第2話 学校に行くことにした

 ユーマ・フロストルに転生してから既に十二年。

 六歳の頃に転生者であることを思い出して、なるようになるかと思って過ごしていた六年間だけども、もはやなるようになるで済まされない状態にまで来てしまっていた。


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名前:ユーマ・フロストル 15歳 Lv.?


固有能力:成長

スキル:鑑定眼 《S》、属性強化 《S》、隠蔽 《S》

魔法適正:治癒魔法 《S》、火属性魔法 《S》、水属性魔法 《S》、風属性魔法 《S》、地属性魔法 《S》、無属性魔法 《S》


HP:17453

MP:∞

STR:14230

DEX:13210

VIT:8900

AGI:15300

INT:21530

MND:16730

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 もう色々とツッコミどころ満載だ。

 まず、スキルや適正に関しては《成長》の影響なので、もう諦めている。だからこそ隠蔽スキルを取得したのだから、これで誤魔化しておくしかないだろう。

 次にHP。これは、成人男性でも多い人で8000前後。王家直属の騎士団が重装備や補助魔法を受けても精々12000弱くらいらしい。

 つまり、装備なし、補助魔法なしの状態で17000超えとか異常な訳である。

 他の数値も同様で、生身で騎士団の団長を殴り倒せるくらいに数値が高い。

 しかし、この成長能力には幾つか問題がある。

 それは、能力適正値が最大でも使える術が増える訳ではないということ。

 まず、剣術。

 ある意味で有り難い誤算だったのだが、剣術はスキルに含まれないらしい。

 正確に言うと流派による型はスキルではないということ。

 ゲームの様にソードスキル的なものに分類されていたとしたら、習った瞬間に師匠を超えるという誤魔化しきれない状態になっていたはずだ。

 そして、魔法。

 例えば、擦り傷を治す程度の治癒魔法を受ければ確かに治癒魔法と適正値 《S》を習得出来るのだが、魔法はあくまで擦り傷を治した治癒魔法のみを習得する。

 治癒魔法師は病気を治すことの出来る強力な治癒魔法を使う者もいる。

 昔、お世話になった街の診療所に務める治癒魔法師がまさにそうだ。

 そういった同じ治癒魔法でも別の力が宿った魔法は、個別に受けないと使えるようにならないらしい。

 もっとも、自ら色々試して成功することで取得することも出来るため、能力に頼りすぎず努力していれば自然と使用できる魔法は増える。

 また、《S》というのは熟練度ではなく適正値を指している。

 要するに、魔法も剣術同様、即時習得しても上達することが確約されているだけで、練習しなければ上手くならないということだ。

 あと、魔法も練習してたけど、どうも治癒魔法以外の魔法は基礎的なものしか扱えなかった。

 適正値は確かに最大値なんだけど、どうもしっくり来ないと言うか……。まぁ、それでも中級魔法までは使えるようになったし問題ないだろう。

 あと、剣術はやめた。いや、確かにそれなりに扱えるようにはなったんだけど――殴った方が早い。

 それと、魔力。

 いや、無限ってなんだよって自分でも思ったけどさ、毎日一万ずつくらい数字が増えていったんだよ……

 この世界の魔力って成長とともに増えるだけで、訓練して増やすものじゃないらしいんだよね……

 つまり、生きているとちょっとずつ増え、老いると減るものなのだそうだ。

 で、そこに成長能力が加わると……ありえない速度で増える訳だ。

 魔法撃ち放題。ゲームバランス悪すぎる。調整求ム。


「何、頭抱えてるの?」


 リビングで寛いでいると聞き慣れた声がする。

 リーファ・アルテンシア。フロストル騎士爵家の寄親であるお隣の領地の領主家、アルテンシア辺境伯家のご令嬢だ。

 幼馴染みの彼女は何かとウチに遊びに来るのだ。


「いや、物覚えが良すぎるのも考えものだなぁと思って」


「なにそれ。嫌味?」


「いや、リーファも物覚えは良いほうだろう?」


「ユーマほどじゃないわ」


 それはそうだ。

 まぁ、流石に相手がリーファでもこの《成長》という能力についてはあかせない。


「そう言えば、リーファは進路決めた?」


「お父様とお兄様の勧めで進学することにしたわ」


 十二歳というのはこの世界に置いて、六歳の次に訪れる大きな人生の分岐路である。

 というのも、そのまま父親の補佐について貴族としての仕事を学ぶ者、士官学校へと進学して騎士や軍人になる者、王立学園へと進学して貴族としての振る舞いやパイプを得ようとする者など実に様々な進路がある。

