三八 ハリシンニャ川上流の村
「貴女はティナを知ってるの?」
フェルファトアは船頭を務めるその女に尋ねた。
「そりゃあ、ベレデネアは小さな村だもの。ティナちゃんのことは皆知ってるよ。特に、ティナちゃんはこの村の交易屋だから……」
「そう……ティナがいなくなったら、この村は誰がするの?」
「そうねえ……体力がないとできない仕事だからねえ……」
他愛もない話をしている内に、あっという間に対岸のベレデネアの小さな船着場に着いた。
「じゃあ、ちょっと待っててね。後の人を運んでくるから……」
何の難所もなくハリシンニャ川を越えられたのは幸先の良い出だしと言えた。しかし、今日はここで泊まる事になりそうだった。
6人は、中央広場でしばし作戦会議をすることにした。
「この村、泊まる所あるんですか?」
兵士達は心配そうな顔でフェルファトアの方を見た。
「え? え? そりゃ、分からないけど……」
「そうですか……」
辺りから落胆のため息が漏れた。
「ま、まあ、こういう事もあるわよ。でも、街道よりは安全なはず」
「え? まさか、野宿しようって言うんじゃないでしょうね?」
「も、もちろん、私も宿泊を一番に考えてるけど、そういう覚悟も必要って事よ。そんな事より、遅くならないうちに、一つでも多くドアを叩いて、泊まらせてもらえそうな所を見つけましょう!」
フェルファトアは強引に前向きな方向に持っていかせようとしていた。
「すいませーん」
フェルファトアは、8軒目の家の戸口を叩いた。
この村は、叩けども叩けども人は出てこず、空き家ばかりではないかと疑い始めていた。
「はい?」
少し待つと、奥から声が聞こえた。
「泊まる所を探しているのですが……」
「泊まる所……?」
奥から家の主が出て来ると、しばし悩んでいるような表情を見せた。
「泊まる所ねえ……とはいっても、80人しかいない小さな村だからねえ……」
「そこを何とか……」
フェルファトアは最大限に謙りながら必死になって頼み込んだ。
「うーん……」
主はちらっとフェルファトア達の服装を見て、何か気づいたようだった。
「あ、君達、もしかして……何かの軍隊?」
「え? あ、はい。私達、新生ミュレス国の兵士団です!」
「ミュレス国?」
「あ、いや、何といいますか、その……私達、地上統括府と対立してまして……その遠征の途中なんですけど……」
フェルファトアは苦笑いしながら説明した。本当は、手短に説明したらすぐに逃げ出したかったが、その一言に主は大きく頷いた。
「おお、地上統括府と交戦しているというわけか。そういう話なら、村長が好きなんだ。どれ、村長に紹介してみよう」
家の主は、目を輝かせて靴を履き替えると、6人を広場の奥にある一番大きな家まで案内してくれた。
「おーい、村長さん」
家の戸を強めに叩くと、大声で村長を呼び寄せた。
「なんだ、エノロさんか。こんな時間に何の用?」
「村長、例の『革命』軍ですよ」
先程の家の主は。6人をそう呼んで村長に紹介した。
「革命軍……あ、ああ、タミリアさん所の娘さんが言ってた奴かあ。そうか、遂に活動し始めたんだなあ」
村長は遠い目をしながら、しみじみと感無量の様子であった。
「村長、そういう話もありますがね、とにかく彼女達は、今晩の宿を探しておられる」
「今晩の宿か……そうだ、ウチに泊まっていってはどうかな?」
村長は優しく兵士の一人に話しかけた。
「え? いいんですか?」
フェルファトアは目を丸くした。
「いいよ、いいよ。ベレデネアからも兵士を少なくない人数出してるし、タミリアさんの娘さんがどうしてるか、興味あるからね。さあ、どうぞ」
「わあ、ありがとうございます」
6人とも、三者三様に喜びながら、家に上がらせてもらった。
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