンホールの蓋から入り、地下を降りたと思えば梯子で地上に上がり、顔を出せば見たことの無い景色。

 階段を上がり、その途中から屋根をつたって出入口のない路地裏に似た小道を進む。

 それから、また迷路のような入り組んだ道を抜けて突き当たりのドアを開き、また地下に降り少し進めばやっとこの拠点だ。

 猫が通りそうな道だとつくづく思う。

 それなのに、忍隊の者はその道を使わないという。

 来客用といってもいいくらいだが、それにしては分かりづら過ぎる。

 そして、スマホでマップを開けば、奇妙な場所に現在地と表示されているのだ。

 しかし、だからといってマップに表示された場所に実際に普通に向かえば辿り着けない。

 どうなっているのかと聞けば、秘密だと言われた。

 だが、途中で諦めたり、道を誤ると簡単に戻ることができる。

 ディナに聞いて見たが、データには道順だけで詳しくは残っていなかったし、誰にもその仕組みさえわからないのだとか。

「忍隊は何処から出入しているんだ?」

「そりゃ、そいつの出入したいとこから、としかいいようがないね。出入できる穴は複数あるし。」

 料理を机に置きながらそう苦笑した。

 自由自在、というのが相応しいくらいだ。

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