第六節 力なき民族は如何にして力を得るか
一三 新年を迎えて
農村部では新年祭を終え、商都シュビスタシアは元の喧騒を取り戻した。
ティナも他の農民と同じく、再びシュビスタシアで働き始めた。次の仕事場は弁当屋。エレーシーもよく足を運んでいた人気の弁当屋だった。
フェルファトアは、今年は新年祭を楽しむ余裕もなく、配達予定の大荷物を抱えながら、このシュビスタシアで新年を迎えていた。
「ティナ、久しぶり」
「エレーシー、たった2週間だったじゃない」
「いやあ、こういうときだからこそ、1日1日がすごく長く思えるんだよね」
3人は今年も、いつものようにいつもの酒場にそれとなく集まっていた。お互いに新年祭の期間の事など、他愛もない話を暫く続けていた。
しかし、この日はいつもとは違っていた。
「エレーシー、何かやるんでしょ?」
エレーシーは飲んでいる間も、後ろから町の仲間に話しかけられていた。
「あ、うん」
「私達、アビアンから聞いたの。何かやる時にはよろしくね」
「ありがとう。何かあったらアビアンから伝えるようにするよ」
「ティナ、貴女の村の村長から聞いたけど、天政府に立ち向かおうとしてるんだって?」
ティナも、同じように知り合いに声をかけられるようになっていた。
「え、ま、まあ」
「いいなあ、あまり口に出さないけど、船頭仲間の間じゃ有名よ」
「え、みんな知ってるの?」
「そりゃあそうよ。そういう話には興味あるもの。みんな、天政府人には何かしら恨みあるし」
街では、天政府人とミュレス人の間の諍いは減っていた。しかし、その裏である噂が広まっていた。
それが、例の「禁書」の存在である。
かつて、自分の民族がこの地の主権を握っていたという非常に刺激的な話に興味を惹かれない者が、この町の住人の中でも一人としているはずがなかったのだった。
そして、白猫族の間ではエレーシーが、黒猫族の間ではティナが、その本を持っていて、その内容に沿って「行動」を起こそうとしているという事だった。
おそらく、シュビスタシアのミュレス人の中には、「今はこれほどまで虐げられているが、いつかあの人が皆を導いてくれるに違いない」とでも思われてしまっていることだろう。
特に、アビアンの能力は絶大であった。彼女は、裏切らずかつ拡散力の強い者にピンポイントに広めていた。これも話し好きの彼女が知らず知らずのうちに身につけていた特殊能力の一つだろう。
ともかく、シュビスタシアの街ではエレーシーとティナの両名を知らない者はいないと言っても過言ではない状況まで来ていた。
「なんか、二人とも人気者みたいね」
「そうなんだけど、こう、表で怪しい動きをしてるとね。天政府人にも気づいている人がいるんじゃないかって気が気でないよ」
「そうね。なんだか落ち着かないわね」
事あるごとに思っていることだが、ますます、三人には時間がないことを否が応でも感じざるを得ないのであった。
「これは……春を待ってはいられないかも」
「いや、春までは待ちましょ。急いでもいいことはないわ」
フェルファトアは焦りを抑えるべく二人を諭した。
時間はないが、焦りは禁物。春までは体力づくりに勤しむことの重要性を、表面上は仕事の話をしている体で、こんこんと語った。
「分かった、分かった」
机の上の小鉢が空になり、3人とも出来上がり始めたところで、エレーシーが腰をあげて一つ伸びをした。
「さて、食べた食べた。もう帰ろうかな」
「久しぶりに会ったんだし、もう少し居ようよ」
「うーん、じゃあ、気分転換に別のお店に行く?」
エレーシーは二人の目を見て合図を送った。
「……あ、そうね。私は大丈夫だけど、フェルファトアは?」
「大丈夫よ。今日のために早足で帰ってきたから」
「じゃあ、あの店に集合ね」
勘定を済ませると、3人は見かけ上は散り散りに散っていった。
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