英雄組織にも

「何の用だ。」

 忍装束の男が、先程からずっと観察するような目で立っている。

 微妙な距離。

 勿論、6階の窓から真っ直ぐ見ているわけだから、その男は6階分の高さである場所、外に居る。

 声をかけても何も言わない。

「様子見で来てるだけなのか…?」

「なんだ、まだ居るのか。」

「あぁ。動かない。」

 腕を組んで、ずっと見つめてくる。何かを待っているというような感じではないんだよなぁ…。

 すると、目をそらした。

 その目線の先を見てみると、小鳥が鳴いている。

 男は片手を差し出す。

 小鳥はその手へ飛んで行き、とまった。

 男がフッと笑う。

 やっと表情を変えたと思えば、なんだそれは。

 冷たささえあったのに、一瞬で失せた。

「鳥が好きなのか?」

 声をかけるが、無視された。

 小鳥は小首を傾げたりしながら、何か鳴いている。

 忍者っていうのは、動物と仲がいいみたいだ。

 羨ましい。

「行け。」

 男が口を開いたと思えばその短い言葉で、小鳥は飛び立った。

 それからまた腕を組んで、こっちに目を戻す。

 なんだったんだ、今のは。

 窓を閉めても、別の場所からまた見つめてくる。

 全ての窓を閉めようか。

 ということで、窓を閉めた。

 が、どこから入り込んだのか、当然のように室内出たっていた。

「おい!!おま、何処から入りやがった!?」

 涼しい顔で、何を言ってるんだコイツは、とでも言いたげな目で見つめてくる。

 なんかイラッとくる。

「出ていけ!」

 いえば、溜め息。

 溜め息をつきたいのはこっちだ。

 その男の目の前を慌ただしく通る仲間が、つまづいて倒れそうになった。

 それを、男は上手く支えて立たせ、落ちた物を当然のように拾い上げ渡す。ただでさえ顔がイケメンなのに、やることまでイケメンかよ。

「あ、ありがとうございま…あれ?あなたは?」

 お礼を言おうとして、その男が仲間じゃないことに気付いた。

 自然な風にそこにいるんだもんな。

 驚くよな。

「怪我は?」

「え?」

「怪我。つまづいただろう?足をくじいてはいないか?」

「あ、はい!大丈夫です!」

 話を、その優しい言葉でそらしていく。

 見ているこっちは、話を反らすな!と言いたくなるが、仲間は流されてしまっていた。

「そうか。ならいい。」

 低い優しい声だ。

 女性や小鳥には、優しいタイプか?

 それとも、わざとか?

 仲間はそのままこっちに走ってきて、満面の笑み。

 資料を差し出してくるのを受け取った。

「あのなぁ…。」

「すっっごい、イケメンじゃないですか!!どうしよう、新入りさんかなぁ?」

「敵だ。忍隊の奴だぞ。」

 答えれば目を丸くして男の方を振り返った。

 目が合ったのだろう、男は小首を傾げまるで「どうした?」と言いそうな優しい目をする。

 バッとこっちに向き直って仲間は首を振った。

「嘘ですよね?」

「嘘じゃない。偵察か知らんが何故か此処に来てんだ。追い返さないと。」

「嫌です!」

 嫌だとか言ってる場合じゃないだろう。

 ふと後ろを振り返ると見ていたのか、女子らが騒いでいる。

 あぁ、しまった…。

 ダメだこりゃ。

 追い返そうにも追い返せないじゃないか。

「お前、帰ってくんね?お前のせいで女子が、」

「こうなるとは思いもしなかった。それはすまん。だが、長の命令だ。帰らん。」

 やっと会話してくれた。

 自分がイケメンだと自覚がないタイプだ。

 それはそれで腹が立つ。

「その命令って?」

「英雄組織に行け、とだけ。攻撃は加えるな、とも言われた。」

「なんだよそれ。」

 嘘を言っている、ってわけじゃなさそうだ。

 ってことは、長の方がわざとやってるってことだよな?

 イケメンを配置すれば、女子が食いつくだろうからってことだよな?

「あ、あの!お名前を教えてもらってもいいですか?」

「…名前?」

「はい!」

「……名乗るほどの名ではない。」

 イケメン野郎自身、女子に引き気味だ。

 もしかして、女子相手はそんなに得意じゃない?

 クールだし、それもありえるな。

「お願いします!教えてください!」

「………どうにかしてくれ。」

「無理。お前が帰ればどうにかなる。」

「……長…。」

 なんか気の毒だな。

 イケメンでも、こういうことに苦労があるのか。

 長の命令は絶対、ってわけか。

 イケメン野郎はスッと消えた。

 と、思ったら別の場所に移動しただけだった。

 それでも女子はそっちに流れるように向かう。

 鬼ごっこじゃあるまいし。

「お前ら!もうやめろって!」

 聞き入れてはくれないらしい。

「殺されたいのか?」

「そんなこと言わないでください!」

 女子が強過ぎる。

 困惑するイケメン野郎と群がる女子はもう放っておこう。

 でも、忍隊にイケメンがいるなら女子を出せば対抗できるんじゃないか?

 忍は見たところ、女子相手は得意としない。

 寧ろ、勘弁してくれ、と言わんばかりだ。

 女子軍団を投下すれば、忍隊の動きも鈍る可能性がある。

 顔の良さが裏目に出たってわけか!

 イケメン野郎はその日の内に退散した。

 女子恐るべし。

「イケメンに会いたいなら忍隊に突撃だ!イケメン多いだろうから。」

「本当に!?」

「いつでも行けるようにしとけよ!」

「了解!!」

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