二度目の人生は平穏に過ごしたい!

初仁岬

第1話 転生することにした

「突然ですが、貴方は死にました」


 本当に突然だった。

 気が付いた時には真っ白な世界で、若干白髪の隠せていない若作りの――


「誰がババァですって?」


 まだ、言ってない――いや、ちょっとは思ったけどさ。

 そもそも、俺って何で死んだんだっけ?


「そうねぇ……いわゆる不幸体質ってやつね」


「不幸体質?」


「そう不幸体質」


 そう平然に言われても一体どないせぇと?

 そもそも、不幸体質で死んだと言われても事故にあったのか、誰かに殺されたのかまるで分からない。


「ああ、殺されたの」


「え? 誰に?」


「通り魔……まぁ、でも被害者貴方だけみたいよ。良かったわね」


 いや、よくはないだろ――ん? いいのか?

 被害者は一人で済んだんだもんな……俺が死んだんだけどさ。


「で、俺は何でここにいるわけ?」


「女神相手に随分と態度デカいわね……まぁ、いいけども。

 君の人生見てみたんだけどさ、平凡な家庭に生まれて普通に生きてきたのに、毎年、不幸な交通事故で入院して友達少なくて、修学旅行とか体育祭とかみたいな学校行事は必ず熱出して欠席とか散々じゃない?」


 確かに言われてみると、他校の文化祭にしか参加したことがないような……

 体も弱かったから運動も苦手だったしなぁ。


「という訳で、死んでしまった貴方に幸運はプレゼント出来ないけど、あまりにも可愛そうだから異世界転生チャンスを上げようかと思って」


「お断りします」


「え?」


 だって、あれでしょ? チート能力上げるから世界救ってねテヘペロ(笑)ってやつでしょ?

 嫌だよ面倒くさい。


「そ、そこを何とか。別に世界救う必要はないのよ。

 その世界に転生してくれれば!」


「何でそんなに必死なんです?」


「その世界ね。別に滅亡寸前とかそういうヤバい系の事情は抱えてないんだけどね? 一つだけ問題があるのよ」


「問題?」


「君のいた世界の漫画で言うところの剣と魔法の世界、いや、RPGみたいなゲーム世界ってやつでね。

 剣士、魔法師、魔物、獣人、吸血鬼、ネクロマンサー等など。まぁ、危険要素満載な世界なのよねぇ……

 だから、そっちに行ってくれる魂が少ないと言うか――私の担当分だけなんだけどね」


 曰く、この俺担当女神様が担当している他の魂もこの世界に行きたがらないらしく、他の神様方と比較されて実績的にヤバいらしい。


「俺も嫌だよ?」


「そこをなんとか! ほら、私の特級女神権限で記憶もそのまま本当に転生させてあげるから。

 欲しい能力とかも付けちゃうから!

 じゃないと――」


「じゃないと?」


「私の地位が降格しちゃうの! 給料が! 生活費が! 家賃がぁ!!」


 女神様のくせに意外と庶民的だった。というよりも、そんなに金欠なのに特級女神なのか。ブラック過ぎるぞ神界。

 しかし、転生したところで不幸体質背負ったままだと確実に死ぬ。

 どうせ、あれでしょ?

 ほっつき歩いてたら、災害級の魔物が現れて食われちゃうとかそういうオチでしょ?

