第4話 三男に会うことにした

 シュペルマー子爵領までは実に四日ほど掛かった。

 初日こそ野営地で過ごしたから良かったものの、その後の二日は完全に車内泊だ。

 車内泊と言えど、日本の車やキャンピングカーと違い馬車だったため、体勢は悪いし硬い。しかも、時間的問題があるからと、交代で見張りをしながら馬車も動き続けていた。

 馬がそれで持つのか?とは思ったものの、軍用の馬であるため七日くらいなら休まず動けるらしい。

 凄いタフなんだね。

 でも、流石に可愛そうだから定期的に治癒魔法を掛けてあげる。

 疲労も癒えるって素晴らしいね。魔力が続く限り睡眠不要ってことだから幾らでも仕事が出来る。

 まぁ、精神的な治癒効果は一切ないから、やっぱり睡眠は大事なんだけどね。

 朝方、ようやくと言うべきか、シュペルマー子爵領の中心都市の象徴とも言うべき大門が見えてきた。

 流石に疲れていたのかアルテンシア辺境伯領に属する護衛たちも安堵の息を漏らす。

 折角なので最近、習得した範囲魔法を使ってみる。

 範囲治癒だと出来るけど過剰に反応される可能性があるし、ここはリラックス効果のある癒しの風的なやつを使う。

 ちなみに、オリジナル魔法なので同じ様な事を考えない限り他に使い手はいない。


「ありがとうございます。ユーマ様」


 それでも一人は気付いたようだ。

 まぁ、彼は魔法師みたいだし当たり前なのかも知れない。


「さて、取り敢えず、今日はここで一泊するし、シュペルマー子爵の家に行って到着報告と宿泊の用意をして貰おう」


「宿に泊まるんじゃないの?」


「さぁ? 一応、アルテンシア辺境伯殿からシュペルマー子爵殿が泊まるところを用意しておいてくれていると聞いているだけだからな。

 実際に聞いてみないと何処に泊まることになるのかは分からない」


 大門は通行証を用意しておいて貰ったため問題なく通過。

 シュペルマー子爵家から使いが来ていたので、馬車や護衛たちには指定の場所で待機してもらい、自分とライル兄さんは子爵家の屋敷へと案内された。


「こちらでお待ち下さい」


 そう言って執事に案内されたのは応接間のような場所だった。

 挨拶に来たわけだし、場所としては問題ない。

 ただ、ウチと違って随分とアンティーク調の部屋に見える。

 元日本人としてはなんとも言い難い、ロマンあふれる内装だ。


「待たせてしまったかな?」


 そう言って現れたのはシュペルマー子爵殿と一人の男の子だった。

 歳は同じくらいに見える。

 多分、彼が例の三男なんだろう。


「この場に相席させるのはどうかとも思ったのだが、ユーマ・フロストル君がアレンと同い年と聞いてね。

 ならば、折角だし会わせておこうかと思ったのだよ」


「そうでしたか。実は僕も名前は伺ってませんでしたが、名高きアイマルク男爵家の三男と同い年と聞いて、失礼でなければ一度お会いしたいと思っていたんです」


「そうかそうか。なら、事務的な話し合いは我々に任せて二人は外で話しているといい」


 それでいいのかとライル兄さんを見ると、行って来いと顎でドアを指された。

 なら、お言葉に甘えよう。

 彼を促し二人で部屋を出る。


「僕はこの屋敷のことを知らないんだ。

 どこか落ち着いて話せる場所を教えてくれないかな?」


「なら、庭のテラスがいいな」


 そう言って、彼は先導する。

 少し怖い印象を受けるのは、舐められないように硬い態度を取っているからなのだろうか?

 彼は彼で養子ということもあって苦労しているのかも知れない。

 そこら辺は僕よりライル兄さんの方が話し相手としては適切な気もする。

 そんなことを考えながら暫く歩くと花が咲き乱れる庭園に出る。

 そこには一人の女性が座っていた。


「あら、アレンじゃない。どうしたの?

