第3話 お隣さんへ行くことにした
翌日、いよいよ王都へ向けて出発することになった。
いや、うん。
やったことと言えば寝て起きたくらいなんだけどさ……
俺の周りの人はやたらと甘やかしてくれるから、準備は全部ウチのメイドがやってくれたし、馬車の準備関連は全部ライル兄さんがやってくれた。
「行ってくるねユーシス兄さん」
「ああ。行ってらっしゃいユーマ」
昼ごはんを食べた俺はユーシス兄さんの見送りで家を出た。
馬車に乗るのは久しぶりだ。
何せ、リーファの方が毎回勝手に来る関係で、俺の方から辺境伯領へ行くことはあまりないのだから。
「ところで、リーファが結局馬車に乗っているのは何で?」
「ん? ユーマは兄貴から聞いてなかったのか?」
「え、ライル兄さんどういうこと?」
実はライル兄さん、王都での長期休暇はアルテンシア辺境伯家の別荘に居候させて貰っているらしい。
確かに、ユーシス兄さんから帰ってくればいいのにと言われているのを見たことがある。
そして、春からリーファもそこで生活することになるから、新しい生活雑貨とかを事前に運び込んで置くのだそうだ。
その生活雑貨を取りに一度、アルテンシア辺境伯領に行くことになっているのだとか。
「それって、王都で買ったほうが早いんじゃないの?」
「それが、王都のって物価がバカ高くてな……。
アルテンシア辺境伯爵殿は非常に優れた方だから懐事情も問題ないとは思うが、やはり一式揃えるとなると相当な出費だからな。
それに加えてお前の分まで用意するとなると流石にポンとは出せないだろう?」
「いや、ちょっと待って?」
何でそこで俺の分が入るんだ?
「何でって、そりゃあ、カイ殿がお前を溺愛しているからだろう?」
カイ・アルテンシア。アルテンシア辺境伯家の長男にして次期当主。
正真正銘、リーファの兄なのだが、妹二人と姉が一人で弟がずっと欲しかったらしい。
俺とリーファは同い年だし、カイ兄さんとユーシス兄さんも同い年だったこともあって、幼少の頃に知り合って以来、何かと世話をしてもらっている。
なるほど、ユーシス兄さんはカイ兄さんにも俺の進学について相談していたんだな……
「それに、扱い慣れた地元家具の方が過ごしやすいだろうという配慮もあるらしい。
そこで、今回の帰省ついでに俺が輸送用の高速馬車を何台か指揮して、王都へと運び込むことになったのさ。
ユーマはそれに同行して一緒に王都へ行くということだな」
なるほど、それでリーファも同乗しているのか。
と言っても、フロストル騎士爵領からアルテンシア辺境伯領までは数時間程度で着く。
隣接した完全なお隣さんだからだ。
これはフロストル騎士爵家が今まで領地を与えられ担ってきた役割と関わりがある。
アルテンシア辺境伯領から見てフロストル騎士爵領を挟んで反対側は、
フロストル騎士爵領に住む者は、アルテンシア辺境伯領から派遣されている子爵家や、フロストル騎士爵家と同格の腕っぷし自慢の騎士爵家たちだ。
フロストル騎士爵領の使命は、アルテンシア辺境伯領を、そして、王都を黒櫻の森という脅威から守ることにある。
元々、アルテンシア辺境伯領と隣接していた黒櫻の森を切り開いて作った都市がフロストル騎士爵領というわけだ。
子爵がいるにも関わらず、騎士爵家の我が家が領主を務めているのは、子爵たちはあくまでアルテンシア辺境伯領の人間だからだ。
分かりやすく言えば大使館のようなもの。
実質的な領地運営はこの領地で一番上の爵位になる騎士爵家だけで行う。
フロストル家は先祖の武勲から他の騎士爵家からもトップに据えられているだけに過ぎない。
本来であれば騎士爵は一番下の爵位であるため領地は持たないのだが……王都から離れ、黒櫻の森という脅威と隣合わせという辺境の地では、流石に大貴族様が住むようなことはないということだ。
もっとも、住んでしまえば
何せ、どこの騎士爵家も優秀な兵士を育てるために道場を開いているし、平民も道場で訓練すれば防衛軍に入団することが可能なのだから。
中にはその実力で幹部になった者もいる。
最終決定はお国柄や人望もあって騎士爵家の人間がするが、参謀などは意外と平民出が多いと聞く。
これは単に人手が足りないというのもあるが、アルテンシア辺境伯家が代々そういう有望な人材を爵位に関係なく育てる傾向にあり、フロストル騎士爵家も寄子として影響を色濃く受けているからとも言える。
§ § §
「やっと来たねユーマ!」
辺境伯領に着いた時に迎えてくれたのはカイ兄さんだった。
「私もいるんですが?」
「ん? ああ、リーファか。ユーマに迷惑かけなかったか?」
毎度、思うのだが、実の妹に冷たすぎやしないだろうか?