 とはいえ、この必死な女神様を何故だか見捨てる気にもならなかった。


「取り敢えず、不幸体質だけは何とかしてくれ」


「あ、それは勿論。

 転生した直後に死なれても困るからね」


 そりゃ、そうだ。

 転生してくれる魂が少なくて困ってるのに、転生直後に魂が戻ってくるとか悪い冗談だ。


「あと、能力って何のことなんだ?」


 俺のいた世界にはゲームのように能力というものは存在しない。

 しかし、転生予定の世界には魔法や能力を始め、固有スキルというものがあるらしい。

 固有スキルは全ての命において平等に与えられる。

 火精霊の加護を持つものは火属性の魔法が扱いやすく、逆に水の魔法が扱いにくい等など。

 固有スキルは修練で身につくものではなく、生まれ持つ神様の贈り物という設定なんだとか。

 逆に、スキルは修練で身に付くものだから、努力すればしただけステータスにスキルが加算されていくそうだ。


「何か成長系の固有能力ってあるのか?」


「成長系?」


「ほら、俺は自他共に認める不幸体質だったから、周りに気を回されてばかりで自分で色々とやってこれなかったんだ。

 だから、折角転生するなら色々なことに挑戦して成長していきたいなぁと思って」


 事実、学園祭の準備も怪我をするからと、あまり手伝わせてもらえず、体育も基本的には見学。

 全員から気を使って貰っていたのはありがたいことだが、自分だけ蚊帳の外みたいで寂しいものなのである。

 結局、体が弱いを理由に何もさせて貰えなかったというのが実際のところ。

 そういった事情で、成長を確約するスキルが欲しいと思ったのだ。

 女神様は気に入ったようで


「良いわねそれ。分かったわ。成長系のスキル付けておくから期待しててね!」


 と、賛同してくれた。

 しかし、何だろう――俺、今一応、転生前だし? 不幸体質治ってない訳だよな?

 激しく嫌な予感がするんだが……


「よし、善は急げ! 転生開始!!」


「え、ちょっとま――」


 待って貰えなかった。

 取り敢えず、不幸体質だけどうにかしてくれればそれで良いか……


§ § §


 俺の名前はユーマ・フロストル。

 王都から少し離れた田舎――まではいかないけども、華やかでも貧困に追われる訳でもない、至って普通の土地の領主をしているフロストル騎士爵家の三男だ。

 騎士爵家は普通、領地を持たないそうなのだが、祖父の時代にこの土地を切り開いたことで、陞爵しょうしゃくこそなかったものの、領主としての権利を与えられたのだとか。


「おはようユーマ」


 この人は長男のユーシス。俺より七つ年上の十三歳だ。

 精神年齢では俺の方が長生きだけどね。まぁ、でもそのこともさっき思い出したんだが……


『能力が目覚める時に前世の記憶を思い出すから』


 女神は確かにそう言っていた。

 だから、多分これは俺の前世の記憶なんだろう。まぁ、ロクな人生送ってなかったみたいだから、役に立ちそうな知識はまるでないような気もするけど……


「ちゃんと起きてて良かったよ。今日は何の日か勿論、分かっているよね?」


「能力鑑定の日ですね」


「その通り。人は誰しも固有の能力を授かって生まれてくる。

 通常引きが悪いと――あまり地位に恵まれた僕たちが言うのも何だけど、人生が狂うと言っても過言ではない。

 中には、努力して色々なスキルを習得し、騎士団で幹部クラスまでのし上がる者もいるそうだけど、正直、かなり狭き門だと思った方がいいだろうね。

 とはいえ、ユーマの場合は問題ない。変なのを引いてもウチの手伝いをしてれば少なくとも生きるのが辛いなんて人生は歩まずに済むからね」


 実際、ユーシス兄さんは次期領主にふさわしい能力を得たと聞いている。

 変な病気を患っている訳でも、体が弱い訳でもない。

 このままいけば、何事もなくユーシス兄さんが当主になるだろう。

 つまり、俺は変なのを引くとユーシス兄さんに養われるということだ……それはそれでどうなんだ?


「いやいや、ユーマには良いものを引いて貰わないと」


 そう言いながらリビングへ入ってきたのは、三つ年上のもう一人の兄。次男・ライルだ。


「どうしてだいライル?」


「俺が悪くはないが微妙なの引いちまったからなぁ……

 下の兄弟二人揃って兄貴に迷惑かけるのも申し訳ないし、ウチでの待遇は問題なくとも、外での生活は少し面倒だぞ?」


「また、何か言われたのかい?」


「流石に直接的にではないよ。

 これでも領主の息子だからな」


 なるほど、ライル兄さんは能力こそ微妙なものの、父に似て剣術が得意だ。

 実力はあるから取り敢えず何も言われていないということのようだ。

 ……。

 待てよ? 成長系の能力って実は名称だけ見るとヤバいんじゃないか?