 さながら、大学に進学するか、就職するか、フリーターになるかと言ったような選択だ。


「ユーマはどうするの?」


「俺も兄さんに進学しろって言われたよ。

 折角、それだけ能力あるんだからってね」


「その割に乗り気じゃないわね」


「まぁ、行けって言われたのが王立学園だからね。騎士爵家では肩身が狭いよ……」


 寄親ということもあって、アルテンシア辺境伯家は分け隔てなく接してくれるが、王都に近づけば近づくほど騎士爵家を貴族として認めない家は増えてくるんだとか。

 士官学校だと実力主義なところがあるため、特に問題はないのだそうだが、王立学園はその貴族制による差別が色濃く出ていると聞く。


「問題ないわよ。私も王立学園だしね。

 付き人という体で一緒に来ればいいじゃない」


「その手があったか!」


 なるほど、確かにリーファが王立学園に行くには王都へ出る必要があるし、辺境伯なら爵位として申し分ない。

 寄子で騎士爵家となれば付き人として従えていても変ではない。

 俺を差別するということはアルテンシア辺境伯家を差別するということ。

 余程の爵位と地盤を固めた者でないと何か言ってくることはないだろう。


「ただ、やらかすかも知れないけど大丈夫?」


「やらかす?」


「色々とね――楽しくてやり過ぎちゃったんだよね……」


 十二歳になった後、思いっきり筋トレとか体力づくりと言って走ったりとかしてたんだけどさ、治癒魔法で筋肉痛とか治せるから、朝から晩まで飽きるまでやったりしてたらね? うん、やり過ぎた。


「問題起こさなければ大丈夫よ。変に強い分には私の自慢になるわけだし」


「なら、兄さんの勧め通り進学しようかな」


 そんなこんなで進学が決まったのだった。

 そうと決まればユーシス兄さんにも伝えなければ。


「そうか、リーファお嬢様と一緒に進学してくれるか」


 いつの間にか盗み聞きしていたユーシス兄さん。もしかしたら、リーファはユーシス兄さんがけしかけたのかも知れない。

 あれから九年。ユーシス兄さんも今では立派な当主代理だ。


「僕は長男としてどうしても家を手伝わないといけなかったからね……

 騎士爵家だと色々と苦労することもあるかも知れないけど、きっといい出会いもあるはずだから頑張っておいで」


 ここまで応援されれば断る理由もない。


「はい。頑張ってきます」


 と言っても、入学には試験がある。

 入試と違い事前に願書を出さないといけないとかそういうのはないから、今からでも十分間に合う。


「試験は十日後。ここから王都は馬車で一週間くらいかかるからね。

 明日の昼には出るといいよ」


 明日は一時帰省していたライル兄さんが王都へと戻るそうだ。

 その馬車に同行させて貰うことになった。


「私は行かなくて大丈夫?」


「リーファお嬢様がお望みでしたら同行できるように手配しますが……」


「え? リーファは行かなくてもいいの?」


「言いにくいけどウチは辺境伯家だからね。試験免除よ」


 なるほど、納得だ。

 特にリーファは長女だが家は兄の方が継ぐことになっている。

 田舎とは言え辺境伯家とパイプを繋ぎたい貴族は少なくないはずだ。

 試験の成績が悪いなんて理由で落とせばどんなとばっちりがあるか分かったものじゃない。

 もっとも、リーファに限って試験で落ちるようなことはないと思うが……

 

「ユーシスさん、親も心配するだろうし、明日いきなりでは倒れちゃうでしょうから、今回は遠慮しておくわ。

 ユーマがちゃんと受かれば来月には一緒に王都へ行けるのだしね」


「ハハハ……なんとかやってくるよ」


「ライルにも伝えておく。きっと喜ぶよ」


 これは変に落ちるわけにもいかないなぁ……

 ずっと、この街で暮らしていたし、何処まで行くとやり過ぎなのかって分からないんだよね……

 日本基準で言えば、基礎魔法一つでやり過ぎな訳だし?

 なるようになるか。

 取り敢えず、手を抜きすぎて落ちるということだけはないようにしよう。

 そう決意した。

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