MNから

 月を背に屋上の柵の上を片足、爪先立ちで器用に立って夜風にふわりと黒の布を舞わせているその姿は、見惚れるほどカッコイイ。

 接触をあまり好まない忍隊の長は、いつもは烏に手紙を持たせてやりとりする。

 それでもたまにこうして姿を見せて、声で直接会話をしてくれるのは、有難い。

 MNのリーダーである俺と主に手紙のやりとりや会話をしてるが、仕事中に出会うと少々会話をしてくれる。

 といっても、それを迷惑に思う時には無視を決め込んだりしてくるし、余裕があるだとか、時間潰しの時だけの話になってくるが。

「わざわざ来させてすまないな。」

 そう声をかけてもそっぽを向いたまま。

「呼び出すより速いかんね。それに、あんたが害を此処で与えてくれるわけでも無し。」

 冷めた声は夜風より冷たい気がした。

 屋上でしか会話は出来ないし、室内に案内しようとしても拒まれる。

 それに、一定の距離を保とうとするし、結構警戒心が強いっぽい。

「そろそろ、名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか?」

 そう笑いかけても、その顔がこっちを向くことはなかった。

 何かを見下ろし続けている。

「名乗る程じゃない。」

 毎回こう答えられる。

 名前どころか、性別さえわからないし、拠点も不明で、組織名も不明だし、情報流出するのを恐れてるのかってくらいにまったく明かされない。

 俺達の組織は日本では公式に認められてるくらいだけど、これだけは知ってる。

 忍隊の方は世界的に認められてて、保護対象だってこと。

 だから、無闇に攻撃出来ない、逮捕出来ない、何も手出し出来ない。

 まぁ、攻撃したら次の日には悲惨な事になってるくらいの残酷な反撃があるらしいし、逮捕しても煙を巻いて消えちゃうんだとさ。

「手を組みたいんだけど、どうしても駄目なわけ?お互いメリットあるし。」

 何度断られても繰り返ししつこくこう毎回誘ってる。

「小さな得に飛び付いて、大きな損をする必要性を感じない。足でまとい。」

 その返答にグサッと刺さる。

 辛辣だなぁ。

「じゃぁ、何で会ってくれたり、手紙でやりとりしてくれるわけ?」

 そう問い返したらやっとこっちを向いた。

 赤と黒の瞳が冷たい。

「忍者を名乗る人間様に、針先ほどの興味が湧いた…ってだけ。」

 その声にはまったく興味関心があるって感じじゃないし、『針先ほど』ってマジで僅か過ぎる。

 結構、下に見られてるってことか、やっぱり。

「じゃぁさ、対決ってしないか?MNが勝ったら手を組む。」

 腕を組んでそう勝負を口にすれば、両足揃えて向こうも腕を組んだ。

「負けたら?」

 まるで期待があるように聞こえる。

「そっちの要求は?」

 問いに問い返してもし、それがヤバそうならどうしようかな。

「そうだねぇ。勝ってから、のお楽しみ…ってどうよ?」

 ニィ、とやっと笑んでくる。

『まぁ、勝つのは我らですけどね?』って言いたげなくらいに挑発的な笑みだった。

「いいぜ!勝負内容は、依頼をどっちが先に達成するかだ!勿論、依頼はこっちで受けたもんだけどな。」

「流石、有利に進めたそうな顔だこと。いいよ、受けて立とうじゃないの。」

 意外にも乗り気なのが驚き。

 それに、文句一つ無しで寧ろ、面白がってる?

「でも意外だな!お前が乗り気なのは。」

「当然。負け戦も無駄な勝負も、しない主義なんでね。」

 つまり、必勝を確信したから?

 そんくらい俺達を下に見てるってことかよ。

 ここまで言われたら絶対勝ってやるしかねぇし、イラッとくる。

「絶対勝つ!」

「ま、期待せずに見とくよ。依頼、早く選んでおいで。」

 ザァッと強い夜風に乗じるように影を纏ってその場から消えた。

 その挑発的な発言も表情も全部イラッとくる!

 絶対勝つ!

 現代の忍者舐めんなよ?

 昔の忍者なんて、遅れてんだ!

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