AOにて

 ヨカゲとサイゾウの言っていたことは的中していた。

 毒薬が混じっていると知らず、飲み込んでしまった。

 仲間に偽装した敵だとも気付けなかった。

 だが、始末はした。

 ヨカゲのもとへ訪れてみれば、黙って手招きされ、座らされる。

 それから、サイゾウに治療を施された。

「毒抜きはした。もう、体内には毒はない。死にはせんとは言え、流石にこたえただろう。」

 治療は医者よりも素早く手馴れていた。

 ヨカゲは険しい顔のまま、依頼書を見つめている。

「的中だったな。」

「あんたが行った後に、確信を得たんでね、間が悪かった。死体もありがとさん。」

 依頼書を机に置く。

 赤い線で潰された写真は、既に殺し終えている人物。

 数が減っていない。

「この依頼書、可笑しいんだよ。存在しない人間様を殺せって言ってんの。」

「存在しない?」

 ヨカゲらの調べで見つからないわけがない。

 彼女らの働きについてはよく知っている。

 信用さえしている。

「六人についても、違和感があってね。死体を綺麗に残しといて良かった。あんたが殺したのも含めて、存在しない代物。」

 資料を机に横から置いたのは、まだ知らない彼女らの仲間だった。

 資料に目を落とす。

「こりゃ、依頼人が企んでるとしか言いようがないのさ。」

 既に殺した者の詳細、か。

「勘だけど、聞くかい?」

「あぁ。」

「あんた、狙われてるよ。いや、あんたを含めた…暗殺組織様がね。」

 その鋭い目からは、警戒心が伺えた。

 手を組んでいる以上は、お互いが無視できないというのもあるが、この件に関わっているからこそでもある。

「元々、この依頼は忍隊に持ち込まれたもんじゃない。けど、勝負としてこれを選ばせたのはこちとら。偶然、関わっちゃったもんは仕方ない。」

 何かまた別の紙束をその二人から受け取りながら溜め息をつく。

 それはなんだ?

「ワシから一つ。飲まされた毒薬から察するに、お前を何らかの手段を用いて利用するつもりだったかもしれん。」

「つまり…毒を以て毒を制す、あんたにあんたの組織を潰させようって策が自然だね。」

 操るのか、何かを思い込ませるのか、そういった方法か。

 毒で弱らせておいて…か。

 面倒なことを。

「それは?」

「これは部下からの報告書。悪いけど、これは見せらんない。」

「何故?」

「忍の事情ってやつ?それに、見ても読めないと思うけど?」

 紙をヒラリと見せてくれた。

 が、そこにある文字は全て漢字、それも見たことも無いような漢字ばかりだった。

 他には、最早…文字だと認識できないミミズの這ったような曲線ばかりだったり。

「日本人ですら読めないんだ。あんたにゃ絶対無理だね。」

「日本人でも読めないのか?」

「忍なら読めるさ。一般人様にゃちと難し過ぎる。」

 ケラケラと笑いながら、紙束を持ち直した。

「まぁ、極めつけは字の汚さで読めない最悪な報告書。」

「お前でも読めないのか?」

「うんにゃ?もう慣れたさ。解読くらい出来る。」

 そう笑いつつ、目の奥はまったく笑っていなかった。

 鋭いままで、警戒が揺らめいている。

 気を緩めるつもりは無いらしい。

「解毒剤でも、奥歯に仕込んでおくか?それとも、蘇生薬の方がいいか?」

 サイゾウがいくつか薬らしきものを机に丁寧に置いた。

「蘇生薬と仮死薬を揃えていれば、死んだと見せかけることは容易い。なんなら、一式持っておくか?」

「何処で入手した?」

「入手?」

 首を傾げるサイゾウに、日本語を間違えたのかと思った。

 が、そうではなかったようだ。

「忍の薬だよ。才造が作ったってこと。市販の薬より効くし、必要ならどんな薬もこっちで作って揃えてやろうじゃないの。」

「味、効果、程度、形状…どんな注文にも応えてやる。」

 AOよりも、やはり忍隊の方が上らしい。

 此方では不可能なことを、さらりとやってやるという。

 今回ばかりでなく、これからもずっと援助して欲しいほどだ。

「なんでも、か。」

「いちいち此処に戻ってくるのもなんだから、赤目烏に注文書持たせてくれりゃお届けするよ。治療は流石に来てもらわないと無理だけど。」

 赤目烏…あの時と同じということか。

「赤目烏や影鷹について教えとこうか。」

「影鷹?」

「赤目烏は、文のやりとり、諜報などに使う鳥で、影鷹は攻撃、移動手段などに使う。必要なら、あんたにだって使えるようにはしとくさ。」

 アナログでも、劣らぬ便利さだ。

 この忍隊の恐ろしさは、時代に左右されない安定感。

 どんなにデジタル化が進み、便利にまろうとも、忍隊は不便さを思わせない。

 それどころか、現代よりも可能なことが多い。

 戦国時代の生き残りというだけのことはある。

 薬を選びつつ、次の行動について会議を続ける。

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