第5話 王都へは到着した

 馬車での旅は意外と早く終わった。

 一週間近く乗っていたのだから、全然早くはないのだが、終わってしまうとそれはそれで何か寂しいものがある。

 特にアレンが乗ってからは話し相手が出来たおかげで、本当に早く感じた。

 段々と打ち解けたアレンとの会話はそれだけ、俺に取って有意義だったということだ。

 元々、転生前は病弱で病院暮らしだったし、友達や幼馴染と言える相手も禄にいなかった。

 十二歳と言えば、高校生に上がる歳であり、新たに友達を作る節目でもある。

 そう考えると、このタイミングでアレンと出会えたのは非常に運が良かったと言えるかも知れない。

 また、早く着いた理由はそれだけではない。

 聞くと、本来ならもう少しかかるらしいのだが、まず軍用馬を使ったことでそもそも早いこと。魔物との遭遇回数が驚くくらい少なかったことなどが、早く王都へ到着できた理由らしい。

 そんなこんなで、俺たちは王都へと到着した。

 王都は全部で四つの区画で構成されている。

 中央に王族が管理するエリア。そして、三大公爵家が管理する領が三方向を囲うように展開している。

 今、俺達がいるのはエルネスト公爵領だ。

 アルテンシア辺境伯家の別荘がこのエルネスト公爵領にあるらしい。


「そう言えば、アレンはこの後どうするの?」


「ん? ああ、俺は俺で近くに別荘があるらしい。

 場所は分からないけど、アルテンシア家の別荘まで迎えが来るらしいから、着いたら一度別行動ってとこだな」


 まぁ、それもそうかと思いつつ、一体どんな屋敷が飛び出してくるのかとワクワクしつつ。

 気がつけばあっという間に屋敷へと着いた。

 そのまま、アレンは明日の待ち合わせをした後、アイマルク男爵家の屋敷へと帰っていった。


――翌日


 その日の朝の目覚めはここ数日に比べれば非常にいいものだった。

 それもそのはず、俺専用に特注されたベッドが運び込まれ、それで一晩過ごしたのだから文句など出ようがない。

 もっとも、カイ兄さんが俺の好みをここまで的確に知っているのが何故かは分からないが……


「おはようユーマ」


 朝食を食べようと下に降りると、約束の時間よりも早くにアレンが屋敷へと訪ねてきていた。

 少し寝坊してしまっただろうかと思いつつ、降りてくるのが遅くなったことを謝る。

 食卓には俺とアレンの分の朝食が並べられる。

 ライル兄さんは朝早々に士官学校へ戻ったらしい。

 休暇期間ギリギリだったみたいだし、挨拶がなかったのは仕方ない。

 それに、すぐに会えるだろうしね。


「それにしても、どうしたの? 約束の時間はまだ先だけど」


「いや、今日は試験の申し込みをしにいく訳だが、なんか明後日が試験ていう実感が沸かなくてね」


「ああ、それは分かる」


 学園への入学は十二歳であるため、初めて試験というものに触れるのも十二歳なのだ。

 実技試験ともなれば、流石に中学受験や高校受験を経験している俺でも勝手が違いすぎる。

 実は入学試験の願書と言うか受付と言うか、それも審査的な物があるらしい。

 魔法や剣術を習うだけであれば、魔術師ギルドや剣術士ギルドの養成所に行くという方法もある。

 王立学園は基本的に貴族向けの学校であるため、どうしても平民だと貴族からの推薦状というか身分証明的なものが必要になる。

 ただ、学園側としては平民差別というよりも貴族を相手にする以上、防犯上の問題もあるため仕方がないと言えば仕方がない。

 二人も貴族に属する者とはいえ、騎士爵と男爵家養子の元孤児。

 万が一に備えて推薦状を用意するくらいだ。

 並の平民では入れない可能性が高い。


「それだけ恵まれた状況にあると、余計に緊張する気がするな」


「そうだね。でも、このくらい乗り越えておかないと、入学してからも大変だろうしね。お互い頑張ろう」


 問題と言えば、差別意識がないのはあくまで学園教諭たちであって、入ってくる生徒は違うという点だろう。