 それに後ろの子は初めましてね」


「初めまして。フロストル騎士爵領から参りましたユーマ・フロストルと申します」


「これはこれはご丁寧に。私はルイナ・シュペルマーよ。よろしくね」


 どうやら、この人はシュペルマー子爵の奥さんらしい。

 アレンはアレンでこっちを興味深そうに見ている。


「どうしたの?」


「いや、人で態度を変えたりしないんだなぁと思って」


「人で態度を変える?――もしかして、俺って元孤児ってだけで舐めた口聞くような馬鹿だと思われてる?」


「そ、そこまでは言ってない!」


「なら、問題ないじゃないか」


「そうね。まさか、遠慮してたの?」


 俺とルイナさんで猛攻撃だ。

 流石に失礼だと思ったのか、彼は頭を下げる。


「そんなつもりはなかったんだ。

 ただ、俺を鍛えてくれた義父上ちちうえには感謝しているけど、それでも苦労が多かったことに変わりはない。

 次は学校だ。しかも王都にある学校となると貴族たちの風当たりが強くても仕方ない。

 どうしても落ち着かなかったんだ」


「士官学校は実力主義だって聞いたけど?」


 ライル兄さんが家柄無視の実力主義な環境のお蔭で、日々の訓練は厳しいが余計なことを考えずに専念できる上にやりがいもあるとかなり満足そうに話していたことを思い出す。

 アレンはシュペルマー子爵とアルテンシア辺境伯の推薦があるし、あのアイマルク男爵が養子にしたということは実力も申し分ないはず。

 不安要素は何処にもないように思える。

 しかし、不安要素はあった。主に俺と同じ理由で。


「俺が行くのは王立学園だ」


「へ? 何でまた」


「俺は魔法の適正もあるから魔法剣士を目指したいんだ。

 それに、軍人になるつもりはないから魔法を習うなら王立学園の方がいい」


 確かに、王立学園も王国の学校である以上、戦闘に関しての授業がある。

 王立学園の魔法授業は士官学校以上とも言われている中身ある授業だ。

 魔法師の中には王立学園で二年間魔法を訓練した後、士官学校へ転入して軍属魔法師になる者もいるという。

 魔法を学ぶ上では確かに王立学園は最適だ。


「それに関しては俺も騎士爵家だから他人事には見えないなぁ……」


「いやいや、フロストル騎士爵家ってあのフロストル家でしょ?」


「どのかは分からないけど、分家があるとは聞かないから多分そうだけど?」


「なら大丈夫じゃないか?」


 この時、俺は何が大丈夫なのかさっぱりだったが、後に思い知らされることになる。


「でもそうか。ならクラスメイトになるかも知れないし、ここで会えたのは丁度よかった」


「フロストルも王立学園に?」


「ユーマでいいよ。俺もアレンって呼ぶから。

 王立学園はこれから受験しないとだけどね。アレンもでしょ?」


 こくんと頷くアレン。

 なんだろうか、何処と無く境遇が似ているような彼に愛着が湧いた。

 彼となら良好な交友関係を築けそうな気がする。


「なら、一緒に受験に合格しなきゃね」


「そうだな。問題は実技の方か……」


「ん? そう言えば、受けてこいって家を出されたから試験内容知らないんだけど、アレンは知ってるの?」


 これには流石にルイナさんも驚いていた。

 え、そんなに深刻になるほど受験って難しいわけ?

 そりゃあ王立って言うくらいだから難しいだろうけど、所詮裏口入学ありの学校なんだから余裕なんじゃないのだろうか?

 試験内容はルイナさんが教えてくれた。

 武術試験、魔法試験の二つらしい。

 学園への入学条件として武術または魔法の心得があるのは貴族として当たり前とされるため、最低でも武術か魔法の試験のどちらかで合格点を出さないといけないらしい。

 武術はまぁ、日本の格闘技を多少齧ってたし、近所のおじさんに稽古付けて貰ってたから無様な姿は見せずに済むはずだ。

 魔法は上級が使えないだけで中級は使えるから問題ないだろう。


「知らずに受けようとしてたとかユーマも大概だな」


「いや、だってユーシス兄さんも教えてくれなかったからなぁ」


「余程、優秀なんだなユーマは」


「そうなのかな? 比べる相手がリーファくらいしかいなかったから分からないな」


「リーファ?」


「リーファ・アルテンシア。俺の幼馴染なんだ」


 俺の発言にルイナさんとアレンの目が見開かれる。

 後になって知ったのだが、アルテンシア家は魔法の名門らしく、リーファも超優秀な魔法師として王都に名を馳せていて学園側からオファーがあったのだとか。

 なんだ、全然裏口入学している訳じゃないんじゃないか。

 実力で入ったと自慢してくれればいいのに。

 なおさら、負けていられないと意気込んで翌日を迎える。

 馬車には新たにアレンが加わった。

 王都は目前。

 何事もなく平穏でありますように。


――

あとがき


本日は「黄昏の巫女と愚かな剣聖」も最新話を更新しています。

まだ読んだことのない方は是非。

元々、新人賞にでも出そうと思って作った世界観で異世界ファンタジーではなく、現代ファンタジーになってます(その点は「近代魔術のレッツェルシーカー」と一緒ですね)。

本作は次の第5話までが、すでになろうにて公開している内容になっています。

それ以降はこちらで更新しつつ、なろうに移植予定です。

「黄昏の巫女と愚かな剣聖(略称募集中)」のあとがきにあるように、あちらを優先的に暫く書こうと思いますので、こちらは不定期です。

でも、ちまちま更新はしたい……

YouTubeやってたりもするので、あれですが、なんとかやっていきます。

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