リーファもこれには諦めてる節があってあまりあれこれ言ってはいないが……
「本当はゆっくりしていって貰いたいところだが、試験のことも考えると余裕を持って出ておいたほうが良いだろう。
それと、ライルにはもう一つお使いを頼みたくてね」
「荷物を運ぶ以外にもですか?」
「ああ、実はこの先にあるシュペルマー子爵領に住んでいるアイマルク男爵家の三男を一緒に連れて行ってやって欲しいんだ」
シュペルマー子爵領はアルテンシア辺境伯領と王都の間に位置するそこそこ大きな領土だ。
国内と言えど魔物は出るもので、子爵領の周りには魔物の住処などもある平原が広がっていると聞く。
その関係で、シュペルマー子爵家も武勲を挙げて陞爵されたそうだ。
アルテンシア辺境伯爵とシュペルマー子爵は学友らしく、お隣同士ということもあって親交があるらしい。
そして、アイマルク男爵家の三男が中々に才気あふれる者らしい。
なので、王都まで折角だから連れて行ってほしいということなんだそうだ。
「それに丁度、ユーマと同い年らしくてね。
王都は広いから会う機会は少ないかも知れないけど、知り合いは一人でも多いほうがいいかと思ってね」
「確かにそうですが……自分は騎士爵、相手は男爵ですよ?
誰もがアルテンシア辺境伯爵家のように接してくれるわけではないと思いますが?」
「それなら大丈夫だ。彼は元々孤児だからな」
「は? 孤児?」
「中々に才能のある子だったらしくってな。
孤児にしておくのは勿体ないと男爵殿が養子にしたらしい」
そう言えばアイマルク男爵家はシュペルマー子爵家と並び代々武闘派な家系だと聞いたことがあるな……
余程の腕前なんだろう。
シュペルマー子爵家が気にかけるのも頷ける。
「で、子爵殿が一応紹介状を用意したらしいんだが、不安だからウチにも紹介状を書いて貰えないかと言われたんだ」
「それを了承したと?」
「勿論だ。才能ある子を野放しに出来るほどウチの国も人手に余裕があるわけではない。
それに、都合が良かった。ユーマの紹介状を書いて貰いたかったからな」
お互いにお互いの囲い子の紹介状を書いたわけか。
なるほど、何となく期待を背負っているという意味ではそいつと仲よくなれそうだな。
「今出れば途中にある野営地には夕方までに着くはずだ。
今日はそこで一泊して貰うことになるけど問題ないかな?」
「分かりました。
準備を整え次第、すぐに出発します」
なら、リーファともここでお別れになるね。
「じゃあねリーファ。行ってくるよ」
「ええ、ちゃんと受かってらっしゃい」
そんなこんなで、次はシュペルマー子爵領へ向かうことになった。
王都遠いな……
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