 無論、全員が全員そういう訳ではないらしいし、最近では大分減っているとも聞いている。

 何にしてもまずは目の前の試験に向けて準備をしないといけない。

 腹ごしらえが終わると推薦状を持って学園へと向かう。

 馬車で送ってくれるとも言われたが、アレンと話して徒歩で行くことにした。

 これからお世話になる街の地理くらいは自分で覚えないとね。

 むしろ、そういう所が庶民臭いと思われるのかも知れないが、アレンは元孤児で自分も前世は平民だったからかこういう思考はよく合う。

 フロストル騎士爵領と比べると、やはり、都会と言うべきか建物がどこも密集している。

 実際、フロストル騎士爵領は基本的に人口が少ないこともあり、フロストル家だけでなく、多くの騎士爵家が庭付きの大きな土地で過ごしている。

 しかし、王都ともなると、見ている限りでは伯爵以上でないとそこまで大きな土地を得られていないように見える。

 現に、男爵家の家は実家と違い小さかったと、アルテンシア辺境伯家の屋敷を見て改めてアレンが驚いていたのだ。

 また、これはどこの領でも同じことだが、貴族街、マーケット街などと顕著に分かれている。

 貴族なんてものがいなかった現代の日本から来た俺としては、何ともムカつく仕様ではある。

 まぁ、俺も一番下とは言え、貴族だから何とも言えないんだが……


「やぁ、坊っちゃん達。こんな時間にどうしたんだい?」


 学校への通学路になるであろうマーケット街を歩いていた時だった。

 店を開けて開店準備をしているおばさんに出会った。


「おはようございます。僕たちは今から王立学園への入学試験申請をしに行くところなんです」


「王立学園? ということは、坊っちゃん達は貴族様かい。

 こりゃ、とんだ無礼をしてしまったね」


「ただ声を掛けてくれただけでしょう?

 それに僕は騎士爵家の人間ですから、大した違いはありませんよ。

 試験に合格出来たら、ここを通学路にする予定です。

 見かけたら気軽に声を掛けて下さいね」


 「分かったよ」と言ったおばさんは、手を振って見送ってくれた。

 アレンは離れた後に何処か感心したように俺のことを見る。


「フロストル騎士爵領が階級意識が低いというのは、子爵様からよく聞いていたが、目の当たりにすると信じられない気もするよ」


「そう? ウチじゃ皆こんな感じだからなぁ……

 その分、たまに食べ物とか持ってきてくれるよ」


 騎士爵領ということもあって、平民でも狩りは娯楽として普通に楽しむものである。

 狩りで大物が取れた時なんかは、よく皆で宴会を開くのだ。

 持ちつ持たれついい関係が築けていると思う。

 そうこうする内に学園へと辿り着いた。

 王立学園と聞いていたので、どんな豪華な建物が出てくるのかと身構えていたが、実際に出てきたのは古ぼけた趣ある校舎だった。


「意外だね。正直、王立かつ貴族のための学校って聞いてたから、もっと豪華なのを想像してたよ」


「俺は子爵様から聞いていたから驚きはしないが……

 何も聞かずに見ると『身構えて損した〜』って気分にはなるな」


 だが、俺としてはこういうゲームとかにしか出てこないような、学校ぽくない学校とでも言えばいいのか、そんな雰囲気の学校に通えると思うと少しワクワクしてきていた。

 だから気づかなかった。

 入り口で少女と警備員らしき人が揉めていることに。

 平穏に過ごしたい。

 ただそれだけを考えている俺に、やはり厄介事は付きまとう運命らしい。

 そんな予感を抱えながら、アレンを連れて学園へと足を踏み出した。


――

あとがき


とりあえず、もともとなろうに投稿していた分はこれで最後です。

ここからは改めて、カクヨムの方に更新を上げていきたいと思っています。

先日、「黄昏の巫女と愚かな剣聖」の最新話を更新しています。

暫くあちらをメインに書きたいと思っていますので、よろしくおねがいします。

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