第12.1話 ハロウィン 笑う南瓜


ツチノコとスナネコは走っていた。

自分たちの頭と同じくらいの大きさのセルリアンに追いかけられていたのだ。


「なんだあれ。なんであんな顔がついてるんだよ」


走りながらツチノコが呻いた。


「なんだか、にっこりしていましたね」


横を走るスナネコがのんびり言った。


「馬鹿野郎、そんな暢気なこと言ってる場合かよ!」


二人があたふたと走っていると、道の向こうに一人のフレンズがしゃがんでいるのが見えた。


「おーい、セルリアンだー!」


ツチノコが大声で叫ぶと、しゃがんでいたフレンズがすくっと立って、二人を向いた。

彼女は不自然に膨らんだパンツをはき、珍しい薄い色の髪の色をしていた。

オレンジ色がかった彼女のファッションが、深まり出した秋の色にがんばって溶け込もうとしているように見える。


二人はそのフレンズに駆け寄ると、立ち止まって息を整えた。


「セルリアンに追われてるんだ。お前も一緒ににげ――」


「トリック! オア!」


ツチノコの早口を遮って、彼女が謎の言葉を発した。


「――トリート」


いたずらっぽく笑う。

ツチノコは意味が分からず、ぽかんとした。


* * *


「選ぶの。私にお菓子を寄越すか、いたずらされちゃうか」

「……え?」

「お菓子、持ってないの?」


彼女は薄い色の眉を顰めた。


「お菓子は持ってないです。なのでツチノコにいたずらしてください」

スナネコがツチノコの代わりに答えた。


「な!? お前、俺を見捨てるのか!」


ツチノコがたじろいだのを見て、オレンジ色のフレンズが声を上げて笑った。


「あなたたち、面白いわね。特別に助けてあげる」


彼女は二人の背後に回ると、目の前から迫ってくる、ぼこぼことした楕円形のセルリアンの群れに向き合った。


彼女の手に、虹色に輝く粒子が集まる。

ツチノコは目を見張った。


「お菓子をあげるから……帰りなさい!」


彼女は、その手に集めたサンドスターをセルリアンたちに投げつけた。

サンドスターを浴びたセルリアンが、次々に割れていく。


四散したセルリアンの中からオレンジ色のじゃぱりまんが現れて、地面にぼたぼたっと落ちた。


セルリアンをあっさりと撃退したそのフレンズは、セルリアンから現れたじゃぱりまんを拾うと、二人の前に戻ってきた。


「あなたたちも言うのよ」

「ん?」

「さっき私が言ったこと」


ツチノコが、おそるおそるその呪文を唱えてみる。

「トリック……オア……トリート」


「はい、トリート」

にこっと笑って、じゃぱりまんを二人に差し出した。


* * *


「ありがとうございました」

「私こそ、変なのに付き合わせちゃってごめんね。私はジャック・オー・ランタン」

「ジャック……?」

「あんまり聞かない名前でしょ」


彼女は先ほどのセルリアンと手元のじゃぱりまんの関係を説明した。

いつもこの時期になると、”かぼちゃ”という野菜を使った特別なじゃぱりまんを作るのだが、製造過程で輝きが不安定になるために、よくセルリアン化するらしい。


「この時期の”かぼちゃ”に、特別な思い出でもあるのかしらね」


「特別ったって、お前の見た目も随分かぼちゃっぽいぞ」


「そうなんだよね。ねえ、どうしてか知らない?」


「さ、さあ。それより、さっきのサンドスター、あれどうやったんだ?」


「ああ、だめだめ。あれは、このじゃぱりまんからできたセルリアンにしか効かないの。あんまり大きなやつが来たら、ケルベロスちゃんに割ってもらってるよ」


「このじゃぱりまん、ほくほくしてておいしいですね」


スナネコがじゃぱりまんを頬張りながら言った。


「そう? 気に入ってもらえて良かった」


かぼちゃをかぶり、かぼちゃを履いたそのフレンズは嬉しそうに笑った。


* * *


めでたくセルリアンがいなくなったので、ツチノコとスナネコは旅を続けるためにジャック・オー・ランタンに別れを告げる。


「いろんなとこ行ってるんだ、いいなあ」

と彼女は言った。


「私もね、本当はここで生まれたわけじゃないって気がしてるんだ。だけどここがどこかも分からないし、特に住んでて大変なこともないから、ずっとここにいるの。

いつから住んでいたか忘れるくらい、ずっとここに住んでいたら、それはもうここがふるさとってことじゃない?」


「さあな。納得できてりゃいいんだ」

とツチノコが言った。


「そうだ、これあげるよ。最近は夜も早いし」


と彼女は言うと、烏瓜の実をくりぬいて取っ手を付けたものをツチノコに手渡した。


「これは何ですか?」

スナネコが興味津々になっている。


「かがやきのお裾分け。夜にその実のとこを光らせることができるよ」


「ありがとう。これは助かる」


「風邪とか引かないようにね」


「そうですよ、ツチノコ」

スナネコがツチノコをからかった。


「分かってるよ」

ツチノコはちょっとどもって言った。


あっという間に太陽は傾き、二人の影が地面に長く伸びる。


つづく


ハロウィンのせりふ出てこずにらめっこ 土井くみこ


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