一四 武器の在り処
3人は、繁華街から遠く離れた郊外の酒場の常連になっていた。
「こんばんはー。2階、空いてる?」
エレーシーは友達の家を訪ねたかのように店主を呼んだ。
「あら、エレーシー。話は聞いてるよ。頑張ってるんだってね」
「え、こんな郊外にも広まってるの?」
エレーシーは嬉しく思う半面、若干の戸惑いを見せた。
「2階はいつもどおり、誰もいないよ。さ、早く上がって上がって。一杯目はいつものでいい?」
「えーと、そうだね。いつものでお願い」
3人は店主に背中を押され、2階の個室に押し込められた。
最初の一杯と、お気持ちの小鉢が3人分出された所で、3人は仕切り直しにグラスを合わせ、同時に一口を飲み込んだ。
「さて、では真の話題に入りますか」
フェルファトアは上半身を一層傾け、二人を見上げた。
「一軒目の酒場で見たけど、結構シュビスタシアにも広まってきたみたいね」
「うん。数えてはないけど、新年祭の時に結構な人から聞いたよって言われたなあ。感覚で言えばそうだなあ、もう何千人と広まってるんじゃない?」
「何千人か……うん。まだまだだけど、順調っちゃ順調ね。ティナの方は?」
「私のところは、ベレデネアの村長がとても共感してくれて、隣の村々にも事あるごとに紹介してくれてるわ。そのおかげで、他の船頭さん達も知ってるみたいだけど」
「そういえば、そうだったわね。ここまでくれば、後は勝手に広まってくれることを期待しましょう」
「大丈夫かな……天政府が感づかないかな……」
「そうね……そうだ、今や天政府人と私達の間の溝は結構深くなってるから、うまくそれに隠れていきましょう。アビアンにそう言っておいてね」
「分かった。次に会ったら、言っておくよ」
「さて、ここまで来たら、次の段階よ」
フェルファトアは、手拍子をひとつ打つと、机に手をついて身を乗り出した。
「次の段階?」
「ある程度人の算段はついたでしょう? だから、今度はどうやって戦うかを考えましょうってこと」
二人はこれまでのほろよい気分から醒め、改めて座り直してフェルファトアの話を聞き始めた。
「どうやって戦うかって、そりゃ、これだけ人を集めたんだから、みんなで一斉に攻撃するんでしょ?」
「それにしたって、素手で立ち向かうのは心細いでしょ? それに、治安管理員は剣やら槍やらを持ってるんだから、何かそれを防ぐものがないと、いくらなんでも危険すぎるわ」
エレーシーはふと天井を見上げて考えた。
「でも、ミュレス人って天政府人よりも何十倍もいるでしょ? 一人に一つずつ、治安管理員なみの武器を揃えようと思ったら、資源もお金も無限にいるんじゃないかな……」
「そうね。現実的とは思えないわね」
「うーん、でも……」
エレーシーはまた、考え込んだ。
「剣とか槍は無くても、料理用ナイフとか、竿とかで代用できないかな……」
「ああ、そういう日用品を使うのはいいわね。それに、こんな街にはあるかどうかわからないけど、農村なら棒とかはどこにいってもあるから、なんとかなりそうね」
「仕方がない、とりあえずは攻撃はそれで賄うか…… でも、防具はどうするの?」
「防具か……それはさすがに……なにか、木の板とかでどうにかできないかな?」
「それも急ごしらえか……ある程度は仕方がないにしても、やっぱり前線チームはちゃんとした防具でいきたいわね……」
「ねえ、誰か知り合いに鍛冶屋とかいないの?」
「うーん、私にはいないかな」
「私も知ってるのは西側だけだわ。この中央地域にはいないんじゃない?」
「確かに、このあたりで鍛冶屋ってあまり聞かないなあ」
「第一、鍛冶屋があったとしても、その防具を買うお金がないのよね」
「そうね……」
3人は暗い個室の中で、各々腕を組みながら目を閉じた。
「……そうね、これはもう盗み出すしかないわね、治安管理所から」
フェルファトアがついにその言葉を発した瞬間、部屋の中に一種の緊張が走った。
「盗み出す……」
「それはちょっと、よく考えないと……」
ティナはなるべく天政府人に行動を知られて欲しくないとあまり乗り気ではなかった。
「でも、それ以外にいい方法が思いつかないよ。それに例えば、最初の反乱が成功してどこかの町がミュレス人のものになったら、そこの治安管理所の武器は好きにしていいでしょ? それまでの繋ぎとして、いくらかはいるって話だよ」
エレーシーが説得して、2人はようやく納得したようだった。
「まあ、そうね……前線となると、どのくらいいるかしらね」
「うーん、あまり想像つかないけど……」
3人で議論を重ねた結果、何人集まるかもまだ定かでない中、結局集まってみないと布陣も組めないという結論に至った。第一、人海戦術ともなれば、今後も短期間で全員分を調達するというのもあまり現実的じゃないだろうと言う話になった。
ひとまず、少なくとも10セットは確保し、後は身の回りのものでなんとかしようということになった。
「盗み出すにしても、頻繁に使ってるようなところから盗むと、すぐに無くなったことが見つかって大騒ぎよね」
「毎日のように管理しているようなところじゃ手が出せないわね……」
「うーん、使えれば何でもいいんだけどなあ」
エレーシーの一言にはっとしたのか、フェルファトアが途端に顔を上げ、多少の笑みを浮かべた。
「そうだわ。治安管理所の武器って、捨てる時ってどうしてるのかしら?」
「捨てられるのを待つの? それはちょっと悠長すぎじゃない?」
「いや、そういう訳じゃなくて、まさかゴミ出し場に放置って訳じゃないでしょ?」
「うーん、そうねえ……燃えはしないだろうし……」
「まさかのゴミ出し場に放置じゃないの? みんな鍋とか捨ててるけど」
「治安管理所の近くのゴミ出し場はよく行くけど、剣とか、治安管理員がつけてるような胸当てなんて見たこと無いなあ」
「じゃあ、やっぱりどこかに集めてるのよ」
「どこかったって言ってもねえ」
「エレーシー、知らない?」
「うーん……あ、そういえば……」
「知ってるの?」
「いや、本当にそこなのかは分からないけど、ちょっと前に西の街の入口の近くにある大きな建物の中から、治安管理員の天政府人が出入りしてたのを見たことあるよ」
「そこって、治安管理所の建物なの?」
「それはちょっと、分からないなあ。そこはシュビスタシア市役所関係の建物が並んでるところなんだけどね。治安管理所の建物なら、治安管理所の大きな紋章が飾ってあるはずだから、嫌でも目につくと思うんだけどなあ」
「でも、その建物は怪しいわね。次の休日にでも、みんなで行ってみましょうか?」
「え? 3人であんなところウロウロしてたら相当怪しいよ」
「だから、深夜にいくのよ」
「まあ、調べて見る価値はありそうね」
「じゃあ、次の休日、いつものお店で集まりましょうか」
「そうね」
3人は、次の一歩が決まった所でこの話は止め、一軒目と同じように再び他愛もない世間話を始めた。
そしてこの日も結局、閉店時間まで酒場に居続けてしまった3人であった。
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