 何となく使えない判定されそうな気も……

 慌ててステータス画面を開く。やはり、固有能力は《成長》で間違いないようだ。

 なんで、成長系の能力が欲しいと言って、能力が《成長》になるのか、今すぐ神界に戻ってあの女神様を問い質したい。

 ちなみに、このステータス画面も女神様から言われたことだが、よく聞くフルダイブシステムのゲームと同じで、俺は自身の能力値をステータス画面で確認することが出来る。

 本来であれば鑑定能力を持つ者に確認してもらわないと分からないらしいのだが、そこらへんは転生特典ということでシークレットスキルとして、この魂に付与してくれているのだとか。


「まぁ、でもユーマは何事も僕たち兄弟の中で一番早く身につけて来たからね」


「確かに、漢字はもうユーマに抜かされてしまったかも知れないな」


 ごめんなさい。言語だけは前世の記憶です……(多分)

 元々、こういう文字なのか、そういう風に見えているだけなのか、今になっては分からないけども、話している言葉も文字も日本のものと同じだったのだ。

 そんな兄たちの期待を背に鑑定を受けることになった。

 まぁ、受ける必要はあんまりないんだけども。


§ § §


 この世界にも戸籍のようなものがある。

 だから、六歳を迎えると専門の鑑定士が国の命令で向こうからやってくる。

 鑑定と言っても大きな魔法陣が必要とかそういうことはなく、ただ、鑑定士に見られるだけだからすぐに終わる。


「これより鑑定を開始します。力を抜いて下さい」


 座ったソファーで力を抜く。

 すると、鑑定士の目が一瞬光ったように見えた。


「固有能力は――『成長』……? 見たことがありません。どういった能力なんでしょうか?」


 いや、聞きたいのはこっちなんだが……

 現在の能力値だとステータス画面を開いたとて、所持している能力と、各種ステータスの値くらいしか分からないのだ。

 つまり、《成長》という能力を所持していることは分かっているけども、能力の詳細までは分からない状態なのだ。

 だが、それも束の間、能力の真価をいきなり知ることになる。


《鑑定眼を習得しました》


 と、ログが表示された。

 いや、ゲームかよ――ゲームか……

 再びステータス画面を確認する。


==

名前:ユーマ・フロストル 6歳 Lv.?


固有能力:成長

スキル:鑑定眼 《S》


HP:2630

MP:1320

STR:123

DEX:451

VIT:45

AGI:48

INT:631

MND:342

==


 先程確認した時にはなかった《鑑定眼》がスキルの項目に増えている。

 しかも、習得したばかりでスキル適正値は最高ランクのSだ。

 そのため、能力も詳しく見れるようになった。

 さらに、細かく能力を見ていく。


==

・成長

 ありとあらゆるスキルや魔法を身に付け習得し、能力適正値を最大化する能力

 

・鑑定眼 《S》

 人の能力やスキルを鑑定し、詳細まで把握することが出来る能力

==


 ん? 鑑定眼が能力?

 もしかして、固有能力をスキルとして習得した?

 いやいや、それは完全にバグじゃないだろうか……

 この鑑定眼は、熟練度で見れる内容が変わるようだ。

 ここにいる鑑定士の鑑定眼はA相当だから、能力の名称は分かっても詳しい内容までは分からないみたい。

 というか、あのババァ女神のやつ、平穏に暮らしたいって言ってるのに如何にも注目されそうな面倒な能力付けやがって……

 なるようにしかならないか……


 そんなこんなで、ユーマ・フロストルの二度目の人生は幕を開けた。

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